◆ DND大学発ベンチャー支援情報 ◆ 2009/12/02 http://dndi.jp/

産学官連携の一大事

・国大法22条の三「連携」、五「活用」の教訓
・失望感広がる産学官コーディネータ、研究員ら
・「廃止」見直しを求める緊急声明続々!
〜産学連携学会、UNITT、大学発VB協会、経団連など〜
・350号のメルマガを振り返って(上)
・連載は、比嘉照夫教授、山城宗久氏
・口が滑った女性ジャーナリストの"ある動機"

DNDメディア局の出口です。 新世紀の扉を開く牽引力となれ、産学官連携〜 そんな期待を込めて、科学技術をベースにした大学発ベンチャーなど全国の産 学官連携フィールドをウオッチし、その分野で人知れず活躍している多くの人 をDNDメルマガで取り上げてきました。その数、いったい何人になると思いま すか。


毎週1回のペースを死守して8年目、これも驚きならば、自分で言うのもなん ですが、その350回に及ぶ長〜い文章中、そこに登場した人物が、ざっと2000 人を超えました。凄いのは、2000人の数ですか?それを丹念にフォローした筆 者でしょうか?いやいや、どちらでもありません(笑い)。


DNDの『人名検索』をたどれば、彼らがそのステージでどんな活躍をしたか、 それらがリアルに浮かび上がってくる仕掛けです。メルマガのスタート時の設 計が功を奏した、といえなくもありません。が、今から遡って「あ行」の順か ら始めるとしたら、それはもう気が遠くなるほどの作業量です。それほど、産 学官連携に伴う、動きに勢いがついて、わずかな時間の流れのうちに、大学を 拠点にした産学官連携のうねりが全国津々浦々まで響いてきた、ということの 証左でしょうか。


大学が、時には地域経済の活性化の処方を示したり、グローバルな戦略的提 携の成功モデルを生んだりもしました。それに加えて、中小企業とのマッチン グの現場でモノづくりの生きた研究を学び、若い研究者の育成に大いに役立て られてきました。


が、政府の行政刷新会議の「事業仕分け」で、これら産学官連携関連の事業 が、バッサリ、有無を言わさず「廃止」と判断され、全国の産学官連携の大学 関係者に、その激震が走っているのです。


「廃止」と評価されたのは、「知的クラスター創成事業、都市エリア産学官 連携促進事業、産学官民連携によるイノベーションクラスター創成事業」の13 0億円、「産学官連携戦略展開事業」の28億円、それに「地域イノベーション 創出総合支援」の109億円、いずれも文部科学省の概算要求による事業でした。


なぜ?何よりその疑問です。 事業評価で指摘された理由は、以下の通りです。参考までに列記しましょう。


●基本的な政策の戦略を練り直すべき。クラスター、集積はこのレベルの事業 規模では成果が生まれない。
●文部科学省が地域活性化策をする必要はない。地方大学救済のためなら別途 予算を要求すべき。
●経済産業省や中小企業庁が考える分野
●他省庁、文部科学省、JSTのクラスター、イノベーションの事業が未整理な 現状では、一旦すべて廃止してから、見直した上で再構築したほうがよい。
●地域の自発的な取組がなければできない事業であり、それを成功させるため には地域の創意工夫が広がるよう交付税等の使いやすい財源にすべき。
●各自治体の状況に違いがあり、現場に近い組織に判断させることで効率があ がるのではないか。
●全体的に整理すべき。その上で統合し、予算を考えるべき。国立大学は地域 振興のためだけにあるわけではないはず。その他の部分の切り捨てにつながる 恐れあり。
●複数の事業が多く含まれている。わかりにくいし、恐らく使いにくい。各地 の中に企業からみても、ざっと分かるようなメニューにしていないので、地方 には重荷になる。今年度は全体をすっきりさせ、来年度から地方移管すべき。 地域の中小企業が利用しやすいことを最優先すべき。文化系研究はクラスター に入れないようにみえる。むしろ文部科学省的な知的資産の活用が必要。


いやあ、「国立大学は地域振興のためだけにあるわけじゃない」は、その通 りです。が、地域振興だけやって、他を切り捨てている大学はどこにあるとい うのでしょうか。「地域経済の活性化は大学の仕事じゃない」という"天の声" も、本筋を外してはいませんか。「経済産業省が考える分野」と断定されてい ます。が、国立大学法人法をちゃんと読んでおられるのでしたら、そんな無茶 な結論に行きつきません。


いやはや、疲弊した地方の惨状を、見て見ぬふりをせよ、というのでしょう か。いまや大学のフィールドは地域を横断し、各地に展開しているのですから、 その産学官連携を地方の自治体に限定するこというのも現実的ではありません。 これまで必死に積み重ねきた産学官連携の牙城が、一瞬にして崩壊していくよ うな印象です。懸念するのは、大学関係者らの意欲が削がれ、一気にやる気を 失ってしまうことです。この損失は、計り知れません。


しかし、なぜなのでしょう?こんな蛮勇ともいえる事業仕分けが、実際その まま通るのか、いやいや、あくまでこれはパフォーマンスで、わが国初の期待 の理系内閣が、科学技術の振興を否定し、産学官連携をバラバラして大学や関 係者が失望するような政策判断をするハズがない、きっと次の行政刷新会議で 撤回される、との楽観論も根強い。


その一方、今回の「廃止」をめぐって、またいろんな憶測も飛び交っていま す。例えば、きな臭い、こんなのもあります。この産学官連携の事業が、前の 政権の"ブランド"だから、新政権としては何がなんでも排除する構えだ、との 解説もある。また、独法狙い撃ちの一貫であり、独立行政法人に丸投げされる 事業は、事業仕分け作業の以前に、ハナから「廃止」が決まっていたようだ、 とうわさするのです。


霞が関には、これらを裏付けるような言い方で、"デス・ノート"の存在が浮 上しているという。前政権の政治絡みの事業案件を言うのだが、時の大臣が、 族議員が政治力でゴリ押しした事業銘柄を指します。その真意のほどは分かり ませんよ、いずれにしても、この政権交代のあおりで善良な大学関係者が、た ちまち翻弄されてしまうのは、いかがなものでしょうか。


それよりなにより、せっかくここまで盛り上がった産学官連携の流れをここ で頓挫させていいのでしょうか。また、全国の大学や関連施設で、条件の悪い なかで必死に踏ん張っている数100人規模の産学関連のベテランコーディネー タや専門の研究者らを路頭に迷わせることがあってはならない。


産学官連携に関わる大学教授の中には、これを潮時として官からの補助金や 助成をあてにせず、大学が自立的にどう産学官連携を進めていくか、その辺を 考える時期にある、と冷静に認識するベテランもいます。自立のモデルに移行 するには、若干の猶予期間は当然必要です、という。


それにしても、なんのための事業仕分けか、大学の役割と考え合せて、あら ためて再考を求めたい。この件で、緊急の声明を出したNPO法人「産学連携学 会」、「大学技術移転協議会」(UNITT)、「大学発バイオベンチャー協会」、 9大学産学官連携関連本部長、33都道府県知事、そして経団連も加わって一斉 に、大学運営交付金や科学技術予算の「削減」に反対し、知的クラスターや産 学官連携予算の「廃止」に異を唱えています。


さて、産学官連携の周辺で、新たにどんな組織が生まれ、任意のネットワー クが構築されたか。大阪大学の臨床の教授が、遺伝子治療分野のバイオベンチ ャーを設立して株式上場したかと思えば、糖尿病を専門とする三重大学の医師 が管理栄養士さんと保健体育の先生らと連携して離島振興と健康づくりのモデ ルを作り、この「健康と観光」の事業は、これがお手本となり全国に広がって いました。


また、燃料電池など次世代エネルギーの開発を始め、再生医療や遺伝子治療 などのバイオ分野、生産や介護を支えるロボット、新たな産業基盤を支えるナ ノテク、また革新的なITを駆使した新たなビジネスモデルの構築など、その人 脈に連なるイノベーティブで斬新な産学官連携の成果が目白押しで、この数年 間、大いに盛り上がり見せているのです。


地域経済との連携や企業との共同研究を進めて外部資金を獲得し、ベンチ ャーの起業や知財戦略を練るなどでその研究成果を普及しその活用を促進する ‐というのは、なんにも特別に道を外していることではなく、国立大学法人法 で定めた新たな業務の一環(第22条の五)でもあるわけです。その前段の三の 項には、「当該国立大学法人以外の者から委託を受け、またはこれと共同して 行う研究の実施、その他の当該国立大学以外の者との連携による教育研究活動 を行うこと」と、業務を定めている通りです。


それらを有機的にひっくるめた大学経営全般、原点の教育と研究などの一切 を抱えながら、必死に新たな局面を切り開こうとしていることを理解してほし い。つまり大学それ自体が、知的社会の縮図であり、過去の多くの遺産や伝統 を背負って、さらに斬新で革新的な未来図を描きながら進んでいるわけです。 それらの大学は、猛スピードで膨張を続ける高度な先端技術社会にあって国家 の威信をかけた大競争の真っただ中にあるわけで、その努力にどう報いるか、 これも政治の課題のひとつと思います。


さて、350回のメルマガから、いつくか産学官連携のシーンを何回かに分け て選りすぐってみましょう。ここからは、資料編のようなものなので参考にし てください。


☆             ☆           ☆

■【第2回産学官連携推進会議。その詳細は、10日付けの日本工業新聞に譲 るとして、「導入から実践」(奥田日本経団連会長)、「助走からテイクオ フ」(井村京都大学元学長)の挨拶での引用を待つまでもなく、「国民的な運 動として大きな潮流」(小泉首相)となった産学官連携は、いまや具体的な成 功事例から学ぶことの重要性が指摘され、その流れを汲みとって制定した産学 官連携の表彰は、最終日のフィナーレにふさわしい演出効果がありました。
 壇上には、内閣総理大臣賞のグランプリを受賞した、大口径・高密度プラズ マ処理装置開発の大見忠弘・東北大学名誉教授と東京エレクトロンを始め12 件の代表者。DNDご推奨でサイトの成功事例で掲載したアンジェスMGやダ イマジック、白鳥ナノテクノロジーなどの大学発ベンチャーも含まれていまし た。同会議事務局の林和弘参事官に問うと、全国から自薦他薦で700件を越 える応募から30件を厳選し、さらに12件に絞り込んだそうだ。】(2003・ 6・1日号、「産学官連携推進会議と加茂茄子」より)

■【「コーディネータネットワーク推進つくば会議〜産学官連携とコーディ ネータ」を主題にしたシンポジウムが昨日、茨城県つくば市にあるつくば研究 支援センターを会場に開催されました。東に筑波宇宙センター、南に産業技術 総合研究所筑波センター、北には筑波大学と建築研究所があり、知を集積した 学園都市だけあって、全国各地から、まさにインテリジェンスなコーディネー タの方々を中心に150人が集まりました。
 発起人の一人、科学技術コーディネータの江原秀敏さんが冒頭、開催趣旨に 触れ、「(コーディネータの)われわれは、何をすべき存在であるか、何を道 具として業務を行い、何に悩み、それをどう解決していけばいいのか?」との 問題提起をされていました。結構、重いテーマです。
 パネラーは5人。産総研でベンチャー支援アドバイザーのベテラン、本田皓 一さんは「つくばに10人を含め、全国に29人、スピードを上げて、より多 くの貢献をしていきたい」と語り、筑波大学知財統括本部の技術移転マネージ ャーの藤田尚徳さんは、「自分の築いたネットワークに頼らざるをえない。直 感力というか、臭覚があることでしょうか」と、民間から大学への移籍という キャリアからの至言です。
 自らバイオベンチャーの役員を担い、地元つくば市の産業コーディネータの 橋本明さんは、ずばり、「人間力ですね。よく話をきくことです。それと人間 が好きというのが、ポイントでしょうか」と指摘されていました。紅一点のつ くば研究支援センターのインキュベーションマネジャーの石塚万里さんは「支 援する側の立場に身を置く」と若いながら、感性が光る。
 「まったく同感です」と石塚さんに賛意を表したのが、この日メーンの基調 講演をされた電機通信大学TLOの(株)キャンパスクリエイト社長の安田耕 平さん。認定TLOの先駆けであり、株主への配当を実施している手腕の評価 は高い。】(2003・10・15号、「コーディネータの人間力」より)

■【今朝のNHKニュース。国立大学の学長アンケートを実施。そのさわりが 報じられていました。全国89国立大学で回答が81校(回収率91%)。 特集として、「生き残れるか国立大学」は社会部の椿直人記者のレポートでし た。冒頭、アナウンサーが、全国の国立大学がかつてない変革を迫られている −と語り、来年4月の独立行政法人への移行を機に、それぞれの大学は、資金 の受け入れや使い道が自由になる一方、研究や教育の成果が上がらねば、国か らの運営費が減らされて、その後の大学の運営が困難になる可能性があるーと 指摘していました。
 アンケートの集計のひとつ、「企業との連携強化」について、90.1%の 学長が、賛同していたようです。その理由に、外部資金が導入できる、そして、 社会貢献が目に見える形で進む−を挙げています。賛同していない学長さんの 意見は、どうだったのかなあ−と裏読みしたくなります。アンケートの全文が 欲しいですね。NHKに掛け合っていますが、どなたか、入手、合法的にです が、可能な方は、ご連絡ください。
 それはそれとして、番組で取り上げた具体的な事例は、東京・府中市にある 東京農工大学の共同研究の取り組みでした。「次世代液晶画面の開発」。ガラ ス製からフィルム製の液晶によって、携帯電話の世界市場を一気に塗り替える −との意気込みで、4年後の試作に全学上げてのプロジェクトが進行していま す。
 電気、機械工学の学科を越えた9人の教官。民間からは、クラレ、コニカ、 JSP、住友化学工業、住友ベークライト、大日本インキ化学工業、大日本印 刷、東亞合成、東レ、凸版印刷、日本電気、日立化成工業―の12社が参加し、 大学の研究者と企業の技術者が一体となって研究を進めている−という。リー ダー格の渡辺敏行工学部助教授は、「実用化に繋がる研究で、いままでにない 実験です。こういうことは(教員の)意識改革として強く受けとめられてい る」と胸を張る。
 企業側の代表の山岡重徳理事長は「先生の頭の中のものをいかに引っ張りだ すかが大切」という。息が合って、高い目標に連携を強めている印象でした】 (2003・11・12号、「変革する国立大学」より)

■【大学の新たな風−それは、いったいそれらの一連の流れや動きを、どうひ とくくりに説明したら分かりやすいのだろうか?と、この数日ずっと、呻吟し 続けていたからでした。具体的には、以下のような記事を、連続して見たから です。いずれも日経新聞からです。

【事例1】(法科大学院教材を共有、早慶などタッグ、20大学連携)
 今春開設する法科大学院。その大学の間で、授業に使う教材を共有化する動 きが進んでいる。名古屋大学が呼びかけて、これまでに鹿児島、早稲田、慶応、 岡山の4大学が参加を決め、2年間で20校程度を目標にグループ化、相互に 教材を自由に使える体制を徐々に整えていく―という。1月12日付。

【事例2】(ワクチン開発へ産学官が結集)
 国内の産学官の研究機関が共同で、重症急性呼吸器症候群(SARS=サー ズ)ワクチンの開発を進める。研究チームは、松島綱治・東大教授が中心とな り、化学及血清療法研究所(化血研)、東京都臨床医学研究所(臨床研)、国 立感染症研究所など公的研究機関と、北海道大学、長崎大学の研究員が参加。 民間からはポストゲノム研究所(東京・文京区)が加わり、バイオ技術を提供 する。天然痘ワクチンは化血研が唯一国内で保有する。長崎大のサーズ表面抗 原に関するデーターベースや、SARSウイルスの毒性を殺さずにワクチン内 に組み込む北大の特許技術を持ち寄り、臨床研がワクチンを試作、長崎大が動 物実験で安全性などを実証し、治験を始める―という。1月10日付。

【事例3】(知財売り込み30大学結束、全国組織設立)
 東京工業大学など理学系の学部を持つ30大学が4月にも所有技術を産業界 に売り込むための全国組織を発足させる。設立する「大学知財管理・技術移転 協議会」には、東工大をはじめ、東京大学、京都大学、大阪大学、九州大学な ど主要な国立大学のほか、慶応義塾大学をなど私立大学も参加する予定で今後 他大学にも呼びかける。協議会は企業の知的財産部門出身者を招き、大学の若 手職員らを対象に知的財産を拡販できる人材を育成。大学の成果を活用したい 産業界との調整役になり、企業の情報を共有し単独の大学では難しい多様な ニーズに対応する―という。1月11日付。
 さて、どうでしょうか。タッグを組むとか、結集するとか、結束する―とい うようなくくり方もあります。これらの動向は、課題やテーマ別に新たな連帯 を志向する「総合化戦略」と表現してみてはどうでしょうか。えっ、違いま す?別な捉え方があるのでしょうか。
 いずれにしても、大学に新しい連帯の風が吹きはじめたようです。そして、 本日の新聞では、大学発等ベンチャー企業の設立が、昨年8月までに「654 社」(公的研究機関発を含める)と、筑波大学、横浜国立大、神戸大が文部省 との合同の調査で明らかになりました。目標1000社は着実に推移している ようです】(2004・1・14号、「大学の新しい連携の風」より)

【6月。勝手に名づけて「産学官連携月間」のスタートです。巷間、環境月間 であり、野鳥保護の週間でもありますが、DNDサイトの産学連携情報一覧を ご覧ください。
 京都宝ヶ池の京都国際会議場で19日からの「第3回産学連携推進会議」を 頂点に、11日から福岡で「第2回産学連携学会」、九州エリアから8大学の 学長が揃います。福岡は活発で、4日から九州大学知的財産本部主催、九州経 済産業局など後援で「国際技術交流セミナー」を開催し、九大の国際産学連携 の取り組みが報告される予定です。
 と思ったら22日には、やはり福岡で「大学・TLOマーケッテイング事業 in九州」と続きます。そのほか、インナーな会合ですが、23日は東京科学機 器協会主催の「第4回産学連携研究会」が東京で、同日夜には、五十嵐伸吾さ ん主宰のwinwinワークショップ「VBの成長プロセス」をテーマに東京・丸の 内ビルの「東京21cクラブ」、豪華なゲストが登壇するようです。いずれも、 できる限り参加を希望しています。京都では出展ブースを持ちますし、産学連 携学会の方は共催しています】(2004・6・2号、「名づけて産学連携月間ス タート」より)

■【実際、スタンフォード大学にファカルティとして採用されれば、大学での 研究成果は大学に帰属する‐という合意文書にサインさせられ、特許の大部 分は大学に帰属し、その管理を行っているのがOTLである、という。
 では、発明者にインセンティブはないのか?というとそうではなく、再びス タンフォード大学の例を引いて、実用化から実際に特許収入が入ってくると、 15%がOTL、残りを発明者、学科、学部で3等分するーというのが基本 ルールとなっていて、この基本ルールはカリフォルニア大学(UC)も同様と いう。
 UCといえば、京都国際会議場で開催の第3回産学官連携推進会議の19日 初日午前、基調講演で京都大学の尾池和夫総長に続いて、UCのローレンス・ コールマン氏がUCの実例を基に「産学連携戦略の構築」をテーマにしていら っしゃいます。
 その京都での産学官連携推進会議の19日の分科会のひとつには、「知的財 産の戦略的創造・活用」をテーマに、大学の知的財産の帰属や管理のあり方、 並びに企業との連携、そして知的財産の活用について、具体的な事例から、今 後の方策を探る‐予定ですが、モデレータ役の主査に、キヤノンの御手洗冨士 夫社長、そして内閣官房知的財産戦略推進事務局長で、ズバッと切れ味鋭い荒 井寿光さん、荒井さんは、明日から福岡で開催の産学連携学会でも基調講演さ れます
 そのパネラーを見て、少々驚きました。実績のある(株)東京大学TLO社長 の山本貴史さんと並んで、なんと、同席者に上記の原山さん、そして、DND 企画で、「バイオベンチャー起業・成功の秘訣」を連載してくださっている名 古屋大学大学院教授で、大学発バイオベンチャー協会副会長の上田実さんが、 顔を揃えているではないですか!う〜ん、これは最前列に陣取って耳を傾けな ければなりません】(2004・6・9号、「大学発ベンチャー急転回」より)

■【第3回産学官連携推進会議最終の20日午前、会場の国立京都国際会館の 中庭に、産学官連携に功労のあった受賞者「13組38人」がそろって記念撮 影の舞台に並んでいました。野鳥のさえずりが、風に乗ってBGMとなり、ま ぶしいほどの陽光がスポットライトのようで‥確かに、どの顔も逞しい。
 あの人もこの人も‥。産学官連携が具体的に実を結びつつあり、時代への手 応えを感じ取って、勝ち戦に沸く凱旋の赴きでした。初日の開会。これまでに 誕生した大学発ベンチャー企業は「800社」、大学からの特許出願件数は 「2倍以上」に拡大している‐と述べ、「わが国の技術革新は大きな広がりをも って進み始めました」とその成果を強調していました。って、書けば、御用記 事みたいに受け取られては寂しい気がしますが、数字にウソはないはずです。
 共同研究「6767件4倍」、受託研究「6584件2.2倍」、大学発ベ ンチャー「799社20.5倍」(平成7年39社)−と着実に進展している‐ と胸を張る一方で、大学発ベンチャーに関しては、米国4320社(02年)、 中国5039社(01年)、韓国9106社(02年)、韓国の統計には、これ は?という企業もあるけれど、との含みも指摘していましたが‥続けて英国9 33社(02年)、ドイツ2780社(00年)−との比較から、潜在的開業者比 率「4.3%」(世界22位)、起業家精神「30位」(30ケ国・地域)とまだ まだ、弱い。
 今後の大学発ベンチャー推進の方策について、プロの人材と大学関係者らと の「人的ネットワークの形成」を一番に上げておりました。
 午後の部の4つの分科会。そのひとつ、キヤノンの御手洗冨士夫社長、内閣 官房知的財産戦略推進の荒井寿光事務局長がモデレータ役の「知的財産の戦略 的創造・活用」では、パネリストで実際、バイオベンチャーに関わる名古屋大 学教授の上田実さんらが、「特許の事業化には、TLOなどがどの程度企業 ニーズを把握しているかに成否がかかっている」と指摘して、戦略的活用とは、 将来の技術動向を巨視的に眺め、社会の価値観がどのように流れていくかを見 極め、その流れにそった特許を、それを実現しうる企業に向かって戦略的にラ イセンスを行ったり、共同研究に持ち込んだりする必要がある‐とまさに「出 口戦略」の具体策を説く。ローム(株)の取締役研究開発本部長の高須秀視さん は、大学の特許戦略に期待を寄せながら、端的に「特許は使って初めて役に立 つ」とズバリ。
 実際、日本学術会議会長賞を受賞した、わが国初の再生医療製品の実用化を 目指す(株)ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング(99年設立)は、上田実 教授から培養皮膚、広島大学の越智光夫教授から培養軟骨の技術移転をうけて おり、「わが国のトップランナー」として臨床試験の段階に進んでいる‐とい うから、上田さんらは、その実践者としてお手本となります。安全で確かで手 軽に、自らの皮膚を培養して移植できれば‥骨も歯もとくれば、どれほど多く の人を救済できるかしれない】(2004・6・23号、「第3回産学官連携推進会議 と萬屋」より)

■【大学知財管理・技術移転協議会(旧TLO協議会)主催の日本版AUTM 型2004(8月6から8日)と銘打った産学連携に携わる実務者のシンポジ ウム「利益相反マネージメント」のセッション。600人余り参加者が詰め掛 けた会場は、白熱していました。
 パネラーの1人として参加していた、その森下さん。アンジェスMGの臨床 試験に関係した大学関係者が同社の未公開株を取得していたことを各紙で報道 され、その渦中で、「なぜ今頃?何が問題?」と自問していたようです。「あ る日、突然、(爆弾が)飛んできます…嵐の中、傘を差さずに歩いているよう なもの」と、その心情を押さえ気味に吐露していました。
 「利益相反」。文部科学省は対応が早く、2〜3年前からそれに関わるワー キンググループをスタートし、報告書にまとめていました。それによると、大 学が産学連携活動に伴って得る利益と、教育・研究という大学における責任が 衝突・相反している状況‐との意味なのですが、大学発ベンチャーや産学連携 を推し進めれば、必然的に起こりうる課題であり、起業してIPOのステージ と向かえば、自ずと利益、報酬がついて回るわけですから、大学の教官らが得 る報酬について、闇雲に疑問視すれば、そんな面倒なことを誰もやらなくなり、 上昇ムードの大学発ベンチャーがしぼんでしまいかねない。
 「利益相反の完全回避を目指せば、産学連携の否定につながりかねない」− との問題提起から、利益相反の「管理」、いわばマネージメントの必要性を説 いているのは、6月23日の日本経済新聞「経済教室」での東大教授、ロバー ト・ケネラーさんと東大客員研究員の首藤佐智子さんの論文でした。秀逸でし た】(2004・8・11号、「未公開株と利益相反と新聞記事」より)

■【さて、いよいよ師走。産学連携周辺に活躍する大学の先生らは、走るとい うより、まさに激走のようです。DNDの「産学連携情報」欄に掲載の行事予定 をざっと見ると、もう、ため息がでそうなくらいのラッシュで、全国津々浦々、 日々、連続しています。
 12月1日、この日に限っても10本と目白押しです。札幌では、「産学官連 携による北海道経済活性化の方策」、東大名誉教授の月尾嘉男さん、全国から 引っ張りダコの荒井寿光さん、もう知財戦略の伝道師のようです。小樽商科大 学の瀬戸篤さん、コーディネータは地元、北海道大学の荒磯恒久さん、小生も コメンテーターとして末席を汚すことになっています。ちょうど、このメール が配信されている時間帯ですね。
 東京・千代田区ではNPO法人「産業技術活用センター設立」の記念講演会、 早稲田大学教授の松田修一さんが「技術ベンチャーと大学の役割」と題して講 演、東京・一ツ橋の学術センターでは産業技術総合研究所主催の「ハイテク・ スタートアップス創出のフレームワーク」を開催し、早稲田大学総長の白井克 彦さんが来賓挨拶、ケース・ウェスタン・リサーブ大学のスコット・シェーン 教授が「アカデミック・アントレプレナーシップ」をテーマに講演されます。
 群馬・前橋市では、産学官フェアIN群馬を開催し、メイド・イン東大阪の人 工衛星打ち上げに燃える(株)アオキ代表取締役社長、青木豊彦さんが「夢の実 現、職人魂で宇宙を拓く」と題して講演、群馬大学の地域共同研究センター教 授の須齋豊さんらがパネルデッカションに。
 広島では「中国地域産学官コラボレーションシンポ」、山口大学工学部長の 三木俊克さんが産学官連携のグランドデザインを報告し、デッスカッションに は、基調講演に続いて山形大学教授の城戸淳二さんが登場、同席者の顔ぶれに、 経済産業省大学連携課の中西宏典課長も。
 秋田市では「あきた産学連携推進フォーラム2004」、岩手大学教授の岩 渕明さんが「地域産業おこしに燃える」と題した講演を。ウ〜ム、こういうタ イトルは興味がそそられます。
 飛んで、九州・佐世保工業高等専門学校では、「佐世保・産学官民出会いフ ォーラム2004」、同校の井上雅弘校長の挨拶のあと、九州大学大学院教授 の八坂哲夫さんが「容易なる宇宙へのアクセス」と題して講演、いわゆる高専、 NH Kのロボットコンテストも回を重ねて年々、質の高いロボットが目立ってい ますし、ベンチャー起業も動き出しているようですから、熱気が感じられます。
 いやぁ〜書き切れません、でも続けます。4日は、盛岡市で県立岩手大学長 の西澤潤一さんが出席する「テラヘルツ応用研究会設立」のキックオフセミナー、 野村證券法人サポート室の平尾敏らと参加します。九州・博多では「第7回日 本ベンチャー学会全国大会」、会長で法政大学総長の清成忠男さんは、存在感 があります。
 6日も盛りだくさん。日本バイオベンチャー推進協会(JABDA)の設立3周年記 念のバイオフォーラムが東京大学医学部教育研究棟の14階鉄門記念講堂で開か れます。「大学発1000社」の構想を打ち上げた当時の経済産業大臣、平沼赳夫 さんが来賓で挨拶を予定しています。慶応義塾大学の三田キャンパスでは、デ ジタルメディア・コンテンツ統合研究機構開設シンポ、日本画家の千住博さん が講演、e ラーニング、ユビキタス、シネマなど慶応義塾のコンテンツを紹介 したあと、ディスカッションへ。司会は、塾長の安西祐一郎さん、パネリスト には、再び荒井寿光さん、スタンフォード日本センター研究所長の中村伊知哉 さん、情報セキュリティ大学院大学副学長の林紘一郎さん、法科大学院教授の 小泉直樹さんらが登壇します。
 また、同日、文部科学省と東京農工大学の主催で、産学官連携ビジネス交流 会が東京・一ツ橋の学術総合センターで開催、関東地域の国立、私立大学が17 大学、それに19機関が一堂に会します。「産業界と大学との知的財産アライア ンスへの期待」がテーマ、大学発ベンチャー企業の経営者らが顔を揃えるのも 楽しみな企画です。単独の開催から、まさに大学間のコラボという新しい流れ がでてきました。9日は、「新産業創出と大学間連携」と銘打った関東・関西 8私大産学連携フォーラムが明治大学駿河台校舎、アカデミーコモンで開催さ れます。
 8私大は、パネリストとして登場し、産官学連携の成功事例と推進計画を テーマに、日本大学の後藤晴男さん、中央大学の関口勲さん、東京電機大学の 藤田聡明さん、明治大学の山元洋さん、関西大学の大場謙吉さん、関西学院大 学の佐野直克さん、同志社大学の和田元さん、立命館大学の牧川方昭さん、そ してモデレータは東京電機大学の山名昌男さん、いずれも知的財産、産学官交 流センター、産学官支援センター、リエゾンオフィスなど現場のトップラン ナーですから、紹介される事例にはそれこそ、いくつものアイディアや知恵が 数多く散りばめられているに違いありません。要チェックです。
 産学官連携のウエーブは、上げ潮のようです。西に東に、会場から会場へ、 先生でなくても走り回らなければ、追いつきません。これはひょっとして、も う大ブレークといっても過言ではないかもしれません】(2004・12・1号、 「好縁社会の到来」と「産学連携大ブレーク」より)。
 いやあ、懐かしいですね。読み返してみると、熱風を感じます。これが勢い というものなのですね。地域が活気づく分けです。あの人、この人が目に浮か んで、ちょっぴり感傷的になったり…。偶然、オフィスのCDは、「ニューシネ マパラダイス」のメロディーを聴かせてくれています。さて、2005年以降は、 次回に。

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【連載】は、山城宗久氏の『一隅を照らすの記』の第9回「みろくとともに」 です。週1のハイペースで、コンスタントに投稿されているのは、凄い。こち らにとっては、とっても嬉しい。さて、東京大学気候研究センターの公開講座 「気候研究の20年」に触れて、「気候問題に関する政府間パネル(IPCC)が設 立されたのが1988年、その第一次報告書が出されたのが1990年で、その翌年に 上記気候研究センターが発足した」と書き起こしながら、地球温暖化に係る報 道に接しない日は無いくらいになっていますが、まだ20年の歴史と指摘、その 意味が「みろくとともに」の後段の解説につながるのですが、やはり産学官連 携の事業仕分けについて、さりげなくご感想を述べておられました。いわば、 東大の産学連携本部の当事者ですので、言葉選びが難しい。

【連載】は、比嘉照夫教授の『緊急提言、甦れ!食と健康と地球環境』の第17 回「首都圏におけるEMの水質浄化活動の意義」です。この15回、16回の2回に わたって、EMで甦った東京の日本橋川の報告がありました。メディアも取り上 げてようやく認知されるようになってきました。お陰で、神田川の下流域にあ る私のオフィスから、その浄化の様子がよく見てとれます。大雨の翌日には決 まって悪臭が立ち上っていましたが、今は、もうそんな臭いはしてきません。 これもEM効果なのでしょう。
 日本橋川、神田川に続いて、その上流域の外濠の浄化に取り組んでいるそう です。いよいよ本陣ですね。それによると、赤坂の弁慶濠にはシジミやドロ貝 が復活し、魚の種類も増え、豊かな生態系が甦っているそうです。次は、ホタ ルを飛ばすという。どうぞ、首都圏の皆様はご確認のためでかけてみてくださ い。比嘉先生は、このEMの災害現場での実践的な取り組みを紹介しつつ、その 中であらためて、「EMは乳酸菌や酵母および光合成細菌を核とした微生物の集 合体であり、その安全性や環境に及ぼす影響については、世界中でチェックさ れ150余の国々に広がり28年も経過した微生物資材である。米国や日本でも飲 用として製造が許可されており、農林水産のすべての分野、環境のすべての分 野(化学物質、放射能汚染対策も含む)に活用され、土木建築、省エネ、医療健 康分野など幅広く応用されている」と述べていました。

【事業仕分けの"ホンネ"がチラリ】
いやあ、これを書くべきか、どうか、迷いました。が、この事業仕分けが、ま ず最初に「独法潰しありき」ということの裏付けとも捉える事ができるのでは ないか、と思い、誤解を恐れず、ご紹介します。
 毎週月曜夜9時の「たけしのTVタックル」は、ジャーナリストで、最近、官 僚批判の急先鋒として、露出が目立つ若林亜紀さんがゲストでした。彼女が、 お得意の、厚生労働省の外郭団体に籍を置いていた時の、怠慢で贅沢な特殊法 人の実態をおもしろおかしくしゃべるのを不愉快な気分で、聴いていたら、そ こで聞き捨てならぬ、発言を耳にして腰を抜かしそうになったのです。
 それは、議論が、官僚の天下り先となって批判されている独法問題になった 時でした。司会の阿川佐和子さんから、事業仕分けをご覧になっていかがでし たか、と話を振られた若林さんが、この番組に同席していた民主の参院議員で 事業仕分け人の尾立源幸さんから、「10月末に電話があり、職業能力開発機 構を潰すから、手伝ってくれ、と言われました」と述べたのです。事業仕分け 委員の尾立さんと菊田真紀子代議士が、職業能力総合大学校に急きょ出向いた のが、11月5日でした。そこに若林さんが同行しているのです。事業仕分け の作業が11日から開始され、結果的に、雇用能力開発機構運営費交付金855 億円の扱いは「整理・削減」で、23年度に機構廃止は決定済みなので、業務を 他の機関に移管してスリムにする、という判断が下りました。
 若林さんは、どうして潰してくれなかったのか、と尾立さんに迫っていまし た。私が、引っかかったのは、尾立さんと若林さんの関係は存じ上げないが、 事業仕分けを担う政治家が、その視察前に、「潰すのを手伝ってくれ!」とい う相談を持ちかけて、その機構をどう扱うか、は当然、マル秘であるべき胸の 内を事前に明らかにしていた、という事実、ちょっと胸騒ぎがしてしまいまし た。常識では考えられない。その視察後の彼女の週刊誌のルポが掲載されてい ました。多くの人が働き、その役割を合法的に営んでいる法人を、「潰すから 手伝え」などという会話が無見識に飛び交っていることに、驚きと同時に、権 力とメディアがタッグを組んだら、どうなるのかーというその恐ろしさを感じ てしまいました。
 政治家もジャーナリストも、なんの用心もなく、独法、特殊法人を懲らしめ るのが正義と思いこんでしゃべっているのでしょう。そういう無知が、もっと も警戒しなくてはならないところなのです。その問題の核心がどこにあるかと 問われても、悪気はない、と言ってのけるでしょう。だって、あんなに税金を 食い物にしているんですよ、と反論し、そういう輩を成敗して何が悪い、と開 き直るのでしょうか。
 事業仕分けの狙いが、どこにあったのか、それは、もうあえて言うまでもな いかも知れません。
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