◆ DND大学発ベンチャー支援情報 ◆ 2009/06/17 http://dndi.jp/

村上春樹さん『1Q84』を語る

・「オウム真理教事件が出発点」
・山崎豊子さんの『運命の人』の渾身
・中川一徳さんの『メディアの支配者』
・大学連携課長、谷明人氏の連載開始
・連載は石黒憲彦氏の「時代の潮目…」
・松田一敬氏の「オープン・イノベーション」

DNDメディア局の出口です。梅雨でシトシトと降るかと思えば、それが連日 激しい雷雨で、家にこもって読書三昧の日々なのです。晴耕雨読とはよく言っ たもので、文字通りそんな悠々自適の知的生活に憧れを強くしているのです。 まあ、諸葛公明のように三顧の礼で軍師のお声はかからなくても、やがて訪れ る老いの備えとして、気が向いたらのんびりと土をいじって野菜の栽培に精を 出し、雨がくれば塩ラッキョや梅干しの熟成をひたすら待ちわびながら、そし て、長編モノを、それも時間を気にせずに読めればいいのになあ、と熟年のひ そやかな悦楽の境地に少し目覚め始めているのです。


そこでどんな本がふさわしいか、ポイントは、取材にかける書き手の意気込 みやその筆力だと思います。生意気を言わせてもらえば、その一冊にどれほど の時間と心血を注ぐか、その鬼気迫る執筆姿勢に惹かれます。うごめく個々の 人間の我欲を捉えて小さな事実の断片を繋ぎあわせながら、現代社会の中で起 こったある事象の本質に迫り、活字という媒体で、その見えにくかった重層的 な闇の真相を白日に曝してしまうのですから、その壮大なドラマは神懸り的で す。いいモノに出合えれば、心臓を打ち抜かれるくらいの衝撃を受けてしまい ます。そういった作品のいくつかを紹介しましょうか。


作家の村上春樹さんの7年ぶりの新作長編『1Q84』(ichi-kew-hachi-yon、 新潮社)が空前のヒットを更新しています。15日現在で、1巻が62万部、2巻が 54万部の計116万部の売れ行きで書店では予約待ちが続出です。読者の多くは3 0代という。本に登場するチェコ出身の作曲家、ヤナーチェックの管弦楽作品 で民族音楽的な旋律の「シンフォニエッタ」のCDもその関連でヒットしている のだそうだ。なんだか、よくわかんないけれど、誰もが乗り遅れまいとして必 死に本の入手を急いでいるような異常なテンションを感じます。1Q84シンド ロームでしょうか。


手元に2冊、グリーンのBook1〈4月‐6月〉とオレンジのBook2〈7月‐9月〉 が昨日、予約していた本屋から入荷の連絡が入って受け取りました。なので、 まだ、ページをめくっていません。雑事から離れて一気に集中して読むことに しています。どんな内容か、まだわかりません。


が、読売新聞が、昨日16日から、作家の村上春樹さんご本人のスペシャルイ ンタビューの連載「『1Q84』への30年」をスタートさせました。いやあ、ほと ばしるような瑞々しい表現が、インタビュー記事の随所にちりばめられていま した。これほど話題になっていながら、その詳細はベールに包まれたままだっ たのですから。このインタビューは、まさに価値ある独占スクープです。


この作品を書く動機について村上さんは、「オウム真理教事件」にある、と 語り、その裁判の傍聴に10年以上通い、地下鉄サリン事件の被害者60人以上か ら話を聞いて『アンダーグラウンド』にまとめ、オウム信者8人に聞いた話は 『約束された場所で』に書いた、といい、その後も東京地裁、高裁へと裁判の 傍聴に通っていたのです。事件への憤りは消えないが、と前置きして、ごく普 通の、犯罪者性人格でもない人間が、いろんな流れのままに重い罪を犯し、気 がついたときにはいつ命が奪われるかわからない死刑囚になっていた―そんな 月の裏側に取り残されていたような恐怖を自分のことのように想像しながら、 その状況の意味を何年も考え続け、「それがこの物語の出発点になった」と述 べていました。


また、こうも言っています。「罪を犯す人と犯さない人とを隔てる壁は我々 が考えているより薄い。仮説の中に現実があり、現実の中に仮説がある。体制 のなかに反体制があり、反体制の中に体制がある、というような現代社会シス テム全体を小説にしたかった」と述べ、「この時代の世相全体を立体的に描く 僕なりの総合小説を書きたかった」と続けていました。この世の森羅万象を可 視化する、という試みなのでしょうか。


後段では、「作家の役割」に触れて、「原理主義やある種の神話性に対抗す る物語を立ち上げていくことだ」と「物語」にこだわりを見せながら、エルサ レム賞での「壁と卵」のスピーチをいくら感動的と言われても、そういう生の メッセージはいずれ消費され、力は低下するだろう、というのです。逆に「物 語」というものは、「丸ごと人の心に入り、時間に耐えて時とともに育つ可能 性さえある」と喝破していました。時間に耐え、育つ「物語」−がその段落の 見出しになっていました。


そして本日17日の2回目の連載を読んでみると、ここも示唆に富んで面白い のです。長い期間、毎日書いていると、作中人物と一緒に暮らしているみたい になって、「そうか、こういう人だったんだ」とわかってくる。何度も書き直 して造形を調整していく。描写の言葉一つ、一行の文章の差し替えで、人物が 立ちあがることもある、と、村上さんご自身の執筆の様子を生々しく描いてく れているのです。この数行の表現がきわめて映像的でその状況のイメージが膨 らんで、なんだか気持が舞い上がってしまいそうでした。


週末、雨が降っていたらどこにも行かず、手狭な和室に不釣り合いな背もた れのあるリクライニング式の椅子を持ち込んで、足の先には、年季の入ったマ ホガニーの椅子を足置きにしてリラックスし、CDは天才ピアニスト、辻井伸行 さんのオリジナル曲「川のせせらぎ」を流しましょう。この曲は、川のそばを 父親に手をひかれて歩いた時の思い出の曲です。せせらぎの水面にやわらかな 光がキラキラと反射しているようなイメージが膨らんでくるから不思議です。


最近、少々はまっているのは山崎豊子著の『運命の人』(全4巻、文藝春秋 社)です。これも徹底した取材と執筆に10年を費やしたというから、10年とい うレンジは、ひとつの作品を仕上げるのに必要な時間なのでしょうか。


この題材は、国家秘密と取材・報道の自由をめぐって争われた、いわゆる 「外務省公電漏えい事件」がベースとなっています。佐藤政権下で日米沖縄返 還交渉が大詰めを迎えていた昭和46年5月、当時毎日新聞の外務省担当記者だ った西山太吉氏が、元外務省の女性事務官から秘密電信文三通を入手し、翌47 年3月27日の衆院予算委員会で、当時社会党の横路孝弘代議士が、外務省が極 秘扱いしていた電信文のコピーを振りかざして「密約がある」と政府を追及し たことが発端となり、この電信文の入手経路について捜査していた警視庁は、 二人を逮捕、西山氏らは国家公務員法違反で起訴され、最高裁で有罪が確定し ていたのです。


焦点は、問題の電信文が違法秘密かどうか、でした。が、西山氏の起訴事実 は、女性事務官に文書を持ち出すように「国家公務員法違反のそそのかした 罪」で、「情を通じて…」という男女の関係を意図的に強調されました。その ため、敏腕の西山記者が徐々に追い込まれ、やがて取り返しのつかない事態に 陥ってしまうのです。組織から見放された個人は、どんなに抵抗し挑んでも笹 舟のように流されていきます。


世間の非難は、新聞社に向かい、女性蔑視という理屈で人権擁護団体などか ら新聞の不買運動が展開されてしまいます。動揺する社内、その確執と軋轢は 目を覆うべきものがありました。また、政争の材料にも利用されるのです。い やあ、事実に基づいて描かれただけに、その事件でクローズアップされた「個 人と組織」、「知る権利と国家権力」という難題は、現在のメディアにもつい て回る不変的な問題のようです。読み進めていくと、なんだか胸が締め付けら れるくらい重苦しいものでした。新聞記者になりたての頃、漠然と思い描いて いた外務省機密漏洩事件は、今更ながらその問題の根は深く、40年以上経過し た今も何一つクリアになっていないことに驚かされます。


発刊済みの3巻の途中まで読み進め、完結編となる4巻の発刊を心待ちにして いるところです。


長編で、10年の歳月といえば、『メディアの支配者』(講談社刊、上下巻) を取り上げないわけにはいきません。最近、この文庫版の発行に伴って、再び、 読み込んでみました。活字は不思議な魔力があるようです。確か、しっかり読 んでいたハズなのに、その一行一行が新鮮で、加えて依然勤務していた新聞社 の関係者が大勢、実名で登場しているのです。十数年前の、ギラギラした時代 の残像が、走馬灯のように流れて行きました。


ご存じの方も多いと思いますが、著者は、元「月刊文藝春秋」記者の中川一 徳氏です。現在、月刊誌などで活躍する実力派のフリーランスのジャーナリス トです。この本のテーマは、フイジサンケイグループの総帥的立場にあった鹿 内家の議長解任劇を舞台回しに、その宮廷革命と揶揄されたフジテレビ幹部ら によるクーデターの内幕を膨大な資料と個別の面談取材で蓄積した事実の断片 を紡ぐようにして描いたノンフィクションです。


この本の核心部分のいくつかの重大局面に私も遭遇しているのです。産経新 聞都庁担当のキャップとして参画した「お台場プロジェクト」(別名、環境芸 術プロジェクト)、ゆかりの深い建築家、故・丹下健三氏の異例の番記者時代、 世界文化賞の第1回から10回まで鈴木俊一元都知事のアテンドなど、その身近 なところでウオッチしたり、御庭番をまかされたり、といくつも仕事を掛け持 ちで走り回っていました。その当時、なんの疑問も抱かずにいたのですが、そ の裏でフジサンケイグループの歴史を塗り替えるような事態が静かに進行して いたのです。その都知事選に絡んでフジテレビから選挙資金1000万円が裏金と


して渡っていた、という事実は信じられない話ですが、それなりに裏付けを とっている取材力には参りました。しかし、規律にうるさいあの元内務省トッ プ官僚の鈴木さんが、よこしまな金に手を出すわけがない。側近の副知事経由 で選挙事務所に流れたのか、どうか。あるいは、途中で猫ババされた疑惑もあ るらしい。思い起こせば、ニューヨーク近代美術展(MoMA)の運営や、開催に 伴うグループ1万人へのPR用のニュースレターの編集長も務めました。


なんといっても最大の"事件"は、2代目の鹿内春雄さんの急死、そして先代 の信隆氏の逝去に伴う、連続のグループ葬儀であり、続く後任の鹿内家直系の 議長で興銀から転出してきた鹿内宏明氏をめぐる解任騒動でした。当時は、産 経新聞からフジテレビに出向の身で、フジテレビ内に事務所を置く、フジサン ケイグループ事務局の一員として議長のお膝元にいたのです。その年の7月1日 付で着任し、議長に直々ごあいさつもしていました。


場所は長野の美ヶ原美術館のエントランスで、議長の到着を待ちうけていた ところ、上司が「挨拶してきなさい」と背中を押すので、数歩前に出て「1日 付でグループ事務局に配属になりました出口です」とペコリ頭を下げると、 「都庁の担当の出口君ね、知っているよ。よろしく」とにこやかに言葉を返し てくれていました。それからまもなくの7月21日に、解任の、いやいやクーデ ターが勃発するのです。その経緯が克明に、中川さんの本に余すところなく微 細に書きつくされているのです。


思えば、やや周辺に不穏な動きがありました。それまで盛んに一部週刊誌で 議長批判が繰り返されていたのですが、なんとグループ事務局を担う経営幹部 が、しきりと別部屋で週刊誌記者と接触していたのです。「リーク?」。いま 考えたらネタ元は、追放された議長の足元が震源地だったのですね。私もフジ サンケイグループでお世話になった一員ですし、日枝久会長や、グループ最高 顧問で前産経新聞社長の羽佐間重彰氏には、少なからず恩義がありますので、 今回はこの辺にとどめておきましょう。


それにしても渾身のドキュメントです。それにすさまじい筆力と取材力でし た。略歴を拝見すると、まだ40代。この本に取り掛かったのは30代半ばだった のではないでしょうか。本の帯の「講談社ノンフィクション賞」、「新潮ドキ ュメント賞」の文字の下に、こんなコピーが添えられていました。


「フジサンケイグループに突如、襲いかかった堀江貴文と、必死に防衛する 日枝久。しかし、その日枝自身、かつてクーデターによって鹿内宏明を追放し た首謀者であった―。グループ経営の深奥に迫る〜」。


「知某の限りを尽くしてメディア三冠王の座を掴んだ鹿内信隆と、息子・春 雄。一族がグループを支配するため、編み出された株式の魔術とは。堀江貴文 につけいる隙を与えたフジサンケイの『秘密』を明かす―」と。


原稿用紙の枚数にして1400枚。取材は10年以上に及び、数々の内部資料や、 それこそフジサンケイグループ幹部のごく少数しか知りえない極秘事項が、 次々と暴露されているのです。解任後、グループ幹部は、財界周辺からの圧力 や不評を恐れて、産経新聞の経済部、政治部記者が関係のところに飛んで、そ の反響やら、宏明氏側動向を探っていくのです。その報告書やメモが具体的に 明かされているのです。ホテルで作戦を練る、そのフジテレビ幹部らの会話の 一部始終が採録されているのです。新聞社というか、メディア関係は、どうも 口が軽いという証左でしょうか。それとも中川氏の取材力が圧倒していたとい うことでしょうか。私にとって、忘れえぬ先輩の名前が数々実名で登場し、中 にはその論功で経営幹部にのし上った人も複数いる半面、志半ばで追放された 先輩もいます。怪文書がひんぱんに出回ったり、週刊誌にたれ込まれたり、と 社内に渦巻く不信感は絶頂期にあったかもしれません。


今回、文庫版として発売されたということで、どこか文章で書き加えたり、 削除されたりなど修正が加わった箇所があるか、どうかを確認するため、ざっ と目を通していました。


すると、おやっと、思う文章にぶち当たりました。付け加えられていた文庫 本の「あとがき」でした。やや短めなのですが、その中で興味を引いたことが 1つ、ええっ、ウソー!と俄かに信じられないところ1つ、そして、冷徹なほど 感情を抑えてきた筆者の心情が、突如溢れていて、ふ〜む、と心打たれたとこ ろが1つ…と、いずれも強烈なインパクトをもって迫ってきました。


1つ1つ説明を加えましょう。中川氏は、こう記述しているのです。4年前にこの本を出した時は、このメディアグループとかかわることはもう ないだろうと思っていたという。が、現実は、ニッポン放送の買収戦を仕掛け たライブドアの堀江貴文、そして村上ファンドの村上世彰両氏が、翌年前後し て逮捕されるといういわば、第3幕を迎えたことから…中川氏が予測していた 通り、このグループの周辺に起きた一連の出来事を検証する作業が残されるこ とになった、と、後日、単行本で刊行の予定であることを明らかにしているの です。中川氏の、フジサンケイグループや産経新聞への執拗な追撃は、いった いどこにモチベーションがあるのだろうか。


その第3幕は、昨年暮れに休刊した「月刊現代」の2007年の9月号から開始 された連載「村上世彰とその時代」(第1回フジテレビ日枝久会長との知られ ざる蜜月)が近く単行本になり、このグループをめぐる魑魅魍魎の暗闘の歴史 のその後と争い、その虚々実々の人間ドラマが、再び、中川氏の筆であぶり出 される可能性があるとうことなのでしょうか。残念ながら、フジテレビなどグ ループ関係からは、この一連の本をめぐる批判や評価は、少しも聞こえてこな いのです。無視するしか、やり様がないのかも知れません。戦う、となれば、 この膨大な証言や記述を逐一検証し、この本を凌駕するくらいの豊富なデータ と証言で、中川氏の誤謬を列記し、その反証としてその事実関係を具体的に立 証しなければなりません。面倒なことは、やらない方針かも。中川氏とて、取 材のすべてを書くわけじゃなし、確証や裏付けが取れないところは慎重にペン ディングにしているハズです。また、数々の現場を踏んでいるジャーナリスト なら、万が一の訴えに備えて、とっておきの爆弾をいくつか隠し持っているこ とだってあります。巨大なメディアグループとして無駄な争いに組みしない、 という考えは理解できます。が、上場会社でしかも、メディアに携わる業界の 一員として、何らかの説明責任は果たされなければならない、と思います。ま あ、無視する理由もわからないわけじゃありませんが…。


さて、フジサンケイグループの略奪の歴史は、たった一人のジャーナリスト の筆で書きとどめられてしまったようです。救いは、解説にもあるようにフジ サンケイグループにまともな社史が存在していなかったこと、それに中川氏が、 極めて有能で志のあるジャーナリストであったことでしょうか。ジャーナリス トの真髄が、この辺でしっかりと見えてきた感じがしてきます。


「あとがき」で、最後に―という書き出しがあります。中川氏は、あるひと りの記者の存在について「…記しておく、なぜなら」として、その理由を本書 の「水先案内人」というべき人だったからだ、と初めて、その名前を明らかに していました。その漢字4文字の、平凡でよく目にする名前を見て、腰を抜か しそうになってしまいました。お世話になった田中誠司さんでした。


その人の角ばった顔、低く渋い声、長身痩躯、能吏という形容にふさわしい 仕事師の面影が甦ってくるではありませんか。笑うと目を細くし、屈託がない。 が、決して媚を売るとか、中川氏が指摘しているように「保身に身をやつさな い」潔さがあった、というのは確かでした。議長の秘書役時代は、部下にも人 気がありました。


フジサンケイグループ事務局に設置された美術委員会で私が主査を仰せつか っていた時は、ニッポン放送の常務が委員長で、その補佐役で田中さんが副委 員長でした。グループ各社の美術品が遺失したり、所在が分からなくなったり している問題解決のために、彼は美術品の履歴と所在、購入価格等が一覧でき る美術品データベースを構築するなど、彼がその仕事の大半を"始末"してしま っていました。美術委員会がなぜ立ち上がったか、種々、そこで解明すべき課 題があったのですが、そこは触れないでおきましょう。


そして、「あとがき」をさらに読むと、田中さんが、「水先案内人」といわ れるだけのことはあったのです。中川氏が、この本の構想を打ち明けると、田 中さんは、信隆氏と親交のあった人々を(取材相手として)リストアップし、 また過去の手帳など手元資料を提供してくれたーという。


そこでこんなエピソードも披露していました。気になりますね。それは、田 中さんから、信隆氏の死に際について鹿内家も知らない秘話を聞いた、とし、 「重大な内容だったので、それは実名証言でいいのかと思わず問い返すと、こ ともなげに『事実なのだからかまわない…』というのだった」と当時のやり取 りを述懐していました。どんな秘話だったのでしょうか。


最後にもう1つ。この本の校了直前、中川氏が田中さんに手紙を出したのだ そうです。が、田中さんがその少し前に脳梗塞で倒れ、確認することは叶わず、 最終的にその秘話を書くことは断念したという。また、中川氏は、もう少し早 く本が脱稿していれば…と、生前、それも元気なうちに、本の感想を聞きそび れてしまったことを悔いているのです。06年4月に逝った田中さんに、中川氏 は最大の感謝と敬意の念をあらわしていました。きっと、有能なジャーナリス トの関係なのですから、あれはこれは、と話題は尽きなかったことでしょう。 が、その一方で、時間が経つにつれて、益々お二人の無念さがこちらにもひし ひしと伝わってくるようでした。


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◆【新連載】経済産業省の大学連携推進課長の谷明人さんによる、DND連載が スタートしました。タイトルは「列島巡礼、西へ東へ」で、仕事柄全国各地、 津々浦々を訪問し、その街で出会った方々や街の特徴、産学連携に取り組む事 例などを取り上げてくださる企画です。地方圏の隅々にまで、谷さんのやさし い目線が行き届くことでしょう。腰の低い谷さんが、さらに目線まで低くし、 地に這いつくばって「列島巡礼」の旅に回ります。お見かけしたら、気さくに 声をかけてみてください。どうぞ、ご支援のほどよろしくお願いします。その 記念の第1回は、「近大マグロを食べてきた!」です。やわらかな文章は好感 が持てます。
◆【連載】は、経済産業省の官房審議官、石黒憲彦さんの好評連載「志本主義 のススメ」は第136回を数える「時代の潮目と次の方向」です。書き出しは、 「今回も読書ネタです」とお断りしながら、私の選ぶエンターテイメント系の 本とは違って、「今日取り上げるのは、19世紀の歴史が専門のエリック・ホブ ズホーム氏が敢えて自らが生きた時代の歴史を書いた『20世紀の歴史−極端な 時代』(河合秀和訳、三省堂96年)−となるわけです。が、この難解な書物を 分かりやすく咀嚼して解説を加えてくれています。石黒さんのコラムが、多く の研究者や学生に人気がある、というのもうなずけるところです。そして、D NDのアクセスランキングは堂々の1 位というのもこの辺に要因があるようで す。
◆【業界レポート】は、北海道ベンチャーキャピタル社長の松田一敬さんから、 で、前回に引き続く、『「オープン・イノベーション」実現のためのベンチ ャー投資パート3:ビジネスモデルとベンチャーキャピタルの重要性』です。
http://www.hokkaido-vc.com/blog/2009/06/15_000745.html
松田さんからは以下のようなコメントが寄せられております。
 米国ベンチャーキャピタル協会によれば、2008年、米国において公開してい る企業の内、VCの投資を受けた企業による雇用は1200万人、売上は3兆ドル (米国GDPの21%に相当)に達するそうです。いかにVCの活動が米国の成長にと って重要であったかがわかります。
http://www.nvca.org/index.php?option=com_docman&task=doc_download&gid=427&Itemid=93
 さて、ざっと、レポートに目を通すと、前回のVOL,1 VOL,2で報告した三部 作の締めくくりのレポートですが、筆者の飛田篤実さんによると、「おそらく 最もオープン・イノベーションが進んでいる医薬品業界において、巨大企業と ベンチャーがどのように連携してビジネスを展開しているかを、次回、いくつ かの興味深い事例を紹介する」と、この続きがあることを示唆しています。本 文中にも松田さんが自ら手掛けている事例の紹介もあります。全部で13pに及 ぶ、力作となっています。タイムリーなことに、週末の20日から21日に京都で 開催の第8回産学官連携推進会議のテーマが、「オープン・イノベーション型 の新たな挑戦」です。どうぞ、北海道ベンチャーキャピタルがまとめた3部作 をご参考にしていただければ幸いです。松田さん、いつも貴重な論文をご投稿 いただき、ありがとうございます。この場を借りて、感謝申し上げます。

記憶を記録に!DNDメディア塾
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