◆ DND大学発ベンチャー支援情報 ◆ 2009/05/20 http://dndi.jp/

大学発ベンチャー20年度調査報告:経産省

・設立数は1809社、廃業は倍増の280社
・初めて廃業数が設立数を逆転の重要局面
・筑波大学が2位に躍進、東大は不動の1位
・全国VBLフォーラムの充実ぶりと期待感 
・産業革新機構、選考委員長に吉川弘之氏
・コラム「学術の風」:黒川清先生からの警鐘
・連載は、経済産業省、石黒憲彦氏の134回
・連載は、名桜大の比嘉照夫教授のEM効果

DNDメディア局の出口です。いやあ、なんともせわしない突貫工事に追われ る始末、せめて公表のすぐにでも、その一報を伝えてくれてさえいれば、もう 少し余裕をもって分析ができたのに、少し残念〜。


経済産業省の担当者が、昨日夕刻、ふらっとオフィスに見えたので、仕上げ 段階のメルマガの手を休めて応対し、しばらくぶりですねぇ、とかなんとか言 って雑談をしていたら、帰る間際になって、「実は、大学発ベンチャーの基礎 調査がまとまったので…」、と、ぼそっと言うから、こちらの心臓がドッキン。 「えっ!」という驚きの声を飲み込んで、口を突いて出た言葉が、「いつ?」。 きっと、その表情は、不機嫌な新聞記者になっていたのかもしれません。


が、大学発ベンチャーの起業支援情報を生業とするDNDが、それを見過ごす わけにはいかない。内容が、それほど芳しくない、としてもその調査内容は、 大学関係者ら多くの人に知らせる必要はあります。期待する課長の谷明人さん の顔も浮かんでくるし、ここは気持ちを切り替えて、「来週でもいいですよ」 というのを、せっかく来てくれたのだから「いやあ、急いで扱った方がよいの では〜」と、担当者に伝えていたのです。


急いで、その調査報告の全容をチェックし、まず、昨日夜、DNDサイトのト ップのDNDiNNに「大学発ベンチャー微増1809社へ。が、廃業数が急増し、新規 数を初めて逆転。東大1位、筑波大が2位に躍進」というヘッドラインを流し、 この報告の目玉だという「光る大学発ベンチャー20選」の個々のベンチャーの 設立年の分析をスタッフに指示し、そして、コーヒーを入れ替えて深呼吸ひと つ、先週から準備していた予定のメルマガをボツにし、少しいらつきながら 「大学発ベンチャーに関する基礎調査」の報告書を読み込んだ次第なのです。


調査報告は、一般的に大学発ベンチャーが抱える課題の解決策を提示してく れる場合もあれば、その潜在的な問題を浮かび上がらせるケースもあるようで す。そこでまず、第一印象。


この調査報告をざっと目を通すと、この調査で顕在化したいくつかの疑問に、 向き合う時間が足りなかったのではないか、それと先日の東京大学で開催の第 6回全国VBLフォーラムで、東大、京大、東工大、九大、電気通信大、山形大な どどこも実はとっても細やかな神経をめぐらせながら「大学と大学発ベンチ ャーの関係」という課題にその微妙な距離感を持って取り組んでいる状況に対 して、この報告書の記述は大雑把で、もう少し配慮が必要だったかもしれませ ん。


例えば、第4章の「今後の支援の方向性」の、その1「大学発ベンチャーの技 術の高度化を促進する取組への支援」のくだり、「大学発ベンチャーの技術の 高度化を促進するため、関連技術を必要としている大学発ベンチャーに対する 関連技術へのアクセスを支援する機能を有する機関を支援していくことが重要 であると考えられる」とあります。が、これでは、要領を得ない。


どういう意味なのかなあ、知人に読んでもらっても、「う〜む、なんだろ う?」と首を傾げてしまっていました。大学発ベンチャーの成功確率を占うと、 そのベンチャーが保有する技術が単一より、複数のより確かな技術を持ってい る方がいい、というのは、まあ当然といえば当然。で、それを前提にこの文章 を読み解くと、より多くの関連技術を必要とする大学発ベンチャーに、関連技 術を紹介したり、検索一覧可能なデータベースを保有する、関係機関を支援し ていくべき、ということかしら。大学発ベンチャーを支援する、その支援機関 を支援する、というなんだか奇妙な施策を恣意的に織り込んでいる気配がにじ んでみえます、ね。


そして、その2は、「試作品作成」に関する提言です。「〜既存の補助金だ けでは試作品作成のための資金が十分に確保できていないのが現状である。そ のため、将来の大学発ベンチャーの起業を目途とした研究開発において、試作 品作成段階の資金の枯渇を防ぐために、大学における研究開発費の充実を図る ことが重要であると考えられる」という。


ついでに、その4は、「大学を核とした支援機関の連携による支援」の項目 では、こうです。大学発ベンチャーにとって大学は、安心して頼りにできる支 援機関であり、大学の知財の社会還元という大学の使命に合致するーとして、 次に、「しかしながら、大学は支援機関として、ヒト・モノ・カネ・ジョウホ ウのリソースを十分に持っているとは言い難く、その実施している支援も効果 的な支援も多いが、他の機関が実施する方が効果的な支援も多い。これらを踏 まえると、大学は国、地方自治体、地域の経済団体、各種支援機関などの外部 機関との連携の強化を図ることにより、大学発ベンチャーへの支援を拡充して いくことが重要である」と結論づけていました。


いやあ、先日の大学発ベンチャーの新たな挑戦―とテーマにした第6回全国V BLフォーラムの初日のパネル討論を聞いていたので、それも九州大学や山形大 学、東大に東京工業大、京都大学に電機通信大学、それぞれ自立を目指して取 り組んでいるのです。さて、上記の提言の中の「実施している支援も効果的な 支援も多い」というのは一体何を指しているのか、そしてそれに続く「他の機 関が実施する方が効果的な支援も多い」というのはこれまた、何を伝えようと しているのか、その「効果的な支援」という実態の見えない言葉が宙に浮いた ままーなかなか着地点が見出せないのです。ちょっと、ちょっと、かな。これ じゃあ。


余談ですが、一橋大学名誉教授、野中郁次郎先生が、たまたま本日の日経の 朝刊「経済教室」の「米GM衰退は実践知軽視」の寄稿の通り、「対象に深く関 与し自己を超越して得られる気づきは、徹底した言語化により本質を究めた言 葉として表出化される」という指摘を思い起こしました。「対象に深く関与 し」の部分を自戒として、肝に銘じたいものです。さて、本題に入ります。


その概略を見てみましょう。大学発ベンチャー数は累計で実質1809社(前年 1773社)と微増にとどまり、そのうち株式上場を果たしたベンチャー数は、新 興市場の低迷や金融危機の影響で1社増の24社でした。


全国の都道府県レベルでの設立数の動向を13年度の調査比でみると、地方圏 の伸び率が3.8倍の941社(13年度249社)に達し、都市圏(同317社、東京都、 千葉、神奈川、大阪府、京都府、兵庫の6都府県)の2.7倍868社を上回り、昨 年同様地方圏での大学発ベンチャーの伸び率が顕著で、都市圏の増減は、わず かにひとケタのプラスという際どい状況にあることなどが浮き彫りになりまし た。


都道府県別の累計は以下の通り、数字は社数で( )内は前年の社数です。 1位東京432(428)、2位神奈川県138(131)、3位大阪府118(122)、4位福岡 県107(107)、5位京都府102(110)、6位愛知県78(74)、茨城県76(64)、 8位北海道74(75)、9位宮城県54(46)、10位兵庫県53(53)、10位広島県53 (46)−でした。ここで前年の数字より減少した主なところは、大阪(4減)、 京都(8減)、北海道(1減)でしたが、20年度単年の設立数をと加えてその増 減をみると、東京が17増なのに累計で4増、北海道が4増なのに累計で1減とい う結果でした。つまり、各地でベンチャーが設立している一方、活動を停止、 あるいは廃業等を余儀なくされているベンチャーが顕著になっていることを現 わしています。


◆廃業が設立数を大幅に上回る。大学発ベンチャー調査で初めて逆転!

そこで大学発ベンチャーの設立と廃業の推移をみると、今回、新規設立が54 社に対して、活動停止したベンチャー数が累計で280社と、前年(121社)に比 べて単年で159社増えたことになります。


経営の行き詰まりなどでやむなく倒産や清算を余儀なくされた大学発ベンチ ャーの廃業(他社との合併による消滅は除く)は近年、増加傾向にあり、その 推移は17年度が32社、前年18年度が67社、昨年の19年度が121社と倍増し、今 回の280社という数字は、関係者にあらためで強い衝撃を与えたのではないか。


まあ、昨年も指摘しましたが、「多産多死」が当たり前のこの分野で、先行 き不安なベンチャーが今後さらに増える傾向にあることを明確に裏付けた格好 です。この報告書では、その辺の目立った記述がありませんでした。どんな業 種のベンチャーが、どのような理由で廃業に追い込まれたのか、その実情を調 査し、背景と原因を探ることは今後の課題と思われます。


一般的に言えば、主に世界金融危機の影響や新興市場の低迷などで、投資マ ネーが先細ってベンチャーに資金がまわらない。そのため、多額の研究開発の 資金を必要とするバイオ系を中心に資金難で経営が行き詰まった、という見方 がもっぱらです。とくに新興市場の動向は深刻で、2008年のIPO企業数は激減 し、2007年の107社から42社への落ち込みは、「IPO限界説」がささやかれ、加 えて公開費用や上場維持のコストがかさんで、IPOのインセンティブが薄れて きつつあることが、VCからの投資マネーの減少に拍車をかけている、といえそ うです。


特に大きな話題となったのが、人工酸素運搬体の画期的な研究・開発・製造 をてがけていた「オキシジニックス」、加齢性疾患の間接リュウマチや変形性 感節症などの創薬ベンチャー「ロコモジェン」など、将来を期待されたバイオベンチャーの相次ぐ解散でした。個人的に知人も多く、いろいろお聞きして いますが、まあ、複合的な問題が重なっているようです。それぞれに、有能な 経営者ぞろいなので捲土重来を期待したいものです。


さて、バイオベンチャーなどVCから多額の投資を受けるベンチャーにとって、 IPOの道が閉ざされてしまうと、次にどんなEXIT戦略が練り上げなければなら ないのでしょうか。大学発ベンチャーの上場とその後の動向にも目を向けなけ ればなりません。


◆期待の産業革新機構人事内定、投資先選考委員長に吉川弘之氏


この辺については、谷明人課長は、このたび産業革新機構のトップ人事が決 まり、予算も420億円追加の820 億円の出資金が認められ、8000億円の債務保 証が得られます。このチャンスに、大学発ベンチャーの大幅なM&Aなど従来に ない動きが求められると思います。大学発ベンチャーも、複数の大学シーズを 活用したベンチャーの成長が認められますので、ベンチャーは一種の融合の場 となることを今後の展開として期待しておりますーと前向きなコメントを寄せ てくれました。


さしずめ、大きな期待を背負って船出する産業革新機構の、社長に元あおぞ ら銀行会長の能見公一氏、COOにカーライルの朝倉陽保氏、投資先を決定する 委員会の委員長には元産業技術総合研究所理事長の吉川弘之氏が決定(内定) しました。このニュース記事はDNDiNNにアップしています。
http://www.business-i.jp/news/kinyu-page/news/200905160045a.nwc


また今回の調査の目玉としては、光るベンチャー20社を選び、それらを掲載 しております。この20社の選考については、全国の支援機関から60社を推薦し てもらい、そこから研究会の選考委員会で20社に絞り込んだ、そうです。さて、 この20社から浮かび上がる成功要因は、どんなものか。その辺も少し触れて欲 しかったです。


◆筑波大学が累計で2位に大躍進、トップは不動の東京大学。

さて、それでは恒例の各種ランキングの発表です。


大学発ベンチャー数の大学別(累計)は、やはり東京大学がトップをキープ しました。2位に筑波大学が躍進です。2位、3位、4位は、その差1社という僅 差でした。以下の通りです。( )内は前年度。


1位東京大学125社(1位123 社)、2位筑波大学76社(5位65社)、3位大阪大 学75(2位78社)、4位早稲田大学74社(3位74社)、5位京都大学64(4位66 社)、6位東北大学57社(7位56社)、6位東京工業大学57社(9位52社)、8位 九州大学55社(8位53社)、9位慶応義塾51社(6位57社)、10位九州工業大学4 5社(11位42社)の順で、このトップ10を見ても単年で設立数が増えているの に累計で減少している大学が目に留まります。


それは大阪大、京都大、慶応大に顕著で、全体的にこれまでの増加傾向に陰 りが生じ、これから減少に転じるのか、どうかーは今後の推移と減少傾向の要 因を分析してみる必要性があるようです。


以下は、11位北海道大43社、12位広島大38社、13位立命館大35社、14位神戸 大33社、14位徳島大33社、16位名古屋大28社、16位岡山大28社、18位龍谷大27 社、19位東京農工大25社、20位会津大23社、20位日本大23社、22位岩手大22社、 22位静岡大22社、24位奈良先端科学技術大学院大20社、24位東海大20社―でし た。


さて、私立大学別では、早稲田が1位、慶応が2位、立命館が3位、4位龍谷大、 5位日本大、6位東海大、そして新設のデジタルハリウッド大学院が7位昨年に 続きベスト10入り。以下、高知工科大、同志社大、東京理科大、大阪産業大、 明治大、福岡大―の順でした。


高専は1位が鹿児島工専、2位が仙台電波工業高専、沼津工専、明石工専、呉 工業高専でした。


大学別ランキングを19年度の単年ベースで設立数を見ると、1位は6社で早稲 田大、2位が5社で九州大、3位が4社で東京大と筑波、5位が3社で慶応大学とデ ジタルハリウッド大学院、7位が2社で北海道、徳島大、金沢大、福井大―でし た。


なお、本調査の実施にあたって経済産業省内に設置した研究会の委員は以下 の通りで、事務局で今回調査に当たったのは日本経済研究所でした。


委員長・西澤昭夫氏(東北大学大学院教授)、委員・綾尾慎治氏、郷治友孝 氏、杉田尚司氏、林正浩氏、藤波光雄氏、牧兼充氏、丸山正明氏、渡辺孝氏。「平成20年度大学発ベンチャーに関する基礎調査」の報告書は以下の通りです。
http://www.meti.go.jp/policy/innovation_corp/whatsnew/fy20vn.pdf


◆第6回全国VBLフォーラムの印象です。この15日、16日の2日間、大学発ベン チャーをテーマに盛んな議論が展開されました。現状の問題や課題を忌憚なく 披歴し、2004年4月の国立大学法人化から5年の統括を行い、そしてこれからの 可能性を語り合っていました。予算や人員、大学の地域性や特性、その条件や 制約のなかで精いっぱいの努力を続けていらっしゃることに感動を覚えました。 それぞれの違いが、自立的な個性と映りました。課題や難問は尽きません。が、 これらに取り組む方々の表情は明るいし、それに若さと情熱、そこに心打たれ ました。ご講演に立ったゲストも力がありました。参加者に多くの知り合いが いました。「先日のメルマガを読んで、岩手からきたのですよ」とうれしい事 をいってくれる先生もいました。このフォーラムの議論と、今回の調査報告が、 同じ大学発ベンチャーをテーマにしながら、どこか違和感を禁じ得ませんでし た。
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◆連載は経済産業省の石黒憲彦氏の「志本主義のススメ」134回は、『「バブ ル文化論」と「オタク学入門」』です。
◆連載は名桜大学教授の比嘉照夫氏の「甦れ!食と健康と地球環境」の第8回 で、注目の「EMによる新型(豚)インフルエンザ対策」です。
◆「コラム」は、前内閣特別顧問の黒川清氏の「学術の風」は、「好機と捉え、 大変革のとき、しかし、リーダーはどこへ?」。公的資金の"投げ売り"的安易 なムードに警鐘乱打というところでしょうか。
◆九州経済産業局の松田一也氏の「産学連携道場」は、盛りだくさん。そのひ とつ、経済産業省の委託事業でスタートした「ソーシャルビジネス」です。 〜最近、話題になっているものに、「ソーシャルビジネス」があります。ソー シャルビジネス?と言う方は、以下をご覧頂ければと思いますが、簡単に言う と、「環境や貧困問題など様々な社会的課題に向き合い、ビジネスを通じて解 決していこうとする活動の総称で、社会性と事業性と革新性をもっているも の」のようです。
http://www.socialbusiness.jp/know/000037.html
もっと詳しくお知りなりたい方は、経産省のWebサイト「ソーシャルビジ ネス応援WEBサイト」をご覧下さい。
http://www.socialbusiness.jp/

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