◆ DND大学発ベンチャー支援情報 ◆ 2009/02/12 http://dndi.jp/

危うい現実、そこからの脱却

 〜史上最悪の決算見通しと大量リストラ〜
 〜コーポレートベンチャリングのススメ〜
 (青学大学院教授、前田昇氏のご指南とフォーラム)
 〜連載は、黒川清氏、比嘉照夫氏、塩沢文朗氏〜

DNDメディア局の出口です。ふ〜む。なにせ肝心のモノが売れない。だから、 このご時世どういう哲学を持ち込んだって、結局はリストラしか処方がない、 のか。そうじゃない、と思いたいのですが、販売不振が営業の現場を脅かし、 経営の根幹を揺さぶるとなっては、大量の人員削減やむなし、という選択を迫 られているのかもしれません。そこで突然視界が歪み、急激に足元が崩れ落ち ていく、そんな底知れぬ暗い不安が蔓延し、どこもかしこも危うい〜。


このところの新聞のページ数がめっきり薄くなって、折り込みのチラシが激 減しています。モノが売れないから、企業のCMが抑制され、その反動がこん なところにも散見されるのでしょう。いま、どこもリストラの嵐。岐路に立つ のは、なにも新聞業界ばかりじゃありません。近所のスーパーでは、見切り品 のワゴンに、「半額」のシールが貼られた菓子パンなどが山のように積まれているのを目にします。毎日、毎日、売れ残りと廃棄のその数といったら、どのくらいの量になるのでしょう。危ういなあ〜。


また、各地の工場が一気に閉鎖に追い込まれ、ある部署やグループごと集団 で従業員の姿がごっそり消えていく。職を失う不安の危うさは、日々の生活が 立ち行かない悲劇より、人を孤独の淵に追いやってその気力さえ奪い取ってし まうことです。


先日、雇用をめぐるNHKの討論番組をラジオで聴いていたら、自営の青年が 意を決したように興奮気味に「人に頼らず、自分で活路を見出す、そういう自 立した生き方が、やる気になればできるのじゃないか。そういう選択もあるの ではないか」という意味の主張をするから、「その通り、よくぞ言った。やはり世の中、まんざらじゃない。こういう青年もいるのだから…」とうなずいて感心していたら、突然ヤジが飛んで「(その考え方は)甘〜い!」などと周辺から批判が集中したのには、驚きました。


派遣社員や非正規雇用の突然の解雇、派遣切りに対しては、政府の緊急のセ イフティーネットの充実を否定するものではありませんが、コメンテーターの 学者さんら誰一人として、この青年の発言を受け止める気配もなければ、司会 のアナウンサーもフォローしませんでした。せめて、そういう前向きな考えが いま一番必要かもしれませんね、と言う識者がいてもおかしくはない。この場 の状況は、ちょっと引っかかりました。人のために自立して生きる、という考 えは、もう遠い昔に忘れてしまったのでしょうか。


つい先日、ホワイトハウスで初の記者会見にのぞんだオバマ氏は、失業者が 360万人に及び、その半分はこの3ケ月で起きたもの、雇用はますます悪化し ている、との認識を示し、まず切迫感を持って人々の雇用を確保し400万人の 創出を目標としたい、と数値を示しました。


 そして、ここで注目の発言は、日本の「失われた10年」の教訓を例に取り上 げたこともそうでしたが、「ウォールストリート(金融危機)がメーンストリート(実体経済)になる」に及んで、企業の資金が回らず雇用が打ち切られ消費者が需要を控えている、という悪循環に陥っている現状から、ここは超党派で一刻も早く法案を通し民間に資金が流れるようにしなければならない、と述べ、「イディオロギー的石頭であってはならない」と一部反対勢力をけん制し、議会が政治ゲームをしている暇はないと、強い口調で訴えていたところでした。


政治の力は、リーダーのその資質に負うところが大きい。この会見の模様を 中継したNHKBSで解説の東大教授、藤原帰一氏は、オバマ氏は、議会は古い政治をもて余している、などと強い言葉の演説に戻ってきた、と印象を語って いた通り、そして、やっぱり、なんといってもリーダーは強くなきゃいけませ ん。


しかし、ねぇ〜。金融危機の影響が拡散し、経済の混乱がおさまらず、依然 としてその底がみえてこない。この状況は依然、危うい。オバマ氏にまだ圧倒 的な支持があるとはいえ、この船出したばかりの新政権の、この先に視界が開 けないなら、やっかいな事態に陥る懸念も否定できません。現場は難題の山な のです。いつまでも自慢のスピーチに酔いしれる場面じゃないわけですから、 着実な改革、具体的な成果、その施策が多くの人の生活に実感されなければな らないのでしょう。それもともかくスピーディーに。


米国がしっかりしないと、こっちも危うい。身近なところも苦しい状況は変 わりません。政治決戦を控えてネジレの政局は波高し、です。言葉尻で火花が 散り、その認識が誤解を生んで、残念ながら、求心力を失ってしまった印象で す。まあ、議会の混迷を指摘すれば、その漢字の言い違いのあら探しに時間を 費やし、言葉は政治家の命なのですから十分に注意しないといけない。が、待 ったなしの事態回避のかじ取りが、それによって遅々として進まない、という のも情けない。


足並みが一緒なのは、例えばTVの民放のキー局の司会者、その馴染みのタレ ントさんらは口裏を合わせた如く、こぞって麻生首相に毒づいて政権与党批判 の大合唱です。これも時の政権に立ち向かうメディアの矜持というのでしょう、 ただ、せめて事実関係を押さえてくれないと、メディアの偏向という悪しき風 評を立てられる懸念もあるし、百歩譲って単なるおやじの無責任な放言という なら、銭湯談義となんら変わらない。ここも危うい気がします。


 特にこれ。「12兆6000億円もの税金が、天下り官僚に無駄に使われている」 と、人を変え時間を違えて、執拗に繰り返す。これもまったく乱暴な事実誤認 です。これをそのままずっと見過ごしているのも奇妙ですが、これを意図的に 喧伝しているなら、政権交代が起こって、それを誘因したメディアのキャンペ ーンがフェアじゃなかったのではないか、とケチをつけられたら贔屓の引き倒 しになってしまいかねません。これを新聞がやったら、「訂正とお詫び」だけじゃすまされません。テレビの論評のこんなところはいつも無責任で、ジャーナリズムに値しないセンセーショナルと揶揄される所以です。


まあ、その間、わが国の経済は深刻です。時節柄、記事は、大手メーカーの 09年3月期決算の営業数字の見込みを伝えています。連日、気が滅入ってしま うくらい暗い。今後、さらに業績が悪化する、という見通しで、業界は一斉 に大量解雇の嵐なのです。


 その前に余談ですが、本日12日の日経5面の経済面の危うい話。そこに、「富士火災、500−600人削減」の見出し。そして本文の書き出しが、「富士火災海上保険は人員削減に乗り出す。」とありました。人員削減をまるで鼓舞するかのような印象を持ってしまいます。「乗り出す」はないでしょう。


例えば、「臨時採用に乗り出す」ならいい。まず、人員削減には乗り出しては欲しくないのです。これは、経済紙特有のお硬い書き方なのでしょう。一般紙はそういう記述はみあたりません。「捜査に乗り出す」はあるが…。いくら自社ダネ、自分のところだけの記事とはいえ、どうみてもリークされた記事ですね。その分、富士火災に遠慮があってこんな書き方をしたのでしょうか。気になりますね。


そもそも富士火災の記事を、そんな風に大きく取り上げる理由はあるのかし ら。連日、人員削減の記事は溢れ返っているのだし、その規模とてそれほどの ものか、と首をかしげてしまいます。それも発表前に…。まあ、本日アップの 塩沢文朗さんの「原点回帰の旅」のコラムに重なって、おおいに自戒しなけれ ばならないのですが、最近のその動向を拾ってみましょう。


【パナソニック】純損益が300億円の黒字(昨年11月時点)から一転、3800億円の損失で国内外1万5000人を削減。
【日立製作所】過去最大の7000億円の純損失で7千人配転・削減、
【NEC】2900億円の赤字で正社員を含む2万人超の人件費圧縮。
【ソニー】2600億円の営業赤字で世界で社員8000人の削減。
【パイオニア】連結決算の最終損益予想は1300億円の赤字。昨年秋の
780億円の赤字見通しに比べて拡大し、2010年3月までに国内外で正社員
5900人を含む約1万人の従業員を削減する。
【東芝】営業損益が2800億円の赤字で派遣社員ら4500人を削減。
【シャープ】純損益が1000億円の赤字で非正規社員1500人を削減。
という具合に大手電機は軒並み未曾有の赤字でした。


【トヨタ自動車】営業赤字が過去最大の4500億円に拡大し、昨年12月の予想からわずか1ケ月半で大幅な修正を余儀なくされるという急激な落ち込みで<列島に「トヨタショック」の激震が走りました。「下期の1兆円を超える営業赤字が、なんと上期に稼いだ5820億円の黒字を吹き飛ばした」(朝日新聞)。
【日産】業績予想を大幅に下方修正し最終損益が2650億円の赤字に転落し国内外で正社員を含む2万人の社員を削減する、と発表。
【野村ホールディングス】株価の暴落で収益の柱の法人営業などが打撃を受けて、10月から12月期の純損失が3429億円に及び、4〜12月期の決算は4923 億円の大幅赤字に。巨額損失の原因は、「市場で自ら取引する自己売買部門の不振」と、アイスランド関連の投資で431億円、米ナスダック元会長の巨額詐欺事件で323億円のそれぞれの損失なども含む、という。まあ、いろんなところに「乗り出して」いるのですね。


 その他、三越伊勢丹の営業利益が40%減、北海道の老舗、丸井今井が破綻するなど百貨店も苦戦、安売り、特売セールスしても動きが鈍く依然買い控え傾 向にあるという。全国のスーパーも消費者の節約志向が響いて12年連続で売上 高が前年を下回る苦境にあって、事情は百貨店と同じ。


 これらの数字を比べてどのように感じますか。巨額損失と大量の人員削減と はいえ、その中味はそれぞれ特有の事情があって、なんでも十把一絡には扱え ません。ソニーは、確かに液晶テレビや小型デジカメなどの売上目標に対して 下方修正しました。例えば、液晶テレビは1600万台から1500万台へと、しかし、 その1000万台以上の売上は確保しています。景気減速と厳しい価格競争による減益が響いたというが、最大の問題は、円高による目減りが1300億円から1900億円に膨らむという見通しに陥ったということで、やむを得ない事情が見え隠れしています。


 さて、そこで上記の企業の人員削減の数字を単純に合計すると、70000人近 くに及びます。モノづくりを支えた大手メーカーのエンジニアや研究者、それ に営業担当や人事管理のベテラン組をなんとか生かす手は考えられないのだろ うか。


例えば、コーポレートベンチャリング、いわば企業内の新たな起業のこと を意味し社内の知財などを活用し、人材やアイデアを募り、独立起業の立ち上 げを企業が支援するという新規事業開拓の戦略であり、または大企業再生の手 法のひとつとされる「社内ベンチャー制度」の採用を積極的に進めてみるのも 一案ではないか。


例えば、「失われた10年は無駄ではなかった」との持論で、積極的に大企業 発のベンチャー創出を後押しする、青山学院大学大学院国際マネージメント研 究科教授の前田昇さんは、大企業の優秀なエリート・エンジニアがこの危機感 からリスクを覚悟で飛び出し、その結果、最新技術をベースにしたベンチャー 企業が短期間で株式上場を果たすなどの成果をあげている、と指摘し、米国に 遅れること30年、この動きはドラッガーが『すでに起こった未来』で指摘した 「未来変革の前兆であると確信する」とある雑誌で述べています。


 そういえば、2003年の冬、米国東海岸はボストンの近郊のビジネススクール で起業家教育NO.1で定評のバブソン大学を訪問しました。そこでは、前田さん が指摘しているように、いかに大企業の保守性や規模の弊害を打開するために 企業内起業(Cooperate Entrepreneurship)が不可欠で、そしてそれが社会に イノベーションをもたらす契機になる、ことを担当のAlan Cohen教授、Joel Shulman教授らから直接講義を受けたことがあります。企業30年説、それか ら次のステップに入るには、知財を活用したベンチャーの起業が不可欠であり、 そのために事業計画や人材の確保などを手掛けるファシリテーターの手腕が重 要と説明されていたように、記憶しています。


 さて、まあ、いずれにしても大量のエンジニアや経営幹部といった人材が流 動化します。これはある意味においてチャンスかもしれません。このテーマに ふさわしい「大企業とベンチャーとのWIN-WINフォーラム」が19日午後、東京・文京学院大学仁愛ホールで開催されます。詳細は以下の通りです。どうぞ、ご興味のある方は、ご参加してみてはいかがでしょう。
http://www.meti.go.jp/policy/economy/gijutsu_kakushin/innovation_policy/WIN-WIN.htm


前田さんは当日、パネルディスカッションのモデレータを務めます。その狙 いをお聞きしてみると、「大企業と補完関係で連携して新たな市場を作り出す」のが意図です。すでに起こっている事例を参照してその成功要素を探ろうとするものです。キーワードは「『育ての親』『生みの親』です」と話しています。


◇             ◇           ◇


■黒川清氏のコラム「学術の風」は、ダボス会議から4回連続、それも写真入 りでの報告です。どうぞ、その活躍ぶりと幅広い交友に驚かされます。今年で9回目の参加というから、もう常連なのですね。と思ったら、今度は、ダボスからミュンヘン経由し、2月2日の早朝はニューデリーに到着、この1年の間で通算3回目の訪問という。今回の目的が、去年の夏と同じくJeffery Sachsさん のチームとともに、年に2回開催されるインド厚生大臣による国際諮問委員会 です。ここでの中心テーマは、「農村の医療」です、という。まるで不死身の スーパーマンのような活躍ですね。どうぞ、その息吹に触れてみてください。


■連載は、名桜大学教授の比嘉照夫氏の「甦れ!食と健康と地球環境」第3回 「EMを医療に活用しているタイ国の現状」です、その中で、「EMは、医療・健 康問題を根本から解決する力があり、その力の基本的な作用はEMが産生する多 様な抗酸化物質と生理活性物質によるものです」と断じ、その具体的な事例を 紹介しています。


■連載は、塩沢文朗氏の「原点回帰の旅」の47回「混乱の背景にある不変的な もの」です。例えば、「グループ2万人削減」(日経1月31日朝刊9面)との驚 くような見出しの記事をよく読んでみれば、それはNECがこれまで行っていた 外部委託の自社への切り替えで節約する9,000人分の人件費を含んでいる数字 で、「日立7,000億円の赤字へ」(朝日)という見出しも、本業の収益を表す営業利益はなんとか400億円の黒字を確保できる見込みとのことです、と指摘し、科学の探究、その努力によって「混乱の中で人間が無意識に犯しがちな愚かな行為によって、社会の混乱が連鎖的に拡大することを少しでも防ぐことができる」と興味深い論理を展開しています。


以上


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