◆ DND大学発ベンチャー支援情報 ◆ 2008/10/08 http://dndi.jp/

白樺峠のタカの渡り

 〜信州・松本市奈川の健光ツーリズム〜
 〜ノーベル賞物理学賞受賞3氏の王道〜
 〜ベンチャー情報新設DNDiNN開始〜

DNDメディア局の出口です。北東のアルプスの嶺を越えて次々に飛来する、 そのタカの一群を遠くに捉えたかと思うと、やがて真っ直ぐ近づいてきてちょ うど目の高さぐらいの至近距離から、徐々に高度を上げて勢いよく頭上をかす めて飛び去っていく〜。


 越冬の「タカの渡り」が、いま信州・松本の高原で佳境を迎えているという。 その数、日に数十、数百、数千という群れに遭遇することも珍しくないらしい。 そして、運がよければ、数十羽のタカがそれぞれに螺旋を描いて上昇する「鷹 柱」(たかばしら)と呼ぶ"天空の舞い"を見ることができる。吹き上げる気流 をたぐって、条件のいいところに集まってくるのがタカの習性なのだという。


 これからさらに数千キロもの南国へ飛んでいかなければならないのだから、 フォローの風に身をゆだね、体力温存のために翼を休めているのかもしれませ ん。全国にタカが通過するポイントがあるというのだが、いったいこの広い空 にどんな道が見えているのでしょうね。


 それもこれも自然の理とはいえ、驚かされたのは9月、10月の2ケ月に及ぶタ カ渡りのシーズンになると、毎日欠かさず山に登ってタカの種類や数を調査し 速報値としてその記録をウェブで発信する、信州の調査研究グループやウォッ チャーが全国に数多く存在していることでした。


 一概にタカといっても、サシバやハチクマ、ノリス、ツミ、オオタカなどそ の種類は多い。それぞれを双眼鏡で丹念に調べているんですね。見て判別でき るのも凄い。全長50から60センチで、翼を広げると1メートルを超える。そもそも僕は、つい最近まで、タカの渡り、そしてその観察調査というそれ自体を知りませんでした。この時期に、なんと毎年16000羽から18000羽余りの渡りを確認できるというのだから、心躍る光景ではある。


 なぜ、タカ渡りなのか?まあ、いきなりこんな書き出しでは面食らってしま ったことでしょう。それというのも実は、信州大学の工学部機械システム工学 科の准教授で元地域共同研究センターに在籍していた松岡浩仁さんからの案内 で、松本市商工観光部と信州大学、それに松本大学との連携で実施する、秋の 健康ツアーの内容に関心を持ったからです。


 詳細にそのプログラムを眺めていると、遠望が利く高原での健康ウオーキン グ、早朝は太極拳で呼吸を整え、夜は天の川や流星を目で追う星空観測が楽し める。そして医学部の先生らによる健康講座も用意され、旬のそば打ちの体験 や地元の自然の食材をふんだんに使った健康食のポイントも指南してくれる、 という。そしてかけ流しの湯の天然温泉も加わってまさに信州ならではの、満 足度の高い健康と観光のメニューが散りばめられていました。


 そのなかで特に目にとまったのが、「白樺峠(タカ渡りの峠)ウオーキン グ」という、わずか1行に書かれたタイトルの中の「タカ渡り」の文字でした。 そこでさっそく本やネットで調べてみたのです。


 松本市奈川の白樺峠。そこがなんと全国屈指の「タカの渡り」の観察ポイン トだったのです。場所は、どの辺なのだろうか。地図を開くと、松本市から西 南の乗鞍岳方向で、車で梓川沿いに野麦街道を南下し、奈川温泉街を通って上 高地乗鞍スーパー林道を北上していくようだ。周辺は日本の秀峰、北アルプス の山々で、もう少しすれば頂上付近が冠雪し、きっと、野山いっぱいに錦を彩 る紅葉とのコントラストが映えるのでしょうね。ふ〜む。


 ところでなぜ、白樺峠が絶景なのか。その理由は、なんといってその1600メ ートルを超える標高差にある。眼前にいくつもの山の稜線が迫り、その上を越 えて飛んでくる、タカの雄姿がその目線の先にあって迫力が群を抜く、という ことらしい。それとタカが飛来してくる北東側の峰が大きく開けているからだ、 という解説もありました。例えば、渥美半島先の伊良湖崎は従来からのビュー ポイントのひとつに数えられ、潮風に吹かれての観察も格別なのだが、遥か上 空のタカの群れを浜辺から仰ぎ見ることになるため、ストレスが大きいという。 首が疲れてしまうのでしょうか。


 そんな山の頂上に軽装で、それも車ですーっと登れるのも整備されたスー パー林道の恩恵なのでしょうけれど、素人の僕みたいのが入山するというのは、 なんだか土足で神秘の嶺を踏み込むようで、いささか申し訳ないような気がし てきます。


 さて、大学が地元の自治体と組んで地域の活性化に貢献する、という取り組 みは産学連携のブームで、いまは全国各地で展開されています。松本市と信州 大学、松本大学の健康ツアーのタイアップ事業は、以前にこのメルマガで取り 上げた三重県・鳥羽市と三重大学医学部が組んだ、糖尿病や血糖値が気になる 方のための2泊3日の宿泊体験ツアー「島人がもてなすウエルネスの旅」がモデ ルになっていました。


 もう3年前の夏のことでした。場所は、鳥羽港からフェリーで1時間ほどの 伊勢湾口に浮かぶ神島(かみしま)で、そこは人口500人の漁村。三島由紀夫 著の小説「潮騒」の舞台となったところとして知られています。おもてなしは アワビ、タイ、伊勢エビ、タコなど海の幸が豊富で、このメニューでもきっち り三重大学の管理栄養士さんがカロリーをコントロールしていたので大丈夫で した。あれがダメ、これがダメと言っては、そこが原因で発生するストレスが それ以上に体に悪い、という説明は説得力がありました。医学部の先生は、薬 に頼るより生活習慣を改善することが先決問題で、まず禁煙、そして規則正し い食事に運動という結論でしたね。


 あの時、週刊誌「アエラ」から取材依頼があり、僕が書いたその記事が火付 けとなってテレビやFMラジオ、雑誌、新聞などでも取り上げられ、全国から参 加者が押し掛ける効果があったようです。


 いやいや…。あの時の記憶が徐々に甦ってきました。信州大学の松岡さんが、 この神島の成功例をヒントに、ウエルネス健康ツアーの"山村版"を松本市商工 観光部の遠山順次部長に持ち込んでいたのですね。


 そういえば当時、僕もそれに一枚加わって松本に行って、慣れない馬刺しと にらめっこしながらの気分のいい酒席で、「DNDメルマガでフォローするので、 ぜひ、やってください」って調子のいい事を松岡さんに約束していたかもしれ ない。そんなことを思い出してつい先日、恐る恐る電話でその辺の経緯を確か めると、案の定、松岡さんは「そんなことだったかもしれないですねぇ」と笑 っていました。


 海と山。離れ孤島の神島、そして深山の稜線がうねる白樺峠。それぞれ異次 元の世界なのだが、そこで共通していたのが、空の道のタカ渡りでした。


 神島漁港を見下ろしながら、ゆるやかにのびる一本道を進むと、丸太を器用 に組んだ防風林のある岬に突き当ります。断崖から強い海風が吹きつけていま した。その下の砂浜が、映画「潮騒」の撮影場所で、海女姿の吉永小百合さん がパネル写真の中にありました。で、その向かい側に「俳句の道」という石碑 が建っていて、いくつか入選の句が刻まれていました。そのひとつに、「神島 の空に道あり鷹渡る」という句がありました。地元、津市の宮田正和氏の作品 でした。


 余談ですが、神島からフェリーですぐの伊良湖崎は、その恋路ケ浜に「椰子 の実」の歌碑があります。作詞は島崎藤村でした。海には海の、空には空の道 があって、確かにそれぞれつながっているのですね。


 さて、信州・松本市奈川で開催するツアーは、健康と観光を盛り込んだ「健 光ツーリズム」で、この10月23日(木)から25日(土)の2泊3日の予定で開催 されます。ご案内は、以下のURLでご覧になれます。
http://www.city.matsumoto.nagano.jp/kanko/event/kenko/index.html


参加費用は22000円から28000円。松本駅アルプス口に集合し、帰りはそこで 解散となります。地元の旅館、民宿、ペンションなどが協力し、信州大学医学 部と松本大学人間健康学部が講師の派遣などでサポートしています。今年で3 年目、参加者は全国各地から20名ほど参加する、という。


僕も参加しようかなあ。太極拳やそば打ちもやってみたい。また、タカの渡 りは、その情景を想像するだけで、もう心臓の高鳴りを抑えることが難しくな ってくるほどです。ふ〜む、それならば、ぜひ、それを確かめる意味でも行っ て見てみるしかないのではないか。少々、お腹まわりも気になるし、都会の喧 騒を離れて、どっぷり丸ごと信州を満喫してみようかしら。これまで北アルプ ス周辺には一度も足を運んだことがないし、信州の人のおせっかいじゃいない 控え目な人情も気に入っているし…。


この夏は、上田市から西に開けた信州の鎌倉、塩田平に行きました。静寂な 名刹の往時をしのばせる三重塔の風格は、杉木立の中で国宝の名にふさわしい 佇まいを見せていました。そこから奥まったところにある、田沢温泉の湯は、 ジェル状のなめらかさで肌にやさしい名湯でした。炎天下、知人が帰り際に用 意してくれたのはおしぼりと冷えたスイカでした。じゃがいもと茄子とトマト とキュウリなど朝摘みの新鮮野菜を持たしてくれました。その地に住む人々の 愚直で素朴なやさしさにも心打たれました。


信州に縁が深い塩沢文朗さんの「原点回帰の旅」には、後立山連峰を望む白 馬の深空という名の集落や信越国境近くの斑尾高原の夏の蛍など、のびやかな 風景描写がたびたび登場します。どこを切り取っても絵になる癒しの里・信州 は、またこの時期は「山粧ふ」の趣なのでしょう。山の水でさらした冷たいそ ばもこれからがおいしいところですね。ふ〜む、指折り数える遠足前夜の子供 の心境で今からとても楽しみです。皆様もご一緒しませんか!


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◆人生の王道とは…。   さてさて、スウェーデン王立科学アカデミーからビッグニュースが飛び込ん できました。ノーベル物理学賞に南部陽一郎氏(87)、小林誠氏(64)、益川 敏英氏(68)の3氏に。昨晩からメディアは大騒ぎで、受賞者の関連の大学や 高校も大喜びでした。久々に明るい話題を提供してくださいましたね。


日本人のノーベル賞受賞は02年以来で13人、14人、15人目。物理学賞は、同 年の小柴昌俊氏に続き5人、6人、7人目。その理由は、南部氏が素粒子物理学 の理論作りへの貢献で、小林、益川両氏は、新たな基本粒子の存在を共同で提 唱した、というものでした。朝日新聞によると、宇宙やわれわれは、いったい 何からできているのか。人類はこの根源的な謎に、長年挑み続けてきた。3氏 は、あらゆる物質を形作る基本粒子の研究で先駆的な理論を提唱し、現代の素 粒子物理学の基礎を築いたーと評しました。


小林氏らの研究論文の発表は1973年、いまから35年も前のことで、小林氏は、 「突然、昔の仕事で賞をいただき奇妙な感覚です」と話していました。いやあ、 なんとも学術界のロングテール状態ですね。感心したのは、01年に化学賞を受 賞した理化学研究所の野依良治理事長のコメントで「日本の科学技術政策が時 として実益主義や経済効果が求められている中で、基礎の基礎科学が認められ たのがうれしい。これに続く若い研究者の大いなる励みになるし、これからの 基礎研究者を勇気づけることになる」と語っていました。


さて、物理学賞に続いて、今夕は化学賞の発表ですね。理化学研究所からも 候補に上る研究者がいらっしゃるようなので、期待感が高まっています。


本日はニュースが満載で、世界の王こと王貞治さんが50年にわたる野球人生 にピリオドを打ちました。68歳。悲しいニュースは、映画、舞台で活躍の俳優、 緒形拳さんが肝臓がんで逝去されました。71歳。それにしても、科学もスポー ツもそれに俳優も、その道、一筋に生き抜くことの大切さを身をもって教えて くれているようです。いずれも時代が揺れ動いた戦中生まれで、勤勉で実直、 そして志高く王道をいく、その姿勢に勇気をもらいましたね。


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◆連載は石黒憲彦さんの「志本主義のススメ」は119回。タイトルは「既視感 のある風景と時代思潮の変化」で、石黒さんからのこの種の原稿を実は心待ち にしていました。入校は、正午過ぎでしたので滑り込みセーフでした。一連の 米国の金融破綻に続く世界同時株安のパニックをどう読むかが、一番の関心事 なのですが、石黒さんは「Greedyな金融資本主義の破綻を契機として世界の政 策と思潮は大きく変化していくような予感がします。」と結んでいました。


◆連載は、塩沢文朗さんの「原点回帰の旅」の40回「春なのに…」。ちょいと 意味深なタイトルですが、米国の金融危機や迷走する政局、テレビの番組改編 などの世評を論じつつ、その本質的問題に言及しています。「皆忙しくなって、 一生懸命やって、・・・しかし、部分最適の積み重ねによって、結果的に全体 として現実社会の抱えている問題に必ずしもマッチしない、合成の誤謬に満ち た対応に、関係者のエネルギーが使われてしまっているのではないでしょう か」と指摘していました。霞が関も民間も、です。


◆大阪大学教授の森下竜一さんは、アンジェスMGの創業者で、その人気のブロ グ「世迷い独り言」を読むと、このところ特許ラッシュの快進撃を続けていま す。欧州においては、HGF遺伝子による糖尿病性虚血性疾患を対象とする医薬 用途特許が成立したという。欧州の糖尿病患者は4800万人で国際的にも比 率が高い。これで、日本、中国、豪州、そして欧州と続いて、急がれるのは米 国で、これも時間の問題たしくいよいよ5大陸制覇の瞬間が近づいてきている、 感じですね。その前は、NFkBデコイの物質特許が我が国で成立したことが 書かれていました。これでアトピー性皮膚炎の分野で開発中のNFkBデデコ イオリゴに関してはその適応症に関わりなく物質そのものを広く保護するもの で、今後の臨床開発を強力にサポートすることになる、と伝えていました。凄い、凄い。よく頑張っていますね。


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◆DNDからのお知らせです。本日から大学発ベンチャー関連のニュースを発信 するDNDiNNのコーナーが新設になり、試験的にスタートしました。ニュースは、 新社屋の竣工とロボットスーツのリース販売を開始する筑波大学発ベンチャー のサイバーダインの動向と、上記にも紹介したアンジェスMGのHGF遺伝子に よる欧州での医薬用途特許成立などをアップしました。これからもどんどん掲 載していきますので、ご期待ください。



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