◆ DND大学発ベンチャー支援情報 ◆ 2008/08/27 http://dndi.jp/

「大恐慌の足音が響く」

DNDメディア局の出口です。25日は、給料の支給日。普通の家庭では、お母 さんはいつになく上機嫌で、お父さんいつもありがとう、ってその夜の団らん はとくに楽しげに映るものです。いやあ、昨今そんな朝のドラマのようにはい かないのかもしれませんが、大なり小なり会社を営んでいると、その日の団ら んの光景は一変します。


支払うべき給料のねん出をめぐって、いらだって夫婦の口論が絶えず、その 行方を幼い子供らが不安そうにながめている、という悲しい構図も浮かんでく るからです。サラリーマン世帯には考えられないことでしょうが、経営者にと って給料日は苦渋の日なのです。良心的な経営者は、自らの給料を先延ばしし てでも社員への支払いを期日に間に合わせようと腐心するものです。起業して 数年の知人が、最近こんなことを打ち明けてくれました。


いやあ、驚いたのは先日、銀行から自宅に電話が入って、「個人情報の取り 扱いを巡って同意書が必要だ」と切り出し、「銀行ローンの支払いについて5 年に1回の見直しをするので、源泉徴収票を添付してください」と、それらの 書類を求めてきたのだ、という。


銀行の担当者の説明が要領を得ないので、要するに源泉徴収票を提出してく れということか、と聞くと「そうです」というので、じゃあ、冒頭の個人情報 保護法に基づく同意書が必要だからというのは、そちらが提出するものじゃな いのか、と詰めると、「そうでした」を詫び、続いて、「意味不明な言い方で、 個人情報保護法を盾に、まるでこれは法的義務がありそうな印象を与えて、源 泉徴収票を出させるというやり方は、問題じゃないのか?他でもこの調子でや っているのか」と質すと、「いやいや、すみません…」としどろもどろになっ て何度も謝り、そして数日後自宅まで詫びに来たそうだ。


が、なぜ銀行が、こんな動きにでているのか。その話を聞いて、ずっと引っ かかるものがありました。彼によると、住宅ローンを組んで25年、一度も遅滞 も繰り越しもない。経理を見ている彼の奥さんが、ひょっとして、給料の日に 夫の口座に給料を振り込まなかったことが理由なのだろうか、と疑問を抱いた という。給料日の数日後、間髪を入れず、銀行からその連絡が入ったというこ とからして、どうも発端は給料の振込の遅滞が理由だったらしい。


抜け目がない、というか、油断もスキもないというか、銀行は、ローンの支 払いのある顧客の口座に絶えず目を光らせていて、給料日に給料がちゃんと振 り込まれているか、どうかをチェックし、何か異常を知らせるアラームでも仕 掛けているのだろうか。その変化を見逃さず、急ぎ取り立てに走るという算段 は、流石というしか言葉が見当たりません。


知人のそんな話を聞くに及んで、少し悲しいけれど、いま、世の中がどんな 風に動いているのか、その不気味な予兆を強く感じ取ってしまいました。


銀行が、なにか裏でやり始めている、そんな風な疑いで周辺を見ると、あれ もこれも、いろいろと融資の厳格化という名の下に、貸し渋り、貸しはがしに 血眼になっている銀行の怪しい企みのニュースがひんぱんに目にとまります。


9月2日特大号の「週刊エコノミスト」。その特集は、「不動産深刻」と「米 国の試練」でした。ここ数年、不動産業界が謳歌してきたバブルは、昨夏のサ ブプライムショックで急暗転、資金流入は細り、銀行融資の厳格化も加わり、 振興不動産では資金繰りの悪化から破綻が相次ぐ―として、マンション不況、 地下の下落局面、それに苦境にあえぐ不動産市場をリポートしていました。専 門家の論文も力作でした。


そこに、株式上場の振興不動産会社9社の比較を掲載し、そのうちの4社が今 年に入って相次いで破綻、「レイコフ」が3月、「スルガコーポレーション」 が6月、「ゼファー」が7月、そして負債4000億円を超える「アーバンコーポレ イション」が8月に、とその詳細を記述しています。不動産を証券化して資金 調達を図り投資家も分配利益を得る、という証券化手法は潤沢な資金供給を背 景に成功するだが、競争激化とコストの上昇、そして金融機関の融資姿勢が厳 しくなって、急速に業績に陰りが見えてきた、とその暗転した事情を解説して いました。


それに加えて、本日の新聞は、戸建て住宅の「創建ホームズ」が民事再生法 の適用を申請した、という記事を伝えていました。負債総額は338億円。住宅 需要の落ち込みで業績が低迷し、今年7月に社員100人をリストラしたばかりで した。説明では、米国の信用力の低い個人向け住宅融資(サブプライムロー ン)問題を契機とした金融市場の混乱で金融機関が融資姿勢を厳しくしたこと から、今月の決済資金を調達するめどが立たなかった、という。


いやあ、いつもどこでも顔を出す「サブプライムローン問題を契機に」とい う決めゼリフ。しかし、それがすべての遠因になっているようです。これに対 して創建ホームズ側は、「今期に入り、新規借り入れや借り換えが困難になっ た」と釈明していました。ここのところをもっと詳細に聞きたいところです。 事業リストラの事業計画を提出し、社員も削減していざ、これから…という時 に、それまで再建を後押ししてきた金融機関が、突如の変節、融資の打ち切り …という裏のやり取りがあったのではないか、と推測します。そのわずかな談 話に経営者らの悔しさがにじんでいる。


不況の嵐、倒産の連鎖は収まる気配を知りません。この不動産業界を木っ端 微塵に蹴散らす冷徹なモンスター、その正体はどこにあるのか〜。


昨年6月の改正建築基準法による構造計算書の厳格化、その施策によって住 宅やマンションの建築にブレーキがかかって一気に業界が萎んでしまった。建 築確認申請に半年以上もかかって現場から悲鳴があがっていましたね。いまで もそうでしょうか。


そして融資の厳格化、それに輪をかけたのが土地取引に関連した暴力団の関 与を排除する金融庁の徹底した姿勢だ(週刊エコノミスト「東京商工リサーチ 情報部統括部長、友田信男氏」)という。金融庁検査で、資産査定などが行わ れ、検査機関が3ケ月を超えることも珍しくなく、この厳しい検査姿勢から金 融機関(銀行)は一段の厳格審査を読み取っていた、と友田さんは解説してい ました。なんだ、銀行の常識を逸した貸しはがし、貸し渋りは、金融庁がお墨 付きを与えていた、ということになるのでしょうか。


まあ、暴力団など反社会的勢力との決別を促すというのは、誰も異を唱える ことはないでしょう。それに乗じてか、銀行は苦しい時にその救いの手を差し のべてくれない。不動産業界に限らず、この破綻の連鎖は、他の業種にも飛び 火しているようです。中小企業、それにベンチャーがターゲットにされちゃ、 これは黙っちゃいられませんね。特に研究開発型で我が国のイノベーションを 担う大学発ベンチャーに対しては、何か緊急の「特別融資制度」を考えてくれ ればいいのですが、どうでしょうか。イノベーティブなベンチャーが育たなけ れば日本の将来はないわけですから。銀行の窓口で、ベンチャーって言った瞬 間に担当者は表情を変えるらしい。その優位性のある特許や技術を説明しても 残念ながら、彼らには分からない。この状況もいびつですね。


そして、いつの時代も弱いところにしわ寄せがくる。日経のやはり本日の記 事によると、中小企業庁が29日から大企業約100社を対象に特別立ち入り検査 を始める、という。これら大企業が、下請け企業に代金の支払い遅延や不当な 「買いたたき」などの問題行為をしているか、どうかを調べる。そこで適正な 下請け取引を促すのが狙い、という。


そこにどんな実態があるのか、「買いたたき」とはどんな事例をいうのか。 大企業と下請けの関係で、下請けの企業が大企業の行儀の悪いところを訴えら れるのだろうか。まあ、手口として、大企業は、下請けからの見積もりに対し て何10項目という質問を与えて、それに対してさらに執拗に論拠を求め、あの 手この手で経費を削ろうとする、その見積もりの積算根拠をめぐって1ケ月半 以上もやり込められると、仕事を断るか、ギブアップするしかない。


ある種の大手の営業は、ともかく鬼のように買いたたく。だから、売上が減 っているのに経常利益はあがる、というマジックが可能になる…。まあ、この 辺でおさめましょう。


さて、夏の熱波の最中、見出しを見て手にした日本版の7月30日号「Newswee k」。「大恐慌の足音が響く」でした。株価の暴落で経営不安が高まる政府系 住宅金融大手、連邦住宅抵当公社(ファニーメイ)と連邦住宅貸付抵当公社 (フレディマック)の危機、万が一のことがあれば米国の住宅市場の崩壊にと どまらず、世界の金融システムに激震が走る―1930年代そっくりの連鎖破綻危 機、そして、世界経済は金融パニックを逃れられるか―と問う。世界同時株安、 それにサブプライムローン問題ときて、さらに根が深いことをうかがわせるに 十分なレポートでした。


いま世界はどうなっているのだろうか、ドバイやロシアなどの超インフレと 石油資源による投資熱と不動産バブル、グルジアをめぐるロシアと欧米の対立 激化、アメリカの凋落、不安定なアジアの政治状況、わが国の景気減速、混迷 の政局…世界経済が停滞すると、決まってきな臭い国際紛争が火を噴くから警 戒しないといけない、といっても何をどう用心するのか〜。


そして、この疑問を番組にしたのが、昨日のNHK「クローズアップ現代」で、 そのテーマ「"グローバル・インフレ"の衝撃〜転換する世界経済 日本は〜」 でした。〜世界はいま経験したことのない"新しいインフレ"に見舞われている。 30年ぶりの世界的なインフレ、景気低迷・後退局面が同時進行し、スタグフ レーションの懸念が広がっているだけに対応が難しい。中でも、安価な原材料 を輸入し高価なハイテク製品を輸出してきた日本の危機はとりわけ深刻で、産 業構造の転換が急務となっている。資源高で海外への所得移転が続き企業の利 潤率は低下、労働者の賃金も下がり続けているからだ。私たちの暮らしを脅か し始めた巨額のグローバルマネー、その実態を追うと共に、世界的な経済構造 の変化に日本はどう対処すれば良いのか、考えていく〜。


ゲストに早稲田大学教授の榊原英資さん、三菱UFJ証券チーフエコノミス トの水野和夫さんでした。榊原さんは、いまの世界は100年に1回か2回の経済 危機にある、と断じたグリーンスパン前FRB議長の話を引用し、大恐慌以来 の危機である、指摘していました。榊原さんは、こういう危機ムードを煽るの は巧い。ドル安円高懸念の際は、6月ごろには1ドル90円を切る、と言い切った "前科"があるから、あんまり過信してはいけないが、どうも今度ばかりは、世 界恐慌のおかしな条件がそろい始めている、という指摘を否定する材料をもち あわせていない。


□黒川清先生の「学術の風」の最新の連載(ブログ)は、「企業トップの人 事、門外漢の素朴な疑問?」です。日経新聞のインタビューに基づいた記事の 構成で、企業経営者が短い年数で交替するのを憂いて、「日本の大企業には若 い経営者が少なすぎます」といい、「大学教授は、いったんなれば定年まで身 分安泰。これもおかしい。」と、いつも本音で勝負されています。


□連載は、経済産業省の石黒憲彦さんの「志本主義のススメ」116回「江戸の 経済官僚」。歴史上の人物が数多く登場し、経済施策のあれこれをテンポよく 記述しています。


財政危機に直面し質素倹約に努める一方、新田開発、田畑譲渡の実質解禁な どで歳入の基本である農業生産力の増大に努めた八代将軍吉宗、緊縮財政で失 敗した水野忠邦の寛政の改革の後、諸問屋再興を建議した南町奉行遠山左衛門 尉景元、なにごとも気をつけないといけない情報漏れ、ひそかにその管理を教 えているんですね。


十代将軍家治の時代、田沼意次が老中、水野忠友が若年寄という体制にあっ て抜擢された勘定奉行川井久敬の錬金術など、とても興味深い人物がそのエピ ソードと一緒に書かれています。そして、幕府が瓦解した本当に理由を、「そ れはグローバル化によって破裂した」といい切っていました。さて、その理由 は〜。その石黒さん、1泊3日のスケジュールでシンガポールに出張です。すさ まじい強行ですね。


□「原点回帰の旅」の塩沢文朗さんは第38回「記憶に残しておきたい話A−国 際機関をゼロからつくりあげたある英国人の話―」です。家族での夏の花火の 情景に触れ、そしてヨーロッパではなぜ、冬の花火しか見たことがないのだろ うか、と自問し、塩沢さんの文章を読みなれている人は、その辺で少しずつ主 題に迫っていることに気づくことでしょう。


そして、「今年の夏は、私の心に、花火のように、一瞬、光り輝く思い出を 残して亡くなっていった人たちの訃報が数多く届けられた夏でもありました。 その一人がIan Kenyon氏です」と紹介し、その人柄、仕事ぶり、イギリス人特 有のユーモアなど、情愛をこめて綴っています。これは塩沢さんのレクイエム なのかもしれません。


また思い出の地、信州の鎌倉、別所温泉の周辺の点描は、僕にとってもこの 夏、上田生まれの宮沢敏夫さんの案内で散策した場所でもありました。いつか、 その時の印象を僕も書こうと思っているところです。


どうぞ、心静かにお読みください。


□さて、明日夕刻は、数日前からスタートしている東京農工大学大学院技術経営研究科の夏季公開講座で、僕の出番です。講義の内容は「大学発ベンチャーが拓く日本のイノベーション」で、具体的なベンチャーの実像に迫ります。アンジェスMGの森下竜一さん、再生医療の名古屋大学教授の上田実さんらイノベーターの起業家精神を伝えられれば、と思っています。ざっと二コマ、3時間。まあ、久しぶりに学生らと議論するのも楽しいものです。



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