◆ DND大学発ベンチャー支援情報 ◆ 2008/08/18 http://dndi.jp/

DND速報! 大学発ベンチャー企業数1773社、IPO23社に。-18日発表-

 〜東京大学が123社で総合1位、岡山大学が8社で初の単年1位〜
 〜総数909社の地方圏が初めて都市圏を逆転、地域活性化に期待〜
 〜設立数が例年の半数割れ、バイオ系ベンチャーにやや陰り〜
 〜経営の行き詰まりで倒産や清算による消滅が121社と倍増〜

DNDメディア局の出口です。「大学の知」の研究成果等で起業する大学発ベ ンチャー数は累計で実質1773社を数え、そのうち株式上場を果たしたベンチ ャー数は、バイオ系を中心に前年度より4社増えて23社となったことが、経済 産業省が18日発表した「19年度大学発ベンチャーに関する基礎調査」で明らか になりました。


とくに全国の都道府県レベルでの設立数の動向を13年度の調査比でみると、 地方圏の伸び率が3.5倍の909社(13年度261社)に達し、都市圏(同336社、東 京都、千葉、神奈川、大阪府、京都府、兵庫の6都府県)の2.6倍864社を上回 り、地方圏での大学発ベンチャーの伸び率がきわめて顕著だったことが浮き彫 りになりました。


この結果について、経済産業省産業技術環境局大学連携推進課では、大学発 ベンチャーがわが国のイノベーション政策の一角を担うバイオやナノテクなど 先端的な分野での国際競争力強化の一助となる一方で、ひとつには大学発ベン チャーが高い教育を受けた研究者や有能な若手人材を地方に惹きつける要素が あり地方活性化の牽引力になる可能性を秘めている点や、また自治体や大学O B組織、それに各種インキュベーション機能などが相互に大学発ベンチャー支 援に乗り出して一定の成果をあげている点などを重視し、大学発ベンチャーの それぞれの多様な成長ステージに留意しながら、「今後は、大学や地域の環境 整備が重要」と新たな施策づくりに取り組む意向を表明しています。


ただ、大学発ベンチャー設立数の増減の推移はここにきてややトーンダウン、 19年度は94社増にとどまりました。この年度ごとの推移は、平成16年度の252 社増をピークに17年度231社、18年度181社とやや鈍化し、そして今回が前年の 約半数、これまでの年平均200社ベースの拡大傾向は、やや鎮静化した格好で す。なかでも都市圏での設立やバイオ系ベンチャーの動向に陰りが見え始めて いる、と指摘しています。その一方で素材・材料、環境や省エネ技術などのベ ンチャーは数こそ少ないものの確実に増えています。


これまた少々悲観的な数字ですが、経営の行き詰まりなどでやむなく倒産や 清算を余儀なくされた大学発ベンチャーは累計で121社を数えました。全体の 6・8%。前年18年度が67社、17年度が32社でしたので、「多産多死」が当たり 前のこの分野で、先行き不安なベンチャーが今後さらに増える傾向にあること を裏付けているともいえます。


また、他社との合併などで消滅した企業数は29社で、それも18年度が20社、 17年度で8社でした。大学発ベンチャーとはいえ、一般のベンチャーと同じく、 世の経済や市場の動向で淘汰されていくのはむしろ当然で、それらの原因に対 する処方を探るのも新たな課題かもしれません。


そもそも大学発ベンチャーの定義は、主に大学の研究成果に基づく特許や新 技術などで起業するコアベンチャーと、大学との共同研究や技術移転によるな ど大学と関係の深い共同研究ベンチャーとに分類し、前者のイノベーティブな 大学発のコアベンチャーが1095社と全体の61.8%と多く、また後者の678社 (38.2%)うち、学生ベンチャーが287社(16.8%)を占めていました。


また、大学発ベンチャーの調査は、かなり緻密な作業で、国立・私立947の 大学や高専、それにTLO、都道府県、インキュベーションや民間の支援機関な どの協力で設立状況を掌握し、そのデータを基本に各地方経済産業局が管内で 掌握した多様なルートを活用してさらに情報を収集、それらの集計で浮かび上 がった2433社を大学発ベンチャー候補とし、さらにwebや電話、メール等によ って1社ごとに確認調査を行い、事業の概要が大学発ベンチャーにふさわしい か、どうか―の最終チェックを経て総数を確定する、という。


このため、大学側から提出された大学発ベンチャー数の回答が、そのままカ ウントされないこともあり、また大学がそれまでに認識していない新たなベン チャーが"発掘"されるケースもあります。それに1社に複数の大学が関係して いるケースも少なくありません。この場合、あくまで1社は1社ですが、複数の 大学にカウントされるので複雑になります。調査した企業の総数は2389社、そ のうち、公的機関のベンチャーや、ウェブなどデザイン会社など大学発ベンチ ャーの定義にかなわない企業が437社、そしてそれでも最終確認が取れない企 業が48社あった、という。


さて、それでは恒例の各種ランキングの発表です。
 大学発ベンチャー数の大学別(累計)は、やはり東京大学が群を抜いていま した。以下の通りです。( )内は前年度。


1位東京大学123 社(1位101社)、2位大阪大学78社(2位70社)、3位早稲田 大学74社(3位66社)、4位京都大学66社(4位62社)、5位筑波大学65社(5位6 1社)、6位慶応義塾大学57社(6位53社)、7位東北大学56社(7位52社)、8位 九州大学53社(8位46社)、9位東京工業大学52社(10位40社)、10位北海道大 学43社(11位37社)−で、8位まで昨年と同じ顔ぶれで、今回北海道大学がベ スト10入りし、東京工業大学が順位を上げました。東大、阪大、早稲田の上位 3大学は不動です。4位の京大と5位の筑波、6位の慶応と7位の東北大、8位の九 州と9位の東工大などは接近し、その差は1社でした。昨年9位の九州工業大学 は43社で11位でした。


なぜ、東大が強いのが、その辺の事情は報告書の本文に、大学シーズの目利 きとなる東京大学TLOや東大エッジキャピタル(UTEC)の取組や連携の様子が、 ほんの少し紹介されています。キャンパス内の産学連携プラザでこの4月から 開設の大学発ベンチャーに関する研究会も内容の濃い講座を公開で開催してい ますね。まあ、熱心です。


さて、私立大学別では、早稲田が1位、慶応が2位、立命館が3位、新設のデ ジタルハリウッド大学院が9位の16社で初のベスト10入りの快挙。


 続けます。
 12位立命館大学36社、13位神戸大学34社、14位広島大学33社、15位龍谷大学 32社、16位名古屋大学31社。ここも僅差で順位が並んでいます。


17位日本大学26社、18位は東京農工大学、岡山大学、会津大学、徳島大学が それぞれ25社。なお、岡山大学は昨年29位18社からの躍進、東京農工大と徳島 大は前年より数が減少。さしずめ、会津は公立大で断トツの1位、2位は大阪府 立大の14社、3位は名古屋市立大の8社でした。


22位は岩手大学、東海大学の23社、24位高知工科大学の21社、25位は京都工 芸繊維大学、静岡大学、奈良先端科学技術大学院大学がそれぞれ20社―という 順位でした。


高専は1位が3社で沼津工業高専と仙台電波工業高専で、3位が2社で鹿児島工 業高専、松江工業高専、呉工業高専―でした。


大学別ランキングを19年度の単年ベースで設立数を見ると、1位は岡山大学 の8社で、2位が東京工業大学の7社。岡山大は、これまで3年連続1位の筑波を 抜いて初栄冠、総合の累積ベースでも18位と飛躍していました。また2位7社の 東京工業大学は大健闘で、累積ベースでもベスト10入りを果たしました。岡山 大、それに東京工大で何が起きているのでしょう。本日発表の調査報告書の本 文にその先進的な取組事例が記述されています。


続けます。そして3位が6社で、常連の早稲田大学と筑波大学、5位が4社の東 北大学、6位が3社で京都大学、デジタルハリウッド大学院、明治大学―の順で した。東北大、デジハリの躍進が光りました。また大学発ベンチャーの創出母 体となる大学数は6大学増えて243大学となりました。新たに日本女子大や奈良 女子大など女子大学に加え、福島県立医大、北海道医療大学、星薬科大学など の医学系、そして静岡文化芸術大学などから大学発ベンチャーが誕生しました。


さて、どこの地域からどのくらいのベンチャーが生まれたのか、次に注目の 都道府県別の数字は以下の通りです。


19年度単年ベースのベスト10は、1位東京都26社、2位岡山県8社、3位が神奈 川県と北海道の7社、5位茨城県6社、6位が宮城県、広島県、福岡県、の4社、9 位が京都府、千葉県の3社の順。昨年までここでも岡山県の健闘が目立ちます。


それを累積ベースで算出すると〜。ここでもなるべく多くの県名を出します ね。( )内は昨年度実績。


1位東京都428社(1位378社)、2位神奈川県131社(3位107社)、3位大阪府1 22社(2位111社)、4位京都府110社(4位96社)、5位福岡県107社(5位95社)、 6位北海道75社(7位66社)、7位愛知県74社(6位70社)、8位茨城県64社(8位 59社)、9位兵庫県53社(9位46社)、10位が宮城県(12位39社)と広島県(10 位41社)の46社でした。


以下は、12位滋賀県42社、13位静岡県36社、14位岡山県32社、15位福島県31 社、16位岩手県27社、17位埼玉県23社、18位千葉県20社、19位が山口県、徳島 県、高知県の19社、22位が長崎県18社、23位石川県17社、24位三重県15社、25 位岐阜県13社、26位が秋田県、群馬県、鳥取県、佐賀県の11社、30位が新潟県、 長野県、福井県、島根県、熊本県の10社―が主な順位でした。


やはり累積で多くの大学発ベンチャーを輩出している都道府県が上位に入っ ており、その顔ぶれに変動は少ないものの、注目は、大学発・企業発ベンチ ャー支援に懸命の神奈川県が、大阪府を抜いて2位に食い込みました。その神 奈川県で大きな成果を上げている大学発・企業発ベンチャー創出促進モデルプ ロジェクト事業の先進事例も詳しく紹介されています。


また、都道府県における業種別の構成比をみると、バイオ分野の比率が高い のが北海道、神奈川、愛知、兵庫で、IT比率が高いのが東京と福岡でそれぞ れソフトウエア分野は4割近い。大阪、京都は、素材・材料系が約2割あり、愛 知は機械・装置分野が3割を占め、埼玉、群馬、栃木では3割以上が環境関連で、 いずれも全国平均を上回っていました。大学発ベンチャーが地域の地場産業と うまく連動し、新たな産業クラスターのコアになりつつあることを示していま す。


その他の特徴は、IPO23社の分類は、バイオ系が16社、ITソフト系6社、その 他1社で、関東に12社、近畿に7社、北海道1社、中部2社、九州1社という内訳 でした。これら23社の業績などの平均は、売上高が約19億5千万円、従業員約6 0人と推定されています。ただ、この数年の新興市場の株価の下落、低迷の余 波を受けて、いま市況は嵐に向かう難破船の状態のようです。その背景には、 ライブドア事件に絡んでベンチャーへの信頼感が失われ、原油や資源の高騰や サブプライムローンによる世界経済の不安と同時株安、またせっかく上場して も業績が振るわない、などいくつもの複合的要因が重なっているようです。そ れにしても、この数年で時価総額が5分の1程度まで落ち込んでいる、という実 態は、かなり深刻ですね。


新しい動向としては、企業の形態で産学連携やベンチャー企業同士の共同事 業の促進を狙ったLLP(有限責任事業組合)、及びLLC(合同会社)の設立が目 立って増え、それぞれあわせて前年度から14社増の29社に。技術力を生かせる、 出資比率と異なる議決権を得られるなどのメリットを活用している、という。


おしまいに、1773社の経済効果について、直接効果として市場規模が1社当 たりの売上高を1億5,700万円とみて2、784億円、雇用者数は1社あたり12・8人 で22、694人、これを経済波及効果では、市場規模が5,100億円、雇用者数で3 万6千人と推計していました。


さらに、この報告書では、個別の大学発ベンチャーや大学へのアンケートで、 懸案の大学からベンチャーへの出資問題や大学ブランドの使用許可、それに起 業家教育などいくつか大学発ベンチャーをめぐる課題を提示しています。ここ も重要ですね。この辺は、次回あたりのメルマガで取り上げることにしましょ う。


なお、本調査の実施にあたって経済産業省内に研究会を設置し、3回開催し ました。研究会の委員は以下の通りです。


委員長・西澤昭夫氏(東北大学大学院教授)、委員・江戸川泰路氏(新日本 監査法人産学連携推進室マネージャー)、郷治友孝氏(東京大学エッジキャピ タル社長)、西村訓弘氏(三重大学大学院教授)、藤波光雄氏(バイオフロン ティアパートナーズ取締役)、牧兼充氏(慶応大学SIVアントレプレナー・ ラボラトリー事務局長)、渡部俊也氏(東大国際・産学共同研究センター長、 教授)で、事務局を(株)価値総合研究所が担当しました。


「平成19年度大学発ベンチャーに関する基礎調査」の報告書、並びに記者発表文などは以下の通りです。
http://www.meti.go.jp/press/20080818001/20080818001.html




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