◆ DND大学発ベンチャー支援情報 ◆ 2008/07/09 http://dndi.jp/

洞爺湖サミットG-8首脳宣言の検証

 〜議長国の役割を果たした福田首相の粘り腰〜

DNDメディア局の出口です。オフィスの作業机の上に、洞爺湖サミットの首 脳宣言を大々的に伝える9日の朝刊各紙をドカッと並べて、朝から色の違う蛍 光ペンを片手にざっと記事をチェックしてみました。


全国紙5紙、英字新聞3紙の計8紙、なんだか圧倒的で目眩がしてきそうです が、なんとか頑張ってやや注文の多い論評や批判的な記事には「赤」、好意的 で評価する記事には「青」、そしてこれはついでなのですが人の話し言葉には 「黄」という色分けをしてみました。さて、どうなりましたでしょうか。


「温室ガスの排出量を2050年まで半減させる。この目標を世界で共有する。 G8としてぎりぎりの合意にこぎつけた」(読売社説)、「脱温暖化へ、洞爺湖 サミットでG8が一歩踏み出した」(朝日社説)、「日露首脳会談、好機生かせ ず不満残す」(産経新聞)、「40年も先の、法的拘束力のない長期目標の再確 認を、前進と呼べるほど、温暖化をめぐる状況は甘くない」とクギをさしなが らも「中継ぎとしてのサミットのあいまいな役割を、議長を務める福田首相は 見事に演じきったのかもしれない」(日経社説)という具合でした。


う〜む、おおむね、首相の福田康夫さんは議長国としての役割を果たしたの ではないか、という論調が目立っていました。ばらばらになった新聞各紙は、 「赤」より「青」が圧倒していました。


いくつか目立った数少ない「黄」には、こんな談話に線を引きました。 そ れはG-8 offers halving of emissions by 2050の見出しが1面に躍る、「The Japan Times」のトップ記事中にあります。とっても分かりやすい英語で、中 学レベルでも理解できますので引用します。
"I am very happy about the result of the G-8 on climate change .The Eu ropean Union's benchmark for success at the summit has been achieved, "


これは、交渉筋の談話らしく、このハッピーなG-8温室ガス削減目標の結果 に満足しており、EU、欧州連合の中期目標の設定も合意できた、という談話で した。これに続けて、欧州委員長のバローズ氏は、こう声明を出していたので すね。Strong signalか〜。
 European Commisson President Jose Manuel Barroso said in a statement. "This is a strong signal to citizens around the world."


最後まで残った争点は、(首脳宣言に盛り込む文案で)日本政府が主張して いた長期目標を「共有する(share)」という言葉で、米政府は目標受け入れ が「望ましい(desirable)」と主張し、こう着状態にあったのを、福田首相 がブッシュ大統領に直接電話で説得し、欧州勢も加わって、メルケル独首相、 バローズ委員長らが強く合意を迫った、とその裏舞台を読売の3面スキャナー が伝え、メルケル首相も「ハッピーな結果」と述べていたこと、福田さんはそ こで各国首脳から「今回の合意は日本の努力に負う点が大きい」との称賛を浴 びた、となどが紹介されていました。


米国政府、この手強い相手を向こうに回し、そして各国の利害や思惑が交錯 する外交の現場は、水面下で最後の最後までぎりぎりの調整努力が行われたよ うです。どうやって、アメリカをこの枠組みに取り込むのかが、当初から最大 の難関でした。


その裏の舞台を、天晴れなほどの取材力と映像で浮き彫りにしたのが、サミ ット開幕の七夕の夜放映のNHKスペシャル「極秘交渉シェルパたちの180日を追 う」でした。シェルパとは一般的にヒマラヤ登山の案内人のことをいうのはよ く知られていますが、G8サミットの舞台で使われるシェルパは、首脳らを頂上 に導くという意味で、国益をかけて動く外交官や大統領補佐官らのことでした。 いやあ、ともかく米国の大統領補佐官のシェルパは、その威信をかけての丁々 発止で、時に、なんとも見苦しいほど自国のメンツと思惑を前面に出していま した。それが当たり前なのでしょうけれど、やっぱり一筋縄ではいかない。例 えば、こんな場面もありました。


米国は、昨年、中国やインドの新興国を入れて主要排出国会議(EME)を立 ち上げたかと思うと、「2050年の温室効果ガス削減半減」の合意を目論んで、 洞爺湖サミットの主要課題を開催前に先取りしようとする。この狙いはあえな く潰れるのだが、今度は洞爺湖サミット最終日に、それと同時にその「合意」 をMEMに盛り込もうと画策、しかしそれをも失敗する見通しになると今度は、E U側に回ってサミットでの「合意」に反対する動きにでる、という始末。なん という非礼、というよりこれが外交という名の戦いの現実なのかもしれません が、日本側のシェルパは、外務省の外務審議官、河野雅治さんでした。よく我 慢強く踏ん張っていました。


取材班は、この180日間に及ぶ4回の交渉に潜入し、温暖化対策という名の 下で繰り広げられる国益がぶつかり合う外交の現場に密着、取材班は、各国の 思惑が渦巻く中で、日本は"議長国"として指導力を発揮できるのか、サミット 当日の最新情報を盛り込みながら、日本外交の課題を浮き彫りにする、という のが番組の趣旨でした。いつもと違うのは同時進行で、その今を伝えなけれ ばならないということです。七夕以前に「温室効果ガス半減」の合意が整った ら、番組の興味はそれこそ半減してしまったことでしょう。まあ、NHK取材班 もさすが、でした。いつもながら、NHKスペシャルにエールをおくりたいもの です。


民放テレビのコメントで、最も感心したのは、元NHKワシントン支局長で外 交ジャーナリスト、作家の手嶋龍一さんでした。8日朝のテレビで、サミット の結果を支持率のアップにつなげるというのは、そもそも無理、そんな事は望 むべきではない、と外野席の冷やかしをたしなめつつ、「とりわけアメリカと いう大変な難物を抑えなければならない、それは簡単ではない」と指摘し、最 終合意の文面で、例えば記者会見で、(アメリカのこれまでの姿勢と)言葉が 少し変わったというところを「これが大変な前進になった」という風にアピー ルをする、というところでとどまってしまう、のではないか、と予測していま した。


それは福田さんの力量やリーダーシップの問題ではなく、各国の思惑や戦略、 それを封じてかつ説得し、調整し、合意という形で文書に盛り込むという「外 交の現場」というものはそれほどの困難が絶えずつきまとうものだ、というこ との裏返しと見てとれました。


まず、僕も福田さんに、Good Job!というところでしょう。開幕からここ数 日、徐々に自信に満ちた余裕の福田さん、総理になって一番晴れやかな表情を 浮かべていたのではないか。そばに楚々とした令夫人の物 腰が周辺の緊張を和らげる効果があったかもしれません。最終日の本日午後、 MEMでの合意で中国、インドの新興国を同じ土俵に乗せることができたのでし ょうか、またそれに続く議長総括で、どんな新しいメッセージを世界に向けら れるのでしょう。その歴史的映像はきっと洞爺湖サミットの宣言文とともに、 長く伝えられることになるに違いありません。


首脳宣言の要旨が、日経新聞に掲載されていました。【世界経済】では、グ ローバリゼーションは世界の経済成長の重要な推進力、とし、その恩恵をもた らすため様々な政治的、経済的、社会的な試練に取り組む、と短く納めていま した。【環境・気候変動】では、バリにおいて採択された決定を2009年までに 国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)プロセスで世界的な合意に達する基礎とし て歓迎。すべての主要経済国による約束または行動の強化−が不可欠と強調し ていました。わが国が進めているセクター別アプローチは、各国の排出削減目 標を達成するうえで、とりわけ有益と盛り込みました。原子力については、保 障措置(核不拡散)、安全、セキュリティーの3S に立脚した原子力エネル ギー基盤整備に関する国際イニシアティブが開始される、と強調しています。 国際エネルギー機関(IEA)の支援を受け、炭素回収・貯蓄(CCS)および、先 進的なエネルギー技術を含む、革新技術のためのロードマップを策定する国際 的イニシアティブを立ち上げる、という。途上国へのクリーン・エネルギーな どのアクセスという緊急課題にも言及し、排出量取引、税制上のインセンティ ブも明記しています。この他、【開発・アフリカ】、北朝鮮の拉致問題など懸 案問題への解決支持を表明するなどを盛り込んだ【政治問題】、【食糧に関す る声明】、【テロに関する声明】など多岐にわたる宣言内容となっていました。


そのいずれをみても、一歩前進の合意内容であり、またわが国優位の環境の 「革新的技術」の重要性を盛り込むなど、内外にその存在感を強く示したので はないか、と思います。また、朝日の天声人語のコラムで指摘していましたが、 米国発の金融不安は収まらず、投機マネーが流れ込む原油や穀物の相場は天 井を知らない。値上げのドミノ倒しが世界の暮らしを直撃し、各地で貧困層の 暴動が続く。温暖化やアフリカの荒廃など地球規模の病も待ったなしだ―など など、グローバル化の進展で新たなひずみや格差が生じ、そこから噴き出した 新たな火種や難題、そこを全部、さらけだす契機になったのではないか、と思 います。


いやあ、それにしても福田さんは十分にその議長国としてのリーダーシップ を示し、堂々たるものです。今年1月に行ったダボス会議でのスピーチと比べ て格段に舞台慣れした感じでした。これを受けて日本でサミットが開催される と衆院解散、総選挙が必ずある、という5度目のジンクスは、どうなるのでし ょう。それとこれは切り分けて考えるべきか、この成果をひっさげて勝負にで るか〜。


まあ、どっちにしても、これは他人事ではなく、私たちひとりひとりに課せ られた責務であり、身近なところから一歩、低炭素社会実現にふさわしい生活 に変えていかなくてはなりません。本日は、そのエコライフ宣言の記念日とし ましょう。


           ☆         ☆


□連載は、塩沢文朗さんの「原点回帰の旅」第35回目は、「スケールの違う 話」はまことに目から鱗、なんでそんなことで悩んでいるのか、という小さな 殻の中でもがく自分を突き放して客観的に見る、そんな気分にさせられるコラ ムです。原点回帰というテーマにふさわしい題材でした。いやあ、塩沢さんも ストラッグルされているようです。本文、その書き出しは〜よい文章を書くた めの、その工夫は、「良書に出会い、そこで得た新しい視点や感動を材料とす るということで、何よりも自分の世界観やものの見方に新鮮な知的刺激や感動 を得て初めて、文章に書けるような考えが自分の中に生まれてくる」と述懐さ れています。そして本題は、タイトルにあるようにスケールの違う世界に誘っ てくれるのです。


〜1秒〜10の4乗日というスケールを離れて、10の9乗日(300万年)あるいは 1.7 x 10の14乗日(46億年)といった時間スケールで見えてくる世界です。次 に、私たちの意識世界でなじみのある10の-3乗〜10の5〜7乗m(1mm〜1万km) から離れて10の-10乗mの原子・分子レベルの空間スケールから見えてくる世界 を考えてみましょう〜という。そこから何が見えてくるか、どうぞ、ご一読く ださい。


□コラムは、アンジェスMGで阪大教授の人気のブログ「世迷い独り言」からの 引用です。先週から、ぼちぼちコラムをサイトのトップの窓に転載し始めてお ります。今回は、「HGFの新たな適応に関するプレス・リリース」です。


〜もともとHGFには神経保護作用や修復促進作用があることは以前からわ かっていました。今回の成立した特許は、こうした作用を難聴に応用した研究 の特許化です。難聴に悩んでいる方は多く、その実用化が期待されます。以下 に、プレス・リリースの内容を載せますね〜と説明し、以下のようなリリース を紹介しています。「新たなHGF遺伝子治療特許が成立(米国)− 聴覚障害 の治療及び予防が対象」。ほんとよくやっていますね。


□コラムの特別寄稿として(財)吉田茂国際基金監事の北澤仁さんから「北朝 鮮、イラク問題についての一私見」をアップしています。メルマガのバックバ ンバーをご覧ください。


□本日夕刻から、普段お世話になっている東京大学特任教授で、NPO産学連携 推進機構理事長の妹尾堅一郎さんの、平成20年知財功労賞受賞を(経済産業大 臣表彰)を祝う会が日比谷の松本楼で開かれます。別件があって残念ながら出 席はかないませんが、心からお喜び申し上げたいと思います。ご案内から妹尾 さんのご功績を紹介します。


<妹尾堅一郎氏・受賞理由(功績)>
・知財人材育成のパイオニアとして、内閣官房知財戦略本部専門調査会委員、 特許庁知財人材育成調査研究委員長、知財人材育成推進協議会幹事等を通じて 知財立国における知財人材育成戦略に貢献。


・「互学互習」による実践的な方法論を知財界に導入するなど、多くの新しい 知財人材モデルやその育成モデルを創出。


・東大先端研「知財マネジメントスクール」や日本弁理士会「知財ビジネスア カデミー」等、数多くの教育プログラムをプロデュースするとともに自らも講 師として数多くの知財専門家の育成に貢献。


□明日は、日本ベンチャー学会7月のシンポで、エンジェル税制の改革と投資 家、ベンチャー企業、VCに与える影響―をテーマに午後14時から、東京・渋谷 の東京中小企業投資育成株式会社8階で開催されます。早稲田ビジネススクー ル教授の柳孝一さんの総合司会で、経済産業省の新規産業室長で今回話題のエ ンジェル税制の抜本的拡充を推し進めた吾郷進平さんが、エンジェル税制改正 の内容と申請の方法などについて講演します。使わなければ意味ないですもの ね。夕刻17時まで、パネルを交えて行われます。


□さて、本日の新聞は、8日発令の経済産業省の幹部人事の内示を掲載してい ました。詳しいのは、日刊工業新聞でした。北畑隆生事務次官の後任に望月晴 文資源エネルギー庁長官が就任、中小企業庁長官には長谷川榮一経済産業研究 所上席研究員を起用する、という。課長クラスも随分異動があったようですが、 まだ僕の所に全容は入っていません。いずれ新聞にでるでしょう。


お仕舞いに、ちょっと気になるニュースを〜。


□北海道の洞爺湖サミット取材から帰って、すぐ福岡へ飛びました。1泊した 翌日の土曜の地元、西日本新聞は1面で大きく、教員採用試験をめぐる大分県 教委の汚職事件を報じていました。ふ〜む、試験の採点から合否までまったく 誰にも知られることなく、教育庁のNO.2ひとりにゆだねられている、という危 うい現状にまず驚きました。そして便宜を依頼された受験者の試験の点数を水 増しする以上に、合格ラインを越えた受験者の点数を減点し不合格にする、と いう行為はあまりに卑劣だ。教員試験も金、教員の昇進も金で買う、貰うのも 受け取るのも教員、そんなみっともないことを学校の現場でやるんですねぇ。 裏金で教員になった子供らは、どんな顔をして教壇に立つのでしょう。こんな ところに不合格になって良かったと思った方がよろしい。さて、これが大分県 だけの特殊なケースならまだ救われるのですが、新聞社には第2、第3の汚職事 件の裏を取っているようです。この手の事件は必ず連鎖しますね。


おしょくじけん、ってテレビで言うから、家のものは、学校の先生がもらっ たレストランの「お食事券」と勘違いする始末、これって昔流行ったダジャレ ですが、ありえないことですものね。




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