◆ DND大学発ベンチャー支援情報 ◆ 2008/07/03 http://dndi.jp/

洞爺湖サミット直前、現地ルポ

  〜洞爺湖のNEDO実証モデルのアピール度〜

DNDメディア局の出口です。朝霧が晴れて、ゆるやかな稜線に目をやれば、 その西方向に瀟洒な外観が姿を現しました。あれが、世界の首脳が集まるザ・ ウィンザーホテル洞爺だ、う〜む、山頂で陽をうけてひときわ白く輝き放って いる。なんという誇らしげな威容なのでしょう。街中の物々しい喧騒をよそに、 ひっそり静寂な山頂で本番を待っている風情でした。



:夕闇迫る洞爺湖畔、左側の山頂付近にウィンザーホテル洞爺のシルエット


ヘリでその上空から望めば、丸いカルデラの湖の全景を間近に見下ろし、遠 くは弓なりの内浦湾が開けているでしょう。その近くまで行って吹き上げるさ わやかな風を感じてみたい、そんなひそやかな期待をいだきながら、その厳戒 態勢の街に足を運んできました。洞爺湖サミット開催まであと4日、その直前 の報告です。


人口1万人ちょっとの温泉とリゾートの街、洞爺湖町。故郷の夕張はすぐ近 くだ。小学校6年の修学旅行では噴火を繰り返す有珠山の一角にある、昭和新 山に登った記憶がある。それはそれとして、しかし、この街は偶然とはいえ、 とても運がいいように感じました。


その街の名前がサミットの冠になり、そしてメーンテーマの地球温暖化や食 糧危機、石油の高騰といった「世界規模の危機への処方」(3日付朝日新聞) を探る首脳たちの選択がまあどうであれ、議長国として福田首相がどういう調 整力を発揮するかの期待も強いが、いずれにしてもここ洞爺湖から、人類社会 の転換の新たな舵取りがスタートすることになるわけですから、後世、それは 長い間、洞爺湖の名前が歴史に刻まれることは間違いない。


北海道サミットじゃなくて洞爺湖サミット、洞爺の語源はアイヌ語で湖の岸 という意味らしいが、「湖」という響きが地球温暖化対策の課題にふさわしい じゃありませんか。思えば、その冠の決定は実にタッチの差だったようなので す。2006年3月に虻田郡虻田町から虻田郡洞爺湖町になったからよかったのだ が、あるいはこの街が、湖の向こう岸の洞爺村との合併協議がもう一年遅れて いたらサミット開催地決定に、洞爺湖の冠が間に合わないし、合併が見送られ ていて、虻田町サミットでは恰好がつきませんでしょう。まあ、虻田町だった としてもあえて洞爺湖サミットという風にしたかもしれませんが…。


もうひとつ、ラッキーというしかないのは、省エネのモデルとしていま最も 注目が集まっている洞爺湖温泉利用組合(川南明則代表理事、登録施設64)が 町役場(長崎良夫町長)と連携した取組みでした。それは、温泉排水の熱源を 再利用したヒートポンプの導入事例です。正式には、独立行政法人新エネル ギー・産業技術総合開発機構、通称・NEDOが支援した「地球温暖化防止対策実 証モデル評価事業」で、今年の3月に稼働を開始し多くの成果が上がっていま した。


洞爺湖サミットにぴたり照準をあわせたかのようなタイミングで、洞爺湖を 訪れるうち、外務省を通じて海外メディア13社から取材が入っており、国内の メディアもテレビクルーがひっきりなしに訪れています。その組合の事務所を、 今回洞爺湖サミット事前取材のお誘いうけた(とうより無理にお願いしたとい う方が正確ですが…)NEDOの企画調整部長、橋本正洋さんらと一緒に視察にい ってきました。


説明は、ここの組合の番頭、常務理事の四宮博さんでした。ここの主な仕事 は登録温泉宿などに供給するお湯の管理で、各施設には水道メーターのような ものが取り付けてあり、お湯を使った量に応じて料金を徴収する仕組みです。 そして、ここの最大のネックは、2000年の有珠山の噴火で源泉が被害を受けて 数が減ったのと、噴火の地殻変動で源泉周辺の蒸気熱が西側に移動したため、 噴火前には80度近くあった熱湯が、40度ぐらいまで下がってしまったことでし た。


さて、どう温度を上げるか、いわゆる加温のためにまず手をつけたのが全国 の多くの温泉地で見受けられる重油ボイラーの導入でした。四宮さんがこう解 説していました。


現在ある源泉は12本、そこから毎分3900リットルのお湯を20度前後あげるの に必要な重油の量が年間約90万リットル、昨年夏ごろまでの価格で試算しても 1リットル60円前後の重油代は年間約5400万円にもなっていた。これを各組合 員が応分に負担してきたわけです。


そこで重油代などコスト削減の窮余の策が、毎分2000リットルもの無駄に捨 てられていた温泉排水の二次利用でした。3年前から検討に入り、昨年度、NED Oに補助金を申請、新エネというより未利用の熱エネルギーを再利用し、そし て循環する従来の下水装置を活用できたところがアイディアで、その評価は全 国のモデルになると期待されています。


電気ヒートポンプの仕組みは、温泉排水などから熱を吸収し送り出すのです が、電気は熱エネルギーとしてではなく、単純に熱を移動させる動力源となる ため、消費電力の3倍近くの熱を利用できる、という。重油を使わないからク リーンでしょう、CO2は半減し、温泉排水は安定した熱源となるわけで、まさ に"一石三鳥"の効果がでているわけです。設置費用は、総額2億円。その半分 をNEDOが補助し、町も助成し、残りは組合が負担しました。それも2年から3年 で回収可能という見通しです。


このヒートポンプがにわかに注目されているのは、原油の異常な高騰ぶりか らでした。重油も現在は倍近い120円前後に跳ね上がっていますから、重油ポ ンプで加温を続けていたら、「年間1億円を軽く突破していました。いやはや、 ぞっとします」と川南理事長はいう。まさに天国と地獄、その取り組みのス ピーディーな決断に「NEDOさんに、強くはっぱをかけられましたが今思えばそ のお陰と感謝しております」と話していました。



:省エネ、コスト削減、環境重視、温泉排水の二次利用と多くのメリットを享受するヒートポンプのプラント室前で=向かって左が四宮さん、右がNEDOの橋本さん


そしてカウントダウンが近づく洞爺湖サミット開催、世界から4000人近い報 道陣が押し寄せることになります。洞爺湖ってどんな街ですか、地球温暖化へ の取り組みはどうなっていますか−という質問が町役場のサミット推進室など に舞い込んで、ひっきりなしに問い合わせが相次いでいるんです。


NEDOの橋本さんと事務所を訪ねると、在京のテレビが午前8時の取材アポに3 時間遅れてしまって待機状態、すでにそこには地元北海道のUHBのクルーが四 宮さんにカメラを向けていました。その場に居合わせた橋本さんもディレク ターの申し入れに快く取材に応じていました。海外からの取材も殺到している ようです。


ねえ、タイミングがいいでしょう。洞爺湖の目玉の施策となっているらしく、 取材のほか他の温泉を抱える市町村から視察の申し出が相次いでいるという。 表敬した長崎町長、3期目のベテランでいぶし銀の趣を感じさせていました。


地元の人の意見に耳を傾けて、あっちこっちの要望を丁寧に調整してきたの でしょう、無口ながらひとことひとことに重みがありました。2000年の有珠山 の噴火、約半年に及ぶ避難、客足も半減というどん底の状態から8年、いま世 界で最も注目される町長さんとしてスポットがあたっているんですね。


朝早く、湖畔の宿で目が覚めました。西の山頂は、あたり一面霧が立ち込め ていました。正面には、優美な羊蹄山が見えるらしい。が、その全容を見せる ことはありませんでした。周辺は、福岡県警の文字が入った輸送車両やパト カーが10数台並ぶ専用の駐車場で、若い警察官が整列し、訓示をうけていまし た。街周辺は、厳戒態勢のただ中にありました。周囲43キロの洞爺湖のいたる ところに警備車両や警察官の姿が目につきます。ボートを営む、女性の経営者 は、こういう状態だから観光客はきません、しかし、洞爺湖サミットで世界に 知られればこれから客足が伸びることでしょうから、そこに期待します、と理 解を示していました。



:威容を誇るウィンザーホテル洞爺、国道230号線は厳戒態勢


ホテルにはやはり観光客より警察官の姿が目立ちます。中には39連泊を強い られる猛者もいる、というから大変です。どこのホテルのどこの部屋に警察官 がいるのか、それはすぐ分かりました。湖畔に面したホテルの客室のベランダ というベランダには、シャツや靴下などの洗濯物が風に揺れています。そのう ち気がつくでしょう。


 7月1日、親しくなった四宮さんに無理を言って、街から車で20分というその 山頂のホテルに連れていってもらう予定にしていました。町のサミット推進室 を経由すれば、たぶん付近までは大丈夫だろう、と。が、そんなに世の中甘く はない。国道230号線の交差点、ザ・ウィンザーホテル洞爺の入り口付近は、 物々しい警備でした。ウィンザーホテルまで、ここから7キロと書かれた看板 の、その向こうに白亜の建築物が目に入る。ふ〜む、位置を変えて、アングル を選んでカメラをむけていると、警察官が飛んできた。続いて、あとから二人 が走ってこちらを目指してくる。もう、フリーズですね。そこから一歩も先に 近づくことはできません。それはそうでしょう。


その前日の30日は、もうひとつの洞爺湖サミットの取材陣の拠点、国際メデ ィアセンターが建つ留寿都村のホテル、ルスツ・リゾートで開かれた、日本の 省エネ、新エネ、それに環境技術の先端製品を集結して作った近未来型のエコ 住宅「ゼロエミッションハウス」の完成披露の開所式に参加していました。風 と太陽、それに水を使った凄い43もの技術を集積していました。どれもこれも、 ガラスも床も、照明も屋根も、PCも電池もデザイン性に優れたものでした。


ここでも、NEDOや産業技術総合研究所、新エネ財団、それら経済産業省所管 の関連機関が表に裏にこの企画や運営を担っているんですね。国策として、世 界のメディアに世界最高水準の先端技術の一端を披露する、という狙いはただ しい。環境技術で世界に貢献する、というミッションは、福田首相をはじめ、 多くの識者の指摘するところです。


一般家庭で十分な太陽光発電は、屋根材と一体化した瓦型の発電システムで、 NEDOが推進し、シャープが産総研とその発電効率について共同開発しています。 入口付近の小型の風力発電は、ゼファー社の提供で、カーボン繊維で軽量化を 図り風速50メートルまで連続運転可能、世界24か所に普及しているという。棟 続きの一角に設置された露天風の足湯、材料はヒバとヒノキだが、ここに最も 注目が集まっていました。温度は37度、そこに家庭用燃料電池が採用されてい ました。いよいよ、来年度から一般家庭用に市販されるのですね。



:家庭用燃料電池で沸かす足湯


05年から家庭での実証実験を進めてきました。これまで2187戸へ設置済みで、 今年度も1112戸に設置する予定で、これから本格的な普及に向けて動き出すこ とになる、という。問題は価格?家庭の温室ガス削減の極めて有効な機器とし て位置づけられていますから、国の助成も期待できそうですね。NEDOのロード マップでは、2015年から20年には年間50万台の導入を進める計画という。


 さて、開所式には、経済産業副大臣の新藤義孝さんが挨拶を述べ、衆議院の 吉川貴盛さん、東京ガス社長の島原光憲さん、燃料電池実用化推進協議会会長 で東芝会長の西室泰三さん、NEDOの副理事長、山本隆彦さん、産総研の副理事 長、小野晃さん、新エネ財団会長の秋山收さん、グリーンIT推進協議会の事務 局次長の長谷川英一さん、そして、新藤副大臣から讃辞を送られたのが積水ハ ウスで、会長の和田勇さんらが、晴れやかにテープカットに臨んでしました。 足湯にも気分よく浸かっていました。足湯サミットという感じでしたね。



:ゼロエミッションハウス開所式の風景


NEDOの橋本さん、そして経済産業省から技術振興課長の奈須野太さんらが参 加していました。報道人も大勢つめかけていました。報道受付には、北海道経 済産業局の資源エネルギー課の課長補佐、田中雅智さんがこまめに対応してい ました。名刺をわたすと、メルマガ読んでいます、ずっと以前からの読者です、 とうれしいことを言ってくれる。


見上げれば、巨大なメディアセンターを縁取る青い空、ぽっかり白い雲、そ して、このなんともさわやかな高原の風、やはり自然環境を大切にしなくては いけない、としみじみ感じました。


次の視察先は、隣の鉄鋼の街、室蘭でした。NEDOの橋本さんと同行です。創 業101年目に入った、日本製鋼所室蘭製作所でした。そこで製造する風力発電 装置を見るのだ、という。


風車のタワーの受注から始まって、ブレードの生産、そして昨年からは発電 機も生産し、いまや風車装置一式を賄うまでに成長したという。売上は100億 円を超え、平成12年からわずか8年余りの展開だったという。応対してくれた のは、理事で副所長の早川保さん、風力製品部の風力グループのマネージャー、 吉田兵吾さん、同じく企画管理グループの武田隆さんでした。10000平方メー トルもの敷地に現在、5つの工場の生産ラインの増設に急ピッチの工事が進め られていました。約500億円の投資だという。いま鉄が熱いのですね。


敷地内の高台の一角に、大正天皇が皇太子在位の時にここを訪れるのを記念 して建築された古風な平屋の建物が残っていました。瑞泉閣です。訪れた海軍 や陸軍将校ら4000人の揮ごうがあるという。その一部を展示していました。秋 山好古、鈴木貫太郎、岡田資…。そして伊藤博文、後藤新平、斎藤實らの書、 数えきれないほどの逸話が秘められていることでしょう。そして、瑞泉、と名 のつく鍛刀所があり、記念館として日本刀を陳列し、その伝統を引き継ぐ刀匠 がいまでも刀作りに励んでいました。明治の名工、堀井胤吉から数えて5代目 の、胤匡(たねただ)さんでした。



:由緒ある瑞泉閣に残る、将校らの揮ごう=日本製鋼所で


う〜む。奥が深いですね。もっと話を聞いていたい。が、帰りの時間が刻々 と迫ってきます。敷地に接した無人の駅、その名も「母恋」に急ぐと特急が入 ってきていました。橋本さんらは、その後、乗り換えて空港へ。僕はそのまま 札幌へ。いやあ、疲労こんぱい、北海道といっても結構日差しが強い。日焼け ましたね。さて、中学の同級生がその夜、待っていてくれている。そして、こ れら一連のスケジュールを、洞爺湖サミット直前ルポとしてどう綴るのか、頭 の中は、待ったなしのメルマガのことでいっぱいで、気が重い。


開幕は7月7日、あと4と迫ってきました。なんとか無事に、そしてよりよい 成果をと念じてやみません。事務レベルの合意文書づくりの過程が、ぽちぽち と新聞やテレビで漏れ伝わってきます。悲観的な観測記事が目立ちますが、う まくいかなくて当然なのですから、ひとつでも前進すればいいのではないか、 とさえ思えてきます。次回は、どんな報告ができるでしょうか。


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