◆ DND大学発ベンチャー支援情報 ◆ 2008/03/12 http://dndi.jp/

躍動の春、みんな1等賞

  〜日刊工業主催の第4回CVG全国大会飛び入り観戦〜

DNDメディア局の出口です。春の訪れ、それをどの何で感じるか、それは人 さまざまですが、遠くの山を眺めていて春を感じるという人は、この季節なん とものびやかでうらやましい。懐深い山村、そこに棲む人々にはそんな四季 折々の得難い恵みがあるのですね。清冽な雪解水の流れる音が聴こえてきそうで す。


「原点回帰の旅」の連載をDNDで執筆する塩沢文朗さんが、その原稿送付の メールに、日帰りで出かけた故郷のまだ浅い春の気配を添えてくれました。


〜信州は、梅の花もなく風も冷たい、まだ冬の装いでしたが、日差しが白く 明るく、遠くの雪山の白さがかえって春を告げているような気がしました〜と 風情を伝えていました。四方の山々に目を転じれば、甲府盆地からは、普段な かなか目にすることのできない、南アルプスの白根三山が際立って見え、甲斐 駒ケ岳、八ヶ岳、そして遠くには北アルプスを望む。 


山笑う、という季語がふさわしい。たしかに冬の山は眠っているように感じ られます。ちょうど赤ん坊が眠りから目を醒まし、ごく自然ににっこり笑う。 春になると山も眠りから醒めて、わたしたちにほほえんでくれるのですね−と いう優しい語り口ながら、情景が目に浮かぶ自然描写は、宗教評論家のひろち さやさんです。


車窓からぼんやり遠くの山を眺めていて、なんだか山が笑っているように感 じられ、それで春の訪れに気づくことがある、と、新幹線の車内誌の「車窓歳 時記」に以前書かれていました。なぜ憶えているのかといえば、その文章で雪 深い山合いの故郷が妙に懐かしく思い出されてしまったのと、3月下旬に命日 を迎える、女流俳人、鈴木真砂女の句を紹介していたからでした。



山笑ふ歳月人を隔てけり 



 一方、下界のDNDの秘密基地周辺は、気温があがってすっかり春めいてきま した。神田川と隅田川の合流点、江戸情緒の屋形船がひしめく浅草橋―柳橋界 隈は、名物の江戸前の穴子山椒煮の匂いが風に流れて、そろそろ春の行楽シー ズンを待ちかねている様子です。おだやかな水面で、白いゆりかもめが数十羽 優雅に羽を休めています。照り返る光は、これまでとはずいぶん違って見えま す。


さて、躍動の春は、若者たちの出番です。先週3月6日は、東京・丸の内の パレスホテルに出向いて、ベンチャー育成とその報道に熱心な日刊工業新聞社 主催の、全国の大学、大学院、高専の学生を対象とした「キャンパスベンチ ャーグランプリ」(CVG)全国大会の模様をのぞいてきました。応募総数90 2件というから凄い。これまで各エリアで順次、地区予選を開いてきたのです ね。


いわば、学生ベンチャーを志向するプレゼンの"熱弁甲子園"という趣です。 今年で4回目、この日集ったのは北海道〜九州など全国9つのブロックを勝ち 上がった「テクノロジー部門」と「ビジネス部門」の二つの部門から合計13の 学生や学生のチームがそれぞれ磨きをかけたビジネスプランを披瀝し、QAタ イムではベテランの審査員らの鋭い突っ込みにもめげず、逆にいいまかす猛者 もいるほどでした。


結果は、日刊工業新聞の7日と昨日11日付の新聞に掲載されました。それに よると、文部科学大臣賞・テクノロジー部門の大賞にはマイクロ医療機器の応 用が期待される「マイクロTRモーターの開発と事業化」を提案した東京農工 大学工学府博士課程の真下智昭さんが選ばれました。真下さんは米カーネギー メロン大に留学してマイクロモーターの研究を続ける、という。


評価は、構造がシンプルで、小型・低コストの回転直動モーターというモノ づくり日本にふさわしい側面と、これからの先端医療分野で大いにその成果が 期待される、ということでしょうか。この賞は、真下さんにとって渡米にむけ た励ましになったことは間違いない。


また、経済産業大臣賞・ビジネス部門の大賞には、体の不自由なお年寄りや 要介護者が家族や友人と一緒に旅行などを楽しめるように、との思いを込めて 考え出した「ヘルパー付き要介護者への旅行サポート」を提案した同志社大学 の佐野恵一さんが射止めました。


まあ、なんとも独特の関西弁で、審査員の心に染み入るような語り口でした ね。要介護のお祖母ちゃんと出かけた家族旅行、その行った先々でとんでもな い苦労に会う、という自らの体験がプランのベースになっていたようです。卒 業後は、この趣旨の旅行会社を設立して高齢化にむけたある種の社会貢献を果 たしていきたい、本当のバリアフリーとは人の心、人の手によるものではない でしょうか、と訴えていました。


審査委員長が、元通産官僚でベンチャー支援に情熱を傾ける(株)一柳アソ シエイツ代表の一柳良雄さん、その話術が巧みで深みがありました。聞いてい ても面白い。プレゼンを終えて質問を待つ緊張気味の学生らの心を掴んで、刺 激的なトークを楽しんでいるようでした。グランプリの佐野さんとの激しいや りとりは見ごたえがありました。


それはソーシャルアントレプレナーというか、社会起業家やNPOの方がふ さわしいのでは、あるいは、大手が参入したらせっかくの新規市場を荒らされ るのでは、と指摘する一柳さん。


佐野さんは、それでええん(いい)とちゃう、事業の拡大は規模の拡大ばか りではないと思う、他社の参入は大歓迎です、それでみんなが便利になって幸 せになれればいい。僕は、なにより価値の拡大が大切と考えていますから−といい切るんですね。この一言で審査会場が一気にヒートアップしていました。


ふ〜ん、なかなか大した度胸だなあ、しかし、こんな風な正論はどのように 評価されるのだろうかーと半ば心配し、期待もしながら13人(チーム)のプレ ゼンやQAを全部聞き終わって、後は懇親会場での審査発表、表彰式なのでそ こで退席しました。


さて、どんな結果に…翌日7日の日刊工業新聞に佐野さんの名前を見つけて 安心しました。審査員の一人で、ベンチャー支援に各種施策を練る、経済産業 省新規産業室長の吾郷進平さんは、終始にこやかに健気な学生らのプレゼンに 聞き入っていました。休憩時間に後ろを振り返って、大きい顔を見つけて、 「いやあ、驚きましたね。素晴らしい。みんなスピーチが旨いですね」としき りに感心していました。


特別賞・TDK賞に選ばれた詫間電波工業高等専門学校の矢野絢子さんら3 人による「きら☆きら あかちゃん−感動をいつまでも」の提案は、生まれた ばかりの赤ちゃんが退院までの5日間に刻々とその表情を変えていくのに、そ の大事な時期の映像や写真がない、という"産婦人科の死角"を突いた視点から の事業モデルでした。赤ちゃんの映像を遠隔でもリアルに見ることが可能で、 退院までの様子をDVDに収めるサービスを展開する、というものでした。


そのカメラなどの機材を産婦人科に買い取ってもらって納入のパッケージま で一括して病院に委託する、という仕組みや、ベッド1台に1台のカメラ機材の 購入を強いるという手法などにやや首をかしげていた様子の吾郷さんは、「そ れを購入じゃなくてレンタル方式の方が、産婦人科にとって導入しやすいので は…」とアドバイスをしていました。矢野さんも、「あっ!レンタル、思いつ きませんでした。そっちも検討してみます」と素直な対応を見せていました。 なんともほほえましいやりとりです。


審査の一人に名を連ねていたTDKのテクノロジーグループ技術企画部長の 高橋毅さんは、病院にまかせて手間とヒマをかけないという発想の落とし穴は、 「万が一機械が動かなくなった、という事態にどう対処するのか、今度はそれ に膨大なエネルギーがかかるものです」と専門の立場からの指摘は、ごもっと もでした。ビジネスプランの審査員とのQAは、あたかも専門家による起業家 教育の様相で、当事者以外でも聞いていて参考になりました。


詫間電波といえば、近年、全国高専ロボットコンテストでは上位入賞の常連 校でその名前は全国に知られています。香川県三豊市、地元では、電波高、あ るいは電波と呼ばれているようです。ね、そこから遠く、普通の女の子が全国 大会に臨むのですから、この大会の起業家教育的要素の意義ははかりしれなく 大きい。


それにしても志高く、社会への貢献を意識したそれぞれに優れた着眼やアイ デア、その意気込みは共通していました。が、これはひねくれ者の戯言と聞き 流して欲しいのですが、やや不自然な気がしてならないのは、ビジネスプラン といえば、みんな一様に理念や志を口にする。そういう傾向はいつからどうい う背景で根付いたのでしょうか〜。なんだかみんな優等生に見えてしょうがな い。金儲けしたいから、好きだから、面白いからーという個人的な動機や思い つきがあっても、いいのじゃないかなあ。


しかしねぇ、みんな偉い、一等賞でした。特別賞のゼネラルエンジニアリン グ賞に選ばれた早稲田大学の安藤健さん、豊田和孝さんらの「高齢者用歩行訓 練機の開発、販売」も熱弁でした。金沢工業大学の四尾健太郎さんら3人が提 案した「排泄支援車イス 設計・製作」は役に立ちそうです。審査委員会特別 賞は、共働き家族の園児が親を待つ寂しさを解消するためのテキストメールを 絵文字に変換する絵文字翻訳メールサービスというアイディアで、松江工業高 等専門学校の白根恵さんら5人による「絵文字をポン☆親子間メールソフト いっしょにかえろう」は出色でした。


これらいずれもグランプリは逃したものの、それぞれそのビジネスの先に見 える姿は、親孝行でとっても大人にやさしい。吾郷さんからささやかれた通り、 来年はDNDから何か特別賞でも出しましょう、か。そんな気分にさせられま した。


さて、会場の入口付近の最後列に陣取った私の、隣と前に長崎大学の学生4 人。離れて暮らすお年寄りの見守りサービス、"孫心"(まごころ)。中国名で "孫来"と名付けているのは、中国からの留学生、張天目さんがいるからで、 リーダー格は経済学部3年の紅一点、山本美智子さんは、一生懸命でした。目 に力がありました。独居老人宅に私たち若者がおしゃべりや手足になって、孫 の役割を果たしてみるのはどうか−。目鼻立ちの整った山本さん、マイクを手 に堂々のプレゼンでした。許されるなら、このチームにDND特別賞を贈りた いものです。


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