◆ DND大学発ベンチャー支援情報 ◆ 2008/03/05 http://dndi.jp/

一億@総早筆人

〜黒川さん、石倉さん、そして森下さんらDND周辺のブロガー〜

DNDメディア局の出口です。鬼のかく乱でした。38度越えの数日の高熱と腰痛 の再発。処方は、水枕に冷たいタオル。食欲がなく、それで熟睡しました。なん と連続12時間。そして各種ドリンクで水分とビタミンを補給しながら数日ベッド に臥していると、汗が噴き出て熱が下がり始めたのです。怪我の功名というので しょう、メタボ気味の体重が3キロ減って、顔の輪郭が戻り少し髪の毛が濃くな って…やや若返った感じなのです。


春なのに、それで誕生月というのに、それも55という節目というのに、と嘆い ていたのですが、案外、これも捉え方ひとつなのですね。安静の日々は、周辺や 自分を見つめ直す、または健康回復の契機となったようです。枕元にPCと携帯を 持ち込んでチャカチャカやれば、不謹慎ながら寝ていても悟られることがなく、 そこそこ仕事はこなせる、ということも分かりました。


そして一番の収穫は、今更ながらウェブの進化に感慨を深くした事です。個 人の立場でウェブを自在に駆使する、ウェブ・デモクラシーともいえる今日のメ ディア環境の充実ぶりとその圧倒的な情報力に驚かされます。DNDのサイト周辺 をあれこれ、読んでいくうちになぜか、元気が出てくる。ブログやコラムに散り ばめられた言葉のエネルギーにすっかり魅了されてしまったのです。う〜む、DN Dもいわば、個人をエンパワーする道具というふうに捉える事が実感できたので す。 ます。


DNDサイトのトップページをご覧ください。右サイド縦に識者のコラムやブロ グが並んでおります。内閣特別顧問の黒川清さんの「学術の風」から九州経済産 業局の調査課長・松田一也さんの「産学連携道場」までざっと数えて11人、これ らがDNDのコア情報です。透徹した目で、激流の世界を俯瞰し自らの経験知を惜 しみなく披歴するアカデミアや経済産業省の皆様の姿勢には、本当に頭が下がり ます。


参考:“イノベーション”、“イノベーション精神” とは何だろう
http://www.kiyoshikurokawa.com/jp/2006/11/post_955e.html


いくつかご紹介しましょう。


その看板スターともいえる、黒川さんはその2月25日付のブログ「グローバルヘルス−1」であらためて知らされたのですが、なんと世界の貧困と対峙されていらっしゃるんですね。


「グローバルな世界では、超大金持ちが出る一方で、貧しい人たちは、極めて 貧しくなります。今、世界の66億人の約20%が超貧困"extreme poverty"で、こ れらの環境にある人たちは、出産時の母親の死亡率も高く、乳幼児死亡率、そし て5歳までの死亡も高いのです」と前置きして、「2C」=「Climate Change」と 「3F」=「Fuel, Food, and Feed」は、貧困に窮する人たちへの影響が極めて 大きく、これらがグローバルな人間社会に大変化をもたらしつつあります−と問 題提起されています。そして、2月15日開催の「Global Health: Under-Nutriti on」に参加し、その様子を以下のように伝えていました。


〜世界銀行、Gates財団、厚生労働省、財務省、外務省等の後援をお願いして 会議を開催しました。Gates財団のGlobal Health InitiativeのPresident、Dr. Tachi Yamadaと私(黒川氏)が、それぞれclosing remarkとwelcome remark を 行いました。昼食時にはGhanaの厚生大臣の素晴らしい講演がありました〜。


続けて、〜医学界の超一流雑誌であるLancetが、今年1月から世界のNutritio nの特集を始めました。きるだけ多くのEvidenceに基づいたデータから、問題を 見つけ、何を、どうしたらいいのか、ある種のデータ作りでもありますが、どの ような行動を起こせるかが課題ですね〜と指摘していました。


その翌日2月16日午前は、黒川さんらのNPO Heath Policy Institute(HPI)が 例年行っている「医療政策サミット」を開催しているんですね。その様子も2月2 7日のブログ「グローバルヘルス−2」で紹介しています。午後は、これまで3年 間のHPIの活動の経過を踏まえ、「Global Health Summit: Advancing our promi ses for TICAD/G8 and Beyond」というテーマで開催した国際会議に小泉純一郎 元総理が駆けつけて、「食事と環境」というテーマで基調講演をしたそうです。


黒川さんは小泉さんを評して、「さすがにお話が上手くて、皆さんを惹きつけ ていました。原稿なしで、時間はきっちり30分。脚気から、食生活の変化、長寿 社会となった日本、そして『変人』は"eccentric, crazy"ではなくて"extraordi nary"という話、三浦安針・William Adamsと壊血病の知識、2日前に宮古島へ行 って見たサトウキビから作るバイオエタノールと石油業界からの抵抗の話等々。 参加者の半分は海外の方でしたが、素晴らしいオープニングでした」という。


ここに登場する、三浦安針こと、ウイリアム・アダムスは1600年(慶長5年) に九州豊後に来航したオランダ船、リーフデ号の航海士のことで、のちに徳川家 康の側近として召され、幕府の外交顧問に就くーとありました。小泉さんらしい 話題の作り方ですね。


さらにブログを続けて読むと、今度は、なんとグローバルヘルスの3日間の会 議を17日に終え、翌日18日朝からニューデリーに飛んで、夕方17時半、定刻通り にニューデリー空港に到着、そのまま郊外にあるNaiadの街に直行し、ホンダ財 団によるYES(Young Engineers and Scientists)の表彰式に出席しているので すね。黒川さんによれば、これは今では知る人ぞ知るIndian Institute of Tech nology(IIT)の優秀な学生5人を表彰するもので、すばらしい企画です。さすが ホンダ、つまりは本田宗一郎の精神、という。


そこには、ホンダ社会貢献とその実情、スズキ自動車の評判、またインド最新 経済事情の断面を浮き彫りにしていました。常に凄いことに取り組んでいらっし ゃる。


世界を駆ける黒川先生のスピードは衰えるどころかますます加速しているよう です。ベッドの上で熱を出して寝ている場合じゃない。これを読んで慌てて近所 の病院へ行ってトンプクと抗生物質をもらって飲みました。


ふ〜む。元気をもらいましたし、その行動力と世界に広がる一流のネットワー クの奥深さに感服です。ブログは日々更新されています。今朝は早くから、温室 ガス削減の国際的枠組み(ポスト京都議定書)の政府提案に関する会議かなにか にご出席で、午後からシンポジウムに参加される、という超ハードなスケジュー ルを、ずっと長い間続けられているんです。それでいてメールは英語で即レス、 深夜、早朝でもフル回転されているようです。これらはどう割り引いて考えても 神ワザに違いありません。あるいはスーパーマンに違いない、と踏んでいるので すが…。と、ここまで打っていたら、偶然、そのご本人から電話が入り、ユネス コ10周年の会議に参加するため近日中にジュネーブに飛ぶ、という。メディアな ら、番記者をお付けになれば、世界がまるごと見えてくる〜。


さて、黒川さんのブログの右下には、関連のブログとしてDNDのサイトが紹介 されていますが、その上には一橋大学大学院教授の石倉洋子さんのブログがリン クされています。そして、黒川先生のブログで元気をもらったら、今度は石倉さ んのブログで思わずもらい泣きしてしまいました。


石倉発の2月27日付のそのブログは、梅田望夫氏の近著『ウェブ時代5つの定理』(文藝春秋社刊)を読んだ「3つの感動」というタイトルの率直な心情を綴っているものでした。こんな風に心のこもった書評は、めったにおめにかかれるものではありません。先週27日から産経新聞1面でその定理の5つを要約したエッセンスが5回連続で掲載されていましたので、さっそく本を買って読みすすめていたところでしたので、その書評が本の発売前後なのに石倉さんの素早い反応に驚き、さらに本の読み解き方の鋭さに脱帽しました。


石倉さんは、冒頭、この本を読み終わった後、なぜかはっきりとした理由がわ からないまま、ただただ涙が流れるという時間が数分続きました〜というところ から、それに呼応して僕の胸もジーンときてしまいました。それはどこの場面か といえば、石倉さんとは違うところを読んでの感動なのですが、具体的にはあま り明らかにはしたくない。


それはいまの僕の心境の奥深いところに手を差し伸べてくれているような、そ の本の骨格をなす「ビジョナリーの金言」の、ほんの数行の言葉に衝撃を受けて いたからでした。


そして、石倉さんはそのブログをこんなメッセージで結んでいました。
 〜人生は他の人のものではない、自分のものだから、好きなことをとことん探 して、徹底的にやろうという心は、年齢、国籍、経歴に限らず、誰でもが持ち続 けられる姿勢であり、心だと思います。それを継続するには、多大な努力、規律、 勤勉が必要ですが、はじめる前からあきらめる必要は全くないと思います。(も ちろんこうした心や姿勢で、パッションを持ち、興奮してーそれが周囲にまで伝 わるような勢いでーいろいろな仕事や活動をしている人も、私の周囲にはいま す!)少しでも元気を出すために、この本は若い人に限らず読んでいただきたい 〜と。


梅田さんのその本の5つの定理の5番目に紹介されているのが「大人の流儀」、 前に書いた黒川さん、それに石倉さんは、このメルマガで過去に何度か紹介して いるお二方の共著の『世界級キャリアのつくり方〜20代、30代からの"国際派"プ ロフェッショナルのすすめ』を読めば、梅田さんの指摘する、文字通りその流儀 に適う生き方を示していらっしゃる、ことがよく分かります。


5つの定理:「その1、アントレプレナーシップ」、「その2、チーム力」、 「その3、技術者の眼」、「その4、グーグリネス」、そして「その5が大人の 流儀」と続きます。これを単なる文字に置き換えて見出しにすれば簡単なことで すが、ここにいきつくまでのプロセス、その梅田さんの体験をどこまで感じられ るか、ここが重要な気がしました。そんな風に思うと、大学発ベンチャー支援と いうフィールドもあえていえば、この5つの定理にすっぽり含められるから有難 い。


いやあ、個人的な事をいえば、この春で5年目に入ります。新聞社で部長職に あった時と比べれば、確かにしんどいけれど、うまくいくかどうかわからないけ れど、やりたいことや、やらなければならないことが山ほどある、そして、この 瞬間の時間はだれのものでもなく、自分自身が切り開かないと先に進まない、と いうこの人生最大の価値を実感できることは、とても…なのです。


Googliness(グーグリネス)という言葉があるんですね。産経新聞に梅田さん が書かれたそのエッセンスによれば、ウェブ時代をリードするグーグルという会 社の気質やグーグルらしさを表す言葉だ、という。そして、「1からすべて命令 してほしいなら、海兵隊にいけばいい」というCEOのエリック・シュミット氏の こんな言葉を引用して、グーグルが徹底的に重視するのは、自発性に導かれて使 われる「時間」の価値だ、と断言していました。


続けて、梅田さんは、グーグルが「頭脳の拡張」の世紀のリーダーであるとと もに、私たちが自発的に過ごす「時間」からしか創造的イノベーションは生まれ ない、という思想の信奉者なのである、と結論付けていました。凄いことを言っ ていらっしゃる。そして、本書のグーグリネスの章のふたつ目には、やはりシュ ミット氏の言葉でグーグルの第一倫理が示されています。
「邪悪であってはいけない」("Don't be evil.")


このメッセージをトップにもってくる、う〜む、そういう梅田さんもタダもの じゃない。石倉さんのブログに後押しされた格好で、こんな個人的な感想まで書 いてしまいました。きっと、本年前半一押しのベストセラーの予感がしてきます。


ブログといえば、もうひと方の存在を忘れてはいけません。大学発ベンチャー のフロントランナーといわれて5年、アンジェスMGの創業者で、阪大教授の森下 竜一さんです。DNDでは最近少しご無沙汰ですが(とはいっても、これは原稿の 催促じゃありませんから、森下さん…)、「大学発ベンチャー成功の方程式」と いう連載を担当されております。が、彼も実は、大変な評判のブロガーの一人で、 「世迷い独り言」というブログを展開されております。個人的には、バイオベンチャー関連の情報源のひとつとなっております。が、特筆すべきは、その視点の、まなざしの、慈しむようなやさしさにあります。


例えば、2月20日付では、東証マザーズにナノキャリア(社長、中冨一郎さん で、ちょうど本日5日が上場日なのですね。期待の大学発バイオベンチャーで す)の上場に続き、神戸に本社があるカルナバイオサイエンスがジャスダックNE O市場に上場が決まりましたーと綴って、祝福されているんですね。


そ して、森下さんは、この会社と私は、浅からぬ仲です―と前置きして、こ んな風な履歴を紹介されていました。これはもうひとつの大学発ベンチャーの裏 面史です。


「カルナは、元々オルガノンという外資系の会社の研究所の方々がリストラで 研究所閉鎖の際、ある意味腹をくくって、研究所ごと独立したスピンアウト・ベ ンチャーです。カルナバイオは、プロテインキナーゼに関連する事業を主力とし ており、研究用プロテインキナーゼの販売やキナーゼの構造解析サービスを提供 しています。ただ、単に研究支援ではなく、キナーゼ阻害剤の研究開発に取り組 んでいる創薬ベンチャーで、ハイブリッド型といえます。」


「遡れば、カネボウの研究所の方が、オルガノンに売り渡され、再度会社の都 合での閉鎖という理不尽さにお怒りになって、作った会社で、ある意味中高年の 星、と私は思っています。そして、私との浅からぬ仲は、独立の時に相談をされ たことと、シーズが阪大からのものがあり、ある意味阪大系ベンチャーあること、 そして、私自身研究のアドバイザーをさせていただいていること、などなどです。 吉野社長を始め、研究所の方々が、独立して苦労された姿を見ていましたので、 涙なしでは、語れません(大げさではなく、本当ですよ・・・)いや、本当に良 かった!!ただ、上場してからが、ある意味会社としては本番ですので、頑張っ ていただきたいと思います。」


「NEOに昨年上場したジャパン・ティッシュ・エンジニアリングも、この悪環 境にもかかわらず、健闘しており、NEO市場のユニークさを発揮していますね。 カルナバイオの主幹事証券は三菱UFJ証券で、バイオベンチャーの上場で主幹事 を務めるのは初めてです。今後も、頑張ってほしいものです。」


ね、随所に気配りを見せているでしょう。そこがトップランナーの流儀なので しょうか、自らが創業しIPOにこぎつけてかつ研究の手を抜かない緊張感の連続 の中に見を置く起業家の、どこか同志のような親近感があるのでしょうか、今度、 お会いした時にお聞きしてみます。原稿を書いてもらおうかなあ〜。


ただ、ひと事ばかりではないのです。2月26日の日経新聞にも掲載されました が、アンジェスMGが25日、承認申請中の難病治療が厚生労働省の薬事・食品衛 生審議会医薬品第1部会で了承(了承は22日)されたと発表したーというニュー スに関してですが、早ければ、4月にも販売を始める見通しで、アンジェスMG初 の商品となる、という。


このことを森下さんは、どう書いているのかー。その前に、承認された先天性 代謝異常疾患「ムコ多糖症Y型」の治療薬「ナグラザイム」というもので、米バ イオマリン・ファーマシューティカル(カリフォルニア州)から日本国内での開 発・販売権を取得していた、とあり、さらに凄いなあ、これぞ大学発ベンチャー の社会的使命じゃないか、と感じさせてくれたのが、記事の以下の文節でした。


〜ムコ多糖症Y型は国内に数人の患者がいるとされる進行性の難病で、有害物 質の分解に必要なたんぱく質を遺伝的に持たないため、骨の変形などが起きる。 骨髄移植でタンパク質を補う方法があるが、患者の肉体的負担が軽減できる薬を 使った補充方法が求められている〜。


なんだか、国内に数人の患者、という部分を書き写していて目頭が熱くなって くるのを押さえられません、でした。やはり、森下さんもスーパーマンに違いな い。


そこで2月25日のブログをみると、「患者さんのご要望に応えることができて、 ホッとしております」と感想を述べ、「厚生労働省及び医薬品医療機器総合機構 による迅速な審査が行われたためで、日本の医薬品の審査も大きく変わりました ね。本当に実感されます。今後、薬価収載を経て実際に患者さんにお届けするこ とになります。薬価がいくらになるかは、わかりませんが、患者さんが非常に少 ない病気であることを考慮してほしいですね。ナグラザイムは、希少疾病用医薬 品(オーファンドラッグ)の指定を受けており、通常よりは早い審査が元々保障 されていましたが、それにしても、厚労省のご努力には感謝したいです。アンジ ェスとしても、患者さんの要求に早く応えることができて、本当に安心しまし た。」と関係者に感謝の気持ちを表していました。


本当に、森下さん、それにアンジェスMGの皆様、おめでとうございます。僕ま でもうれしくなってきました。


というわけで、ほんの数日のブログ拝見で、体がだるく腰が痛いのにも関わら ず、体からふつふつと力がみなぎってくるではないですかー。それなので、実は、 今週のメルマガは病欠にしようかなあ、と弱気になっていたのですが、そんな迷 いは途端に吹き飛んでしまった、ようです。 


さて、これから黒川さん、それに石倉さんらが登場するパネルに参上しなくて はいけません。


*Kiyoshi Kurokawa's blog
http://www.kiyoshikurokawa.com/jp/


*Yoko Ishikura Blog
http://www.yokoishikura.com/


*森下竜一氏ブログ「世迷い独り言」
http://blog.m3.com/yomayoi/


記憶を記録に!DNDメディア塾
http://dndi.jp/media/index.html

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