◆ DND大学発ベンチャー支援情報 ◆ 2007/12/19 http://dndi.jp/

DND Entrepreneur of the year 2007

 〜「仲間」というキーワード〜

DNDメディア局の出口です。あるベンチャー関連の月刊誌の新春号で特集する0 8年を占う10大トピックのひとつに「大学発ベンチャー」が入り、その課題や見 通しについて、原稿依頼がありました。


編集部が用意した6つの設問に答える、という形式でしたので、論文を書くわ けじゃなし、素材はあふれるほどあるのだから案外、さらっと書けばいい、と安 請け合いしたのです。


が、これが意外と悩ましい作業になって、すでに原稿は出したのですが、こだ わった課題がずっと思考の回路に居座ったまま、無限ループ状態でそこから抜け 出せない、そんな執筆の狭間に揺れる、自問自答です。


まず、全国の大学から生まれる研究成果の技術シーズなどを事業化する、とい う大学発ベンチャーが、大手新聞の好意的な取材や記事などに支えられてすっか り市民権を得たようです。数年前の記事の扱いは、「未公開株取得」という事件 っぽい記事があり、「補助金漬け」という誤解をふりまく批判でしたね。


しかし、最近は180°取材の見立てが変わりつつあります。設立数1590社を 「経営難」と四捨五入の概念的な経済記事から、徐々にですが個別具体のベンチ ャーの現場に光をあてて、なぜ起業なのか、を問う。創業者の人間像、その人の 志や夢にコミットしています。技術誕生の秘話なども面白い。どうも取材の守備 範囲が、科学部に移行しているのではないか。こういう記事を読むと、希望が見 えるから気分が晴れますね。


で、そこのなぜ起業なのか。起業へのマインドが、なんだか時代や社会を変え ていく、いや実際、変えてきているではないか、という声が飛んできそうですが、 起業の形態は違っても変わらないものは何か、起業というベンチャーの荒波に飛 び込まなくても、それぞれのポジションでベンチャラスな生き方をされている素 晴らしい方も多い。となれば、起業を育む生態系をどう社会に仕組んでいくか、 それはよく指摘される、信頼の確かなネットワークの構築であろうという。では、 自然生態のエコロジーでいう、汚水汚泥、有害物質を浄化するところの復元力と いうパワーは、このネットワークにたとえれば何を意味するのか、生態系を取り 巻く復元力の一助になるには、何が必要で、何が要らないのか―を、しばらく考 えあぐねている始末です。


その答えが、なんとなく薄っすら見えてきた感じがします。「仲間」という キーワード、それがエコロジーでいう復元力の源であるかもしれません―ね。


DND person of the Year 2007−の名前公表は、大きな反響でした。そして上 位掲載の内閣特別顧問の黒川清さん、アンジェスMG創業者で大阪大学教授の森下 竜一さん、日本学術会議議員で東北大学教授の原山優子さん、一橋大学大学院教 授で国際的にもご活躍の石倉洋子さんらから、上記のようなメッセージが届きま した。皆さん、グローバル・イノベータの趣です。「仲間」といっては申し訳あ りませんが、DNDのご趣旨を理解くださってとても嬉しく思っています。なぜか、 元気がでてきます。これが、復元力の源なのでしょうか。


これもそれも固有名詞にこだわるDNDならではの企画と自負しています。Webの 運営が続く限り、永遠にwwwの世界を名前が動き回り、検索というツールでいつ でも欲しい情報が現れるインターネットは、まるで魔法のランプのようです。


勿論、僕から皆さんにはそれなりのご要望も書き込んで、御礼のメールを返し ました。その中で、森下さんへの受賞コメントに対しての僕の返事は、こんな具 合でした。


〜いやあ、ストーリーの流れのツボを抑えたお見事なコメントです。素晴らしい です。コメントのグランプリというところでしょうか。しっかり、次の施策、企 画をこんな風にねり混んでいらっしゃる。
 「イノベーション25は、過去の政策にしてしまうのは、 もったいないですね。 将来の日本の姿、改めて新春の初夢に いかがでしょうか?」と。
 なるほど、やはり、来年の企画も「イノベーション」でいきましょうか、どうでしょう。年末年始の宿題にします。


そして、続いて、こちらへのPerson of the Entrepreneurという宿題は、Entr epreneur of the yearを急げというご指示でしょうか(笑)。ハイ、すでに現在 準備に入っております。ありがとうございます〜。


という経過を踏まえて、唐突ですが本日のメーンは、大学発ベンチャーを応援 する年末企画第2弾、Entrepreneur of the year 2007−の発表です。


この趣旨は、大学発ベンチャー等(あるいはそれに類似したハイテクベンチ ャー)の中で、本年、「夢・志・仲間」の趣旨にかなったベンチャーを顕彰しよ う、というこころみです。本来なら、一般ユーザーから自薦他薦のエントリーを 元に選考委員会を開いて、審査すればいいのですが、今回はトライアルというこ とで、関係者内で候補を選び、そしてその活躍にふさわしい冠を付与して、その 活動を讃えよう、ということです。今後、毎年実施し繰り返し受賞することも可 能です。


主催は、デジタルニューディル研究所 後援団体は、(財)ベンチャーエン タープライズセンター、大学発バイオベンチャー協会、NPO青い銀杏の会などで す。審査委員長は、内閣府特別顧問の黒川清氏にお願いし、委員はDND連載企画 者などのご協力をいただきました。


DND Entrepreneur of the year 2007発表


【先端科学技術賞】
■J−TEC「ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング」
(愛知県蒲郡市、小澤洋介社長)http://www.jpte.co.jp/



小澤洋介社長


J-TECが10月30日に自家培養表皮「ジェイス」の製造承認を取得し、そして今 後全国の大学病院などと契約を結び、保険の適用などの手続きを経て具体的な治 療現場でこの製品が役立てられることになります。ここまでくるのに8年8ケ月、 すでに50億円の投資という。患者ご自身の細胞から作製した培養表皮ですから、 移植しても免疫拒絶されることなく自己の皮膚となる、わが国初の快挙です。12 月21日、新市場ジャスダックNEOに晴れて上場します。熱意の起業家、小澤社長 の執念が実りました。医療機器という困難なジャンルの道を開きましたね、いよ いよテイクオフです。


名古屋大学大学院教授で、DNDで「バイオベンチャー起業成功の秘訣」の連載をしてくださった上田実さんが技術顧問として指導に当たられています。J-TEC誕生の裏話は、感動的です。


-受賞者のコメント-
再生医療製品で日本第1号となった自家培養表皮ジェイスの 承認(2007年10月)、ジャスダックNEOへの第3号銘柄としての 上場(2007年12月)と誠に充実した2007年でありました。 Entrepreneurという言葉は、弊社でよく使う「変人」と同義かと 考えます。つまり、私達は(たぶん)変わった人ではなくて、 私達が世の中を「変える人」となります。副賞のりんごは、 変人達でおいしくいただきました。ありがとうございました。



【地域資源貢献賞】
■「チャフローズ・コーポレーション」
(神奈川県横浜市、笹谷広治社長)http://www.chafflose.net/index.html


警察庁出身の異色の起業家、笹谷社長は、故郷、青森の特産、ほたて貝の貝殻 に着目し、廃棄される貝殻を粉砕し、高温で焼成した粉末を原料とする壁材や塗 料を製品化することに成功、ホルムアルデヒドを軽減するシックハウス対策への 効果が期待され、地元の八戸工業大学などと組んで地域活性化に貢献する環境ベ ンチャーという。大きな話題は、ホタテの貝殻から水虫の薬―という仰天情報は 事実で、靴の消臭・水虫菌除菌の開発なども手がけており、受賞の報に接して、 「嬉しいです。ご協力お願いします」と72歳の現役社長は明るい声を発していま した。



   【My dream賞】
■「ロボ・ガレージ」
(京都府京都市、高橋智隆社長)http://www.robo-garage.com/index.html


いま、話題独占中です。アトムを目指す京都大学発ベンチャー。自らをロボッ トクリエーターと呼び、人間がロボットと暮らす未来のイメージを世界的な規模 で伝えようとしています。


高橋さんから、丁寧なお礼の言葉とともに、最近の活動についてこんな風な報 告がありました。最近の活動としては、京都大学主導で行う電気自動車「Kyo to−Car」開発プロジェクトにおいて、1月10日実動電気自動車モデルの開 発を行い、京都議定書10周年イベントにて発表。年明けまでフランスの美術館 で「ロボ・ガレージ展」を開催し、今月の18日までバンコクで、「日タイ国交1 20周年記念イベント」でのデモ、新年早々にはワシントンDCのケネディセン ターで講演してきます、という。


本業のロボット開発については、「現在も複数の開発プロジェクトを並行して こなしておりまして、いずれも来年前半に発表出来る。最初に発表となるのは、 年初に、大手家電メーカーさんとのプロジェクトです」という。スタイルも人柄 もいい、クールで涼やかな瞳が近未来の人間社会を見透かしているようです。ロ ボカップ世界大会4連覇、ポピュラーサイエンス誌「未来を変える33人」に選定。 NHKトップランナー出演、著書に「ロボットの天才」。



【グローバル・イノベータ賞】
■「アンジェスMG」
(大阪府茨木市、山田英社長) http://www.robo-garage.com/index.html



喜びの森下先生


HGF(肝細胞増殖因子)による遺伝子治療薬の臨床試験の結果、治療の効果 が確認され、重い副作用もでなかったーというのを受けて、これでようやく年度 内に遺伝子治療薬の製造販売の承認申請を厚生労働省に出すことになり、遺伝子 治療薬の分野では先進諸国では初めの快挙。大学発バイオベンチャーを一貫して 牽引してきた評価は不動です。


今回の遺伝子治療薬の製造販売の画期的な展開は、糖尿病などが原因で動脈硬 化が進行し、足の血管が壊死して切断を余儀なくされている閉塞性動脈硬化症の 患者に朗報で、この遺伝子治療薬によって足の切断を免れる治療に光明が差して きた、と評価されています。足を切断する患者が年間日本で2万人、米国で20 万人を数え、これらの人が救われる日も近い。ある患者は、車イスの生活から半 年後に小走りができるまで回復し、治療レベルから生活の質向上にまで改善が認 められた―という報告があります。発明から苦節12年、起業から8年、という道 のりでした。大阪大学医学部教授で創業者の森下竜一さんは、DND person of the Year 2007の準グランプリで、DNDではダブル受賞。



【フロントランナー賞】 
■「創晶」
(大阪府大阪市、安達宏昭社長)http://www.so-sho.jp/



創晶のみなさん


 解析に欠かせないたんぱく質の結晶化は、初めて成功した学者がノーベル賞を 受けたほど難しく、新しい手法の開発が求められているーといわれます。創薬の 分野だけでなく、医療やバイオテクノロジーなど生命科学の幅広い分野から期待 されています。この利用価値の高いタンパク質結晶化の技術に文字通り「創晶」 がブレークスルーをもたらした、という。サイトを拝見すれば、会社の理念、経 営方針などいずれもきちっとした考えで経営されていることが十分に伺えます。


「sosho」のアルファベットにそれぞれ意味を持たせています。最初のSはspee dで、締めのOは、originalityで、「独創的な技術の開発を目指し、創意、工夫 をこころがけ、チャレンジ精神を発揮します」と。もうひとりの代表取締役で大 阪大学教授の森勇介さんは、青い銀杏の会のシンポで講演し、創薬支援のための 新しいタンパク質結晶化技術を解説していました。レーザーを溶液にあててその 衝撃で種結晶を作り、かくはんしながら成長させる手法という。バイオ研究者ら の悩みの種を解消する新技術のキーワードは、「かくはん」と「レーザー」と言 い切り、ここで1000兆分の1というフェムト、そのフェムト秒レーザーが使われ ているのだ、そうだ。まさにバイオテクノロジーの極め技術が効果を発揮してい るようです。


-受賞者のコメント-
DND Entrepreneur of the year 2007を受賞できましたこと大変光栄に存じます。関係各位に厚く御礼申し上げます。これを励みに一層精進したいと存じますので今後ともご支援賜りますよう御願い申し上げます。 森勇介/安達宏昭



※なお、選考委員会で用意した賞の冠は以下の7つでした。今回、受賞した大学 発ベンチャーは、DNDサイトで一年間、掲載していきます。審査委員長の黒川清 さんから、コメントがあるかもしれませんのでご期待ください。賞品?う〜む、 いま考えていますが、お約束の限りではありません。


A,先端科学技術賞
B,地域資源貢献賞
C,My dream賞
D,グローバル・イノベータ賞、
E,「夢・志・仲間」賞
G,フロントランナー賞
H,ブランド賞

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