◆ DND大学発ベンチャー支援情報 ◆ 2007/12/06 http://dndi.jp/

主役は誰でしょう?

 〜埼玉県チャレンジ・ベンチャー交流サロンの3つの提案〜

DNDメディア局の出口です。寒々とした街路に白や青の冴えた色のイルミネー ションが灯り、はや師走と聞いて、時の流れのスピードを感じます。ふ〜う、た め息一つ、迷い道の遠い闇〜。どんな思いでこの年の瀬を迎えることになるので しょう、そう思うとなんだか人恋しさが募るのか、胸が締め付けられそうになっ てきます。今、クラシックを聴きながら原稿を打っています。柄にもなく何気に 選んだCDがJ.S.Bachのバイオリン協奏曲でした。優美で洗練された旋律が、心に やさしく響いてきます。


 師走、その先生らはいつも走っている、そして世界に飛ぶ、そんな姿が目に浮 かんできます。内閣特別顧問の黒川清さん、この4日西海岸に向かいました。ス タンフォード大学のUS-ASIA Technology Management CenterのSkilling Audi toriumで本日6日夕刻からご講演です。テーマは「Innovate Japan」。そして先 月は、由緒あるエジプトのAlexandria図書館で開催の日本アラブ会議に参加し、 この4週間で3度目のDubai空港です−とご本人のブログにそう書かれていました。 この図書館は世界初の学術アカデミィで2300年の歴史を誇る、という。しかし、 黒川さんの行動力は凄いですね。懸命に日本のバリューをあげていらっしゃる。


*黒川清氏のブログ http://www.kiyoshikurokawa.com/


山口県の宇部市では、ICIM2007の一環としてMOT国際シンポジウムが5日から開 かれています。MOT協議会会長で、東京農工大学大学院技術経営研究科長、DND馴 染みの古川勇二さんが午後のシンポを仕切っておられる。地元の山口大学大学院 技術経営研究科長の上西研さんが、この夏実施したMOT認証評価試行について報 告する、という。山口大学などのMOT認証評価試行に参加したルポは、前にメル マガで取り上げました。本来なら僕もそこへ飛んで行かなくっちゃならないので すが、残念ながら本日夕刻は、僕にとってもうひとつ大事な試行のトライアルが 待っているんです。


さて、そこで本日の話題は、ローカルの交流サロンをめぐる小さなトライアル ですが、その取り組みを紹介し、アイディアが詰まったその手の内を一挙公開し ようというものです。



●アイディアを一挙公開、というほどでもありませんが…。
 「創業するなら埼玉」の埼玉県創業・ベンチャー支援センター主催の数あるセ ミナーのなかで、私がコーディネータをつとめる「チャレンジ・ベンチャー交流 サロン」での取り組みについてです。


そこの所長で大番頭役の島村道雄さんについては、Vol.222回のメルマガで紹介しました。が、こういうタイプは最近見かけなくなりましたね。埼玉のベンチャー支援に関って4年半、どっしりとして部下の信頼も厚く、周辺のどんな動きにも気配りを怠りません。存在感がありますね。こんな逞しいリーダーが先頭を走るから大勢人が集まってくるのでしょう。


さて、その交流サロンは今年で2年目です。対象者は、主に県内の中小企業の 経営者で、毎回20人前後の応募があります。そこに上場企業の経営者をゲストに 招いて、株式上場にまつわる事業戦略の進め方や留意点などについて約1時間話 をしてもらいます。そこでビジネスのコツを学び、売上向上のノウハウを伝授し てもらう、という趣旨です。その後、質問タイムや簡単な打ち上げの懇親の席で は直接的に経営のアドバイスを受けることも少なくありませんが、参加者の顔ぶ れが多士済々で、その交流も大切な時間となっています。


この間の2時間で何が得られたのか、参加者にとって会社経営の新たな活路を 見出すヒントになったか、役に立ったか、面白かったかどうか、僕としてはその 辺が一番気になるところですね。


この交流サロンに参加して毎回とても勉強になるし楽しい、というのは電子機 器メーカーとして温度湿度の制御機器の設計、開発、そして製造を手掛ける「株 式会社ニッポー」の4代目社長、若槻憲一さん、いま地元埼玉の期待を担って猛 勉強中です。同支援センターのベンチャー支援担当課長の長濱尚さんは40歳の同 世代とあって「なんとしても若槻さんの上場をお手伝いしたい」と熱っぽい。経 営者と行政マンの立場の違いがあってもこんな睦まじい関係があっちこっちに築 かれつつあるようです。



●コーディネータの本領発揮
 そこでコーディネータは、いかに自由なムードをつくり、ゲストから本音を引 き出し、参加者間の交流を深めていく、というような場づくりに腐心しなければ なりません。前に出たり後ろに回ったり、その場の仕切役は担うことになります。 その甲斐があって参加者同士の連携やビジネスの相互協力が生まれ、あるゲスト を招いて親しくなり、そこが経営する大手の調剤薬局のチェーン店に、参加者の 一人の新製品が納入されるという実績がでてきました。


例えばまた、エゴマの自然栽培で各種健康食品をネットで販売する経営者が、 畑の栽培に限界があり商品が半年で売れ切れてしまう、もっと収穫を増やせれば 通年で商品を供給でできて売り上げにつながる、という呟きを聞いてさっそく長 野の知人に栽培をお願いすると、快く引き受けてくれました。この秋、無農薬で 安全なエゴマが見事に育っていました。これもメルマガで取り上げました。現在 の収量の倍の原材料を確保して、さて、売上はどのくらい伸びるか〜。


これとて、その商品価値を知らずして評価はできません。味覚は、風味は、果 たしてどれほど体にいいものか、これは試してみないと分からない。そのため商 品の詰め合わせを10箱安く購入し、家で試食し知人に食べてもらうなどしてその 素晴らしさを確認しました。そんなこんなで、どんな支援ができるのか、いわば 自分の力量を試しているような感じでした。


しかし、これでいいのだろうか、このペースではスピード感がない。そして何 かまだ足りない、というのが率直な実感でした。


この交流サロンをひとつの実験場として、中小企業育成の道場として、他にで きることはないか−と考えあぐねてきたわけです。まあ、セミナーなんだからサ ラッとやってハイお仕舞い、でいいのではないか、という指摘があるのも事実で す。が、そこをこだわるのですね。


そこで、得た教訓は、親身になればやがて信頼が芽生えるという確かな事実で す。信頼は、何物に勝るブランドかもしれません。試行錯誤の連続で少し大変だ けれど、やっていて無駄はない。案外、これもワクワクするものです。あらゆる ノウハウを総動員して、交流サロンに参加した社長さんたちをサポートし、もっ と激励してあげたいなあ、そんなことを支援センターの担当の長濱さんや、若手 の大久保武文さんらに言うと、「やりましょうよ、是非!」と身を乗り出してく る、じゃあ、来週、打ちあわせをやりましょう、という運びになって動き出した のがつい2ケ月前でした。



●長濱さん、大久保さんらと作戦会議
 神田川のほとり、江戸の風情を今に残す柳橋界隈を臨む、DND秘密基地に長濱 さんらお二人が見えて、議論が弾んで3時間、面白いものですね、アイディアが 溢れ返りました。そして、いよいよ実行段階が迫ってきました。



●提案の理念は、「受講者が主役」。
 新生・チャレンジ・ベンチャー交流サロンの提案は3つ。その根本は、「受講 者が主役」という考えです。ともすれば、ゲストに気を遣ってばかりいないか。 ゲストが気持よく講演してくれればそれでいい、というそんな安易な気持ちはな かったか、どうか。その裏返しは、参加者がどんな顔ぶれで、何をしている人か、 その辺のチェックがなされていないケースが散見されるからです。社名や名前を 確認するのは当然だが、事前に彼らが何を期待しているか、そこへの切り込みが 大事だと思いました。やや、手間がかかりますが、名簿を頼りにネットで検索し、 最近の話題や関心事は事前に調べておく、ということでしょうか。


もう当初から気がついていたことですが、実は、参加者といっても一歩外にで れば、その業界の有名人でフロントランナーが多いということでした。人物に魅 力があふれ、独自の経営哲学を持ち、社会貢献の意識が高い。そしてもっと学ぼ う、という姿勢がなにより健気に映りました。もうゲスト席についてご講演して 欲しいくらいの面々なのです。


 今回も23人の受講者が集まります。地元で建設、不動産、トランクルームを 営む年中無休のアズ企画設計社長の松本俊人さん、東京事務所を開設し情報発信 にも力を注ぐ、この人のブログは人気で面白いです。川口マラソンで10キロを走 っていましたね。エネルギッシュです。


30万曲の歌詞などが検索できる注目のサイト「うたまっぷ」などを運営するイ ンターライズ社長の桜井富士雄さん、新しい時代の旗手―を目指すという。


埼玉県ベンチャー企業優良製品コンテストで優秀賞、埼玉県渋沢栄一ベンチ ャードリーム賞大賞に輝き、電子印鑑を使った文書管理ソフトなどの電子決済シ ステム販売で業績を伸ばす「ネクステージ」社長の傍島祥夫さん、当面の目標は 米国進出と中国、それに株式公開という。


ソフトウエア会社のMSK社長の高塚美佐子さんは、35年の実績と信用を誇る事 務処理のオーダーソフトを手掛けています。なぜ、MSKなのか、MiSaKoの名前か らだという。


関東ニュービジネス協議会の重鎮、事務局長で、県内のベンチャー企業支援に 動く清野光昭さん、株式会社サイホー社長の平沼大二郎さんもご一緒です。電気 設備の杉戸電設社長の若木健一さんは、電気代節約のペンダント照明が一押し商 品です。エアコンのことはおまかせという進弘空調の中山弘子さん、世界初のエ アコン洗浄ロボットを導入しました。


エンジニア社長で、サイトの検索結果順位を記録、管理するシステムなんかさ らっと作ってしまう若手有望なフェリックス代表の川原弘行さん、33歳。彼のブ ログもユニークです。ほんとうに「プロボクサーの内藤さんに似ている?」。お 会いするのが楽しみです。


「地球的視野に立った商品を」をミッションに掲げるサイボックステクノロ ジー社長の須藤富子さん、迷彩模様の二次元(QR)コードの課金システムを考案 し、地域ポータルや携帯端末のRSS配信システムなどを開発し勢いに乗っていま すね。茨城県古河市から埼玉に移って起業できたそうです。


その他、OSDの大林里佳さん、省エネの伝道師、NPO地球環境融合センターの小 暮徹さん、販売促進のプロ「応援団」の赤羽広行さん、営業の代行の野口オフィ スの野口尚武さん、名古屋から参加のシントロピーの宮沢敏夫さん、デザインの 杉山一期さんら馴染みの名前も散見されます。


ここに紹介したのは、一部ですが、こういう人の話を聞いてみたいと思いませ んか。そして知り合いになれたら、いいでしょう。ですから、それらを適えるた めに、受講者がある程度確定した段階で、さっそくこんなメールを送付しました。



●地域力は、発信力だ〜の確信、1分間スピーチの採用
 〜いま巷間、指摘される地域力、それはひとつに皆様の企業の進展以外にあり ません。そこで、地域力は、発信力という私の信条をベースに、今回は特別な趣 向で進めます。それは、参加者の皆さんが主役という考え方で、一方的な講義で 終わるのではなく、積極的に参加し、交流し、その後もきちっと信頼のネット ワークが維持できるよう、仕掛けを用意することです。今回のこのメールもその 一環でございます。ご提案は以下の3つでございますーと。


参加者にメールでアプローチする、そして主催者側の考え方やメニューをあら かじめ提示し、参加意識を高める、ということです。そしていくつかの提案を示 しました。


そのひとつは、参加者よる1分間スピーチです。テーマは、「私を知ってくだ さい!」。自分のことを、あるいは会社のことをどう伝えるか、この短い時間で それはどこまで可能かーということに挑戦していただこうという試みです。


また、交流サロンの会場の机の配置をこれまでのスクール形式から縦長の円形 にし、顔が見えるように工夫しました。自己紹介のひとり1分間スピーチは、 「5秒でも結構!」とし、嫌がる人を無理にさせることはしません。そして肝心 な点は、その効果的な紹介文に少し知恵をだしましょう、という狙いがあり、ま さに発信力を培いつつ、参加者の相互の理解を深める、という一石二鳥という趣 向です。


1分スピーチといえば、原稿用紙一枚分ですが、これはスタートアップのベン チャーや起業家が資金調達のためにプレゼンする、いわばロケットピッチ(エレ ベータピッチともいう)をイメージしました。まあ、どういうことになるか、ま ずトライしてみることが大事です。


余談ですが、その昔、全米の大学で起業家教育NO.1の評価がある、バブソン大 学(ボストン郊外)を視察で訪れた際に、そこの学生らが新規の事業内容を3分 間で効果的に伝えるコンテストに立ち会いました。それがロケットピッチでした。 自分の夢や事業モデルをどう伝えるか、立場のある忙しい人にエレベータで偶然 乗り合わせたら、そこをチャンスと捕えてエレベータが止まる間までの短時間に 要件を伝える、そんなところに語源があるらしい。3分で興味を引き出せないも のは、40分、1時間かけても無駄ということを知るべきでしょうか。


 そして提案のふたつ目は、「パンフレット、資料、サンプルの事前配布」です。 これまでの交流サロンで、何回か参加した人には、そういう資料を用意して配っ たらどう?ってアドバイスしてきましたが、事前に参加者の皆様に通知するのは 初めてです。前に述べた、調剤薬局に商品を扱ってもらえたのは、こういう仕掛 けがあったからにほかなりません。いま、「知って欲しいのは、これです」、 「どなたか、これをご一緒に考えませんか」というような自己アピールに、ぜひ、 参考の資料、パンフレット、試供品、サンプルなどを用意すれば、興味のある人 はきっとその後にアクセスしてくれるものと確信します。



●ネットワークからコミュニティ形成へ
 そして提案の3目は、「質問事項の事前投稿」です。会社の課題は、大企業も 中小企業もベンチャーも、それぞれ、販路の拡大(営業)、資金調達、人材確保 (育成)、という3つの課題に頭を悩ませております。これは、経営を行ってい く限り、宿命的な課題といえなくもありません。そこで、より具体的に今の経営 上の課題を明らかにしてもらって、交流サロンの議論の材料にできないか、とい うものです。


これら3つの提案は、創業・ベンチャー支援センターが実施した創業者への実 態調査で浮かび上がった経営課題を参考にしました。その創業3年未満の経営者 が抱える経営上の課題は、回答企業142社(複数回答)で、最も多いのが「売上 の向上」(92件)、「人材の育成・確保」(64件)、「営業力の強化」(44件) が上位で、その後に「資金繰りの正常化」と「製品・サービスの企画・開発力」 がともに33件で続き、興味深かったのが「情報発信力の強化」(30件)でした。


この文脈をたどれば、なんとしても売り上げを伸ばしたい、それにはやはり人 材だ、それも営業力のある人材が欲しいし、営業がスムーズにいくためには、な んといっても会社の知名度、商品の浸透力、つまり情報の発信力が不可欠という 読み方ができるのではないか、そこで、伝える力を磨いて、一人でも多く「自分 を知ってもらう」という、そんな価値ある交流サロンにしたい、という思いが背 景にあるわけです。


そんなメールに33歳の川原さんがいくつかの経営課題を添えてさっそく「この 趣旨に大賛成です」と返事を寄せてくれました。こういう反応はとてもうれしい ことです。



●本日夕刻から本番へ
 今年3回目のチャレンジ・ベンチャー交流サロンは、本日夕刻18時30分から、 さいたま市中央区のJR埼京線北与野駅前の埼玉県創業ベンチャー支援センターで 開催です。


これから少し早目に行くんです。そして、本日のゲストは、昨年マザーズ市場 に上場した地元埼玉の独立系ソフトウエアベンダー「システムインテグレータ」 の社長、梅田弘之さんです。僕らの気持ちが通じたのか、受講者は定員越えの23 人に達しています。さて、どんな会合になりますか〜。


記憶を記録に!DNDメディア塾
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