◆ DND大学発ベンチャー支援情報 ◆ 2007/06/13 http://dndi.jp/

仁坂和歌山県知事のGood job! 〜GWGに正義の退場勧告〜

DND事務局の出口です。人間って、ひと度躓くと、なぜこんなにみっともな い姿をさらしてしまうのでしょう。法令順守、説明責任って、普段はその重要性 を熱心に説く経営者が、いざ、困難な事態を迎えれば、残念ながら単なる頭でっ かちだったのでしょうね、部下に責任を転嫁し、一時は知らぬ存ぜぬの逃げ口上 でかわしたかに映るのですが、やがて厳しい追及にあってその虚偽、隠蔽の全容 がばれて観念し、事業も信用も一辺に失ってしまう。


グッド・ウィル・グループ(GWG)の会長兼CEO折口雅博氏、46歳。そ の子会社で訪問介護の大手「コムスン」の数々の不正に絡む、一連の対応という か戦術は、物の見事に裏目に出てしまったようです。そして、問題の発覚からこ れまでの場当たり的な言動のせいで、この人も取り返しのつかない崩壊のプロセ スを突き進むのでしょうか。救いの手はあるのでしょうか。


ライオンのような雄々しい髪型は、奇妙な感じがぬぐえませんが、ヒルズ族の 出世頭、フェラーリーを乗り回す気鋭の起業家という評判とは裏腹に、メディア に連続して登場すると、言葉は丁寧で行儀はいいのだが、それもなんだか不自然 で、やり手のキャスターから問題の核心に触れられると、途端に言語不明、論旨 あいまい、シドロモドロで何を言っているのかさっぱりわからない。その場しの ぎの言い回しで、無駄な時間が流れてあっさり幕切れ、スタジオの陰でプロデュ サーの歯ぎしりばかりが聞こえてくるような中味の薄い番組となっていました。


どう謝罪するか、視聴者らにその意をどこまで理解してもらえるか、が重要で ある、というのは誰もが認識できることです。何事も、分かりやすい表現で明快 にはっきり言う、ということがまず一番に求められていることですね。しかし、 メディアの前に立つと、緊張して平常心が揺らぐのでしょうか、一歩譲ってその 動揺が意味不明の言動になってしまうのだとしたら、しょうがありません。涙を みせながら意気消沈する姿は、きっと無念なのでしょう、だが、世間は、同情は しません。これまでの行状から判断する限り、委縮する姿も言葉足らずの稚拙な 説明も、そして涙も、したたかな演出だったのではないかとの疑いすら湧いてき ます。 そもそも介護事業を全国展開するコムスンの問題は、そのひとつは介護報酬を めぐる不正請求でした。その返還を求められている総額が7都道府県で約2億9 千万円(13日の朝日新聞、同社調査)、そしてもうひとつは、訪問介護事業所 の指定申請に絡んで、勤務実態がない職員を登録するなどの問題が指摘されてい ました。


そこでコムスンが、いや、GWGが奇妙な動きに出るんですね。不正申請が発 覚すると、「事業所の再配置」などと称して自主的に廃止届を出して指定の取り 消しの行政処分を免れ(7日付、朝日新聞)、一事業所が取り消し処分を受ける と、全事業所に処分が波及する「連座制」が適用されるからだ、という。


06年4月施行の介護保険法改正でサービス業者の指定に更新制を始めて取り 入れたのは、監視体制強化の一貫という。連座制は、まあ、処分が厳しいのでは という同情の声も上がっていますね。しかし、取り消し処分の動きを事前に察知 し、間髪入れず、廃止届を出すという段取りになんらかの情報リークがあったの か、どうか、疑問が残ります。これを繰り返し行っていたというから、厚生労働 省は、「廃止届は本社も関与しており、組織的な処分逃れ」と判断し、今後4年 半、すべての事業所の新規指定や更新を認めない、という異例の処分を下したわ けです。極めて姑息で、確信犯ですから、当然の措置でしょう。


社会保険庁の年金記録漏れで不安や不利益を与えて混乱する現状に比べると、 そんなコムスンだとしても、そこからサービスを受ける6万5千人のお年寄りか ら少しもサービスについての不満が漏れ伝わってこない、というのは、せめても の救いです。現場の最前線で24時間、365日の介護にあたるケアマネージ ャーやヘルパーら担当者の健気で賢明な姿が目に浮かんでくるようです。いった い、どのくらいの報酬になっていたのでしょう。その苦労に対して安いのではな いか、という指摘はあります。


コムスンに限らず、業界で頻発するこんな不正請求がなくなるような診療報酬 の制度それ自体をきちっと確立しなければならない、と提言をしていたのは、テ レビコメンテーターで活躍する弁護士で元検事の大沢孝征さんでした。いつも公 平なコメントです。TBSの朝ズバッ!で連日奮闘の、みのもんたさんは、いや あ、しかし、今の日本情けない、6万5千人のお年寄りも救えないのでしょうか 〜という意味の事をさりげなく口にしていました。この辺の感覚が、視聴者から 好かれる所以なのでしょうね。ほんと、おっしゃる通りです。


さて、折口会長は「介護を食い物にしたといわれても仕方がない」と、その介 護報酬をめぐる不正請求の事実を認めていますが、報酬ばかりか、こういった介 護に携わる現場の人々を食い物にし、搾取を重ねてきたことは許されることでは ないし、その罪は大きい。しかし、今回の処分は、この程度で終わるのでしょう か。不正請求にからむ公文書偽造、あるいは相当の書類等が破棄されているよう ですが、これは証拠隠滅など法的制裁にまでは、辿りつかないのでしょうか。あ るいは、情報リーク、処分に関わる関係者からのリークがあれば、これは別の意 味で大きな火種になるかもしれません。


そして、コムスンの一連の対応で、最も驚いたのが、親会社のGWGがコムス ンの事業を同じグループの連結子会社の日本シルバーサービスに譲渡する、とこ っそりウェブ上で流したことでした。法令上、厚労省もそれを一時容認していま した。日本シルバーサービス(NSS)は、元々はGWGの一員、コムスンの子 会社でした。それを問題発覚の直前の5月末、コムスンの子会社から、GWGで 人材派遣の業を担うグッドウィル・プレミアの子会社、プレミア・メディカルの グループ会社に付け替えていたんですね。その手口は、ズル賢いというか、いず れも卑怯な感じがします。


振り返りましょう。不正発覚で事業所の指定取り消しを免れるため、呼び出し をくらって指定取り消し処分される、その寸前に、自主的に「廃業届」で指定取 り消しを組織的に逃れ、今度はコムスンが処分を受けると、それを事前に察知し たのかどうかしりませんが、コムスンの子会社に事業譲渡するため、その子会社 を人材派遣会社の子会社に移し、そこへコムスンの事業を譲渡し、譲渡先が新た に新規の指定申請を行う、という考えで、子会社を付け替える措置で親会社のG WG傘下という形態はなんにも変っていない。いやあ、やるもんですね。これは 裏で、情報を集め検討しあらゆる事態を想定して準備し、弁護士やコンサルが戦 略を練っていたとみるべきでしょうね。そこまでは、首尾よく行ったかに見えた のでしょう。そこが事態の推移を読む、その洞察が欠けているんですね、青いと いうことかもしれません。


墓穴を掘る、というのはこういうことかもしれません。唖然とする、そんな世 間の重い空気を吹き飛ばしてくれたのは、和歌山県知事の仁坂(にさか)吉伸さ んでした。事業譲渡を明らかにした翌日の7日の定例会見の席でした。力強く、 確信にみちた口調で、明快に言い切りましたね。GWGにレッドカードを突きつ けた仁坂知事の名セリフは以下の通りです。


「私は、あれは脱法行為だと思う。正義に反する。正義に反することは当県で は絶対に認めない。断固、厳正に対処する。厚生省が認めたとしても、当県では 認めない」。


「あんなもので法の制裁を逃れられると考える人間が、福祉事業に手を出して いること自体がおかしい。あんなことをすればするほど絶対認めない。新聞を見 ると、処罰ができないと言っている役人がいるようだが、信じられない」。


仁坂和歌山県知事のこの覚悟の叫びが、流れを一変させましたね。厚労省もそ れから動きが変わりました。なんといっても譲渡先を変えて新規の申請をしたと しても、審査するのは都道府県ですから、仁坂さんの発言は重みがありました。 この発言に対しては、電話やメールがその日の夕刻まで50本あって、「現場を 理解している発言」、「勇敢な発言に拍手を送りたい」など支持する声が8割を 超えた、という。逆に、「正義感ぶって他の都道府県に影響を与え、利用者にと って迷惑」との批判もあったという。


仁坂さんは、経済産業省出身で製造産業局次長からブルネイ大使、日本貿易会 専務理事を歴任し、昨年連続した公共事業をめぐる福島、宮崎、そして和歌山各 県の談合事件をきっかけに、「和歌山県出身の私としては大変恥ずかしい思いを したのは皆さんと一緒です。それが知事選に出馬しようと決意した理由です」と ご本人のウェブ「ようこそ知事室」の今月6月のコラムに書いていました。 http://www.pref.wakayama.lg.jp/chiji/message/200706.html


凄いですね。読むと、なみなみならぬ覚悟、ほとばしるような情熱、地元和歌 山県を日本一の県にしたい、という決意が伝わってきます。どうぞ、ご覧になっ てください。「談合防止はシステムで」という新しいキャッチフレーズとともに、 元地検特捜の検事で弁護士、桐蔭横浜大学法科大学院教授の郷原信郎さんら見識 高い猛者を集めて検討を重ねた談合防止の「公共調達制度」が、この15日に発 表になる予定で、しかも7月1日から実施に移すという。


日本一を自負する、この制度策定の根底に据えた理念が、説得力を持っていま す。知事としてまずやるべきは、二度とこんなことは起こさないための、総合性 を持った制度設計で、効率性、公共事業の質の確保、官製談合絶滅、そして建設 産業の健全な成長という4つを同時に適えるものに仕上がっている、という。県 民の豊か生活を守る、という常々こんな強い意志をお持ちだからこそ、今回のよ うな勇気ある発言が、迷うことなく出てくるんですね。この知事は本物ですね。


日本の将来、こういう知事が出てくる限り大丈夫でしょう。まだまだ希望を捨 ててはいけないようです。介護制度は、報酬制度や連座制などの見直しを含めて、 不正行為の撲滅と介護事業の円滑な運営、そしてお年寄りの不安を解消するなど、 仁坂知事が指摘する「総合性」を理念に、その在り方を早急に再構築しなくては ならないかもしれません。


さて、本日夕刻は、東京駅まん前の新装の新丸ビル10階、三菱地所が運営す る「東京21cクラブ」のお披露目を兼ねた九州大学VBL准教授の五十嵐伸吾 さん主宰のWINWINのワークショップです。日本ベンチャー学会会長で早稲 田大学教授の松田修一さんの挨拶、基調講演は、イー・モバイル代表取締役会長 兼CEOの千本倖生さんが「シリアル・アントレプレナーにとっての起業」と題 して行います。パネルは松田さん、千本さん、それに日本IBM最高顧問で前経 済同友会代表幹事の北城恪太郎さん、ネットサービス・ベンチャー・グループ (U.S) 共同創業者の校條浩さんら起業家教育に熱心な重鎮が顔を揃えます。 事前登録制で、しかもキャパが50人前後と狭いのが悩み、立ち見でも是非、行 ってみたい。モデレータは五十嵐さんです。


連載は、久しぶりにイノベーション25戦略提言で、大阪大学大学院教授でアン ジェスMG創業者の森下竜一さん、内閣特別顧問の黒川清さんのコラム、そして、 塩沢文朗さんが原点回帰の旅の2回目をアップしております。どうぞ、こちらも お読みください。 


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