◆ DND大学発ベンチャー支援情報 ◆ 2007/03/14 http://dndi.jp/

「知の構造化と学術俯瞰の可視化」の深淵〜中町弁護士所属のKirkland & Ellis LLPの実力〜

〜中町弁護士所属のKirkland & Ellis LLPの実力〜

DND事務局の出口です。そこは、略称・RIETI、経済産業省別館11階。ふ〜む、 なんだか懐かしい感じがしてきます。DND物語は、ちょうど5年前、実はここから スタートしたんですよね。高揚と情熱、それに少しの落胆も‥。


かつての事務局は、その(独)経済産業研究所の北側の中央付近の一角にオフ ィスが用意されていました。部屋は、左右の廊下にそってやや中央付近の奥まっ た場所でした。冷蔵庫と背中合わせのにわか作りの個室は、隔離したお仕置き部 屋みたい〜。


省エネに配慮して気の毒なほど、やや陰湿?いや失礼、薄暗いのに不平がでな いのは、我慢強いからか。眩しい戸外から飛び込むと、エントランス付近で目が 慣れるまで少し時間がかかります。食堂へ通じる廊下は、これまた薄明かりで手 探り状態でしたね。冬寒く、夏暑いのも霞ヶ関の専売です。官僚は‥なんてよく 耳にしますが、一度、この劣悪な職場環境をご覧になるといい。


窓際の部屋から、携帯用の小型扇風機がちょくちょく落下し、危ない。「危険 ですから扇風機を窓枠に取り付けないでください」というアナウンスが流れると、 決まって、どこからともなく、「なぜ、扇風機を置くかだよね〜!ったく〜」と いう小声が洩れて、その度になんだか自虐的な笑い声が響いていました。


そんな昔を思い出しながら、その日は、昼に軽食を持ち寄ってのRIETI恒例のB BLセミナーに足を運んでいました。どこかに知っている人はいないか、あの人は あれっ‥なんて、やや意識過剰。部屋に入ると、正面に、本日のゲストの講師が 静かに開始時間を待っていました。


●BBLセミナー『知の構造化』学術俯瞰マップ
 東京大学大学院工学系研究科、技術開発戦略学専攻 総合研究機構 俯瞰工学 部門教授‥の松島克守さんでした。この日のテーマは、「『知の構造化』学術俯 瞰マップ」でした。モデレータは、松島門下の東大助教授で、RIETIコンサ ルティングフェロー兼経済産業省産業政策企画官の坂田一郎さん、言葉にメリハ リが利いて、なんとも、クールな差配でした。


さて、本題です。
 〜知識が恐ろしいほど増えて、知識の全体が人知を超えている。学問が専門化 し細分化されて、従来の学問体系では対応できない事態になっており、さらに異 分野の間の繋がりをも見る必要性に迫られている〜という。これは、もう皆様も 実感されていることでしょう。


この学術の先端における爆発する知識を、コンピューターベースで俯瞰する、 というかつてない新しい方法論。それが「知の構造化」をまさしく俯瞰する、い わば知の全体を可視化する、という手法でした。


実に面白い。複雑に絡んで拡大し、膨張する知識の全体を掴む、ということは もう限界で、とても無理だから、せめて知らないことを意識して事にあたる、最 後は、自らの直感やインスピレーションに頼ることしかない、って思っていまし た。


しかし、この手法は、確実にその実態に迫る、本来見えないものを見せるんで すから、凄い。まあ、それがどこまで見せられるか、その程度の差こそあれ、そ の理解度、認識のレベルは、やはり見る側の問題意識やバックボーン、あるいは、 その人の経験や人生観などが色濃く反映されるのでしょうか。参加者の戸惑いは、 その質問によく現れていたのではないか、とも感じました。


いくつか、事例を紹介していました。グーグルの検索で情報を見れば、例えば 「CSR」(企業の社会的責任)は日本語だけで27,900,000件が表示されるが、お そらく1ページ目の表示しか見ない。そして、もう検索という知識ベースでは、 役に立たない規模に膨らんでしまっている、という。


専門の深化が、蛸壺的な知識の分断を引き起こしているのではないか、と指摘 し、そして、専門家はそれらの意味を踏まえて俯瞰することができるが、その爆 発する知識を処理できない。ひと昔は、必要な専門雑誌が数誌であったものが、 数倍に増えて、その論文とて読みきれていない事態らしい。


一方、情報科学では、大量の情報を処理できるものの、何が重要かが理解でき ないし、意味を理解できない。それぞれの矛盾を補って結ぶのが、知の構造化の 手法で、それに一歩進めたのが学術俯瞰の可視化することでした。


●「Sustainab」29,392件の論文を観る
 この日、具体的に可視化の事例を示したのは、地球の温暖化や環境問題に絡む、 持続可能なという意味の「Sustainab」でした。これを引用文献データベースで 検索すると、29,392件の論文データが得られました。


この部分を配布資料からの引用を交えて説明すると、ネットワーク構築・最大 連結成分の取得、それらのクラスタリング、そこから絞り込まれた上位15のクラ スターに名前を付けて、3D画像のようなマップを立体的に浮かび上がらせるこ とを実現した−、そんな感じでした。この分野の第一人者の小宮山宏総長が監修 にあったそうです。


その画像は、細い糸の塊が、大小いくつのも綿飴みたいに絡んで立体的な関係 を見せていました。その塊がテーマごとに分類されたクラスターなんですね。そ れぞれが複雑に引き合って、学術論文「Sustainab」の未知の世界を現出してい ました。う〜む、これが可視化だ〜。なんだか、銀河の宇宙に漂う星雲のようで した。


それが、どうなっているか、というと〜。もっとも引用件数が多い論文は、1 位「agriculture」、2位「fisheries」、3位「ecological economics」、4位「f orestry(agroforestry)」、5位「forestry(tropical forestry)」、6位が 「business」‥で、「water」が8位、「urban planning」が10位、「energy」が 12位、「health」が13位という風に、それぞれのクラスターの活動や規模が分野 別にランキングしているんです。農業全般が先端の緊急テーマかといえばそうで はなく、それぞれのクラスターの論文の関係や、それらを学問分野全体から見る ことを実現しているんですね。


そして、松島先生は、知の構造化の期待される成果として、前述した学術知識 の俯瞰、知識表現のモデル定式化、テクノロジーマップの作成、市場データマイ ニング、特許分析などを挙げており、それと経営戦略の視点という観点からは、 社内情報の価値化や知財戦略など多くの可能性を示唆していました。敢えて書き ませんでしたが、凄いテーマも散見されました。これらひとつひとつがビジネス モデルになりそう。ずっと眺めていると、なんだかイメージが膨らんで、アイデ ィアが湧いてくるようです。


貴方なら、どんなテーマを選択して、そこから何を見るでしょうか。松島さん は、新聞や雑誌の記事データなんかも面白いのではないか、という。僕もそう思 いますね。いまホットな話題は何か、メディアは何をどう捉えているか、という 分析と、社会が必要としているテーマとの刷り合わせや比較分析ををすれば、何 が起こっているか、その辺が明確になりそうですね。例えば、嫌味なことをいえ ば、いかに時代のニーズから離れたところに、メディアが論点を置いているか、 そのピントのズレ具合が見えてくるのではないだろうか。


政治、教育、福祉、経済、文化、生活、外国、若者‥そのカテゴリーを分けて その分類からクラスターをチョイスして得られた分野別のランキングと、あるい は世論調査などとを比較する、という方法もあるかもしれません。まあ、素人の 僕のイメージですから‥。


●野中先生がご指摘の「分析」と「直感」のバランス
 分析も重要だが直感的も必要です−というのは、一橋大学名誉教授の野中郁次 郎さんです。2005年11月11日に死去した経営学者のピーター・ドラッガー氏を悼 んで書かれた日経新聞「経済教室」の論文を読んでいたら、こんな記述がありま した。


〜ドラッガーが卓越していたのは、社会現象の分析において、この「分析」と 「直感」のバランスが取れていた点、と前置きして、ドラッガーは、マネージメ ントは実務であり、唯一絶対はなく、「値打ちは医療と同じように科学性によっ てではなく患者の回復によって判断しなければならない」(新版『企業とは何 か』)と述べている、と書いて、経営の科学性に自信をもっていたGMは、ドラッ ガーの考え方を受け入れず、黙殺したGMとは対照的に日本の企業は多大な影響を 受け、発展のきっかけとなった、という有名なエピソードを紹介していました。 野中さんの論旨は、明快で一貫しているから、安心して読み進める事ができます。 う〜む、患者の回復で判断か〜。


さて、このランチをはさんでのBBLセミナーは本来、フランクな意見交換が狙 いなのですが、松島さんが発したひとつの言葉が、いまだに深く脳裏に焼きつい ているんです。それが‥。


「(現代は)情報に溺れ、知識に餓えている」。


本当にこの言葉通りですね。洪水のように吐き出される情報(インフォメーシ ョン)をどのように取捨選択し、ナレッジとして取り入れていくか。僕は、やは り顔の見えるネットワークからの情報が、何より重要度を増してくるような気が してきます。発信者のその人に信頼を寄せているからです。


例えば、最近の例で言えば‥こんなことご存知ですか?


●マイクロソフト1800億円という空前の賠償金の裏側
 この先月23日の各紙夕刊は、シリコンバレー発のニュースとして、通信機器大 手の仏アルカテル・ルーセント社がデジタル音楽技術に関する特許を侵害された として、米マイクロソフト社を提訴していた訴訟で、米カリフォルニア州サンデ ィエゴにある連邦地裁の陪審団は、アルカテル側の訴えを認め、マイクロソフト に約15億ドルの賠償金支払を命じる評決を下した〜という事実関係を伝えていま した。


15億ドル、ざっと円に換算して1800億円という空前の賠償金なのですが、マイ クロソフト側がこれを不服として対抗手段をとるのは当然として、その裏に何が 起こっているのか、なんにも分かりませんね。知財をめぐる国際紛争のその最前 線で一体何が起こっているか、そのポイントは何が重要か‥。日本の知財関係者 は必見です。


ご紹介するのは、現地シリコンバレーで弁護士活動に携わる、中町昭人さんで す。ご存知のようにDNDユーザー8888人目の記念の登録者でした。その彼から、 以下のようなメールが届いていました。その一部です。その文脈から何を読みと るか、それは、皆様のご判断です。


〜お世話になっております。この木曜日(2月22日)にカリフォルニア州 サンディエゴの連邦地裁にて、マイクロソフト社に対して$1.52 Billion (約1800億円)という、アメリカ特許訴訟史上最高額のJury Verdict(陪審 員による評決)が下されましたが、このMP3フォーマットに関する特許侵害訴訟 において原告のAlcatel-Lucentを代理したのは、弊社Kirkland & Ellis LLPでご ざいます。


この裁判でAlcatel-Lucentの主任弁護人(Lead attorney)を務めたのは、K&E のNYオフィスのパートナーのJohn Desmaraisです(「デメリス」と発音します)。 Desmarais弁護士はIP Law & Businessの記事にもありますとおり、昨年2006 年にドイツの半導体メモリーメーカーInfineon Technologies AGを代理してRamb usとの5年以上に亘る厳しいDRAM特許訴訟を戦い抜いて、最終的に衡量法(Equi ty)上の原理である「unclean handsの法理」を駆使してInfineonを(本当に際 どく)勝利に導きました。


●弁護士・中町昭人さん所属のKirkland & Ellis LLPの実力
 日本勢も含めた他の半導体メモリーメーカーのほぼ全てが何年も前に、同じRa mbusの特許に屈して和解を飲むか訴訟を仕掛けて敗訴し、やむなく多額のロイヤ リティを支払い続けてきた(あるいはDRAMビジネスから完全撤退した)のとは対 照的な結果であり、アメリカの訴訟(特に特許訴訟)において弁護士の力量が勝 敗の結果(そしてその後のクライアントの中・長期的なビジネスの国際競争力) に与える影響の大きさをまざまざと見せ付けた素晴らしいTrial Victoryでした が、今回の訴訟においても彼のSuper trial lawyerとしての実力が遺憾なく発揮 されたと言えるでしょう。(中略)。


私が所属するKirkland & Ellis LLPの宣伝に終始したメールと感じられた方 がいらっしゃったら申し訳ありません。しかし、私が一番指摘したかったのは、 ディスカバリー(証拠開示)や陪審制度などの特殊な要素を多分に含む アメリ カの訴訟においては、日本も含めおそらく他のどの国よりも、弁護士(組織とし てのローファームというよりも、その中の特定の個人)の選択が訴訟の結果に与 える影響が大きいということが、未だに多くの日本企業において本当の意味で十 分に認識・理解されていないのではないだろうか、という問題点です。常に間違 いなく訴訟に勝てる弁護士やローファームなど存在しません(Krupka弁護士やDe smarais弁護士でも、やはり負ける時は負けるのです)が、だからといって「ど の弁護士でもそう大きくは変わらないだろう」と思うことは大間違いです。これ からアメリカ市場において日本企業は 益々激しいビジネスの競争に晒されてい きますが、長年苦労して積み上げた利益を弁護士選びが稚拙なために一つの訴訟 で吹き飛ばされるとすればあまりにも残念であり、またもっと心配なのは、そう いうアメリカの訴訟リスクを十分にコントロールできない状態が長年続いている 間に、将来もアメリカで激しい競争を続けていこうという根本的な意欲・情熱が 徐々に殺がれていくおそれがあることです。(中略)


あらゆる案件に万能な弁護士やローファームなどどこにも存在しませんし、ま た時間の経過によってそれぞれの弁護士・ローファームにも浮き沈みがあり、そ れこそがその選択を難しくしている原因なのですが、だからこそ日本企業は各時 点において当該ケースに対してベストと考えられる弁護士・ローファームを選択 する努力を常に怠ってはいけないのだろうと考えます。【中町】。


※この中町さんからのメールは、ご本人の了解を得て掲載し、出口がその一部を 抜粋しました。全文をご希望の方は、メールでその旨をお知らせください。こち らから添付資料等も含めて送付いたします。


記憶を記録に!DNDメディア塾
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