◆ DND大学発ベンチャー支援情報 ◆ 2007/02/28 http://dndi.jp/

イノベーション25戦略の中間報告の読み方

DND事務局の出口です。さて、さて、春動く3月。イノベーション25戦略会 議が始動開始です。イノベーションで拓く2025年の日本の確かな将来像を描 き、それに向って動く「政府のイノベーション25戦略会議」の中間報告が26 日にまとまり、公表されました。


皆様、昨日27日の朝刊各紙に掲載されている通りです。ざっとみて、各紙はそれなりの扱いで、評価もし、注文もつけていましたね。読売新聞は、社説で、日本が今後も経済成長を続けるにはどうしたらいいのか、そのための長期戦略指針と位置づけて、「日本を支える唯一の手段は生産性の向上だ。それをイノベーションをテコに目指すという。そのためには、人材育成や働き方、企業や制度のあり方に発想の転換が要るとし、国民に『価値観の大転換』を求めている」と新産業創出を軸に解説し、中間報告が描く未来像の一端に触れて「出る杭となる人材が育つという。世界に開かれ、スピード重視の社会になるという。しかし、ついていけない不安を抱く人もいるだろう。格差が広がる恐れもないか」と苦言を呈していました。が、う〜む、少し杞憂でしょうか、まあ、社説という性格上、「改革の先の明るい道筋を示せ」との見出しになるのは、やむをえないが、そこも大事なポイントなのでしょう。


この中間報告、新聞の記事を見ていただけでは、全体がつかめません。内閣府のサイトにアクセスして発表の全文を読んでみると、結構、膨大、87Pに及ぶボリュームでした。まあ、それをわずか、50行、60行の記事、大体、原稿用紙1枚半程度でまとめるーというのは、かなり無理があります。


以下のURLでご覧になれますので、ご参考までに。
 http://www.kantei.go.jp/jp/innovation/dai8/index.html


新聞の中では、日刊工業新聞が出色でした。一面肩に4段で、概要を伝え、終面の「深層断面」で、「組織や価値 創造的に破壊」という見出しで、ワイドな特集を組んでいました。記者は、編集委員の山本佳世子さん。「目を引くのは」として、イノベーション担当相の高市早苗さんがご自身で徹夜で仕上げたという本記の前の6Pの「私の思い―生活者、納税者の視点」での意気込みとその内容を細かく紹介していました。「覚悟と勇気」との小見出しで、高市さんのこんなメッセージを紹介していました。


「日本人の価値観の大転換を求めることになるかもしれない新たな挑戦は、政府が傷だらけになる覚悟と勇気を持って国民に問題提起をし、日本の未来像を国民と共有する努力をしなければならない」と。


 個人的には、「伊野辺(イノベ)一家の1日」と題した20年後のある家庭の風景を描き出しているのも斬新ですが、一般紙にこぞって取り上げられた2025年の目指すべき日本の社会の20の例、ドラえもんのテーマソングじゃないが、こんな発明、こんな仕組みの「夢の実現」に向けた技術評価は、そのタイトルを眺めているだけで、多いに参考になります。


例1のカプセル1錠で寝ながら健康診断―は、就寝前にマイクロカプセルを飲むと、朝にはすべての健康状態がわかってしまう、という常時健康診断が可能で、診断結果が病院に瞬時に送られるから、いつでもどこでも診断、遠隔治療が可能になる、という。いやあ、NHKのお正月番組、「未来への提言」で、血液中に入り込んで遠隔操作が可能な遺伝子治療の「ナノロボット」の実際を取り上げていましたが、これは夢でもなんでもいようです。で、僕の着目は、それを実現するための、必要な技術やシステムはどういうものか、という項目をつぶさに列記しているところでした。


カプセル1錠で診断―では、家庭の健康管理と異常時の診断システムやマイクロマシンの超小型健康管理デバイス、ネット経由の遠隔医療、広域医療情報システムなどを上げて、それらの技術的実現と社会的適用のそれぞれの時期を明示していました。その事例が20項目で、ざっと65の事例を紹介していました。どうしてこんなことがわかるんだろうーって不思議に思って、37Pの欄外の説明を見ると、これがなんと「科学技術予測調査」というもので、文部科学省科学技術政策研究所が2003年から2年間の計画で実施した「科学技術の中長期発展に係る俯瞰的予測調査」がベースになっているという。この予測調査には延べ2500人以上の専門家が参加したそうです。凄いですね。


 まあ、全部書こうと思ったのですが、見ていただければいいでしょう。ですが、科学技術リテラシーの観点から、この「夢の実現」と「科学技術予測」は学習テーマとしては、きわめて面白く思いました。さっそく、僕が応援している福井県鯖江の若者が集まる「鯖乃家メディア塾」で、これを教材に研究会でもやろうよーって、先ほど、そこのボスの出水孝明さんに電話したところです。まあ、メディア塾といって綴り方を憶えても、社会や科学技術が見えなかったら、雑文しかかけなくなってしまいますよね。より高い次元でも科学技術ジャーナリスト養成講座、というのも悪くはない。これを全国レベルまで押し広げていく、というのもアイディアかもしれません。まず、自分の足元からすぐ進めよう、「Carpe Diem」はラテン語で今の瞬間を掴み取るという意味で、その「今日をつかむ」は、尊敬する黒川清さんから最近頂いた言葉でした。


で、うまく黒川さんに結びつきました。本編の19Pから27Pまでの8ページにわたって、黒川さんの渾身のメッセージが続きます。項目は5つ。その1は、「未来を視る、未来を創る」。その後段〜皆さん一人ひとり問いかけたい。21世紀も四半世紀が過ぎる2025年、あなたは、何歳になって、どんな社会で、何をしているだろうか。(う〜む、僕は71歳だぁ、伊野辺家の一郎さんより少し若い。なんだかねぇ〜)。あなたの家族、子供は、孫は、何をしているだろうか。その時、世界は、アジアは、そして日本はどうなっているだろうか。いや、どういう世の中になってほしいだろうか。(略)今、まさに、グローバル世紀に向っての第2の「開国」の時期にきている。それを切り拓くカギは何なのか。歴史を見れば理解できるように、カギはいつも「出る杭」である異能の才であり、社会変革であるイノベーションである〜。


その2は「グローバル時代と世界情報化」。そのやはり一番最後の文節は〜イノベーションは、単に言葉の遊びでもないし、魔法の解決策でもない。この5〜10年でこの言葉が急に政策の表舞台にでてきたのは、これを認識していないと国家も政策的に誤まった判断を、また大学もミッションを、そして企業も経営戦略を(それぞれ)誤まることになりかねないからであろう。グローバル競争の時代、「イノベーション」にはすべてのステップで世界を見据えた俯瞰的なものの見方が必要であり、そして決断のスピードが大事な条件となっている〜。


その3は、「グローバル時代の日本の立場と課題」、4は、「イノベーションを起こす条件:ダイナミズムに富む社会」そして、その5が、「イノベーションのカギは人づくり:「出る杭」を伸ばす」。それぞれに強烈な言葉が散りばめられています。これ以上、敢えて紹介はしませんが、魂を揺さぶるような、黒川さんのやむにやまれぬ叫びと感じてしまいました。不思議にこの報告書を読んでいると、いつしか黒川さんの、あのやや高いトーンの声が聞こえてくるじゃないですか。機関銃のような言葉の連射、歴史やデータ、固有名詞がよどみなく流れる、この勢いは、どこからうまれるのでしょうか。


そのタイミングよく、昨日午後は、産総研シンポと銘打って日本経済新聞8階のホールで、イノベーションをテーマに理事長の吉川弘之さん、黒川さん、経済産業省の小島康壽局長らが基調講演に立っていました。600人の座席はほぼ満員でした。廊下にモニターを流すほどの盛況でしたね。


いやはや、ノー原稿で、明確に、それで実にクールにスピーチされたのが、 黒川さんでした。また一段と、凄みを増していました。磨かれて、そして洗練 された印象を持ちました。13時35分から14時05分まできっかり、謳いあげるような講演でした。内容は、その「出る杭を伸ばすイノベーションの真髄」という感じでした。お疲れ様ですね。ほんと。会場でもらったチラシには、今度、3月12日、13日に東京の虎ノ門パストラスホテルで、内閣府経済社会総合研究所主催で、「イノベーションとその取り組みをめぐる国際動向」の国際シンポが開かれますが、初日の午後、DND馴染みの総合科学技術会議議員で東北大学教授の原山優子さんがモデレーターで、その場に黒川さんが基調講演のお立場なんですね。これもいかなくっちゃ〜。


さて、今回の中間報告、皆様はどう感じられましたか?これは内閣府がやるんじゃなくて‥そうです、私たちみんなに課せられた将来に向けた現在の課題であるーということをゆめゆめ忘れてはいけないーと僕は、昨日の講演をお聞きして感じました。


あなたはどうするんですか?黒川さんは再三、呼びかけていました。梅田望夫さんの『シリコンバレー精神〜文庫のための長いあとがき〜』を引き合いに、これを読んで1割の人がピーンとくれば、なんとかなる!ということにも触れていましたね。


さて、イノベーション25戦略会議の折り返し点です。今後、5月の最終報告に向けてまた動き出しましたので、ここで少しおさらいしておきましょう。 


 イノベーション25戦略策定に関して安倍総理からは、「私の言うイノベーションとは、単に技術革新だけではなく、新しいアイディアや仕組み、ビジネスプランを含め、広く社会のシステムや国民生活などにおいて、いままでとは違う取組みにより、画期的・革新的な成果を上げることなので、その考え方を徹底して欲しい」との指示が出ていました。


以後、10月3日、黒川さんへの内閣特別顧問の内示、その5日には「イノベーション25特命室」を設置(丸山剛司氏が室長を拝命)、黒川清内閣特別顧問を座長に7人の有識者(PHP総合研究所社長の江口克彦さん、日本経済団体連合会から副会長で東芝会長の岡村正さん、日本学術会議会長の金澤一郎さん、東大大学院情報学環教授の坂村健さん、関西経済連合会から副会長でアートコーポレーション社長の寺田千代乃さん、そして総合科学技術会議議員の薬師寺泰蔵さん)で構成する「イノベーション25戦略会議」がスタートし、10月26日に総理も出席しての初会合が開かれました。


それから正月を挟んでちょうど4ケ月、それまでにヒアリングなど8回の戦略会議を招集し、それぞれに各委員からのプレゼンを繰り返した他、随分といろんな学者らの応援もあったようです。


一橋大学名誉教授の野中郁次郎さん、JSTの研究開発センター長の生駒俊明さん、東大先端研センター所長の橋本和仁さん、日本学術会議は、2200人の会員総力でした。それに新たにイノベーション推進検討委員会を設置し、会長で委員長の金澤さん、副委員長のJST理事の北澤宏一さんらが、「科学者コミュニティが描く未来社会」の報告書をまとめ、提案していました。科学技術政策研究所長の國谷実さん、その他、各省庁が協力し、一般の方々からの400通近いご意見も参考にした、という。


イノベーション25の策定後は、経済財政諮問会議に報告し、6月に決定される予定の「骨太の方針2007」に反映させて、来年から、順次、ロードマップに従って、予算措置や税制改正、それに社会システム刷新のための法制度の改革に着手するという。


まあ、当面、イノベーション旋風は、収まりそうもないですね。いいものができそうですね。みんなの意識も変わらなきゃ、ですね。


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