◆ DND大学発ベンチャー支援情報 ◆ 2007/02/07 http://dndi.jp/

「不都合な真実」の警句と処方


DND事務局の出口です。とてもユーモラスな場面といっても笑えないし、実は 極めてシリアスな事態に〜という深刻な指摘についても実際、どう対処していい のか、その鈍った感覚はおそらく"茹でカエル"状態なのかもしれません。本日、 エコロジスト宣言!


地球のためにあなたが出来る最初の一歩は、この事実を知ることだ−の映像か らのメッセージは、鮮烈で劇的でした。衝撃の映像、恐怖の事実、政権への告発、 それらを裏付ける数々の科学的データや証言、そして、主人公の米国元副大統領、 アル・ゴアの半生のヒューマン・ドキュメント、2000年の大統領選挙に僅差で敗 れた失意から這い上がる勇気、世界を巡って訴えた1000回を超えるスライド講演 行脚、その情熱と確信に満ちたスピーチには、ある種の感動すら憶えました。


『不都合な真実』(AN INCONVENIENT TRUTH)。いま、それが話題騒然、とい う経済産業省で新エネルギー政策を担う精鋭の安藤晴彦さんからの指摘で、急ぎ 書籍(ランダムハウス講談社刊)を求め、東京・有楽町の映画館に走りこんでい ました。


副題の「The Planetary Emergency of Global Warming and What We Can Do A bout It」には、「あなたはこの驚くべき現実に向き合いますか?目を背けます か?」という、日本語訳が添えられていました。


「真実を否定してはならない」―アイロニーの利いた作家、マーク・トウェイ ン語録のひとつが、スクリーンいっぱいに並び、昔の科学実験で知られる"茹で カエルの逸話"、それがアニメバージョンでユーモラスに描かれていました。


映画は中盤。ゴアのレクチャーはますます冴えを見せてきます。アニメに、暢 気な青カエルが登場します〜沸騰しているお湯にカエルが跳び込む、カエルは次 ぎの瞬間、ぴょんとお湯から跳び出します。瞬時にその危険が分かるからです。 同じカエルを生温かい水の入ったお鍋に入れて、沸騰するまで少しずつ温度を上 げていくと、どうなるでしょう?ただ、じっと座っています。同じ危険がある、 というのに‥。自分たちの身の回りで、重大な変化が少しずつゆっくりと起って いるとしたら、あのカエルのように、突然の衝撃を受けない限り、警報ベルのス イッチを入れるような大きな変化が急展開しない限り、反応しない。温暖化は、 地球の歴史から見れば実は電光石火のスピードで進んで、今ではそのスピードが 非常に加速し、すでに鍋が沸騰する泡ぶくが見え始めている−。


北極の氷はこの40年間に40%縮小、今後50〜70年で北極は消滅し、水位は6b 上昇、雪と氷河のキリマンジャロ、米国のグレイシャー国立公園(氷河)、アラ スカのコロンビア氷河、南米のペルー、パタゴニアの氷河、スイスのチェルバ氷 河、ロゼック氷河、そしてチベット平原のヒマラヤ氷河などが、この数十年で氷 河が後退し、消滅し、著しく姿を変え、無残にも岩肌を露出させていました。


データはその急激な変化を裏付けていました。1000年にわたる二酸化炭素濃度 と気温の相関、この50年の加速は異常な数値を示し、二酸化炭素濃度は、産業革 命以前の65万年の間、300ppmを超えた事が一度もない。しかし、すでに400に近 づき、45年後には600を超える、という予測を提示し、南北戦争の1860年当時か ら2005年の地球の温度の経年の測定結果で見ると、上位21年のうち、20年はこの 25年に集中し、全部の記録の中で2005年が最も気温が高かった、という。


海水温が上がると、暴風雨の勢力が強まり、フロリダでは4つの並外れた強烈 なハリケーンが襲い、竜巻の発生も史上最多、2005年8月26日のカトリーナーの 猛烈な被害の記憶は生々しい。


「先送りや生半可な策、聞こえのよいよくわからない急場しのぎ、遅延の時代 は終わりつつある。その代わりに私たちは、結果の時代に入りつつある」という のは、1936年当時のウィンストン・チャーチルでした。ヨーロッパ大陸に恐ろし い嵐が吹き荒れ、これはいままでの嵐とは異なるものだ、ということの警告を発 した時の、彼の叫びだったようです。グリーンランドの氷が溶け出して、英国の ブレア首相の科学顧問、日本の内閣特別顧問の黒川清さんのような立場なのでし ょうか、そのサイエンス・アドバイザーを務める、デイビット・キング氏ら科学 者は「世界地図を、書き直さなければならなくなるだろう」とその氷床の変化の 影響に触れて、こう警告を発していた、という。


文明と地球の生態系が根本的に変わってきた要因を、第一には人口爆発、シー ザーやキリスト時代の人口は2億5000万人、1776年の建国時は10億人に増加、 第二次大戦の終わりには20億人を超えたばかりで、ゴアはその自らの半生で6 5億人に増えるのを見てきた、といい、やがて90億人を超えて増えるのも見る ことになる、とその増加の加速ぶりを指摘していました。


頻発する洪水、逆に干ばつや飢饉、鳥インフルエンザやSARS、それに西ナイル ウイルスの猛威、感染症や新しい病気の蔓延、春夏秋冬の異変、異常、サンゴの 白化‥ゴアは、これほど明らかな警告が私たちの指導者たちの耳に届いていない ように見受けられるのは、なぜなのだろうか?と自問し、この一連の主題となる、 「不都合な真実」の核心を浮き彫りにしていました。


「それを認めた瞬間に、道義的に行動を起こさねばならなくなることを知って いるがため、警告を無視する方が都合がよいから、というだけなのだろうか?そ うなのかもしれない。しかし、だからといって、不都合な真実が消えるわけでは ない。放っておけば、ますます重大になる」と訴えているんですね。


温暖化をめぐっては、科学者の意見が真っ二つ分かれている、という誤解の背 景を探り、実は意図的に作り出されたものだ−というくだりの、立証に関わる部 分は圧巻で、エクソン・モービルなどの石油、石炭、電力・ガス会社を中心とす る、温暖化対策に腰が引けている、というよりその事実を隠蔽しようとする利益 団体の暗躍を、情報かく乱、政権のロビイスト活動の実態を暴いてみせていまし た。詳細は、映画を見るか、書籍を買うか、どうぞ、その地球のために出来る、 最初の一歩を踏み出してください。


冒頭にも触れましたが、きっかけは〜経済産業省エネ庁で新エネルギー課長と いう、水素・燃料電池推進の旗振り役の安藤晴彦さんが、九州大学助教授の五十 嵐伸吾さんが主宰するVBの情報交換WINWINのMLで、「不都合な真実」が話題沸騰 ですね〜って指摘し、新エネルギーをめぐる米国のベンチャービジネスが蠢いて いる実情を投稿し、それを見てビビッときてしまいました。その安藤さんの投稿 は、DND緊急提言のEXTRAとしていくつか加筆、修正していただいて、本日、アッ プしています。シリコンバレーなどの新エネルギー関連のベンチャー投資が蠢い ている、その実際を捉え、加えてわが国の取り組みや、ベンチャービジネス創出 の狙いなどにも記述されています。参考資料もご覧ください。本日7日から、東 京ビッグサイトで第3回国際水素・燃料電池展が開幕しましたね。ググッと動き が加速しています。


そこで今朝早くオフィスに陣取ってメルマガを打っていると、なんと安藤さん の投稿に呼応して、僕が最も知りたかったゴアの直近の情報が飛び込んできまし た。その有り難くも奇特な情報提供の方は、シリコンバレー在住の弁護士で‥そ うです、DNDユーザー8888人目の中町昭人さんでした。


お米の恩返し〜(笑い)。メールでその情報の一部を引用する快諾を得ました ので、幾つかご紹介いたしますね。ああ、なんかワクワクしてきます。昔の新聞 記者に戻った久々の特ダネ感覚です。


【中町昭人さんからのメール】
 ご参考までに添付は、先週金曜日(2月2日)に Al Goreがシリコンバレー のビジネス/テクノロジー・リーダー達に対して行ったスピーチに関する地元新 聞(San Jose Mercury News)の記事です。この中で、シリコンバレーでの"Clea n Tech"への投資額は2005年の$141Mから2006年の$516Mへ急増 したという統計や、KPCBのJohn Doerrによる、全米ベースでの"Clean Tech"に関 連する投資額は2006年の第3・四半期のみで10億ドル近くに達したという コメントも紹介されています。


しかし、会場の聴衆同様に、一番笑ったのは、下記の部分でした。


Gore gave a rueful laugh to a written question from one audience member regarding the Bush administration's dismissive attitude toward recommend ations of the Intergovernmental Panel on Climate Change.


``You know the answer to that one,'' Gore said. "It isn't that the oil l obby has too much influence in the White House. It's that the oil lobby is the White House." 


(「その質問に対する答えはもう分かっているよね。(中略)それは、ホワイト ハウスに対して石油業界のロビー軍団が強い影響を持ち過ぎているという程度の 問題ではない。本当の問題なのは、石油業界のロビー軍団がホワイトハウスその ものに他ならないということなのだ!」)。 Laughter rippled through the a udience.


もっとも、上記に続く下記の文章を見ると、文中にあるとおり、笑ってばかり いられない(当たり前ですが)気にさせられます。(以下略)。


 さて、ゴア旋風がシリコンバレーでも吹き荒れているんですね。ゴアの論調も 激しい。が、そこでも勿論"AN INCONVENIENT TRUTH"が2006年のアカデミー賞に ノミネートされているなどの話題も紹介されています。さらに記事を読むと、聴 衆の数は1400人と大盛況だったようです。で、ゴアとシリコンバレーの結びつき は、これには腰を抜かしそうになりました。


"This really is kind of a second home now,"said Gore,a Tennessean.He is a board member at Apple,special adviser to Google and chairman of San Francisco-based Current TV.He and his wife,Tipper,have a second home in San Francisco.


 生粋のテネシー生まれのゴアは、ここは第2の故郷のように優しい、と言う には理由があって、サンフランシスコに妻のティッパーさんと過ごす別荘を持っ て、それより、なんとアップルコンピューター社の取締役で、グーグル社の上級 顧問、そして市民ジャーナリズムを標榜する独立系ケーブル・衛星テレビ「カレ ントTV」の会長も兼任しているんですね。


映画でも紹介されていましたが、2000年11月7日の大統領選挙、共和党のブッ シュとの史上に残る接戦は、その最後のフロリダ州の攻防を巡っては若干疑義が あったらしいけれど、266対271の僅差で敗北、その当時を回想して、彼は、映画 で「打撃だった」と表現し、「これからどうしたらいいか」と迷い、そして相当 落ち込んだ時期もあったらしい。が、「進むべき道が見えてきた」というのが、 長年のテーマとしていた地球温暖化防止などの講座だった、という。それから苦 節7年余り、ゴアは甦った感じですね。


こう見ると、本当の勝者は、果たしてどっちだったのでしょうかね〜。このゴ アの再チャレンジは、なんだか人生の奥深さを感じさせてくれますね。


さて、この映画の主題は、次に、「将来を守るため、私たちはもう一度、立ち 上がらねばならない」と力説し、そして危機回避に向けた詳細のメニューを提示 してくれています。


巷間、暖冬異変。2月7日は、1904年の記録と同じ東京の初雪が遅い史上2位、 これが10日に引きずると1960年と同じ1位で、11日以降は観測史上最も遅い記録 となります。ゴアが最後に指摘する、「私に出来る10の事」の1、2番目は、C hange a light、Turn off engineでした。茹でカエルにならないために、アクシ ョンを起こしましょうか〜。


記憶を記録に!DNDメディア塾
http://dndi.jp/media/index.html

このコラムへのご意見や、感想は以下のメールアドレスまでご連絡をお願いします。
DND(デジタルニューディール事務局)メルマガ担当 dndmail@dndi.jp