◆ DND大学発ベンチャー支援情報 ◆ 2006/10/18 http://dndi.jp/

「仮面教師」と「いじめ自殺」

〜教育再生会議スタートに寄せて

DND事務局の出口です。重苦しくてやりきれない。なんとも寂寞とした虚し さに言葉もでません。学校、それは思い出がいっぱい詰まった子供の頃の原風景 であり、いつでも記憶が蘇る心の故郷である、と思い込んでいたら、もうとんで もない状況にあるようです。


福岡県筑前町で中学2年の男子生徒(13)、北海道滝川市で小学6年の女児(当 時12)、いずれも自殺の動機が「いじめ」にあったということは遺書や状況で 明白でしょう。北から南へ、この悪しき連鎖は、直ちに断ち切らないといけませ ん。しかし、「いじめ自殺」だった、ということを黙して認めない、そんな奇妙 な教育現場が野放しにされているとすれば、事は重大で深刻です。これらは氷山 の一角という指摘もありますが、それは本当なのでしょうか。



 勝谷誠彦氏「いじめは暴行であり恐喝だーの正論」


TBS朝の生番組「朝ズバッ!」の人気司会者、みのもんたさんが、吠えていま した。〜どういうことなの、いじめに加担した教師、それに生徒、みんな「私が いじめをしました」と書いたプラカードを下げて歩きなさい!とんでもない、こ んなこと許されない、とうっすら涙をためて憤慨する場面もありました。


番組で集めた視聴者からのいじめに関する体験や意見がメールやFAXで839通寄 せられていました。感心が高く、教育現場でいじめが蔓延していることを裏付け ていました。


テレビ朝日系列の朝の番組「スーパーモーニング」のコメンティターで評論家 の勝谷誠彦さんは、「いじめ」という言葉は、強姦をいたずら、と言い換えるの と同じ欺瞞だ、という批評の一部が、昨日の産経新聞のコラム産経抄で紹介れて いましたが、本日も「いじめ」は暴行であり、恐喝、脅迫だ、それを「いじめ」 という言葉でマスコミがごまかしている‐と怒りをあらわにしていました。


新聞メディアも一斉に糾弾しています。読売は「いじめで将来ある命が奪われ る。そんな悲劇をいますぐ終わらせたい」と社説「教師がいじめの大本とは‥」 (17日)で訴え、朝日も「悲劇を根絶するには、子どもたちの叫びに周りの大人 が真剣に耳を傾け、いじめを決して許さない姿勢を貫くことしかない」とやはり 本日の社説「子どもの叫びを聴け」でした。


う〜む、20年前の東京都中野区の中学2年の男児生徒が、「葬式ごっご」など の陰湿ないじめにあって「このままじゃ、生きジゴクになっちゃうよ」との遺書 を残して自殺し、その後、4人の教師が加担していたことが発覚して世間に衝撃 が走りました。12年前は、愛知県西尾市で、やはり当時中学2年の男子生徒が同 級生から暴力をうけたり金銭を要求されたりするいじめを受けたこと苦に自殺し ました。その遺書に、「今日、もっていくお金がどうしてもみつからなかったし、 これから生きていても‥」と書かれ、いじめの実態が具体的に浮き彫りになって 社会問題化していましたね。



「隠蔽、責任逃れの教育関係者の病巣」


しかし、何度も繰り返えされるいじめ、これはもう勝谷さんが指摘するように 「いじめ」という温い表現では括れません。暴行、恐喝、そして殺人的行為と変 わらない。そして、それらの問題の当事者であるべき学校関係者、ここに実はも っと深刻な病巣の根本があるようです。


教師、校長、教育委員会の室長、部長、教育長ら、いじめ自殺の現場に直接関 わっていながら、その原因を隠蔽し、やっきになって責任逃れしようとする醜く 歪んだ顔が、テレビの画面から茶の間にくっきり映し出されていました。


詭弁を弄して狡賢く立ち回って、メディアからの追求をかわしているつもりな のでしょうが、こんな説明では、間違いなくこんなところに自分の子供は預けら れない。滝川市の教育委員会の管理職のひとりは、取材に、「遺書でしょう!あ れは遺書でしょう。苦しくてたえられないので自殺を考えました〜というのは遺 書でしょう」との追求に、「手紙です、遺書じゃないと思います」と言って、 「なぜ!手紙なの?」との質問に、「以前から手紙と呼んでいましたから手紙で す」と逃げる、まあ、こんな詭弁を堂々とテレビの前で言えるもんです。教育委 員会の管理職?って、この程度?きっと、「遺書」と認めてはいけない、と誰か にクギを刺されているんでしょう。


 福岡県筑前町の三輪中学校の男子生徒の場合も4通の遺書のひとつには「いじ められて、もういきていられない」と綴られていました。「偽善者」と揶揄した 元担任教師の言動もいじめ自殺を誘発したとして調査が進められています。が、 遺族宅を訪問し、平身低頭のその元担任は、遺影の前で、その動機を聞かれて、 「からかいやすかったから‥」といじめを認め、声を震わせて詫びる姿が哀れで したが、記者会見に度々登場する、その学校の校長の発言は、2転3転していま した。自殺後に生徒らに取ったアンケートで「いじめがある」と回答した生徒の 割合を「非常に少ない割合ではなかったかなあ、と思います」と説明し、さらに 聞かれると「1割とかそのくらい」という風でした。



「いじめを直視しない学校、教育委員会」


「いじめ直視せず」の見出しは、本日の朝日新聞の社会面でした。滝川市と筑 前町のふたつの事件に共通するのは、「学校側や教育委員会が事実を突き詰める ことに対して後ろ向きな姿勢に見えること」と指摘していました。識者は、こう した姿勢に陥ってしまうのは、「いじめ」を認めてしまうと教師の評価や査定に 響いて、将来の出世に影響するから、とのコメントがありましたが、本当とだす れば、朝日が問題提起しているように、「それにしても守りたいのは周囲の子ど もたちなのか。それとも―。」ということになります。いじめによる自殺は、9 9年から05年まで「ゼロ」という統計の数字に改ざんや隠蔽の疑いが向けられ 始めています。


仮面教師〜。そんな言葉が浮かんで、このような本があっただろうか‐とネッ トで検索すると、徳島出身で小学校教師の自らの教師人生を綴った本がありまし た。著者は、坪井啓明氏。仮面をかぶって教壇に経って15年、ついに体と心を 病んで、一度は自殺も考える状況に陥ってしまったらしい。今現在、病気療養中 で、タイトルに「先生が死と生を選ぶ時」とありました。相当、神経にダメージ を受けていたんですね。


教師という職もしんどい。今度は、千葉市立中学校の50代の男性教諭が9月 に自殺していたことが発覚し、教務主任だったこの教諭は職場で、校長から怒号 を浴びせられていた、という。遺書は見つかっていないが、多くの同僚が校長の パワハラ(職権を背景とした嫌がらせ)を原因として指摘していた、という。


(財)労働科学研究所(川崎市)の最近の調査では、小中高校の先生は他の職 種よりストレスを多く感じており、特に「抑うつ感」が1.8倍に上るそうです。 不安感も1.5倍と多かった、という。



なかにし礼さんのリアルな「いじめ体験」


まあ、いじめ、誰もが一度は経験しているかもしれません。早朝5時にテレビ をつけると、NHK教育テレビで「知るを楽しむ」の再放送の時間、作曲家で小説 家のなかにし礼さんが「いじめ」についてその体験を披瀝していました。小樽か ら青森へ、中学のなかにし少年は転校生でした。


「僕をいじめた子供をいまでも覚えています。僕の方から何にも悪いことして いないんですから。神社に呼び出されて、靴底で叩かれたり、丸太で殴られたり して顔も腫れてボコボコでした。おふくろが、学校まで訴えにいきましたけれど、 ぜんぜん取り合ってもらえなかった。彼らが僕を虐めなければならない理由は何 なのか、それを深刻に考えました。その後、その事で日本とは、日本人とは、と いうことを考える、私の大きな資料になりましたけれど‥」と。


いじめは、青森から東京への転校でやっと解放された、という。



「子供の悲鳴が聞こえてきませんか?」


全国津々浦々、いじめを受けて自殺に追い詰められて苦しんでいる、子供の悲 鳴が聞こえてきそうです。親に言えない、それは親に心配をかけたくないからだ、 という。万が一、親から担任に直訴されると、教師の口から逆にバラされてそれ が悪い方向に影響して、その報復がより恐ろしいいじめに発展する、という悪循 環がいじめを助長するらしい。いじめの発覚は、外面ばかりの教師としても自分 の評価の減点にされるうえ、学校内で教諭の評価を一任する教頭、校長にとって も、教育委員会からの評価や懲罰が怖いから、安易に「いじめ」があったとは言 わない、自殺しても遺書があっても教室で死んでも、認めたくない。そんな腐っ た体質が日常化しているとしたら、もうそんなところに子供はやれない。


近所の情報通の人が、「子供のことで学校に相談すると、相談内容でレッテル が貼られるから、絶対口にしてはいけない」って教えてくれました。


ああ、ため息がでそうです。大学の状況は〜「いじめ」はないでしょうけれど、 問題は少なくない。国立大学の研究室で助手が自殺する、という事件もミステリ アスに伝えられていました。他人の評価や風評ばかり気にしていては、もう教育 者の資質も資格もない、と思います。



「安倍内閣期待の教育再生会議スタート」


さて、安倍内閣の骨格のプロジェクト、教育改革の具体策を検討する「教育再 生会議」(野依良治座長)が本日スタートしました。教員の評価もテーマになる ようです。読売新聞のインタビューで、野依座長は、「良い教員に出会えるかど うかは、人生にとって、ある意味で決定的だ。ただ、教員の教え方の問題よりも、 人間性の問題の方が大きいと思う。尊敬できる先生や慕われる先生なら、子供は その教科が好きになり、得意になるのではないか」と話していました。


いじめ問題は、緊急のテーマにしてもらいたい。いじめる生徒がいたら、原則、 退学という重い厳罰で臨むべきであるし、それを見逃して手を打たなかった教師 は懲戒免職でしょう。そうしなければ、教育現場が世間を知らない仮面教師、仮 面教授の巣窟になってしまいかねません。


友人が、昨今のニュースを見て、教育委員会の「いじめ自殺」の対応は、北朝 鮮の拉致問題とよく似ている、と指摘していました。隠蔽、偽装、脅迫、孤立、 傲慢、権威、命令、仮面、犠牲者、不透明、責任転嫁‥。


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