DND事務局の出口です。中秋。月が冴えて、夜はひんやり。黄昏時には、眩 い、夕映えが都心のビル群を浮きただせているようです。どうしてこんな騒ぎの 時に、空は晴れわたっているのでしょう。海の向こうに声高に叫ぶか、地下壕を 掘って逃げ込むか、どっちの側であっても、核の脅威から目をそむけるわけには いかない、というそんな現実が俄かにクローズアップされてます。
しかし、いざ国難、その悪夢が再び現実味を帯びている、との憶測が流れたと しても、悔しいけれどそれを実感として捉えるたけの準備も構えも持ち合わせて はいない。無数のアキアカネが飛んで、郷愁の夕焼け雲〜そんな長閑な風景を一 瞬にして消し去る、そんなことがこの世の中にある訳がない、って言い切る、そ の確信がぐらつき始めていることは否めません。
だから、もう、あらゆる事態を常に想定していなければならない重大局面にあ る、ということなのでしょうか。杞憂なら、それに越したことはない。が、ある 覚悟を迫られている気がしてならない。
【北朝鮮地下核実験の9日は、新聞休刊日】
9日の昼前、北朝鮮の「地下核実験実施」の発表で、テレビの速報のテロップ が走り、安倍首相が訪問中のソウル、官邸、ホワイトハウスのあるワシントン、 ニューヨークの国連など世界各地から緊迫したニュースの断片が飛び交っていま した。騒ぎは、世界を震撼させた米国9・11同時テロに匹敵する、騒然たる様 相を呈していました。安倍首相の「重大な脅威」との談話が、そのまま新聞の見 出しに躍っていました。
さて、その9日は体育の日の祝日で、新聞休刊日、それも3連休と重なって、通 常なら新聞は発行されません。しかし、事前に予告されたとはいえ、編集の取材 記者らの多くは緊急招集されたに違いない。
【読売新聞の特別号外宅配のEXTRA】
「北朝鮮が核実験」の大きな凸版見出しは、10月10日付の読売新聞「特別号 外」でした。実は、これはとても珍しいことです。号外が宅配?それも新聞休刊 日に8ページのフルカラーの一般紙面、終面は英字の総力編集でした。変動著し い世界と茶の間をつなぐ、新聞の使命を唯一果たしたのが、この読売新聞の「E XTRA」だったといえるかもしれません。
というのは、このニュースは新聞社にとっては最悪の発生日だったからです。 つまり9日朝の特級ネタといっても祝日で夕刊がない。翌日の朝も休刊日で新聞 の発行が予定されていない。そしてようやく紙面で伝えられるのは、10日の夕刊、 まる1日遅れ、という事情だからです。発生から24時間、日本の新聞が唯一報道 しなかった世界ニュース、そんな風に後世に汚点を残すところだったかもしれま せん。
ざっとこの辺の各社の対応を調べると、9日の午後、街頭で新聞を配る、いわ ゆる号外を発行したのは、読売、朝日、毎日、東京、日経の各紙、10日の朝刊時 間帯に特別号外を全国の販売店に連絡を取って可能な限り宅配したのは、読売で した。一部、日経新聞も宅配したらしいが、我が家には届いていない。
まあ、僕の出身母体の産経新聞は、通常、夕刊を発行していない(東日本エリ ア)ので、北朝鮮核実験のニュースは本日11日の朝刊対応で、丸2日の遅れとな ったわけです。まさに悪夢!号外が出たのも翌日の10日になってからでした。ち ょっと残念な対応でした。
いつも郵便受けには、ほとんどの全国紙を購読していますから、休刊日10日の 朝は、家人が読売の号外を見て、「あれっ!」と思ったようでした。NHKを始 め、民放がこぞって臨時ニュースを流して特番を組み、それにインターネットで も情報が飛び交っていましたから、新聞がなくても特に不便を感じなかったのか もしれない。しかし、そこは逆に活字メディアの責任は大きい。
速報ではテレビに勝てないけれど、その事態を分析や解説記事は、新聞に最も 望まれているところですし、新聞を読まないと分からないところも多い。
こんな事態に休まずに記事にし、印刷し配達する、その読売新聞の姿勢は、大 いに評価したいと思います。記者が書いたって、配達しなければ届かない。記者 魂というより、今回は、新聞販売局、販売店のフットワークの良さを讃えるべき かもしれませんね。新聞休刊日は、新聞配達に携わる人達への慰労ですから。新 聞社で販売部長の経験からすれば、この休刊日がある秋の連休は、新聞社の販売 局と販売店合同が、紅葉の温泉場などで研修そして宴会、翌日はゴルフというの が慣例となっています。挨拶の後、大広間に大勢のコンパニオン、浴衣姿の販売 店の店主さんらに頭を下げて礼を取り、ひとりひとりお酒をついで回るんです。 2次会はカラオケ、3次会はバー、4次会はラーメン、5次会は部屋でさらに飲み明 かすーという具合でした。普段、ゆっくり休みが取れない販売店の所長さんらを 慰労するわけです。最近は、少し様子が変わってきたみたいですけれど、みんな で行く温泉旅行は年に1から2回の楽しみだったはずです。
さて、その読売は、その時、どんな対応をしたのでしょうか。
【読売奮闘、730万部の異例の措置を評価】
思い切って、読売新聞社の広報部に電話を入れてみました。感じのいい次長さ んが応対にでてくれました。「北朝鮮が核実験」での対応について、9日は午後 から全国の主要駅で号外(表が本紙、裏が英字)を5万6千部発行、そして注目の10 日の特別号外は、東京エリアを始め、北海道、北陸、中部の各支社で5、826、44 3部、大阪本社1、235、150部、西部本社214、200部の合計約7、300、000部を配 布したーという。こんなに苦労して配っても出費がかさむばかりですから、損得 でできることではない。
「そうです、休刊日ということで全国の販売店の所長さんらは決起集会や研修 があって、なかには温泉場でという方々もいたでしょうが、北朝鮮核実験という ニュースの重大性を理解して下さって、現地から酒も飲まずにトンボ帰りして配 達の対応してくれました。本当に頭が下がりますし、いつでも読者の側に立つ、 というのが新聞社の使命じゃないでしょうか〜」と広報担当。
読売1000万部の自負とはいえ、巨大メディアは小回りが効かない‐という懸念 を払拭し、逆に責任メディアの役割をきっちり果たし切ったという点に、読者か ら多くの励ましがあって、また新聞購読を希望する新たな読者も増えた、という。
新聞休刊日は、これは原則的に各社がそれぞれ自主的裁量で決めることになっ ていますが、実際は各社一斉に同じ日に横並びとなっているのが現状です。それ は新聞の販売店が直営店もあれば、複数の違う新聞を扱う複合店もあるため、各 紙が一緒に休んでくれないと配達の人の休みが取り難くなる、という問題もあり ます。しかし、読者サイドからは、今回の読売の「特別号外」の宅配は歓迎すべ き措置ですが、業界的には物議をかもすネタかもしれません。そうはいっても、 新聞社が自主的に定める新聞休刊日に、自ら主体的な判断で新聞を発行する‐と いう当然の姿にクレームをつけることはできないでしょう。
多くの人が「新聞を忘れた日」は、実は、「新聞が読者を忘れた日」というと、 言いすぎでしょうか。しかし〜。
新聞は本日から、通常に戻りました。各紙1面の緊急連載は読み応えがありま す。朝日新聞は、「核の衝撃−北朝鮮と世界」で事態打開に決め手を欠いている、 と指摘し、読売は「挑発 北核実験」で「切迫する核の危機」の見出し、毎日は 「激震 核実験」で、「制裁覚悟の捨て身戦術なのか、国際社会は北朝鮮を核保 有国と認めるのか。米国の戦略は。核問題が今後、どう動くのかを報告する」と それぞれ特色を出しています。
核心は、10日夕刊の朝日新聞1面のコラム、西村陽一政治部長の書き出しの1 行、それと最後の2行に尽きると思います。「北朝鮮は、最後の一線を越え た。」、そして「対中韓外交に続く日本の外交の挑戦のときである」と。
濱田理事長の【ベンチャービジネス支援の今昔】の新連載
さて、DND連載の執筆陣に(財)ベンチャーエンタープライズセンター(V EC)の理事長で、元経済産業省官房審議官の濱田隆道さんが加わりました。タ イトルは「ベンチャービジネス支援の今昔(いまむかし)」で、その第1回は、 「ベンチャー企業支援の淵源」です。VECの初代理事長は、本田宗一郎さんで した。そのVEC草創時期の、本田宗一郎さんを知っていて、あるいはVCの雄、 ジャフコの立ち上げに尽力されたことはよく知られています。
現在、VCの分野で活躍する人材も多く、そのパフォーマンスは目を見張りま す。VCの投資に係る資金額も1兆円越えという状況になっていますが、濱田さ んには、温故知新、VCの昔を振り返りながら、現状の経済産業省、中小企業庁 や中小企業基盤整備機構などのベンチャー支援策あれこれの解説、そしてVCの未来をも展望してもらう予定です。どうぞ、ご期待ください。またご意見等をもお寄せください。
【全国大学発ベンチャー北海道フォーラム開催へ】
さて、さて、本日のDNDサイトのトップにテロップが回りました。「全国大 学発ベンチャー北海道フォーラム開催 11月10、11日(札幌市)」。その下にそ の概要のボタンが配置されました。主催は読売新聞社、北海道大学、北海道経済 産業局などです。詳細並びに参加の申し込みは、このボタンから入っていくこと ができます。DNDも後援しています。後日、詳細を報告します。
実行委員長は、北海道大学の看板教授で、ご専門がベンチャーキャピタル経営 論、そして北海道TLOの取締役、北海道大学の産学官連携、大学発ベンチャー を牽引するリーダー的存在の濱田康行さんです。
先日、同じ名前のVEC理事長の濱田さんと丸の内の東京21Cクラブでお会い しました。濱田さんらは25年ぶりの再会でした。
一般の全国紙が大学発ベンチャー関連の大規模なフォーラムを主催するのは、 知る限り初めてです。10日のゲストスピーカーは、京都から堀場製作所最高顧問 の堀場雅夫さんが駆けつけてくださいます。また、懐かしく心の籠もったスピー チを披露してくださるでしょう。楽しみです。僕も参加します。
まあ、大学発ベンチャー支援サイトを運営して4年半、これは個人的な思いで すが、いよいよ一般紙も主催する、そういう時代に突入した‐ということへの感 慨は人一倍深いものがあります。ずっと望んでいましたから〜。これも敢えて 「読売新聞のEXTRA」と呼んでもいいでしょう。
今月8日付の読売新聞3面の特集「スキャナー」は、「大学発タフな企業へ」の 見出しで、大学発ベンチャーの課題を掘り下げていました。取材記者の署名に科 学部、吉田典之記者、先日、DNDオフィスにも取材に来られました。ノーベル 賞受賞の発表の動きをフォローしながらの大学発ベンチャーの取材でした。入社 してから、一貫して科学部の専門記者という道を歩んでいます。科学部といえば、 JSTの「科学技術の今を伝える」サイエンスポータル(本日リニューアルオー プン16:00〜 http://scienceportal.jp/)の編集長の小岩井忠道さん、副編集長 の小泉成史さんもワシントン特派員を経験した有能な科学記者でしたが、いずれ も聡明で、クール、好感度がいい。吉田さんもそういうタイプでした。
【大学発ベンチャー起業家の優位性】
さて、大学発ベンチャー数は、1503社(平成17年度末調査)、悠々と1000社と 突破しました。その勢いは止まりません。数合わせなどという妙チクリンな批判 も甘んじて受けますが、どうでしょうか、少なくも1503人の社長、5000人近いエ グゼクティブが誕生し、大学研究室での知の、技術の、ライセンスの成果を社会 に活用する、という役割を担っている大学研究者の姿勢は真摯で、尊い。一般の 中小企業と違うところは、ベンチャー起業家が、率先して社会のフロントに躍り 出て、セミナーやフォーラムで講演し、あるいは新聞やメディアに文章を書き綴 っている、というマルチな活動を展開しているという現実です。
高学歴で有能で、知的で、少しリッチな大学発ベンチャー起業家、大学発ベン チャーが地域の社会の、新しい起業環境を創り出すエンジンになっていることに 着目してほしい。先ごろの日経産業新聞が実施した大学発ベンチャー調査では、 やはり憧れの大学発ベンチャーのトップを走る、アンジェスMGの創業者で、D NDサイトで出色の「大学発ベンチャー成功の方程式」を執筆する大阪大学大学 院教授の森下竜一さんは、講演、執筆、VC、NPO、それに青い銀杏の会の理 事長という立場で阪大発の大学発ベンチャーを支援、育成、そして大学発バイオ ベンチャー協会の副会長としての活躍も目覚しい。自身の会社での研究開発投資 は、毎年約36億円規模というのも凄い。
だから、みんな懸命に夢を仲間と一緒に追いかけていることろに、「1000社の うち、3つしか残らないとか」、「数合わせ」とか、「まだまだ〜」とか、そん な無責任で、軽薄な批判には、反論を!って、少し心の奥で叫んでいるんです(笑い)。