◆ DND大学発ベンチャー支援情報 ◆ 2006/08/23 http://dndi.jp/

安全神話の総崩れ

〜パロマ事故の核心

DND事務局の出口です。東に北に〜熱風の甲子園から母校にそれぞれ凱旋。褐 色の顔から白い歯がこぼれていました。ワイシャツの襟から丸首シャツがちょっ と見え隠れする球児らの姿は、健気で、なんとも愛らしく清々しい。


頂点を極める試合のクライマックスが、すでに勝敗を超えていて、もうひとつ 高い次元の感動を演出したようです。なぜか、終わってホットした気分で、いま だ列島がその余韻に浸っているようです。幾つもの逆境を克服し、ピンチをチャ ンスに変える逞しさに多くの人が勇気づけられたに違いありません。


舞台に立ったヒーローもそれを裏から見ていた控えの選手も、これから、きっ と遥か遠くに、夢の翼を広げていくことでしょう。


さて、2週間ぶりのメルマガで、少々筆が鈍ってしまってはいけません。今回 の主題は、「安全」。本日23日朝刊各紙の社会面、その下段にオフィス用シュ レッダーのメーカー2社の「お知らせ」の広告が掲載されていました。そのひと つは、2歳の赤ちゃんが紙の入れ口に誤まって指を入れて指9本を切断した、と いう痛ましい事故の概要を告知し、事故の再発防止のためにすでに新しく改良し てはいるものの、万一のため従来の製品を無償で交換するーという内容、別の会 社のケースも先月、2歳の赤ちゃんが指2本を切断した、という事故を告知し、 緊急に製品の回収を伝えていました。


いやあ〜なんとも身震いするような事故です。どうしてこんなことが起きるの でしょう。最近、新聞の社会面の下段の公告スペースにこの種の、「お詫び」、 「お願い」、「お知らせ」の広告が目立ちます。しかし、今回は各紙一斉にその 広告を掲載していながら、その危険な事故の概要を記事で取り上げているのは、 毎日新聞でした。記事には、メーカーから報告を受けた経済産業省(製品安全 課)が「同種事故が続く可能性がある」として本日23日に事故を公表し、注意を 呼びかける、とありました。


それにしても、新聞広告に載っていながら、ニュースにしないというのは、何 か事情があるのかしら‥。結果的には、毎日新聞の特ダネでした。


「安全」。日本のお家芸、そこがどうも、だんだん怪しくなってきたようです。 回転ドア、エレベーター、プール、そしてシュレッダー‥いずれも幼い子供らば かりが犠牲になっています。親の不注意、という指摘も一部にあります。


そして、俄かにクローズアップされている瞬間湯沸かし器にいたっては、過去 20数年、まったく一般に「お知らせ」も「告知」もなく放置されたまんま、2 8件の一酸化炭素中毒事故(事件)を起こし、主にアパート暮らしの若い男女ら 21人の命を奪って、その他、数えれば37人に及ぶ入院患者らを出していなが ら、これまで何の償いもされてこなかったことが、先月14日、警視庁の通知を 受けた経済産業省の調査と発表で明らかになったばかりです。


その問題の「パロマ」。そこのキャッチフレーズが、「25年間 1200万 台不完全燃焼無事故」でした。強気の会見から、数日後、一転謝罪の会見となり ましたが、といまだに「一酸化炭素中毒事故死の多くは、業者による不正改造が 原因で、不正改造にパロマは関与していない」として、一部の製品の劣化による 原因も後になって認めているものの、本質的には、社員の関与を「具体的な疑い のある人物の存在は明らかになっていない」として不正改造に伴う事故への関与 を否定する姿勢は崩していない状況のようです。


まあ、そこが、この事故の責任を問う核心部分であることには違いありません が、「具体的な疑いのある人物の存在‥」は否定しても、「具体的でない人物の 存在はあるの?」と疑ってしまうじゃないですか、ね。それにしてももっと別な 言い方があるでしょう。


そもそも、どうして最初の事故の時にすぐ対処しなかったのか、その隠蔽体質 のメカニズムが解明されなければ、納得がいかないでしょう。


昨年11月、港区のアパートで起きた28件目の事故で19歳の息子を失った母 親は、「もっと早く知らせていれば、息子は死ななくてすんだ、息子を返してく ださい」とお詫びに訪れたパロマの副社長に迫っていましたが、その様子をテレ ビでみながら、本当に、なぜ、いままで放置していたのか、その遺族の悔しさが 伝わってきます。捜査という重大局面が近くあるのでしょうか。このまま、責任 を問われないで済むはずはありません、よね。


そもそも〜その原因はどうあれ、自社の製品によってそれを買ったり、使った りした客が、なんらかの被害をこうむった、ということが明らかになったら、そ の会社は、どう対処すべきなのでしょうか?法令順守なんて難しい言葉を使わな くたって、普通の生活感覚があれば、隣のおばちゃんだって、ちゃんとした答え が返ってくるはずです。本日のシュレッダー各社の対応は、当然のことと思いま す。時間をかけると、深刻な事態に陥って、リカバリーが困難になってしまいま す。これは2000年夏の雪印乳業の1万人を超える集団食中毒事件や三菱自動車の 事故隠し事件がそのことを十分に教えてくれています。


しかし、それが最近、どうもうまくない。不祥事へのとっさの動きが鈍って後 手に回り、それらの躓きが、実は、とんでもない大きな被害を拡散して混乱し、 莫大な損失を蒙った挙句、新聞、テレビ、週刊誌のマスコミに加え、インターネ ットのウエブやブログなどからも集中砲火を浴びて、信用失墜−という破滅の道 に突き進む。この悪しきパターンが繰り返されているんです。


 そんな折り、ワシントンから大きなニュースが飛び込んできました。米パソコ ン大手のデルが8月14日、デル社のノート型PCに内蔵されたソニー製リチウム イオン電池が、まれに過熱・発火する恐れがある、という理由で、PCに内臓の電 池をリコール(回収・無償交換)する、と発表した、という記事でした。


過熱・発火の事故は、昨年12月以来、全世界で6件、そのうち2件が日本国内、 その稀な事故6件の代償が、410万台に及ぶソニー製の内臓電池のリコールで した。回収費用は、3億ドル(約350億円)。ソニーはその原因について「電池内 部に金属粒子が混入し、ショートを起して発熱・発火に至る恐れがある。リコー ルをサポートすべく全力を尽くす」とコメントしていました。


このデル製パソコンの爆発、炎上のニュースはインターネット上で6月下旬に は流れていました。大阪のカンファレンスの会場で、突然、爆発した様子が居合 わせた参加者の伝聞として紹介されていました。「パソコンは膝の上に乗せて使 うと危ないよ〜」って。


このお盆休みをはさんで、企業の危機管理、安全とリスクという一連の問題を ずっと考えあぐねていました。ぼやっと、その輪郭が見えてきましたが、近づけ ば遠のいてしまうようです。


「安全」、その神話が崩れ、社会に遍満する不信の渦と、それに伴って行政の 規制強化が加速する流れに、少々の戸惑いを禁じえません。行政だって、辛いで しょう。民間の自主性に任せるばかりでは、リスクのマネージメントが適わない。 逆に、そこの責任を問われる、なんかそのバランスが難しい、という担当者らの 悲鳴が聞こえてきそうです。


明日、客員を務める東京農工大学大学院(技術経営研究科)で、この辺を題材 に講義する予定です。学生と一緒に考えるには、格好のテーマと思います。どう ぞ、ご関心のある方は、ご意見をお寄せください。


記憶を記録に!DNDメディア塾
http://dndi.jp/media/index.html

このコラムへのご意見や、感想は以下のメールアドレスまでご連絡をお願いします。
DND(デジタルニューディール事務局)メルマガ担当 dndmail@dndi.jp