◆ DND大学発ベンチャー支援情報 ◆ 2006/5/31 http://dndi.jp/

大学発ベンチャー1,503社の所感

DND事務局の出口です。人の指示でやるものではないし、点数稼ぎでやれるよ うな柔なものでもない。なんといっても起業したのは自分だから、苦しくたって きっと仲間や家族と一緒に踏ん張って、自己実現のための新しい扉を拓いていく に違いない〜そんな期待の大学発ベンチャーの設立が1503社を数え、それも新事 業創出を狙ったバイオ系を中心に首都から地方圏へとその裾野を広げていること が明らかになりました。今回は、その所感と、後半に大学別ランキングを一挙掲 載しました。


 いやあ〜驚きましたね。経済産業省の大学連携推進課が29日発表した調査報告 です。課長は、人柄の中西宏典さん、運がいい。時代のトレンドを先取りして、 ひょぃと起業創出をこんなに、やっちゃうものなんですね。これって、稀なので しょうか、あるいは、政策的に計画して誘導できるのもなのでしょうか、今度、 この政策目標の策定に携わった経済産業省大臣官房総務課長の石黒憲彦さんに聞 いてみようかしら。


 昨年3月末は、「3年で1000社達成」の最終年度にあたり、その集計でなんとか 1112社とその政策目標をクリアして、正直、ほっとひと息ついていた感じでした から、それが一気に1500台を突破し、新規株式公開(IPO)を果たした企業が4社 増の16社になり、アンケートの集計では、株式公開を目指す大学発ベンチャー企 業はその50%を超え、すでに株式公開を予定している企業が8社ある、というこ となども浮き彫りになりました。


 この激増ぶりは、まだ続くのか、それともこの辺で一服感をもたらすのか‐ど うもこの先がよく読めない。が、大学周辺を歩くと、結構、ひんぱんに起業話し が入ってくるから、さらに起業熱が続いているのかもしれない。


 調査報告では、1503社の経済波及効果を3、642億円と推計しているが、多いの か少ないのか、どうもこれは実感としてつかめません。ただ、ざっと1500人の数 倍の数のエグゼクティブが誕生し、そこで生活の糧を得る新規の雇用者、働いて いる人の数が推計で16、383人存在しているということは確かだし、決して侮れ る数字ではないのではないか‐と思います。失敗したってその起業の経験は、ノ ウハウとして個人に蓄積されるわけだから、無駄ということには、ならない。そ れは次に十分、生かせます。


 う〜む、ぐっと手を胸に合わせて目を閉じれば、蠢くような大学発ベンチャー のリアルな実像が透けて見えてきませんか。その研究開発やら、パッケージなど の商品化、デザイン、コンペティターの情報収集、それに販売ルートの開拓、 マーケット確保、資金繰り、決算、財務会計、給料支払、会議、面談、出張、プ レゼン、紹介営業、企画づくり、ウェブ制作、宣伝&PR、セミナー、商談、慶 弔、メール、御礼、接待、健康管理、保健、株取引、トラブル、陳謝やお詫び、 採用などのリクルート、社員教育、マスコミ対応などなど。


 1503社を俯瞰するのに、それほど多くの想像力を逞しくする必要もないかもし れない。これはざわめき?いやいや、これは勢いという名のパワーそのものだと 思います。


 1503社か〜韓国は6000を越えているし、中国にすでに10000社を超えているの ではないか、というような比較レベルで語られると身も蓋もない。どうせ1000に 3つ、ベンチャーなんてうまく行きっこない、という批判も無責任すぎるし、ち ょっと残念。補助金狙いって、という指摘は腹が立つし、1000社のうち4分の1 しか動いていない、というのは真っ赤なウソです。廃業や倒産の数字を隠してい る、というのも誤報でした。未公開株ウンヌンという虚報もありました。これら は大学発ベンチャーにとって逆風だけど、みんな逞しく乗り切ってきたようです。 しかし、世間の風は、冷たいですなあ〜。 


 実は、マスコミといっても、なんにもわかっちゃいない。まあ、弁明すれば、 わかりにくいというのもありますが、1503社のそれぞれの起業への事情や経緯に 思いを馳せると、みんなリスクを負っての挑戦ですから、平坦な道のりではない のは、あえて言うまでもありません。


 雨に濡れて、自信が失せて眠れない日だって、淋しくて故郷に逃げて帰りたく なることだって、資金繰りが滞って頭を下げて回ることだって、家族に辛くあた ったり、まあ、いろいろあるに違いない。しかし、それでも自らの研究成果を社 会に還元し、そして己の夢を実現したい‐というベンチャラスな生き方がとって も重要なはずなのに、意図的に悪い印象をかぶせて圧力をかけるんだから、罪深 い。これを黙って見過ごせませんし、許しはしない。うん。


 もうひとつの懸念は、可愛いけど変なおじさん。大学発ベンチャー回りで、よ く耳にするのは、困ったことにそんな人がよく徘徊していることです。それらの 多くは、安住の大手企業に帰属しながら、ベンチャー支援という名目であっちこ っちに顔を出して、NPOの理事とか、なんとかのネットワークの幹事を引き受 けて喜んで、ともかく元気なんです。よ〜く観察すると、それが仕事になってい るから気楽で、それでいて己の保身と功名にのみ懸命だから面倒なんですね。そ れが、多く蔓延して何がなんだかわからなくなっているんですね。まあ、これも 愛嬌でしょうか。


 いや〜それもこれも大学発ベンチャーが本格的に市場を確保し、いよいよぬる い温度の湾内から大海原に船出して、その破天の波を覚悟しなければならない時 期が到来しているのかもしれません。


 さて、ここまでは大学発ベンチャー1503社の所感でした。どんなベンチャーが どういう理念で起業し、何を目指しているか、など本当はいくつかの事例を紹介 すべきかもしれませんが、その選択が難しい。それは別の機会に譲るとして、次 に、大学に焦点をあてて調査報告の概要を掻い摘んでみます。調査に幾分加わっ たDNDとしては、大学関係者の皆さんのご協力に少しでも応えたい、そんな思 いで、じゃんじゃん大学名を登場させますね。それでは、いきますよ、17年度大 学発ベンチャー調査報告の中から、DNDが独自に選んだ大学ランキングその全 容〜です。


 最初は大学別の設立上位ランキングです。過去の累積でみると、1位は東京大 学で2年連続、昨年より27社増の92社と勢いがあり100の大台にもう一歩。2位で 75社の早稲田大学、3位で71社の大阪大学、4位で59社の京都大学など上位は不動、 昨年同様の健闘を見せました。


 5位筑波大学、6位慶應義塾大学、8位九州大学がランクを上げ、逆に僅差で7位 東北大、9位九州工業大学がやや後退し、東京工業大学が昨年10位の北海道大学 を退けてベスト10に返り咲いていました。


  注目は、直近の17年度に多く設立した大学のトップ10は、1位が11社設立の 筑波大学、2年連続のトップ。次いで、2位が8社の広島大学、3位5社の岡山大学 と早稲田大学、5位が4社の九州工業大学、東京農工大学、高知工科大学、東海大 学、立命館大学の5大学が並び、10位が3社設立で一気に、東大、阪大、京大、慶 應、九大、東工大、名大、徳島大、金沢大、和歌山大の各大学が名を連ねていま した。広島や岡山の中国圏、高知や徳島の四国、金沢や和歌山など今年も地方圏 の踏ん張りが目立ちました。


 公立大学では福島県の会津大学19社で1位、噂通りの実力を見せています。2位 12社大阪府立大学、3位8社で京都府立大学、4位が6社で横浜市立大学、岩手県 立大学、大阪市立大学が並び、7位が5社で秋田県立大学、札幌医科大学、前橋工 科大学、10位に4社で首都大学東京が入っています。少し、その表を眺めると、 富山県立大学、公立はこだて未来大学、奈良県立医科大学などが目に付きました。 あの人この人の顔が浮かんできます。


 それでは、私立は?ということになりますが、少し触れます。1位はダントツ の75社で早稲田大学、2位は50社で慶應義塾大学、3位は32社で龍谷大学、4位が3 0社で立命館大学、いやあ、3位、4位の京都勢は上位の常連組みで強い。5位が上 位と僅差の29社で日本大学、6位が27社で高知工科大学、7位が19社で東海大学、 8位が17社で近畿大学、9位が14社で東京理科大学、10位が12社で同志社大学の順 でした。ざっと見ると、法政大学が8社で12位、東京女子医大、岡山理科大、そ れに北海道東海大学が6社で16位、5社20位に創価大学、聖マリアンナ医科大学、 千歳科学技術大学、東京電気大学、久留米大学、中央大学、金沢工業大学、工学 院大学が続き、4社で28位が青山学院大学、福岡工業大学、北海道工業大学、中 部大学、帝京大学などが並んでいました。さ〜て、読者の関心のある、あるいは 母校は確認できましたでしょうか?ここでもあの教授、あの役員の熱っぽい声が 響いてくるようです。


 大学発ベンチャーの所在地、どこで起業、あるいは拠点を構えているか、とい う都道府県別のランクでは、累積ベースでは1位がダントツの372社で東京都、2 位は107社で大阪府と昨年同様ですが、神奈川県が102社と昨年の5位から猛追、1 7年度設立の単年ベースでもやはり、1位は22社で東京都ですが、昨年度7位の神 奈川県が13社設立で2位に食い込んでいました。この神奈川県の動向は、もうひ とつ突っ込んだ分析が必要かもしれません。東京を囲むように広がる首都圏、千 葉でも埼玉でもなく、なぜ神奈川が全国2位に急上昇してきたのか、興味は尽き ません。都心に近い?慶應義塾大学の藤沢キャンパスの伝統的な起業マインド か?神奈川県全体の起業支援、あるいはインキュベーション施設などの連携がう まく回転している?そこが知りたい。このところDNDへの産学官連携情報への掲 載依頼も神奈川県関係からひんぱんです。


 3位は10社設立で愛知県と広島県が並び、5位に京都府、6位に福岡県と茨城県、 8位に大阪府、9位に昨年揃って14位の滋賀県、高知県、長崎県がベスト10入りを 果たしていました。いやあ、ここでも地方都市での大学発ベンチャー設立の動き が活発です。地方圏が頑張れば、日本全体が息を吹き返してくるような感じにな ってきます。


 今このメルマガを書くために参考としている資料は、「大学発ベンチャーに関 する基礎調査」でDNDサイトのトップページからもご欄になれます。あえて詳し い解説は必要がないのかもしれませんが、多少の分析や評価を加えることも意味 があることと思います。そこで、特筆すべきいくつかの大学発ベンチャーのトレ ンドを拾ってみることにしましょう。本邦初公開の独自調査によるニュースも飛 び出すかもしれませんから、もう少し我慢してください。この4年間の大学別ラ ンキングベスト30の推移一覧は、最後に掲載しています。


 その第1は、いままで少なかった女子大学や教育大学などの文系の参入も目立 ってきたことです。まだいずれも設立数は少ないものの、高知女子大学、福岡女 子大学、京都女子大学、跡見学園女子大学、日本女子大学などで、教育大は北海 道教育大学、鳴門教育大学、奈良教育大、上越教育大、それにコンテンツやクリ エーター人材育成に目覚しいデジタルハリウッド大学の奮闘も光ります。大学発 ベンチャーの認定にふさわしい業種かどうかで認定されないケースもありますが、 同大学院では起業家教育が盛んで、開学からわずか2年で学生発ベンチャーが6社 誕生した、と説明しています。「デジタル」の冠をつけた会社もありました。 「DND」もデジタルだけど〜。


 IPO16社の全容解明。地域は、関東9社、近畿4社、北海道1社、中部1社、九州1 社で、やはり関東、それに近畿が双璧ですね。業種は、バイオ系10社、IT(ソフ ト系)5社、その他2社※重複あり。業績の平均値は、売上22億円、資本金18億38 00万円、営業利益5000万円、従業員62人、あっ、年間の研究投資額が抜けていま すね、アンジェスMGの創業者の森下竜一さんによると、売上は26億円規模だが、 研究投資額は37億円規模に上っているーという説明をお聞きしたことがありまし た。その地元への波及効果ははかりしれない。だって今まで存在していなかった のですから‥。


 ざっとその関係大学の名は、複数関係しているのでIPO数と符合しませんが、 ご参考までに。大阪大学、熊本大学、東京大学、帝京大学、京都府立医科大学、 東京慈恵会医科大学、関西福祉科学大学、大阪市立大学、大阪外語大学、創価大 学、北海道大学、慶應義塾大学、早稲田大学、九州大学、東京医科歯科大学、聖 マリアンナ医科大学、名古屋工業大学、京都大学(※なお、大学名と所在地は一 致しないことも有ります)。


 まず、ところでひとつ疑問。3年間の調査を年度別に見ると、14年度調査時点 で531社、15年度では799社、16年度では1112社、そして今回の17年度が1503社と 400社近い急増ぶりですが、17年度中の新規設立は139社、残りは何によって認定 されたか?それは、いわば掘り起こし、あるいは追跡調査の成果なんですね。大 学発ベンチャーじゃないかなあ、という企業名を見つけてもその概要がなかなか 分からない。


 調査主体の大学連携推進課によると、設立されてから大学等への報告にタイム ラグが生じ、「スタートアップ時に大学発ベンチャーをすぐ把握するのは困難」 という事情もあり、その一方で、各大学での産学連携部門が整備され大学発ベン チャーの設立を把握する環境が整ってきて、意識も変りつつある‐と分析してい ました。なるほど〜。しかし、よ〜く数字の推移を見ると、3年で1000社達成の 数値目標は、実は初年度で903社、2年目ですでに1000社を突破し、1134社となっ ていたことが明らかにされています。えっ!ですね。これも驚きでした。


 次に、裾野の拡大。1503社は全国248大学からの成果で、昨年16年度の232大学、 15年度の200大学、14年度の183大学という推移を見ても、大学発ベンチャー創出 の母体大学、すそ野が拡大していることに気がつきます。


 調査手法と廃業の件。大学発ベンチャーの分類整理の項目、その一覧を見ると、 大学発ベンチャー基礎調査で調査した企業数が全部で1788社に上り、その中で大 学発ベンチャーとカウントしなかった企業が258社ありました。その内訳は、大 学発ベンチャーの定義に該当しなかった企業が251社、設立準備中が2社、詳細が 不明で確認が取れなかった企業が32社でした。


 う〜む、ちゃんとしているんですね。それと大学発ベンチャー企業と認定した 1503社のうち、他社と合併して消滅した大学発ベンチャーが8社、倒産・清算等、 活動を停止した大学発ベンチャーが32社含まれていることを明らかにしていまし た。


 以下は大学別のランキングと年度の推移をまとめたものです。やり始めたら止 まらない。数字がいっぱい並んでいますから、さらっと、皆様の関係分を拾い読 みしてください。


 まず、大学発ベンチャー創出大学のトップ10を累計ベースで見ると、
1位92社東京大学(16年度1位64 社、15年度2位46社、14年度2位32社)、2位 75社早稲田大学(同2位60社、同1位5 0社、同1位42社)3位71社大阪大学(同3位 54社、同3位45社、同4位23社)4位59社京都大学(同4位51社、同4位40社、同4位 23社)5位57社筑波大学(同6位 37社、同13位17社、11位13社)6位50社慶応義塾 大学(同8位33社、同6位31社、同3位24社)7位48社東北大学(同5位39社、同5位 35社、同7位19社)8位43社九州大学(9位32社、同9位23社、同10位16社)、9位4 0社九州工業大学(同7位34社、同8位25社、同 8位18社)10位39社東京工業大学 (同11位28社、15年度10位22社、14年度6位20社)の順です。


 ( )内は、16、15、14の各年度の調査結果の順位と設立企業数を入れて、こ こ数年の変動を比較してみましたが、勢いのある大学が見えてきます。


 さて、その先に進みます。11位36社北海道大学(16年度10位31社、15年度7位2 6社、14年度8位18社)、12位33社神戸大学(同12位 27社、同18位15社、同17位9 社)、13位32社龍谷大学(同15位20社、同15位16社、同11位13社)、14位30社立 命館大学(同18位19社、同24位10社、同21位7社)、15位29社日本大学(同14位 22社、同13位17社、同14位11社)、16位28社東京農工大学(同15位20社、同12位 18社、同15位10社)、16位28社広島大学(同18位19社、同24位10社、同21位7 社)、16位28社名古屋大学(同13位23社、同11位19社、同17位9社)、19位27社 高知工科大学(同18位19社、同20位13社、同20位8社)、20位25社徳島大学(同2 1位16社、同23位11社、同17位9社)、21位23社山口大学(同15位20社、同15位16 社、同13位12社)、22位19社会津大学(同21位16社、同20位13社、同15位10社)、 22位19社岡山大学(16年度29位10社)、22位19社東海大学(16年度26位12社)、 25位18社京都工芸繊維大学(16年度23位 15社)、26位17社近畿大学(16年度24 位14社)、27位16社豊橋技術科学大学(16年度26位12社)、28位15社奈良先端科 学技術大学院大学(16年度10社)、28位15社岩手大学(16年度8社)、30位14社 東京理科大学(16年度25位13社)、これらがベスト30となります。


  追伸:
 DNDトップページの特別企画「集中連載!第5回産学官連携推進会議の視 点・論点」は、いかがでしょうか?いやあ、結構な賑わいで、編集子冥利です。 本日は、内閣府の大臣官房審議官の塩沢文朗さんの寄稿をNO2、NO3を同時 にアップしました。近畿経済局部長の山城さん今回、第5回京都会議に参戦しま した。塩沢さんの文中に山城さんの原稿に登場する同志社大学の和田さんの名前 が出たと思えば、山城さんもアンジェスMGの森下竜一さんを取り上げてみたり、 その他、固有名詞がどんどんでてきて活発な議論が展開されています。知恵者、 山城さんの機転で、京都工芸繊維大学の理事で副学長の竹永睦生さんから寄稿し ていただきました。それも本日アップしました。こういう予期しない、ハプニン グがなんともリアルで、いい具合です。


 その他、常連の論客、経済産業省大臣官房総務課長の石黒さん、ワシントン在 住の国際的に活躍する特許弁護士の服部健一さんからの現地報告など、それぞれ 内容の濃い原稿が届いて同時にアップしました。どうぞ、お読みいただいて感想 などもお寄せくだされば、幸いです。



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