◆ DND大学発ベンチャー支援情報 ◆ 2006/2/15 http://dndi.jp/

「書の至宝」の風。

DND事務局の出口です。ゆったりとした薄暗い空間を亡霊のように彷徨いなが ら、あるいは黒山のひとの列に身を押し込んで、そして一途に探し歩いていたの は、ある「風」のルーツでした。


 歴史的な書の名品の数々の中から、「風」のひと文字を探す、その運命の瞬間 に胸をときめかせていると、少しずつ息が苦しくなり、果たしてそんな事が、あ るのだろうか‐と思うとなんだか落ち着きません。


 「風」は、空海が最澄にあてた手紙の書き出しのひと文字目にありました。 「風信帖」(ふうしんじょう)という日本で最も有名な書状で国宝というけれど、 そんなこと、いままで知らない。


 「風信雲書(風の便り‥)との書き出しで始まることから、そういう名がつい たという。読むと、仏法の大事を話し仏の恩に報いたい旨を伝えていきたい、と いう趣旨の文言が目に止まりました。


 う〜む。風も雲も‥。じっとガラス越しに見入ってしまい、立ち止まったまま、 動けない。そっとコートの内側で、指が風の文字の筆の動きを追いかけていまし た。その空海の筆のリズムが、少しでも感じ取れていたらいい。最初のひと文字 ですから、墨痕鮮やかにしかも繊細で優美な筆使いが見て取れました。魅惑の風 のようです。


 で、その「風‥」、「格調の高さと奔放さと、中国書法を我がものとした、そ の能書きぶりを今に伝えている」‐と朝日新聞夕刊の「きょうの名筆」にそう解 説がありました。



【書の至宝展を見てきました】
 「名筆、時空を超えて一堂に」のキャッチコピーに刺激されて、吸い込まれる ように足を踏み入れていました。「書の至宝‐日本と中国」(東京・上野の東京 国立博物館)。会期は19日まで。


 古(いにしえ)の中国の書体を確立し、多く名声を博したとされる書聖、王羲 之(おうぎし)の技法を伝える写本をはじめ、その息子、王献之(おうけんし)の 艶やかな筆致の手紙、7代目の子孫、智永(ちえい)による楷書と草書で書かれ た優麗な千文字の句などのほか、日本最古の肉筆遺品とされる聖徳太子の法華義 疏、空海の書状、幾つもの法華経の写本、鎌倉時代の能書で知られる伏見天皇の 花押の「秋萩帖」、宮内庁所蔵の藤原定家「更級日記」、そして小野道風、光悦、 良寛らの和の系譜も抑えているうえ、国宝、重文級の文化財50点を含む、日本と 中国の名品190点がテーマ別、年代別に展示されていました。なんとも偉観です。


 音声ガイドから流れる解説に聞き入っていると、「酒を愛し、興に乗ると絶叫 して壁一面に書きまくったというように、奔放な草書に長じ、世に草聖と尊ばれ ました。また、自然の変化に書の奥義を悟った等、数々のエピソードが残されて います」という。


 その気になる存在は、壊素(かいそ)という唐の時代、8世紀ごろの草聖で、展 示品は上海博物館蔵の直筆の絹本墨書で、「苦筍帖」(くじゅんじょう)と呼ぶ、 わずか2行14文字の書状、というより走り書きのメモようなものでしたが、それ が極めて重要なものらしい。


 「苦筍及茗異常佳。乃可逕来。壊素上」。素人の眼にも、その書きっぷり、ほ とばしるような生命の高揚ぶりが伝わってきます。で、その書状の意味は、これ またふるっていて、おかしい。


 「めずらしく佳い筍(たけのこ)と茶があるから、すぐにでも来られたし」。 その2行に凝縮された、牧歌的な日常の風景を垣間見る思いです。筍だもの、急 がなくちゃね、そりゃそうです。旬を食うは、今も変らない。が、その書に、歴 代の皇帝らの収蔵印、跋文がおびただしいほど押印され署名されているから余計 に滑稽で、その人気のほどが偲ばれてくるようです。


 書は人なり、といいます。歴史の書聖の極みは、その気高くも奔放な心を、あ るいは躍動する魂を、瞬時に墨と紙に流して封印し、悠久の果てに辿り着く運命 の一期一会であり、それは時空を超えた永遠の彷徨なのかもしれません。そんな 風に思っていると、足元が揺らいで魂が抜かれてしまいそうでした。こんな 「風」が書けたら、どんなにいいだろう〜ね。



【栗田嵐獄さんからの風】
 「風」が気に入って、デスクの後部の棚にある「風」の額は墨拓の複製ですが、 もうかれこれ20数年前、書家で、陶芸家で、大和絵にも素養がある、栗田嵐獄 (らんがく)さんから譲ってもらったものでした。この展覧会では、その「風」 のルーツには行き着きませんでした。


 ところで、栗田さんは、栃木県足利市の郊外で伊万里、鍋島のコレクションを 誇る栗田美術館の創設者で館長だった、英男さんの実弟でした。恰幅のよい豪放 な英男さんが表なら、その嵐獄さんは裏、実に対称的で、その存在はひっそりと していました。目元が涼やかで、山羊のような細く白いヒゲ、いつも穏やかで、 訪ねると喜んで迎えてくれていました。晩年は、秩父の山間にアトリエを移して 住んでいました。「文字には人の心を揺さぶる魔力がある」と、嵐獄さんはその 「風」をみながらつぶやいていました。もう遠い記憶の、微かなひとコマですが、 このところ妙に懐かしい。



 【あの役に立つ落語の山田さんが志の輔さんとラジオ対談へ】
 いやあ、巡り巡って人の縁というものは、人智を超えていろんな演出をしてく れるものです。もうひとつ、これも見えざる手を意識しないわけにはいきません。


 「役に立つ落語」(新潮社刊)の著者で、このところDNDメルマガ常連のソ ニー学園湘北短期大学学長、日本工学アカディミー監事で元ソニー執行役員常務 中央研究所所長の山田敏之さんが、文化放送の「志の輔ラジオ土曜がいい」(毎 週土曜日午前11時から13時)の18日の番組に出演する、という。


 志の輔さんといえば、立川談志門下の看板、もうテレビ司会や舞台やコラムや パーソナリティーや街頭や富山やパルコや創作や‥なんでもかんでもこなして見 事にやっつける、その異能ぶりに刮目するファンは多い。地元、富山での講演は、 いやあ、富山弁で大いに笑わせるそうです。


 そのマルチタレントぶりを発揮する、当代随一の実力派の噺家と、東大卒の元 ソニーのエンジニアで大学学長の、トークセッションというから、気になって、 面白がって、それでなんか嬉しくてしょうがない。


 志の輔さんは、先週発売の週刊朝日で、なんと巻頭グラビア5ページを独占、 落語家が5ページぶち抜きというのは、週刊誌では異例、落語界史上初の快挙と 周辺で大騒ぎしていたらしい。グラビアは、志の輔さんが正月早々、東京・渋谷 のパルコでの1ケ月のロングラン公演を行った「志の輔らくごinParco」の模様 をウオッチし、それを特集していました。


 週刊朝日、グラビア、そして落語とくれば、この3点セットで浮かび上がるの は唯一、黒ヒゲの小林伸行さん、週刊朝日の記者です。聞くと、「そうです。ハ イ」と相変わらず屈託がない。実は、彼が新人で産経新聞に入社したてのころの 上司(デスク)が、私でした。


 思い出しますね。小林記者の最初の原稿が、浅草のすし屋横丁の、手焼き煎餅 職人の煎餅を焼いている写真とそのキャプションでした。真夏、ギンギンの太陽 の下、玉の汗を吹き出しながら煎餅を炭で焼く〜その原稿の書き出しに、小林記 者は手を焼いていました。そこでデスクの登場、冒頭に朱をひと言、「暑いです ね〜」。


 彼、「えっ、まんまじゃないですか。これでいいんですか?」と、なんか感心 したような、見下したような複雑な言い方で聞き返していました。その彼が、浅 草で一年も立たない内に昇格して、社会部へ。そして、嫁さんをもらって産経新 聞から朝日に移り、堪能な英語を武器に外報部なんかに席をおいたりして、いま や立派な、落語記者?に成長していたんですね。


 巨顔の産学連携ウオッチャーとヒゲの志の輔ウオッチャーの、時がめぐって絡 まって、狙いも考えもなしに用意された想定外の企画。なんかいい風が吹いてき ているような気がしてきます。18日は是非、文化放送を聴いてください。



【沖縄で健康クラスターフォーラム、小樽商科大学の瀬戸先生ら】
 あれっ!沖縄では文化放送が聞けるのだろうか。ちょっと心配です。明日16日 から沖縄へいきます。小樽商科大学教授の瀬戸篤さんがモデレータ役の沖縄健康 クラスターフォーラムが同日14時から名護市の万国津梁館で開催されます。琉 球大学観光科学科教授の平良一彦さん、スタンフォード日本センター理事の今井 賢一さん、沖縄長寿科学研究センター長の鈴木信さんらが講演し、パネルでは健 康産業を沖縄の基幹産業にするための手法について議論し、その道を探る、とい う。


 そして17日は、那覇市で高度先進医療シンポジウム。がん制圧に大きな効果が 期待される、重粒子線による医療装置などが報告される予定です。これは来年度 から群馬大学が一歩先んじて具体的な建設計画をスタートさせますが、その計画 が沖縄でも‐という機運が出始めているようです。



【北海道ITクラスターセミナーで古川勇二さん講演】
 いやあ、この時期、セミナーやシンポが目白押しです。東京農工大学大学院教 授の古川勇二さんは、雪祭りの札幌へ。もう終わったかな。16日が北海道ITクラ スター推進協議会と合同成果発表会で基調講演をされます。「是非、ご一緒に」 のお誘いを断った経緯があり、ちょっと胸が痛みます。このフォーラムの内容は、 その推進協議会議長は、北海道大学理事で副学長の長田義仁さん、北海道の産学 官連携のリードマンですし、札幌地域知的クラスター本部長は、小樽商科大学ビ ジネス創造センター長だった下川哲央さんが登壇するようです。



【東北大学の原山さん、東大先端研の渡部さんらジョイント】
 首都・東京は、秋葉原コンベンションホールでは17日、「イノベーションと知 的財産、米国パルサミーノレポート・仏ベファレポートと日本の針路」と題した カンファレンスが科学技術振興調整費知的財産人材育成事業のひとつとして実施 されます。


 東京大学先端科学技術研究センターと東北大学工学研究科のジョイントで、内 閣府特命担当大臣の松田岩男さんが来賓として挨拶する予定です。海外からの招 待講演のあと、ふたつのパネル討論。最初は、この度、総合科学技術会議議員に 就任されたばかりの東北大学教授でDND連載企画「産学連携講座」を担当する、 原山優子さんがモデレータの「日本ナショナルイノベーション戦略と知的財産」。 パネリストは、文部科学省学術政策局長の小田公彦さん、経済産業省産業技術環 境局長の肥塚雅博さん、経済協力開発機構科学技術産業局長の田中伸男さん、東 京大学先端科学技術研究センター客員教授の植村昭三さん、それに大学発ベンチ ャーのトップランナー的存在でアンジェスMG創設者、大阪大学医学部教授の森下 竜一さん、森下さんは、ご存知、DND連載企画「大学発ベンチャー成功の方程 式」を担当されています。



【全国行脚の森下竜一さんの『赤ちゃんの教え』に学ぶ】
 余談ですが、その森下さん、このところ講演行脚が続いて、極めてご多忙の様 子、ぐっと表情が締まってきた感じがします。先日もプライベートなセミナーで ご一緒し、知的財産戦略について、「特許、あるいは知財といっても、それその ものに価値はなく、活用されて初めて価値がでるわけです。活用されるための場 所、人、それら条件をどれだけそろえられるか、そしてそのサイクルをどうつく っていくか、ここがポイントで、その仕掛けがベンチャーです」と語り、安易に 流れる「特許幻想」の蒙昧を一刀両断していました。続けて「特許といっても、 それは産まれたての赤ちゃんのようなものです」との比喩は、まあ、この分かり やすさは、天才的です。詳細は、たぶん、当日のコメントなどでも聞けるかもし れません。


 で、もうひとつは、「日本企業のイノベーション戦略と知的財産」。モデレー タは、もうベテランの東大先端研教授の渡部俊也さん。パネリストは、東大先端 研助教授の元橋一之さん、株式会社東京大学TLO社長の山本貴史さん、富士通の 法務・知的財産本部長の加藤幹之さん、東京大学大学院教授の影山和郎さん、そ して東北大学知的財産本部長代理の高橋富男さんのいずれも豪華な顔ぶれです。 なんか、これは6月9、10両日に予定されている、京都での産学官連携推進会議の プレ分科会の趣きですね。


 困った、困った〜。なんでもあっちこっち、いい顔しようとするから、土壇場 になって頭を抱えてしまう。皆さんのご活躍とご盛会を心からお祈りしています。




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