◆ DND大学発ベンチャー支援情報 ◆ 2006/1/25 http://dndi.jp/

人間性の四捨五入

DND事務局の出口です。どう冷静になれって、口を尖がらせて大声で叫んだっ て、所詮無理なことは承知しているんですが、号外が飛んで大騒ぎして煽り立て るような、特に嵐のようなテレビの報道の前に、息もつけません。


 想定されていたこととはいえ、天井高く持ち上げてから一気に逆さに突き落と すプロレスのパワーボムじゃあるまいに、そんな危険なメディアの習性をどこか がブレーキをかけていかないと、どんどんエスカレートして歯止めの利かぬ「言 論のテロ」の恐れを感じます。彼を擁護するわけじゃないが、あんまりじゃない かい〜。


 マスコミ評論の大宅壮一さんは、ジャーナリズムは人間を四捨五入する‐と喝 破していました。例えば、朝日新聞が菊池寛の小説を掲載する場合には、彼の作 家的偉大さをおおげさに書き立てた社告をする。ところが、その小説のまだ終わ らないうちに、ひとたび彼がとばく事件で警視庁へ召喚されるや、同じ新聞が、 あたかも彼がとばくの常習犯であるかのごとき書きたてる、という。


 まあ、このくだりは朝日新聞を問題にしているのではなく、逆に日本で一番権 威のある朝日新聞でさえ‥という含みがあります。


 大宅さんは、「いずれ同じ人間の異なった半面に違いないのであるが、この二 つの半面の有機的な関係を決して認めないで、別々に、しかも極端に誇張された 形において、大衆の面前へ押し出そうとする。これがジャーナリズムの常套手段 である」と断じ、リアリズムの原則は、いうまでもなく「人間性の四捨五入に反 対する態度でなければならぬ。これはいわば『素朴リアリズム』であるが、真理 の素顔はいつでも素朴なものなのである」(大宅壮一全集3巻、ジャーナリズム とポーズ)と指摘していました。


 大宅さんの警鐘は、昭和30年代初期の記述ですから、今日のマスコミの数、規 模、その影響力などは当時と比べ物にならないでしょう。新聞の発行部数はすで に日刊紙で5000万部を数え、それらが一斉に連日、それも朝夕刊繰り返して、そ の渦中の逮捕記事で紙面を埋め尽くのですから、その破壊力は半端じゃない。テ レビ各局も早朝から深夜まで連日切れ目なく流し続けています。私生活やら、独 房の様子やらを興味本位で取り上げる番組も少なくありません。


 ちょっと前の、どうみても昨年夏の選挙以来の、テレビ各局の彼の取り上げ方 は、異常でした。年末年始のふんどし姿や温泉でのお笑い芸人らとのおふざけは、 もう有頂天の極みのようでした。


 しかし、この一連の事件の本質をどう捉えたらいいのか。その長々としたこれ までの経過の説明は飛ばして、それに容疑者らの「錬金術」に関する憶測なども 斜め読みして丹念に読んでみると、中にはキラリとした記事も少なくない。元東 京地検特捜部長で現在、弁護士で中央大学法科大学院教授の宗像紀夫氏の寄稿が 24日付けの産経新聞一面に掲載されていました。


 〜特捜部の捜査は、当初の容疑事実にとどまらず、グループ全体の金の流れの 解明、粉飾決算などを含む違法行為の有無、同種違法行為を行っているとみられ る他の会社などの取引の吟味にも及ぶ可能性も否定できない‐と事件がさらに拡 大しそうであることの見通しを語っていました。


 リクルート事件の捜査など数多くの経済事犯の捜査を担当し指揮してきた責任 ある立場の人の先見性というか、その捜査進展の予測は、説得力があります。


 そして、〜企業経営者には、高い倫理観が求められると考える。正しいものは 正しいとし、間違っているものは間違っていると峻別できる「素朴な正義感」が 必要なのではないか。「世の中、金がすべてだ」という拝金主義、マネーゲーム が悪いとはいわないが、企業の上に立つ者には、それなりの品性も要求されるだ ろう〜と結んでいました。


 もうひとつは、ライブドア問題の核心を突いて「世代間の価値観の争いではな い。古豪の経団連銘柄企業と新興ネット企業の争いでもない。経済改革の流れは 変らず、旧来の制度への回帰や巻き戻してもない。市場のルールに背を向ける不 透明で不実な経営こそが問われたのだ。〜」と論じるのは、日本経済新聞のコラ ムニスト、西岡幸一さんの署名記事でこの日の一面の企画「堀江社長逮捕」でし た。


 後段には、〜コーポレートガバナンスの確立やコンプライアンスに感度が鈍い 経営者も少なくない。株式バブルは投資家が「自分よりもっと愚かな投資家が存 在する」との前提に立って成立するが、確かに前提は正しかった。さらに大衆受 けを狙った政治、メディア‥‥。多くの人たちや組織がライブドアに対してブ レーキをかけず、時代の旗手として見誤った面は否めない‐とメディアの責任に も触れていました。


 DND連載「志本主義のススメ」で、危いライブドア崩壊を見抜いていた経済産 業省大臣官房総務課長の石黒憲彦さんは、本日アップのその連載の冒頭で、一連 のライブドア報道について以下のような所感を綴っていました。


 (中略)ここ数日感じるのは、「それが仕事だよ」と言われてしまえば身も蓋 もないのですが、「上げて」、「下げて」のマスメディアの体質に対する違和感 です。堀江氏がこれまでマスメディアを利用するだけ利用した報いなのでしょう が、異様な取材攻勢で彼をバッシングしている定見のなさにも唖然です。「儲け るが勝ち」と「視聴率上げれば勝ち」は全く同根の精神であることに気づかざる を得ません。改革を煽る一方で自らは規制と古い秩序に安住し、拝金主義を批判 する一方で視聴率や売り上げ至上主義に陥っているマスメディアにも、堀江氏の ケースに学ぶべきレッスンが多いように思います。


 こうしたものに煽られて、「かっこいい」、「胸がすく」と思って堀江氏に声 援を送り、夢を託していた人々が一番気の毒に思えました。今回の事件が、そう した人々のチャレンジ精神を萎えさせずに、マスメディアが作る「風潮」や「空 気」に惑わされずに、「志を高くして我が道を究める」ことの重要性を再認識す るいい機会になることを祈るのみです(以下略)−と。


 石黒さんの、いつに珍しい社会派タッチの辛口評は、またその一方で「声援を 送り、夢を託していた人々が気の毒」という指摘に胸が締め付けられそうでした。 「素朴な正義感」が必要なのではないか‐という宗像さんの言葉が伝わってきそ うですし、他者の痛みを感じる、その鋭敏な皮膚感覚に敬服させられました。多 くの人の夢、それを突然、無残に打ち砕いてしまったかのようなライブドア・シ ョック、目には見えないそういう被害も甚大です。


 その辺をもう一歩先を見越して解説してくれているのは、評論家の宮崎哲弥さ んでした。「(中略)時代の寵児の転落で、一攫千金を目指す若い世代の『お手 本』が失われ、閉塞感がでるかもしれないが、地道に働き着実に歩む生き方に回 帰する良い面も期待できる〜」(朝日新聞24日付け社会面)。そう願い、そう期 待したい。


  先見性。時代の先を読む、あるいはその人物から伝わってくるシグナル、良 くも悪くもそこを感じ取る力が欲しい。あの、ナベツネこと読売新聞グループ本 社会長の渡辺恒雄さんは、昨年3月には、堀江貴文容疑者について「蓄積も投資 もないのにマネーゲーム的に利益をあげようとするのは大間違い」と一刀両断、 自民大勝の選挙後の面会申し入れに対しても「その必要はない」とぶれませんで したね。手元に、波瀾万丈・奔放自在の一代を記す、とした渡辺さんの近著「わ が人生記」(中公新書ラクレ)。その慧眼が随所に光っていました。


 松下幸之助さんは、先見性を養う秘訣を問われて〜。
「ほんとうをいうと、先はみえないんじゃないでしょうか。けれども、永年経営 の仕事をしていると勘が働くんですな。勘がはたらくかはたらかんか。これは大 きな問題です」。


 「目の不自由な人が、杖を頼りに歩いていて、あまりけがもしませんわ。僕も 杖をついて、先を探りながら歩くような方法を取ってきたに過ぎん。だからけが がなかったんですな。それでも向こうからぶつかってくる場合がある。私のやり かたも、よくいえば手堅いし、わるくいえば恐れおののきながら模索してきただ けですよ」。これは、日本経済新聞の「やさしい経済学‐ニッポンの企業家」シ リーズの7回目「勘ははたらくか」。筆者は、作家の津本陽さんでした。


 さて話は変りますが、お台場はホテル日航東京で23日から国際特許流通セミ ナーが開催されています(本日25日まで)。昨日午後、急ぎ飛んで行った先のセ ミナーは、「大学発ベンチャー企業の現状」というテーマで、大阪大学大学院教 授でアンジェスMGの創業者の森下竜一さんがモデレーターを務めていました。ほ んと見事な差配で、特にバイオベンチャーにフォーカスしていましたから、やや もすれば難しくなりそうな雲行きでしたが、テーマの進行や解説も丁寧でテンポ よく、いやあ、模範演技のようなセッションでした。パネラーは、日本のバイオ ベンチャー業界に精通した皆さんで、松田一敬さん(北海道ベンチャーキャピタ ル代表取締役社長)、宮田満さん(日経BP社医療局バイオセンター長)、山崎清 一さん(いちよし経済研究所首席研究員)、ボリス・チャバスキーさん(SHIコ ンサルテイング社長)の40代中心のフロントランナー。親しげで楽しげな雰囲気 が会場の隅まで伝わってきていました。2時間近い内容は、こっちへおいて、締 めの、これからのバイオベンチャーの一年を占う、大胆予測は、必見でしたが、 ちょっと怖くて書けません。


 続く、大学発ベンチャー企業のリスク管理は、タイムリーなセッション。海外 の技術移転における安全保障貿易管理、気をつけないと危ない点を経済産業省の 安全保障貿易検査官室長の奥田慶一郎さんが解説し、「知らないおじさんにはつ いていかない」と警告していました。大学連携推進課長の中西宏典さんは、昨年 11月施行の不正競争防止法の改正(営業秘密の保護強化)について、技術漏洩の 防止など、大学発ベンチャーへの注意喚起を促していました。それに野村證券の 公益法人サポート室課長の平尾敏さんは、大学発ベンチャーのガバナンス、起業、 IPOの留意点を事例を参考に説明していました。モデレーターは、東北大学大学 院経済学研究科教授の西澤昭夫さん。どうも、全般的に企業リスクがテーマです から、いま一押しのホットイシューということでしょうか。


 さてさて、本日はこれから電気通信大学のTLOキャンパスクリエイト社長の 安田耕平さんのお誘いで、安田さんと共同研究センターの特任教授の竹内利明さ んらとの学生向けの大学発ベンチャー起業のセッションに参加してきます。将来 ある、学生に元気を与えたい、そんな気分です。


 そして翌26日は、福井大学と産業界との交流会「FUNTECフォーラム」で講演し ます。文部科学省からは地域科学振興室長の田口康さん、経済産業省からは近畿 経済局地域経済部長の山城宗久さん、いずれも人気のスピーカーですから、楽し みです。当初100人という参加者が200人に倍増するようです〜と今回のコーディ ネータ役のふくい産業支援センターの出水孝明さんから嬉しい悲鳴、急きょ、 リーフレットを持参することになりました。僕のテーマは、「大学発ベンチャー の傾向と対策〜貴方はどうする?」で、産学連携ウオッチャーとしての現状分析 と、「ここだけの話」を随所に織り込みながら、地域活性化のポイントをお話し する予定です。ええ、ライブドア事件の今後?聞かれたら‥ね。でも持ち時間80 分は、聞いてる方も大変ですよね。


 ※これはお知らせです。DNDサイト内の連載企画、産学連携情報、それに小生 のメルマガなどサイト内のすべてのテキストデータを瞬時に検索する新たな人工 知能ベースの検索エンジン、FlexSearchInsight(フレックスサーチ インサイト) の機能を追加しました。


 サイト一面の(検索ナビ)の青ボタンから入って、検索窓に「産学連携」と打 ち込むと113件の記事がでてきます。人気のコラム「志本主義のススメ」と打つ と43件の記事が表示されます。いやあ、便利です。ご活用ください。


 開発主体はDND研究所と連携する(株)アドイン研究所です。担当の執行役員、 徳永雅彦さんは、「お客様のWebサイトにサイト内検索機能を追加できるASPサー ビスです。検索エンジンにフレキシブル照合型全文検索エンジンFlexSearchを採 用することにより、柔軟な検索を実現しています。ニアミス語(検索語に似てい るが少し違った表現の語句)も検索可能なため、新しい用語も数多く使用されて いる新技術/新ビジネス分野でのWebサイト検索に最適なサービスです。また、 検索語、ニアミス語やアクセス数等のレポートにより、ユーザ要求分析やSEO対 策にも活用いただけます。導入費用は格安です」とその特徴を説明しています。 どうぞ、ご興味のある方は、http://fsinsight.jp/をご参照下さい。また、ご利 用の感想などもお聞かせください。




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