◆ DND大学発ベンチャー支援情報 ◆ 2006/1/18 http://dndi.jp/

ライブドア強制捜査の戒め

DND事務局の出口です。これを変報とでもいうのでしょうか。冬枯れの街にライブドア強制捜査の衝撃が走り、株式市場はほぼ全面安のライブドア・ショックに揺れています。


 いくつもの仕事を引きずって家に帰って、茶の間で夕刊を手にとって読むでもなく物思いにふけって、いろいろ、あれこれ、その日の余韻に身をまかせていると、テレビの中継が騒がしく、六本木ヒルズへの東京地検特捜部の家宅捜索の模様が目に飛び込んできました。


 その捜索の陣容からして、とんでもないことになりそうな雲行きです。その動揺は隠し切れません。17日朝の記者会見で堀江貴文社長が発した「今まで通り事業の拡大に努めてまいります」というひと言にわが耳を疑いました。


 家宅捜索を端緒に、そしてこれからさらに激しさを増すと思われる捜査の進展、それに続く事件報道の先を考えると、いまはまだ前哨戦に過ぎません。


ある局面を境に一気にエスカレートし、プライバシーもなく見識も通り越して、風評やらなにやらあることないことをワーワーと書きたてていくのが日本のマスコミの習いですから、面白がって低俗でスキャンダラスな噂話も飛び出してきます。どんな容疑で、何が問題とされているのか、そしてその影響は市場や会社の存続がどうなっていくのか‐こういう時こそ事件の本質をしっかりと見抜いていかないと翻弄されてしまいます。  


 それにしてもなぜ、こういう事件が起きてしまうのか。もうひとつの驚きは、DND連載の「志本主義のススメ」の筆者、経済産業省大臣官房総務課長の石黒憲彦さんが、昨年11月に発表した27回目の連載「優良企業の経営者はカリスマ経営者か」(その1)の論文で、今回のようなライブドア事件の起こる原因、その先の有様や見通しなどを見事に喝破していたからです。


 その一部を引用しますと、優良な企業経営者の場合は、「必ず何らかの事業に対する思い入れ、志があります。強烈な個性と夢と志が噛み合って、共鳴する人々を糾合し、極めてスピーディーに成長していきます」といい、しかし駄目経営者のパタンはというと、「事業に対する志を持たずに、ただ儲かりそうだとか、派手な暮らしをしたいとか、目立ちたいとか、とにかく一旗揚げてやろうというタイプです。こうした経営者でも、当座のビジネスモデルやニッチ市場への着眼などが優れていたために、『ベンチャー企業経営者の雄』などとメディアに持ち上げられることがあります。


 しかし、こうしたタイプの経営者の特徴は、よくよく言葉を吟味して聞いていると、人を動かすに足るだけの深い言葉をもっていない。人の意表を突くような派手な言辞はあるのですが、思いつきが多いのです。当たり前です。深く事業のことを考えてはいないのですから。(中略)こういう会社に蔓延するのは、拝金主義的文化であり、『儲ければ勝ち』といった組織風土です。結果、この手の企業に多いのは違法な営業行為などによる不祥事などによる自滅です」とバッサリ。


 一般論とはいえ、まさに予言的中とはこのことをいうのでしょうか。続けて、「事業そのものが好きではなく、たまたま儲かりそうだというだけで始めているから、拡大局面が終わるといとも簡単に事業を乗り換えたり捨てたりします。(中略)結果として、何かに躓いて下降局面になると、あっという間に組織が傾き、蜘蛛の子を散らすように人が逃げます。やがて事業に失敗するか、あるレベルで成長は停滞します」と指摘していました。


 石黒さんは、そこで創業者による会社の規模に触れて「結局、経営者の志と器の大きさに比例するというのが筆者の経験的法則です」とその志本主義の真髄をさらに詳しく披瀝し、時代のリーダー論に言及していました。


 毎日の新聞各紙を隅々に目を配るのは、もう30年近い習性というか、なんともマニアックなんです。で、読売新聞の「編集手帳」は今朝も冴えていました。情の機微を巧みに取り込んで唸らせる名筆、高木健夫さん以来の伝統が息づいているようです。


 「商業の神、ヘルメスの信心のあつい男がいた。神は褒美に金の卵を産む鵞鳥(がちょう)を与えた。体内に金塊があると考えた欲の深い男は鵞鳥を殺して腹を裂き、全てを失った。イソップの寓話(ぐうわ)である◆(中略)◆寓話の男が信仰したヘルメスはギリシャ神話の主神ゼウスの末子で、商業の神であるとともに泥棒の神としても知られている。正と邪の危うい一線を、人の欲心はやすやすと越えていく。寓話の世界にとどまるまい。」


 もうひとつ。時間外取引によるニッポン放送株の大量取得を、ギリシャ神話のいたずら者ヘルメスの早業にたとえたのはもう11ケ月前だ‐と前置きして、今朝の毎日新聞の名物コラム「余禄」も、やはり同様の比喩を引用していました。


 「ついでながらヘルメスはその後エジプトの神と習合して錬金術の祖になった。人を黄金にかける夢は古今似たようなものである。変ったのは夢をかなえる方法だ。ただそれが人を誤まった道に誘い込みやすいのも古今さしてかわらない。」と。同じ日に同じテーマで、ふたつのコラムをひとつの続きとして読んでも興味深い。


 が、いやはや、堀江氏のブログには「頑張れ!」などとの激励メールが相当数寄せられていますが、その一方で世のデジタル嫌いのオヤジさんらから「だからベンチャーは‥」っていう陰口が聞こえてきそうです。気になるのは、強制捜査の日程が国会での耐震強度偽装にからむ証人喚問の取り扱いを目立たなくさせるためだ‐という若い世代らにネットなどで流れている根拠のない風評です。そんな風に簡単に信じてしまうから、怖い。


 ホリエモン支持か不支持かに世代格差がくっきり浮かび上がっているのも昨今の特徴ですから、問題の所在をちゃんと精査して、少なくても「ホリエモンが大人社会に虐められている」‐という偏見は極力排除していかなくてはならない、と自戒しています。


 この春、晴れてライブドアに就職する新卒の若者やそのご家族は、どんな思いでこの事件の推移を見つめていることでしょう。だから、せめてここは冷静に‥。




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