◆ DND大学発ベンチャー支援情報 ◆ 2006/1/11 http://dndi.jp/

届け、希望の言葉

DND事務局の出口です。新春。どんな一年にしていく覚悟でしょうか。初メル マガは年末年始を越えて、ちょっと惹かれた媒体からの言葉を拾い集めてみまし た。それらの一節が、確かな明日を創るメッセージとなり、希望の励ましとなる ことを期待したい。


 さて、「昔」は組織やチームで仕事を動かすことが多かったが、「今」は個が 求められる。だから知る人ぞ知るプロ中のプロ、時代を体現している個人に焦点 をあてる‐とNHKの番組プロデューサーの有吉伸人さんの前宣伝に魅かれて、 昨日のNHK夜9時15分からの「プロフェッショナル仕事の流儀」の初回をじっ くり観察しました。


 人気の脳科学者の茂木健一郎さんや、ナレーターの橋本さとしさんのナイスな 起用、デザインや照明が見事なスタジオの設営、それに興味をそそる「流儀」の タイトル文字などなど、その凝った仕掛けには、う〜む、斬新だな〜と感心しな がらも、肝心の番組は、構成が揺れてどうも落ちつきがない。茂木さんの存在感 がちょっと薄い、という印象を持ちました。


 が、ゲストの星野佳路(ほしの・よしはる)さん45歳、自称、リゾート再生請 負人の苦労続きの経歴、そして数々の実績、そして、彼の仕事の流儀の「主役は 社員」という話の流れには、つい引き込まれてしまいました。


 破綻した老舗旅館、肩を落とす社員たち、やる気をどう引き出すか、そこに再 建のカギがある、星野は言った〜。


 「簡単に言いますと、この職場の主役は、私、経営者じゃありません、皆さん 自身です。言いたいことは、言いたい人に直接言ってほしいんです。全くかまい ません。自分の上司に一旦、伺いを立てて聞く必要はない。どんな結果でもかま わない。全ての責任は私が取りますから。それでは、今日からがんばりましょ う」。


 静岡の旅館、その再生の手法の場面。まず、コンセプトづくり、これには驚き ましたし、目からウロコ状態でした。何が、といえば‐。


 「どんなコンセプトに作り上げるか。そのコンセプトには正解はない。その選 択肢はたくさんあって、そのどれもが正しい可能性がある。その中で、最も正し い物を選ぶのではなくて、共感されるものを選ぶ。その方が、それを達成しよう という推進力になる。共感が大事です。一番大事かもしれません。社員が共感で きる、そういうコンセプトをつくることです」。


 どんなに辣腕の経営者が、立派な方針を立てて示しても、社員が共感しないと 動かない。そういう現場、実はかなり多く経験してきました。「社長のいうこと を理解できないのは、社員が悪い」と。いやあ、冷や汗もんです。気がついてよ かった。


 これもNHK。誓い‐もうとっくに失いつつある、その重い歌詞のタイトルを 聴いて心が動き、メッセージに似たそのフレーズを書き写してみました。


 〜胸に誓うよ 永遠に果てしない道も乗り越えてゆくと 
たどり着くまでその時まではきっとあきらめないから〜。


 歌手の平原綾香さん(21)が歌うNHKトリノ五輪中継のテーマソング「誓い」 の一節です。来月10日の開幕まで1ヶ月を切りました。きっとこの曲が、選手の 活躍の場面をより盛り上げるに違いない。


 スピード、フィギュア、それにジャンプと人気の種目以上に、楽しみなのが、 いまや絶好調のスノーボード・ハーフパイプ(HP)。文字通り、巨大な配管を真 ん中からスパッと横に切ったような舞台で左右の傾斜を利用して加速してそのス ピードと技を競う。


 より高く宙に舞う、と自信の成田童夢さん、咲いた花のように飛びたい、表現 が冴える妹で18歳の今井メロさん(成田夢露から改名)、メダルを射止めれば最 年少記録となるマックスツイストが武器の国母(こくぼ)和宏さん(17)らが、 どうやら数々の栄冠を引っさげて世界の頂点に挑む。


 もうイメージは、童夢さんらのスノボが蹴り上がって高く弧を描く、そのス ローな映像の背景から、透明感のある平原さんの歌声が流れる‥。


 その平原さん。「気に入っているのは、『あきらめない』の言葉。前に進む勇 気をテーマにした曲です。4年に1度の一瞬のためにかける選手の思いは、はかり 知れない、是非、結果を出して欲しい」と話していました。


 「人に夢あり」(NO.18)。これは、知る、遊ぶ、和の心を楽しむ‐というコ ンセプトの新幹線車内誌の「ひととき」1月号の中のインタビュー記事でした。 新幹線グリーン車の乗客用にウエッジと一緒に置いてありました。昨年暮れ、親 類の用事で大阪へ、帰省ラッシュでなんとかグリーン車を確保して手に取ってい ました。


『黙って向かい合うと、これまで経験したことのないような緊張感が全身に走る。 そこが弁護士事務所であるとわかっていても、検察庁の中に紛れ込んでしまった ような気分になるのは、熊浮フ鋭い眼光のせいか、それとも長い検事生活の残り 香なのか〜』


 そんな書き出しで始まり、そこに登場するのが、現在、弁護士で日本プロ野球 組織コミッショナー顧問の熊撫泄Fさんでした。東京地検特捜部時代は、リク ルート事件、ゼネコン事件、元自民党副総裁の巨額脱税事件などを指揮して、巨 悪を断つ、鬼の特捜部長と崇められていた、その本人でした。


 なんともデスクの前の一枚のスナップは威厳のある風貌を見事に捉えていまし た。いい写真です。しかし、このような綺麗な顔は、近年みかけなくなりました ね。その人の生き様が、そっくりその表情に映して例えようのない清潔感を漂わ せているようでした。が、眼光の鋭さと口元の柔らかなほころびは剛と柔、意外 と懐深い人情家と感じました。


 もうひとつの驚きは、そのインタビュアーが作家の吉永みち子さんだったこと でした。テレビのコメンティターとしてはひんぱんですが、よく知らない。が、 そのインタビュー記事を読んで彼女への認識は一変してしました。


 べらんめえ口調。豪快な笑い。(それが)板についた様子から、官の時代から きっとこうだったのだろうと思われる。冷静沈着にして、ひんやり冷たい法律用 語を駆使して追い詰めるというより、熱い思いを武器に人間臭さを漂わせつつじ わじわ寄り切る印象である‐と書いていました。


 印象深いのは、退官後を、人生を踏み間違った人の、その後の人生の再構築に 捧げる‐という姿勢と、熊浮ウんの次の言葉でした。


 「被害者になってみないと本当に被害者の気持ちは分からないと言うだろ。 (中略)被告人だって、なぜ道を踏み外したのか、目前の人間の姿に触れながら 考える。平穏に暮らしている人にはわからないかもしれないけれど、人生ってい つ谷底に落っこちるかわかんねえもんだよ。人間ってそんなにきれいじゃないと 思うよ。胸中密かに企む悪事だってあるよな。バレないならやってみたいとか、 気に入らない奴を心の中で抹殺したりさ。予測できない何かが起きて、事件を起 こしてしまって、心から悔やんでいる人間を見るとさ、心の中で一緒に泣く場合 もあるからな」


 「不祥事や大きな事件は、人がぎりぎりのところで下した判断が分かれ道にな る。企業も個人も、同じところがあるよな。人間って狭間の中で生きているから さ。こっちを立てれば、あっちが立たずみたいなせめぎあいの中で、人間が決断 するんだからさ。何が起きているのか観察する力、それが何を意味するのか感じ る力、この先何が生じるのか想像する力、そういう人間の力を高めておくことが 大事なんじゃないか。人間の根っこの部分がしっかりしていれば、そう間違った 道は選ばないですむと俺は思っているんだよ」。


 余談ですが、ゼネコン汚職は、当時、前職の会社のスクープで新聞協会賞とな りました。「今日逮捕へ」の特ダネを打つか、どうか、その夜、社会部はぎりぎ りの切羽詰まった緊張に包まれていました。常に慎重で疑り深い部長の最後の決 断は、現場の記者への信頼からでした。熊蕪チ捜部長の評判は、新聞記者の間で も高かったことを記憶しています。こういう人と向かい合いながら、本音の仕事 ができたら記者冥利でしょうなあ。


 また、揺り戻し。NHKの新・大河ドラマ「功名が辻」は8日にその第1回「桶狭 間」の戦いから始まりました。変転目まぐるしい戦国時代を舞台に、武将の山内 一豊とその妻・千代の愛と功名のドラマは、繰り返し読んでも気持ちが弾んでき ます。


 原作は司馬遼太郎さんとあって、にわかに司馬遼ブーム、ちょうど没後10年と いう企画も目立ちます。その原作から、いくつかのフレーズを〜。


 「運。という。人は手軽に考える。秀吉は運が良かったから英雄の名を得たの だと。しかし、運というのは英雄の最大不可欠の条件である。憑いている者を英 雄という。才能器量があるだけでは、英雄の条件ではない」 (文春文庫2巻「鳥毛の槍」の項)。


 「天下を取る取らぬは、人力以外におのずからの天運というものがある。無理 無体に人力で取ろうとしても、天下は来ぬ。明智光秀の例でもわかるとおりだ」 (同2巻、「春日遅々」の項)。


 「うれしい、千代はおもった。人の世でいくつかの種類の幸福があるかもしれ ないが、人の客となり、行きとどいて心やさしいもてなしを受けたときの幸福と いうのは、格別なものであろう。この心のやさしさを芸術化したものが、茶道と いうものなのである。だから、そのやさしさも、偽善では茶道の心は、にせもの になってしまう。北政所と孝蔵主のばあい、そのうまれつきの人柄のせいか、巧 まずして天下第一の茶道のふんい気に千代を誘い入れてしまっているようであっ た」(同3巻、「淀のひと」の項)。


 NHKの大河ドラマになった司馬作品は、これで5本目という。時代が大きく動き 始める、そんなタイミングに司馬作品が似合うとすれば、組織から個、それも女 性というのが新しいフェーズのキーワードのような気がしてきます。


 しかし、ドラマは原作を越えられるでしょうか。役者は揃っています。初の時 代劇、初の大河に挑む脚本家、大石静さんの腕の見せどころのようです。


 朝日新聞一面は新年から「再生 新生」と題した大型の連載を8回に渡って掲 載しました。4日の第3回は、「大企業よりも起業選ぶ」を見出しに、「東大生の 就職先に異変が起きている。国家公務員や大企業を選ぶ割合がここ10年で減り続 けている」として、その具体的な数字を示しながら、起業を目指す学生を支援す るNPO法人、ETICの宮城治男さん(33)の「起業なんて、以前は東大生に見向き もされなかった。隔世の感がある」との驚きの談話を掲載していました。


 その前段には、東大農学部在学中に起業した出雲充さん(25)について「ライ ブドアグループの人材関連会社副社長など5つの会社の役員を兼務する。休日は 大学などの講演で全国を飛び回る」と紹介していました。


 宮城さん、出雲さん、それぞれミッションを異にしながらも、起業・創業に挑 戦する全国展開のムーブメントに走るところは、志を同じくしています。個人的 に面識があります。それにしても朝日新聞は、こういうところに鼻が効くのが凄 い。だって彼ら二人を取り上げることで、どれほどのアナウンス効果があるか、 僕には、その裏の巨大なネットワークを垣間見てとれます。


 その連載の昨日の8回目は、「届け、希望の言葉」。氏岡真弓記者の取材でし た。ノーベル賞作家の大江健三郎さん(70)は宮城県宮城野高校3年の浪岡有希 さん(17)から「何かを知るためではなく、何かをわかるためのきっかけをいた だきたい」と手紙で講演の依頼を受けていました。


 講演は昨年10月に実現し、大江さんからのメッセージは、その有希さんの依頼 を繋ぐ語りで、「教わって『知る』、それを自分で使えるようになるのが『分か る』、そのように深めるうち、初めての難しいことも自力で突破できるようにな る。それが『さとる』ということ」という趣旨だったようです。


 有希さんは今、「さとるという発想までは持っていなかった。背筋を伸ばして、 いつか自分の考えを発信できるように努力していきたい」と確信を深めていると いう。


 社説は、「団塊のあした」のカットを使って、団塊世代周辺のさまざまな題材 をお仕着せでない、レポート形式の文章を続けていました。その同じ8日には、 「熟年離婚」のテレビドラマを引き合いに出しながら、「ふたたび出会うため に」のタイトルをつけて、NHK出版の「60歳のラブレター」を紹介していました。


 その本、すでに5巻を数え、合計で約35万部の売れ行きだそうだ。夫から妻へ、 妻から夫へ。はがき一枚に綴った恋文集。長い年月を共に歩んだ者たちだけが抱 く信頼や温かな情愛が胸を打つ、といい、「父親と母親の役割から解き放たれる 夫婦の第2ステージは、ふたたび相手を知ろうとするところから始めたい。絆を 結び直すにしても、ほどくにしても。」と結んでいました。


 ひょっとして、この社説の担当者は団塊世代なんだろうか。僅かに自戒を込め たような記述は好感が持てました。


 調子に乗って、朝日。週刊朝日の新春合併号は、新春編集長インタビュー。見 出しが「読売新聞では読めないトップの本音」、「ナベツネ大いに吠える」。


 いやはや、ナベツネさんは大らかで饒舌でしたが、編集長の山口一臣さんは、 いい突込みをしていて、読者の期待を裏切らないところがいい。この手の取材は、 なんでそこをもう少し聞かないの?って苦々しく思うことがしばしばですが、こ れは出色です。その一部〜。


山口 渡邉さんは政治部時代、記者というより政治を動かす側に回っていたとよ く言われますが‥。


渡邉 駆け出しのころ、ある大物政治家の会議の取材を庭の中からのぞいてい たら、会議の中に朝日の記者が入っていた。「すげえな」と思った。バカヤロー 解散など抜かれた経験は山ほどありますが、本当の特ダネを取ろうと思ったら、 虎穴に入っていかなければダメだと認識した。(中略)


山口 特ダネの秘訣は何かあるんでしょうか。


渡邉 10取材しても、すぐには1つか2つしか書かないこと、秘書や運転手とか お手伝いさんを大切にすることかな。大野伴睦を夜回りしていて、番記者と一緒 に引き揚げるんだ。その後で勝手口に回ってお手伝いさんにいって開けてもらっ て中に入る。一対一で内証の取材をするわけだ。


 う〜む。きわどい位に面白い。ナベツネさんが登場するなら、毎週買っても いいなあ〜。


 せっかく読売新聞がでたところですから、このところ評判の本日の1面コラ ム「編集手帳」。ソウル大学・黄禹錫教授によるES細胞論文、すべて捏造 という最終報告を受けての記述。


 「〜◆科学分野のノーベル賞受賞者がいない韓国で候補筆頭の座にいた教 授は、国民の英雄であったという。研究の問題点を追及した地元のテレビ局 は世論から袋叩きに遭っている◆「天才とは、蝶を追って知らず知らず山頂 に登ってしまう少年だ」とある米国の作家は言った。研究者も世論もノーベ ル賞という山頂のみを見て、蝶を追う少年の心を忘れていたらしい。渾沌の 戒めを心して聞くべきは教授ひとりにとどまるまい」。


 さてさて、ようやく関東や都心に青空が戻りましたが、依然と白魔の猛威が牙 を剥く長野、新潟、北陸各地の雪害が凄まじく、孤立解消のメドが立たない状況 も続いているようです。関係する皆様のご健康と一日も早い復旧を願わずにいら れません。


 ※連載企画の更新は、昨年暮れの森下竜一先生を始め、安田耕平さん、瀬戸篤 さん、平尾敏さん、原山優子さん、それに石黒憲彦さんの揃い踏みで、新春6氏 顔見世興行の趣です。どうぞ、こちらのメッセージにもご注目ください。




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