◆ DND大学発ベンチャー支援情報 ◆ 2005/09/28 http://dndi.jp/

イノベーション・ジャパン:大学知の収穫祭

DND事務局の出口です。久しぶりの再会や、新しい出会いがあり、あちこち で弾む議論の輪を幾重にも広げていました。会場では、全国津々浦々、郷土色豊 かなキャンパスで収穫したばかりの、自慢の技術の品々を風呂敷いっぱい広げて いました。


 地元に帰れば、ちょっとは知られた研究者や学者さん、みんな、背中合わせの 狭いブース脇で、ややはにかんで照れもしながら、にわか露天の商に変身して、 堂々と胸を張って売り込みに屈託がない。なんとも下町風情の縁日みたいで、終 日賑わいを見せていました。


 大学からの研究成果や知的財産を一堂に集めた、大学の「知」のEXPO、 「イノベーション・ジャパン2005−大学見本市」が27日、東京・有楽町の 国際フォーラムで開幕(29日まで)しました。


 早朝から、展示のガラスの棟からセミナーのフォーラム棟へ、またその逆コー スをと廊下トンビ状態で、行く先々で「あっ、どうもどうも!」と懐かしい顔に 会ったり、すれ違ったり、お茶を飲んだり‥という予定外のことも多く、それも こういう場の楽しみの一つかもしれません。


 展示は、メーンの大学ゾーンにナノテク・材料、ライフサイエンス・バイオ、 医療・福祉、IT、環境・エネルギー、製造技術・ロボットの6分野に202件、 いずれも事前の審査を通過した厳選された新技術が目白押し。


 ひと際華やかなのは、知的財産本部56件、TLO23件、それに主催・共催 ゾーン、あるいは大学発ベンチャー支援ゾーンの(独)新エネルギー・産業技術 総合開発機構、科学技術振興機構、野村證券などの巨大ブースには多くの来場者 が足を運んでいました。


 昨年に続く今回は、話題のデジタルハリウッド大学が「全周囲球面ディスプレ イ用CGコンテンツ変換方式と融和性」を引っさげて初見参、さらに地元の首都 大学東京や東洋大学、創価大学、加えて秋田大学、埼玉大学、東京家政大学、湘 南工科大学など初出展組が15大学も顔を揃えていました。ざっと出展数319 件は、わが国最大規模のようです。


 グルッと、DND事務局のブースを起点に時計と反対回りに歩いていくと、 北海道大学の一群を過ぎて、TLOゾーン、安田耕平さんが社長の電気通信大学 TLOのキャンパスクリエイトは、馴染みのコーディネータさんの顔、顔、顔。 「英語教育現場に朗報!」のキャッチで人目を引いていたのは、英作文自動採点 添削システムの技術をチラシにしていた歴史を刻む早稲田大学のTLO、早稲田 大学産学官研究センターでした。隣接に社会貢献を目指す、早稲田大学産学連携 協力会のブースで「一緒に知の共創の実現を」と入会(無料)を誘っていました。


 出資者が教職員と卒業生ら522人で組織する東京農工大のTLOでは、野村 義宏助教授らの重篤な疾患を起こす原因菌を簡易な方法で識別する発明、小関良 宏教授らの、黄色のカーネーションに象徴される植物の花色の改変するDNA技 術、池袋一典教授のDNA分析が正確に、しかも簡単に行える新たな検出方法の 発明など、いやあ、これらは「技術の森」です。


 慶応大学は、ご存知、ナノテク技術を駆使して開発した野菜、果物の鮮度保持 シートでヒットを飛ばす、助教授の白鳥世明さん起業の大学発ベンチャー、株式 会社SNTを前面に押し立ててのアピール、傍に長岡科学技術大学のブースでは 1998年設立の国立大学初の大学発ベンチャー、株式会社ナノテムの研削・研 磨の世界を劇的に変える最新技術、超微細で高精度の工具など紹介していました。 多種多彩です。


 壁際の真ん中をあたりで左右に目をやると、ダイオキシン対策や環境技術が豊 富な愛媛大学。あれっ、そこには、今月正式に産学連携研究会を発足させたばか りの日本科学機器団体連合会の重鎮で技術委員長、そして田中科学機器製作所会 長の下平武さんと鉢合わせしていました。そこで、愛媛大学工学部のアドバイザーの武知博紀さんを紹介していただきました。世界で初めて、液体中に高周波プラズマを発生させることに成功し、その実用化に向けて競争的資金が欲しい、という。


 新たに発足した産学連携研究会は、100社が参加を表明し、まとまって産学 連携、学との連携、ビジネスマッチングに動く。「ご指導いただいた堀場さん (堀場雅夫さん)も賛同し、参加してくださることになりました」と下平さん。 その角には、黒の背景に鮮やかな赤をあしらったポスターは、金沢工業大学でし た。「知識」は、「武器」にしてこそ、意味がある!と大書されていました。な かなか、大胆で人目を引いていました。しかし、キャッチの文字が長いなあ〜と つぶやいた先が、同大学の先端電子技術応用研究所主幹研究員の宮本政和さんで した。どんな感じなら?と聞いてくれたので、う〜む、「知識は武器」という風 にコンパクトにして、それ以下の文字は、意味がないのではないか‥そんなやり 取りに笑いが弾けていました。初対面なのに失礼しました。


 各大学ともそのネーミングに知恵を出しているようです。「コエンザイムQ1 0は抗加齢の切り札か?」と挑発するのは、東京工科大学の山本順寛さん、「骨 には骨を!マイクロファクトリーでやさしい手術」は島根大学(医農工連携分野)の森隆治さん、「気が利くケータイの開発」は中央大学理工学部の加藤俊一さん、「便臭、放屁ガスの消臭」は広島大学病院第一外科の大毛宏喜さん‥。ユニークですよね。


 身近で分かりやすい技術では、「花粉症・アレルギーの新たな検査法」(東北 大学未来科学技術共同研究センターの河野雅弘さん)、「ハナマス花、太陽タマ ネギを利用した機能性食品素材の開発」(北見工業大学の山岸喬さん)、これら は健康志向の好例です。


 「筋力を補助するウェアラブルロボット:マッスルスーツ」(東京理科大学の 小林宏さん)、「パワーアシスト型手すり」(首都大学東京の新田收さん)など も福祉、介護分野で大いに事業化の可能性が高い。


 「ホタテ貝殻セラミックスの製品開発」(八戸工業大学の小山信次さん)、 「廃木材や間伐材から吸着用木炭などの製造技術」(島根大学の北村寿宏さん) は、廃材や廃棄物の再利用の観点からも評価が高い。なかなかの技術です。この 3日間で、最適なマッチング、ビジネスの扉を大きく広げられるといいのですが ‥。さて、しかし、こんな調子で紹介していると、日が暮れてしまいそうですか ら、急ぎます。いやな予感、「今回も長い〜」とのお叱りを受けそうです。


 出展と同時に好評なのが連日、満員御礼の札がかかる各種フォーラムです。 初日のトップは、日立製作所社長の庄山悦彦さん、テーマは「ユビキタス情報社 会をイノベートする産学官連携」でした。産学連携プロジェクトの企業側の狙い を探って、自前主義からの脱却を第一に、開発スピードを上げ事業化を加速し、 即応用できる技術、商品化を求めている、と語り、「他社との差別化した市場で の先行者利益を得ると同時に、革新的なアイデアと技術の実現によって飛躍的な 成長、研究のブレークスルーを求めている」と明快でした。


 具体的に包括提携協定を結んでいる大学や共同研究を進める大学の名前を一覧 にして示しながら、日立が実際に産官学連携によって得たブレークスルーの事例 を紹介していました。


 それは、激しい競争の渦中にある磁気記録技術、HDD(ハードディスクドラ イブ)の開発を巡り、日立の関連会社の日立グローバルストレージテクノロジー ズが、東北大学電気通信研究所の中村慶久教授、東北学院大学工学部非常勤講師 の山口一幸さんらの発案と研究成果を原点として協働で実現した、垂直磁気記録 方式によるHDDの商品化でした。業界最高となる1平方インチあたり230ギ ガビットの面記録密度を実証、3.5型HDDで約1テラバイトの記録要領を実 現したことになるーという。小型で大容量のそれは、庄山さん口から、ゴルフに 例えると、130キロ先のグリーンにホールインワンを達成するようなもの、と いうから一瞬、130ヤード?いやいや確かに130キロと言っていました。い よいよこの秋、市場に出てくるようです。技術の日立の面目躍如といったところ でしょうか。


 そういえば、この6月の第4回産学官連携推進会議での表彰で、この技術をか なえた連携プロジェクトが経済産業大臣賞を受賞していました。ため息が出てき そうです。どのくらいの売上高、そして利益になるのでしょうか。


 本日28日のメーンの基調講演は、東京大学総長の小宮山宏さん、テーマは 「時代の先頭に立つ〜知の構造化と人材養成」でした。笑いあり、アドリブあり、 余談あり、そして拍手ありで、小宮山さんが乗りに乗った60分でした。正面に 映し出されたパワーポイントは、1900年と2000年の比較、それは光合成 についての知識の量や、東京大学の学部数を例に示しながら、「知識の爆発」を 強調していました。


 20世紀は、人間の活動が膨張し、あらゆる面で知識が膨張し全体像が見えに くくなって、極めて不健全になりかねない。そして知識の領域の細分化は避けら れない。知が細分化されると、高度に細分化された学術分野の領域を超えて、そ れらを俯瞰して何が大事か、何を優先すべきか、を選択しながら将来のビジョン を描いて、そして統合し、知の価値を再認識する必要がある、と概略、そういう 意味の内容を話していました。


 さらに、全体像と自分の関係がつかめた時代とは明らかに違う、という前提で 考えなくてはならない‐と前置きして、大学における自由な研究を大いに宣揚し ながら、それには不可欠でインタラクティブな関係先として、経済価値、知的価 値、公共価値などと、「どうつながるのか」を考えて進めていただけばいい、と 語っていました。つまり、研究といっても公共価値を生んでいく努力をしないで、 産学連携をやってくださいーといってもつまらないでしょう、と皮肉を込めてい ました。


 「課題先進国」。資源が乏しく、人口密度の高い先進国、そこに「地球のすぐ 未来」が存在し、中国やインドの将来の姿を先取りしている訳ですから、アメリ カ追随ではなく、そこにはもう何も学ぶべきものはないのだから、例えば、ヒー トアイランド現象、エネルギー、都市ごみ問題、環境汚染、高齢化社会などこれ らは日本固有の問題とし、「自分たちの社会の問題を自分たちで解決する覚悟が 必要」と訴えていました。東京大学が進める、世界でも初の知の構造化をテーマ にした学術俯瞰講義、学術統合プロジェクトを紹介しながら、「先進国としての 気迫が必要です」、「おとなは自信を夢を持て」との熱いメッセージを伝えてい ました。あっという間の講演には、会場から拍手が沸き起こっていました。日本 を代表する知識人は、より多くの人に理論的に分かりやすく説き、その熱い心情 をそのまま伝えて切っていました。それが、人気の理由かもしれません。


 フォーラムでは初日の午後に東京MOT6大学連合の第1回のシンポジウムが 開かれていました。テーマは、「動き出した技術経営・MOT大学院」でした。 やはり、会場は立ち見がでるほどの盛況ぶりでした。講演は、味の素の顧問、日 本経済団体連合会産学官連携推進部会長の山野井昭雄さん。


 「要素還元思考から要素複合思考へ‐産業界が期待するMOT」と題して、味 の素の創業から、多角的で国際的な事業拡大の節目の決断をいくつも紹介してい ました。1909年、当時、東京大学の池田菊苗博士が、湯豆腐に昆布をいれた 旨味に注目、煮出して深く分析したところに、昆布のヨード事業を手がけた事業 家の初代の鈴木三郎助氏との出会いがあって、世界初のうま味(アミノ酸)事業 の創業が起こった‐といい、味の素は元祖、大学発ベンチャーだったという風な 解説でした。産学連携の鍵を、実用につながる真理の探求と事業家をだれが、ど う結びつけるかが、重要と話していました。なるほど‥。


 さて、このフォーラムには、民主党の参議院議員で、前東京大学助教授の藤末 健三さんが「がんばれ!MOT」という標題で講演されていました。日米有力企 業の設立の比較の推移から掘り起こしながら、将来の国家ビジョンと目標、


 それを国家の志として示し、その戦略づくりに予算をかけなければならないー と提言し、今後の日本のイノベーティブな政策に取り組んでいく強い意思を表明 していました。その久々にお会いし、挨拶させていただきましたが、なんという 人気なのでしょうか、しばし名刺交換、挨拶に長い列ができていました。


 懐かしい人は、もう一人、この東京MOT6大学連合の顔役、東京農工大学大 学院技術経営研究科長の古川勇二さんです。ご存知でしょうか、DNDユーザー 登録8000人目の古川さんで、以来、なんどとメールをやり取りさせていただ いておりました。が、その会場で初顔合わせでした。照れながら、しずしずと近 寄っていくと、ニヤリ、慈愛のまなざしのようでした。


 で、その午後のパネル討論には、6大学が揃い踏み。芝浦工業大学大学院工学 マネージメント研究科長の児玉文雄さん、東京工業大学大学院のイノベーション マネージメント研究科長の圓川隆夫さん、東京理科大学大学院総合科学技術経営 研究科長の板生清さん、日本工業大学大学院技術経営研究科長の村川正夫さん、 早稲田大学大学院アジア太平洋研究科MOT専修教授、寺本義也さん、それに古川 さんらが壇上に並び、それぞれ社会人受け入れの技術経営に関する自慢のプログ ラムの紹介を競っているようでした。司会は、東京大学名誉教授で研究・技術計 画学会会長の平澤冷さんでした。なんか、MOTの受講にそそられそうです。今か らでも遅くはないーと感じました。


 もう、紙面のカロリーを超えてしまっています。本日午後開催の大学発ベンチ ャー支援者ネットワーク・フォーラムは、開会が遅れて出席できませんでした。 モデレーターの東北大学教授の原山優子さんとはお昼に植え込みあたりでばった り、晴れやかに無事にこなしたでしょうか。特別協賛の野村證券は、3日間通し て、大学発ベンチャーIPO実践講座を開催、同証券の平尾敏さん、昼に顔をだしたら、なかなか鋭い質問が飛び交っていました。さながら、大学発ベンチャーIPO道場の雰囲気でした。あ〜あ、もう締め切りです。明日は、内閣官房知的財産戦略推進事務局長の荒井寿光さんがスペシャルパネリスト兼キーノートスピーチで登場する、「知的財産と産学官連携」の討論会は、必見です。明日も会場におります。



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