◆ DND大学発ベンチャー支援情報 ◆ 2005/07/27 http://dndi.jp/

「ヘルシオ」礼賛

DND事務局の出口です。「変わる産学 広がる連携」。こんな語呂の響きと いい、文字の落ち着きも洒落ていて、う〜む。熟達のネーミングと感心していた ら、上下の2回連載で終わってしまって、なんか惜しい。


 そんな冠をつけた日本経済新聞の1面(7月18日と19日付)の連載は、現状 にあれこれ注文をつけながらも、それでも今日の産学連携の一押しの話題を取り 上げて、的確な解説を加えていました。


 連載の冒頭では、「大学の研究を企業で製品化して新産業を生み出そうと、一 気に拡大してきた産学連携」として、その具体例として、シャープの大ヒット商 品となった新型オーブン「ヘルシオ」を取り上げていました。


 おやっ、「へるしお」って平仮名で打って変換すると「減る塩」の文字が現れ ます。騙し絵のようでもあり、遊び心もあって、これも健康志向をくっきり浮か び上がらせたナイスなネーミングです。


 記事によると、昨年9月に発売、国内市場規模が年3万台ほどだった高級オー ブンでは異例の7万台を半年で販売し、今年の6月から電機各社が追随、新市場 が生まれようとしている、と伝えていました。開発のきっかけは、「大阪府立大 学との産学連携」という。


 元となったのは、大阪府立大学教授の宮武和孝さんが取り組んでいた「水蒸気 で猛毒のダイオキシンを分解する装置」だった、というから、何がどう役に立つ か分からない。誰かが懸命になって、誰かと誰かが結びついて、ひょんなことか ら、目を見張るような連携の成果を産んだのでしょう。


 シャープの電化商品開発センター所長の中川泰仁さんは、「小さなオーブンに この技術を詰め込むのは難しかったが、3年間共同研究したかいがあった」(日 経新聞から)と感想を述べていました。その「 」の40文字の談話では、よく 分からない。


 何が難しくて、どんな3年間だったか、そして完成前夜の緊張や喜びは‥そん な開発秘話をもっと詳しく聞いてみたい。この商品が、海外へも飛び火して、世 界シェアの一角を勝ち取ったりすれば、NHKのプロジェクトXも黙っていない かもしれない。「よりおいしく、より健康に!そんな夢をかなえたのは、猛毒の ダイオキシン分解装置だった‥」って、田口トモロヲさんのナレーションが聞こ えてきそうです。


 そこで、根っからの好奇心が騒ぎ出して、あっちこっちに電話取材をしてしま いました。シャープ本社(大阪市)の田辺ビルへ受付開始直後の今朝8時30分すぎ に、趣旨を伝えてつないでもらいました。応対に出たのが、「ヘルシオ」の担当 でもある広報の飯澤潤子さん、テキパキとして明るい感じがしました。


 その一問一答。これまでで累計何台を販売?「昨年9月の発売から今年3月末で 7万台というのは、日経の記事通りです。最近の販売台数は?決算が近い関係で 公表はしていませんが、極めて順調です」、今年度の目標は?「20万台です。世 界マーケットも視野に入ってのことですが‥」。


 余談ですが、そういえば、今年3月のリリースで、世界進出、その第一歩が、 健康志向の強いシンガポールだったようです。もう着々なんですね。


 質問は続きます。宮武先生との連携、またはどういう経緯でこの開発を結実さ れたのか?「大阪府立大学は地元、大阪ですし、地の利がありました。従来から さまざまに連携を取らせていただいていました」と語り、そしてヘルシオへのつ ながりについては、要約すると次のようになります。


 過熱水蒸気のシステムは、業務用としてすでに存在していて、山口県の産業技 術センターが過熱調理の技術を使って、フグの一夜干しを大量に仕上げていまし た。そこにシャープの開発者らが出向いて、試食すると「外はパリッとしていな がら、内側はジュウシーでふっくら、とてもおいしい」ことに気づき、この技術 を一般家庭用に応用できないか?との発想から、シャープの開発者の一人で、電 化商品開発センター室長の井上隆さんが、普段からお付き合いのある母校の大阪 府立大学を訪ね、前工学部助教授の大西忠一さん、そして開発に大きな功労があ った宮武教授らとさっそく共同研究の提携を結び、一般家庭用調理への応用シス テムを確立し、脱臭機能、食品成分変化などを大西先生や宮武先生らと実験を繰 り返してきた、という。


 過熱水蒸気システム。水蒸気なら、他のメーカーが販売しているスチームと同 じじゃないの?との素人の質問に、飯澤さんは、水蒸気というと100℃の湯気を イメージしてしましますが、100℃の水蒸気をさらに300℃まで過熱する、すると、 無色透明、見えない気体ですから、湯気はでません。「オーブンの中で、ただ肉 が焼けていくんです」という。それを業務用から100ボルトの家庭用調理器で実 現する、という試みが新発想であり、世界初らしい。


 シャープのホームページで社長の町田勝彦さんは、社名のルーツはシャープペ ンと言い、国産第1号のラジオ、テレビ、世界初の電卓、液晶ディスプレイの商 品化など「常に新しい分野を切り開いて、生活の向上と社会の進歩に貢献してき た」と語っていました。そして、新時代にふさわしい、21世紀を創造するオン リーワン企業を目指す、と宣言されていました。経営信条には「二意専心 誠意 と創意」を掲げていました。その通りの経営スタイルを実践されているようです。


 その話題の「ヘルシオ」を知るきっかけは、遅ればせながら今年6月、京都で 開催の第4回産学官連携推進会議の「産学官連携功労賞表彰」でした。「ヘルシ オ」の研究が日本経済団体連合会会長賞を受賞していましたから、実は、その場 の最前列に陣取って、しきりに受賞者らの表情を800万画素のカメラで追いなが ら、受賞の「ヘルシオ」を題材にメルマガを書くつもりで、準備していました。 産学連携の結実した成果が、一般の家庭に入り込んでくるということへの共感か らでした。産学連携といっても結構、難しいテーマが多いから、こんな風な身近 な研究が世にでれば、大学に対する世間の評価が変わる‐と感心していたことも 理由にありました。


 そういう産学の連携の拡大の背景には、大学側の意識改革がある−と新聞は指 摘していましたが、どんな理由であれ、民間の特定の商品を政府が表彰し、新聞 が商品名を明らかにして報道する‐という動きをみていると、マスコミも含めた 社会の認識が微妙に変わってきているようです。このメルマガでさえ、商品宣伝 のPRにひと役買ってしまっていますが、いささかのためらいもありません。産 学官連携にまつわる、このようないい話は、どんどん取り上げていきたい、と思 っています。


 その表彰を受けていた宮武さん、同大学の知的財産センターのコーディネータ、 森本進治さんによると、「産学連携の看板教授のひとりです」という。特許保有は 15件。年平均10件の共同研究、技術相談が50件、その範囲は、宇宙から台所まで 多岐にわたっているらしい、ベンチャーの起業をいくつも手がけており、それぞ れに順調という。いやあ、凄い人がいたもんだ。なんとか、八方手を尽くしてご 本人へのアクセスを試みたのですが、今夜遅くにならないと‥との伝言でした。


 宮武さんら研究グループへの表彰の理由、それにヒットする背景には、「水で 焼くオーブン」という新発想に加えて、食品の栄養素や機能性を保持するだけで なく、おいしさを含めた健康調理機という新しい原理を導入していたことでした。 そして、高温の水蒸気を使って調理し、肉などの余分な脂を落とし、塩分を減ら し、さらに低酸素濃度状態での調理によってビタミンCの酸化を抑制する、など が特徴で、消費者の健康志向を掴んだ、と指摘していました。


 調べると、「ヘルシオ」の受賞は、これで4回目。2004年日経優秀製品・サー ビス賞で最優秀賞の「日本経済新聞賞」、第47回「2004年」日刊工業新聞十大新製 品賞「日本力(にっぽんぶらんど)賞」、2004年‐2005年UNITEDリーダーオ ブザイヤー「挑戦未来賞」(ユナイテッド航空)とすでに3回受賞していました。 業界では、超有名だったようです。


 京都から帰って、その翌週の休日、さっそく安売りの量販店や電気店へ足を運 びました。ヘルシオは、ドーンとそのコーナーのメーンに置かれていました。パ ンフレットやチラシは、あと数枚。目に留まったキャッチコピーは、「これから は、おいしく食べて健康に―シャープからのご提案です」でした。


 糖尿病患者や高血圧の持病をもつ中高年にとっては、まさに福音かもしれませ ん。カタログを見ていると、ガスグリルなどとの比較で、ステーキを焼いて88 カロリー(13%)カット、油を使わずにとりのから揚げがカラッと揚がり46カロ リー(18%)カットしてくれるらしい。野菜の茹で、おこわを蒸し、魚を煮込み、 トーストやピザ、パン、菓子ができる、というのは、当然です。メーカー小売希 望価格12万6000円(税込み)が、ある店では、8万8000円で「さらに値引き」の文 字、別の店では、「今なら」7万5000円、ネットなら6万円を切るところもでて いました。


 売り場周辺を眺めてみると、いやはや、各種新製品が並んでいること。油を使 わないで焼くは、もはや常識のようです。


 Nationalは「新・調理法 達人合わせ技」として、レンジ×ヒーター ×スチームの3つを兼ねた「スチームエレック」で対抗、油や塩分のカットは当 然として、「栄養バランスの取れた健康的な食生活を実現する」とありました。 三菱電機は、「早くて、省エネ!ヒーター&レンジ同時加熱」のハイブリッド加 熱で、グラタンなら33%の時短、29%の省エネを掲げ、フライドチキンも「油いら ず、スチームで焼けば酸化度39%減」と、こちらも負けていない。


 「庫内まるごと遠赤」で、たてよこワイドの「石窯オーブン」のTOSHIBA も簡単スチーム機能を搭載、SANYOは「美味食感レンジ」のキャッチで、もっ とこんがり、もっとふんわりと味にこだわりを見せて他社製品との違いを出して いました。


 「煮込み」も「焼く」も、素早く絶妙な仕上がりの「ドンピシャ加熱」のワイド オーブンレンジは、HITACHI、ウン?隣に「業界初」の文字で、4種の加 熱を組み合わせたナノスチーム調理「ヘルシーシェフ」の新製品の購入予約、そ して「8月1日発売」とありました。HITACHIが追撃にでたようです。


 どうしよう、と悩みながら、気持ちは、「ヘルシオ」へ。こんなに便利で、健 康に効果がある調理器。それに、産と学が連携して実現した商品となれば‥。ヘ タながら趣味のゴルフを数回自粛すればいいし、考えればチタンドライバーの1 本分の値段ですよね、それで家族が健康を享受できると思えば、案外安い買い物 かもしれません。欲しいものはいらない、けど、必要なものは、迷わない。本日 夕刻、電気店に走ります。


「あの〜これください!赤くて、産学連携のを‥」って。


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