◆ DND大学発ベンチャー支援情報 ◆ 2005/06/22 http://dndi.jp/

大学破綻と大学評価の衝撃

DND事務局の出口です。これは巨大な地殻変動の前触れであり、確実に何か が蠢いて、そのシグナルと受け止めるべきかも知れません。今週早々、そんな特 ダネが飛び込んできました。


日経新聞1面は、山口県萩市の4年制私立大学、萩国際大が経営難から民事再 生法の適用を東京地裁に申請する、と伝え、「大学定員割れ、初の再生法」との 見出しで、大学全入時代に伴う大学破綻の危機、そして経営母体としての大学の 再編が加速することを強調していました。


ちょっと前なら、いくら特ダネといっても1面トップ、そして社会面もトップ の関連の受けの記事、3面に解説という3点セットのセンセーショナルな扱いは しなかった、と思います。それに、大学といってもそれほどの知名度はない。し かし、「大学」と「初の再生法」、そして「少子化」と「大学全入時代」などと、 この1本の記事に、時代を象徴する4つのニュースが含まれていて、そして日経 だけのスクープとなれば、自ずと扱いは大きくなります。


記事やテレビのニュースを拾うと、山口県と萩市が40億円を補助して6年前 に開校するが、1学年300人の定員に昨年は22人、今春は42人と極端な定 員割れで経営が行き詰まっていた、という。4学年合計の学生はピーク時で65 1人、現在は194人と激減し、そのうち116人が中国などからの留学生でし た。数年前から資金繰りが苦しく、現在の理事長は3代目で、学長は5代目とい う状況で経営陣の迷走が続いていたらしい。負債総額は37億円と報じられてい ました。


私立大学の民事再生法の申請は、東北文化学園(仙台市)が昨年6月に出した 例がありますが、大学開設時の虚偽申請や幹部の不祥事によるもので、定員割れ が原因は、今回が初めてでした。また、大学・短大の経営行き詰まりは、200 3年に開校3年目で募集を停止して休校した立志館大学(広島県)、2004年7 月に文科省が解散命令を出した酒田短大(山形県)が、記憶に新しい。


 それにしても日経は、民事再生法や私的整理など事業再生ネタには、めっぽう 強い。いつも他社を圧倒しています。手慣れていて、記事中に経営難と書いても、 決して倒産、破綻の文字はなく、冷静にその事実と背景を伝えていました。


余裕を持った紙面の中味から判断して、きっと数日前から、その出稿、スクー プの日取りを決めていたのでしょうか。事実をつかんだからといって、勢いで書 いてしまえば、経営陣や学生、それに債権者らを不安に落とし入れて、再建のメ ドさえ立たなくなってしまう懸念があります。担当のデスクや記者らは、息をひ そめて、他社の追随を警戒しながら、まるでサスペンス映画のようなスリルと興 奮を味わったに違いありません。こういう経済ネタの扱いは、いつの時代も一歩 間違えると、とんでもない混乱や被害を撒き散らしてしまいますから、実に難し い。このスクープ、今秋の新聞協会賞の候補?ややスケールは小さいものの、そ の波紋や投げかけた社会的意義は大きい。そして、取材や記事が丁寧で、続報も 確かでした。


今回、民事再生法によるスキームが採用されたことで、「企業だけでなく大学 経営が行き詰まった場合でも、同法の活用による処理が定着する」と大学の再 建・再編が増えていく‐とその動向を予測し、続報第3弾の本日朝刊の第2社会面 (38面)には、再建に名乗りを上げた支援企業の記者会見の記事、そして、編集委 員、横山晋一郎さんの署名による解説記事を掲げていました。


横山さんは、「大学再建の厳しさが指摘される一方で、経営破綻大学の再生を ビジネスチャンスと見て、銀行、証券、コンサル会社が水面下で活発化してい る」とのインサイダー的な動きを紹介していました。


社説では、経財諮問会議の答申を受けた政府の2005骨太方針と並んで、「大学 倒産時代を招いたもの」として、地方では地方振興という名目で自治体が競って 土地や資金を出して「公設民営」方式の大学が新設されてきた背景を例に、「画 一的な膨張にまかせてきた政策の結果」と断じ、定員割れの状況に反して、大学 や学部の新設、増設ラッシュ、この需給バランスを無視した定員増は、「高等教 育全体の適正な規模と質に対する見通しを欠いた文部科学省のかじ取りの結果で ある」と痛烈に批判していました。


それにしても、大学の進学希望者と合格者の総数が同数となる、2年後の20 07年度の大学全入時代。大学破綻の危機が、いよいよ現実味を帯びてきたよう です。それで、何がどうなるか?といえば、私立大学や短大はすでに3割が定員 割れを起こすなど経営環境は悪化をたどっていて、法人化した国立大学や公立大 学も含め、日本の大学は一層厳しい経営を迫られることになる、と指摘していま す。


国の舵取りを誤らせないための新たなヒントとなりそうな大学政策の手法が、 ちょうどいいタイミングで明らかにされています。生き残りを賭ける、それぞれ の大学改革への取組み姿勢、どこの大学がどんな活動をし、研究成果の普及や活 用をどのように展開しているのか、各大学の産学連携機能の良し悪し、その姿勢 と能力、そして成果のレベルを評価(レイティング)する調査の報告が6月9日、経 済産業省から発表されたばかりでした。


この新たなレイティング手法によって、大学の差別化を図り、一律年1%削減 という甘いルールを撤廃して、産学連携活動へのインセンティブを用意し、国か ら大学へ流れる1兆1千億円の巨額の運営費交付金やマッチングファンドの競争 的資金に至るまで、平等ではなく公平な資源の分配、つまり、いい成果を出して いる大学には、いっぱい交付金を手当てする、そうじゃない大学は、大幅削減と いう大胆な覚悟で臨むーという大学経営の現場にも、成果主義を導入しようとい う試みです。


「技術移転を巡る現状と今後の取組みについて」と題した、その一見なんでも ないような普通の報告書です。これは、DNDサイトのトップページにその全容 を掲載しましたので、詳細はそちらに譲るとして、じっくり読むと、背筋が寒く なるような只ならぬ気配を感じました。野心的で大胆、そこまでやりますか、と いうちょっと怖い内容に仕上がっていることに、気づきます。


新聞の報道では、翌10日の各紙朝刊に、産業界の目で大学の産学連携体制を 評価したランキングをまとめた、とその調査の概要を伝えていましたが、肝心の、 そのレイティングの狙いには、あまり触れられていませんでした。


報告書をまとめた大学連携推進課の課長補佐、宮本岩男さんは、異論は当然あ ると思いますが、「懸命な大学、それに取り組む教官らの涙ぐましい姿勢と努力 に報いてあげたい、そしてこのニッポンを確かな方向に向かわせたい、私たちの 気持ちはその一点です。そのためにはこういう手法やアプローチは正しいと思っ ています」と言い切りました。


これまでTLO法施行(平成10年)など、制度整備というアプローチを続けてき て、昨年4月の国立大学法人化からは、大学への国からの資金は、国立大学法人 会計から運営費交付金という、渡しきりの資金となって、大学の相当の裁量でも って事業を実施することが可能となりました。いつまでも制度整備じゃありませ ん。「そのため、新たに別のアプローチへと政策手段を変えていく必要があり、 それが、レイティング(評価)という手法でした」と、今回の調査の背景と経緯に 触れていました。


そのレイティング、その意図は、全ての大学を一律に扱うのではなく、個々の 大学における取り組み状況を個別に評価する、といい、そこまでは、ごく普通の 分析、評価と変わらない。が、高い評価の大学名を公表し、社会的な認知度を高 めるというアプローチの手法に加え、ここからが重要なのですが、極めつけが、 インセンティブの導入です。


大学の存在は、決して産学連携機能ばかりではありません。教育や研究といっ た本来の役割や使命があります。だから、産学連携機能のみを優先したレイティ ングによる資源の分配では、明らかな不公平感を招くのでは‐と、宮本さんに意 見を申し上げると、「それならば、教育のレベル、研究のレベルの分析とレイテ ィングを導入するなど、評価基準をしっかりすればいい。それらも踏まえて、い まこそ、臆せず、ためらわず、具体的に問題解決にあたる時と思います」と話し ていました。


さて、そのレイティングの調査で示された大学の評価のランキング。民間企業 123社からのヒアリング、アンケートなどで採点した産学連携機能が優れていた ベスト10は、1位:立命館大学(評価点143.75)、2位:東京農工大学(120.83)、 3位:徳島大学(120)、4位:京都大学(109.30)、5位:九州工業大学(106.67)、 6位:九州大学(102.33)、7位:産業技術総合研究所(100)、8位:大阪大学(94.0 3)、9位:広島大学(93.75)、10位:筑波大学(90.91)の順でした。採点は、A 「うまくいっている」が2点、B「特に問題はない」が1点、C「改善の余地あ り」が0点とし、それらのポイントに分布の割合を合算して評価点を出していま した。


この評価を大企業に絞って算定すると、若干順位は変わります。1位:京都大 学(評価点107.78)、2位:東京農工大学(106.25)、3位:産総研(100)、4位:東京 大学(95)、5位:九州大学(94.74)以上5位まで。ようやく大学発ベンチャー創出 トップの東京大学がここで顔をだしました。


一方、中小企業の事例では、1位:徳島大学(175)、2位:東京農工大学(150)、 3位:立命館大学(138.46)、4位:産総研(100)と大阪大学(100)が並び、それにし ても東京農工大学は不動の2位、安定していますね。1位の徳島大学の評価点は17 5ポイントと断トツです。何がどうしたのでしょう。


たまたま、昨日午後、徳島大学教授の佐竹弘さんが相談に見えていました。佐 竹さんは、リエゾンオフィス室長で知的財産本部副本部長、外部の民間企業との パイプをつなぐ地域共同研究センターの顔役です。実に人柄がいい。この人にお うたら、ころっと参ってしまいます〜。「先生、大学の評価が高いですね。学内 の反響はどうですか?」と水を向けると、「ええがな、すこぶるええ、みんな喜 んでおりますよ〜ハッハ」と破顔一笑、ご満悦でした。


そのやり口の一部を聞いたまま紹介すると、例えば管理経費を入れて1億円越 えの共同研究費を捻出してくれた地元の製薬会社との折衝は2年越し、大学の教 官600人近いなかから、ある特定の疾患に関する研究を専門とする教官を140人リ ストアップし、そこから絞り込み、さらにその研究室に持ち込んで、10件の委託 研究が成約した、という。


大学内を知悉し、より鮮度のいい情報を持って、民間企業とのパイプを強く、 太く築いていく、その長年の努力がしっかり蓄積されているようです。また、資 金力の弱い中小企業が、なかなか大学との接点が持てない、つなげられない、と いう問題を解決するため、横断的なテーマを掲げて、複数の企業群とのタイアッ プ事業を予定していました。そのテーマは「育てる」、「殺す」、「測る」の3 つ。さて、なんでしょうか。それによって、1社年間10万から20万単位で徳島大 学との共同研究に参画できるーという。いやあ、賢い、きめ細かい。


学長の青野敏博さんからは、常に、「産の側の立場を優先していくように」と のアドバイスを受けているようです。トップのリーダーシップが生かされている 気がしてきます。


大学の産学連携のその機能の状況を分析し、評価して採点する、というレイテ ィングの発想は、狙い通り、頑張っている現場の人らには大きな励みになってい るようです。しかし、詳細に診断した、いわば、この評価の内申書を持参して、 大学連携推進課長の中西宏典さんが、公表に先立って関係の大学を全部説明に回 っていました。概ね、良好な反応でしたが、ある大学の副学長からは、血相を変 えて、「こんな偏った調査は‥」と一喝される場面もあったそうです。産の側か らの大学の評価というだけでは一方的という意見を受けて、すぐに大学側から産 の評価をまとめて、今の報告書に併記する、という離れ技をこなしてもいました。


産学連携の旗振り役の中西さん、その番頭の宮本さん、いまのポストに就いて ちょうど一年ですね。あの頃、赴任先のワシントンから戻って、いまの課長ポス トに就いた中西さんは、宮本さんを連れてDNDのオフィスに挨拶に見えてくれ ていました。いやあ、全国を駆け巡り、現場へ現場へと入って、いまや堂々たる ものです。産学連携は進化する‐との卓見は、本日、ひさびさにアップしました 「産学連携講座」担当の東北大学教授の原山優子さんの原稿でした。


さて、いよいよ、産学官連携のフェスタ、第4回産学官連携推進会議がいつも の京都で25日、26日の両日、開催されます。初日の全体会議では、特別講演には、 日立製作所から理化学研究所理事に転進されたばかりで、知人の武田健二さん、 デフタ・パートナーズ会長の原丈人さん、そして東京大学副学長で産学連携本部 長の石川正俊さん、豪華な顔ぶれです。書ききれませんが、分科会は、いつもの 4つ。「産学官連携の新たな展開」は主査に産総研の理事長で、産学官連携の重 鎮、吉川弘之さん。武田さんや、毎日新聞記者の元村有希子さんも加わっていま すから、大学連携推進課が打ち出した政策手法、レイティングがどんな形で、飛 び出すか、議論されるか、期待したい。「大学発ベンチャーの発展と支援」では、 バイオベンチャー分野のエキスパートで日経BP社の名物エディター、宮田満さ んが主査で、大学発ベンチャーのアンジェスMG創設者で阪大大学院教授、そし てDNDで連載を担当していただいている森下竜一さん、原さんら直言居士がど 〜んと構えていらっしゃいますから、これも本音トークに期待大です。「地域ク ラスターと中小企業」では、一橋大学大学院教授で産業クラスター研究会などで 活躍の石倉洋子さん、高知工科大学副学長の水野博之さんのお二人が主査を担い ます。パネラーの中に、北海道の活性化に熱心な北海道ベンチャーキャピタル社 長の松田一敬さんがいました。楽しみです。そして、新たな課題が指摘されてい る「産学官連携と知的財産」は、内閣官房知的財産戦略事務局長で、もうDND では常連で親しくさせていただいている荒井寿光さんが主査を務めます。三菱商 事会長で特別講演も予定されている佐々木幹夫さん、東京大学の石川副学長、弁 護士の竹岡八重子さん、キャノン常務の田中信義さんら、凄い顔ぶれです。荒井 さんの仕切りが見物です。さて、しかし、この4つの分科会、同時刻に別々の会 場で進行します。どうする?興味と感心と向学と、それになんといっても義理も ‥。


26日は特別講演として、産学連携の先陣を切る福岡県知事の麻生渡さん、起業 家教育やベンチャー創出で群を抜く、私立の雄、早稲田大学総長の白井克彦さん、 そして産学官連携推進会議の立役者で、科学技術創造立国の推進役の元科学技術 政策担当大臣の尾身幸次さんが締めに登壇します。今年は、どんな名スピーチを 聞かせてくれるのでしょうか。


大学発ベンチャー1000社計画の最終数字が確定し、1112社に達したことが新た に判明しました。1112社の数字が飛び交い、その誇らしいほどの達成感が充満す る会議になることを期待したい。恒例の産学連携活動への表彰では、グランプリ の内閣総理大臣賞に、ユビキタスコンピューテイング技術の戦う学者、坂村健さ んを選びました。話題性は、今回が一番です。どんな受賞の挨拶をされるか、こ れも楽しみです。


追伸:
 大学発ベンチャー支援サイトDNDはお蔭様で、ユーザー登録数が8,000人を 突破しました。記念の8,000人目の登録は、なんと東京農工大学の技術経営研究 科長で、前回のメルマガでご紹介した産業クラスター研究会の座長を務められた 古川勇二教授でした。驚かれて、照れながらも古川さんからは、気持ちよく、名 前を出させていただくことへのご了承をいただきました。


DNDには、ユーザーに恵まれていまして、専門分野の一線でご活躍の大学研 究者、民間の研究者、大学発ベンチャーの起業家、知的財産や産学連携の担当者 らを中心に、官庁、自治体、マスコミの方々も多数参加してくださっております。 最近では、銀行、証券、保険、証券取引所、ベンチャーキャピタルの金融証券関 係者、弁護士、弁理士、公認会計士らの皆様、海外からの登録も少なくありませ ん。社会的に影響力のあるユーザーを抱えるサイトとしては、わが国最強の知的 ネットワークと自負しております。これも皆様のお一人お一人の口コミへのご支 援、並びにお誘いのご協力の賜物と感謝しております。


次は、大台の10000人に向けて精進していきますので、どうぞよろしくお願いいたします。


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