◆ DND大学発ベンチャー支援情報 ◆ 2005/06/15 http://dndi.jp/

クラスター政策と産学官連携の狙い

DND事務局の出口です。クラスター政策+産学官連携=経済の活性化〜そん な図式が現実味を帯びてきて、その成果の一端がようやく姿を現してきているよ うです。ちょっと背を伸ばせば、手が届くらしく、もう慌てる様子はありません。 綿密な戦略に基づいて、粛々と進めればいい。


計画の策定にあたる担当者らの表情が明るく、なぜか人一倍饒舌で、梅雨空を 吹き飛ばすように晴れ晴れしています。いやあ、お世辞抜きにそう感じます。何 かいい事がありそうな予感がしてきました。


先日、DNDのオフィスに、霞ヶ関から飛んできた経済産業省の中石斉孝さん、 担当は産業クラスター計画推進室兼沖縄振興室の企画官。挨拶もそこそこに、資 料をさっと差し出して、その概要を一気に話し始めていました。


大学連携推進課長補佐の立場で産学連携の主戦場を担う宮本岩男さんもそうで したが、動ぜず臆せずの堂々としたものです。若くて知的で元気がありました。 頭脳が働いて、口がなめらかでした。言葉の機関銃は止まりません。テンポが早 く、圧倒されていました。


さて、その中石さん、初対面ながら訪問の趣旨は、全国に19のプロジェクト を数え、約6000社の企業、大学、自治体が参画する地域経済活性化の推進策、 産業クラスター計画の最近の研究会報告とモニタリング調査報告の説明に来てく れました。


誰彼かのアシストが裏にあったのかもしれません。それにしても個人的には、 全国で展開されるクラスター政策には、正直なところ、それほど理解もないまま、 ちょっと批判的でした。具体的な成果の露出、発信が極めて弱いし、その内容に 面白みがなく、読んでも聞いてもつまらない、そこに活躍する中心的な人物がい るはずなのに、人の顔が見えてこない。


あるのは、不愉快な顔つきの、学者然とした汗をかかない分析屋さんばかりだ からでした。役に立たない評論はもう、うんざり。クラスター計画は、論文や研 究の対象ではなく、現実の課題を克服するため、地域特有の飛躍のモデルを推進 しなくてはならない、と感じていました。


そこで、その辺を察してかどうか知りませんが、従来の進め方には問題が少な くなく、何をどうするかのターゲットを絞り込まないと動きませんし、上や下と いって手柄争いしているようでは、不信が渦巻いて、連携どころではありません ‐との中石さんご自身の認識は、率直で好感が持てました。


で、研究会は東京農工大教授の古川勇二さん、一橋大大学院教授の石倉洋子さ んら、その分野の第一人者のお二人を正副の座長に据え、札幌から(株)データク ラフト社長の高橋昭憲さん、大阪から三津江金型(株)社長の三津江友幸さんら地 域を支える熱血の顔役も参画していました。


しかし、さらっとその報告書の要点を見ると、中長期の目標レンジを2001 年から2005年度のこれまでを第1期、2010年度までを第2期、それから 地域ごとのクラスターが自立的な発展を意図するテイクオフの10年、2011 年度から2020年度を第3期とし、それぞれに各プロジェクト推進に関して、 個別、そして全体計画を策定、これらに対して政策評価システムを導入、つまり 計画に対して予算の実行状況や成果をしっかり見よう、というのは実は当然なこ とですね。そして、国、地方の垣根を取り払い、地方自治体のクラスター形成活 動との連携、融合をはかるべきことをも強調していました。これも言ってみれば、 当たり前のことで真新しいことではない。しかし、あえて明記しなくてはならな いところに、従来からの問題の根の深さと、今後の取組みへの意気込みが読み取 れます。


産業クラスターの政策的な背景、いわばなぜ産業クラスターなのか?の問いに 対して、ズシンと重いのは、地域経済の自立化の必要性を掲げて、地域から国を 引き上げる、というこれまでの中央集権的な発想を根本的に切り替えているとこ ろに注目したい、と思います。


余談ですが、本日の日経新聞の広告欄に日本ニュービジネス協議会連合会主催 の「新事業創出全国フォーラム」(7月21日、東京全日空ホテル)の告知が掲 載されていました。その統一タイトルが「地域パワー」。3つのシンポジウムの テーマがそれぞれ「がんばる地域!」、「地域からニッポンを変える」、「地域 活性化がニッポンの元気」と、その狙いが明確です。特別鼎談として、楽天の三 木谷浩史社長、アルビレックス新潟の池田弘社長、コーディネーターに堺屋太一 さんらが名を連ねていました。これは必見です。


その「産業クラスター研究会報告書」も、地域から変われニッポン!のような キャッチがあれば、いいのにね。まあ、DNDトップページにリンクを張りまし たので参考にしてください。その7P。主なクラスターの全国分布図が掲載され ています。クラスターといっても経済産業省(全国の地方の経済産業局所管)の産 業クラスターが24プロジェクト、文部科学省所管の知的クラスターが17プロ ジェクト、地域独自のクラスター構想が25プロジェクトを数えていました。


クラスターは房の意味で、ぶどうの房に例えてみれば、いくつもの粒がつなが っている状態をいい、大学、自治体、支援機関、それに中小、中堅企業、あるい はベンチャーなどが、特定地域の範囲で、IT、バイオ、環境など先進的な分野 について、太く強いネットワークを構築している様子を指しています。そして、 中堅企業を国際的な競争力のある企業に押し立てて、それらを起爆剤に地域経済 の復興、活性化、あるいは再構築を意図する戦略的な計画です。


産業クラスターには、北海道スーパー・クラスター振興戦略、首都圏西部地域 (TAMA)の地域活性化プトジェクト、近畿バイオ関連産業プロジェクト、九州 地域環境・リサイクル産業交流プラザなど地域の強みを反映させたプロジェクト が目白押しです。


知的クラスターでは、東日本は札幌ITカロッツェリアクラスター、仙台サイ バーフォレストクラスター、長野・上田スマートデバイスクラスターの3件、西 は徳島健康医療クラスター、京都ナノテククラスター、とやま医薬バイオクラス ター、北九州ヒューマンテクノクラスターなどと、そのネーミングもなかなか考 えられています。地域独自のクラスター構想には、青森のクリスタルバレイ構想、 岩手ネットワークシステム、つくばバイオ・ゲノム推進会議、大分LSIクラス ターなどがあります。


巻末には、産業クラスターの発展戦略と課題の例示が細部に渡っていました。 発展の戦略として、北海道の場合、海外とのビジネス展開の拡大を指摘し、競争 相手から連携相手への転換を戦略として掲げていて、具体的な課題としては、 エリア内の需要の喚起とエリア外への顧客の開拓、それに営業力強化を記述して いました。


他のプロジェクトの戦略で目立ったのが、企業・大学間ネットワークの構築、 大学を核とした人材育成・産学官広域ネットワーク構築、地域の大学が持つシー ズからの産学官連携による事業の創出など、産学官連携に寄せる期待は、並じゃ ない。


その戦略の柱が産官学連携のネットワーク、それも地域に根ざした「顔の見え るネットワーク」を基本としていました。中石さんは、ようやく地域ネットワー クの確かなプレーヤーが続々登場しつつあり、それらをさらにどれだけ多く育て ていくか、というのも重要です、という。


全国の地域における事例、それらがひとつひとつ具体的な成果に結びついてく れれば、いい。しかし、○○会を組織した、こういう連携の輪を広げているなど、 という動きは、その動きでしかない。地域を飛躍的に変えていくような流れには、 なっていないのではないかと、具体的な地域名を挙げて質問をすると、そう言っ てしまえばみもふたもありません、地域が元気になるよう応援していく姿勢が必 要です、と理解が深い。よ〜く、現場に入って自分の目で確認しているから、強 い。


霞ヶ関、それも経済産業省の担当者が、現場へ現場へとなだれを打って入り込 んでいるようです。企業や大学、各種サポーターへまで一件一件足を運んで、そ のなかから、うまく行っているものと、そうじゃないものを切り分けて実態に即 した施策を進めるように努力しているようです。


実は、本日午後、京都のキャンパスプラザ京都を会場に、プレ産学官連携推進 会議ともいえる、「知的・産業クラスターセミナー」が開催されています。もう そろそろ開会の時刻でしょうか。


産学官の連携でイノベーションを創出し新産業を育成するクラスター政策、企 業、大学、地方自治体、産業支援機関らが一堂に会する「クラスター祭り」の趣 です。主催は、知的クラスター計画を推進する文部科学省、産業クラスターの経 済産業省と歩調をあわせていました。それに日本経済新聞社。これは大変大事な セミナーになりそうです。


内容は、講演に東京大学総合研究機構教授で、昨年秋開催の大学EXPO、イ ノベーションジャパンの立役者、松島克守さん。クラスター形成の現場からの報 告で「クラスター形成のための必要条件」がテーマです。最近は、話題のクラス ター形成による「地域新生のデザイン」(東大総研)を共著で出版していました。 それらの事例と分析を凝縮して、お話しされるのかもしれません。


パネル討論の後、統括として登壇するのは、京都大学発の学生ベンチャーの草 分けでベンチャービジネスのご意見番、堀場製作所会長の堀場雅夫さんです。い やあ、こんなところでメルマガを書いている場合じゃない。


産学連携推進会議開催の直前の24日午後18時からは、やはり京都のぱるる プラザ京都で、「知的財産マネージメント研究会関西&関西ネットワークシステ ム産業クラスター研究会」が予定されています。ちょっとタイトルが長い。が、 世話人の橋本昌隆さんから、「来ないと後悔しますよ」との脅しのメールが入っ ていました(笑い)。東京大学TLO社長の山本貴史さん、東大先端科学技術研究 センター教授の渡部俊也さんら、今人気のゲストが顔を揃えます。


さてさて、イノベーションの創出、新産業の育成、地域の活性化、大学発ベン チャー起業、そして、それらをまとめる、欲張りで野心的なクラスター計画‥そ れらのいずれの局面でも登場する、キーワードの産学官連携。そのお祭りともい える産学官連携推進会議は第4回を数えて、やはり京都で、25、26の土日の 両日開催されます。


産と学と官の、それぞれを縦横につむぐ連携の糸と糸、その織りなす彩は、ど んな風合いを見せてくれるのでしょうか、成熟しつつある今年の会議は格別な趣 です。


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