◆ DND大学発ベンチャー支援情報 ◆ 2005/04/27 http://dndi.jp/

大学発VB1099社のそれから

DND事務局の出口です。3年で1000社の目標を掲げて進めてきた大学発ベン チャー設立構想は累計で1099社に達したことが、25日の経済産業省大学連携推進 課の発表で明らかになりました。さて、これをどう評価し、認識すればいいので しょうか、これからが大事になってきます。


しかし、1000社という未踏の挑戦がついに、実現してしまいました。「3年100 0社」という設定は、それにしても見事というか、不思議な符号です。


計画を推進する側の末席を汚す立場からすれば、その数日前に内々に漏れ伝わ るおおよその情報に半信半疑で、発表の1099を確認するまでは、正直息が抜けま せんでした。ホッとして、肩の荷が下りるやら、一気に疲れが込み上げるやら、 後は、発表翌日の各紙がどんな切り口で記事をまとめるか、自分ならどのように 書くか、なんて思いを巡らせながら、そしてその日を心待ちにしていました。


しかし、そんな気分を吹き飛ばしたのは、悪夢のJR福知山線の列車脱線の惨 事でした。兵庫県や近隣の大学に通う学生も犠牲になってしまいました。それら 、同志社大学、京都大学や龍谷大学などの大学のサイトは、素早く【緊急のお知 らせ】としてトップに消息の安否情報を求めていましたし、多くの犠牲者へのご 冥福を祈るメッセージも寄せられていました。


他人事ではすまされませんし、これは単なる一過性の事故ではないからです。 根は深いところにあるような気がしてなりません。どうして、会見の立会人は、 いつもあんな風に、物事を隠そうとするのだろうか、その心の動きが一番怪しく 映ってしまうことを、何回繰り返しても、なぜか気がつかない。


そんな動きを見ていると、大学発ベンチャーの関係者の中に不幸にもその犠牲 となった方がいらっしゃるのでは‥と心配が募ります。


さて、1099社。今回はどうしても触れない訳にはいきません。数字を並べると、 軽々とそのバーを越えたかに見えますが、いやいや、確実に1000人以上の社長が 誕生し、間接を含めた雇用は21000人と試算されていますから、まるっきりその 人生の歩みを180度転換させた人、あるいはさせられた人、その影響を受けた人、 そしてそれらの家族を含めると、実は大変な日常の変革をもたらしたと言っても 過言ではない。大げさに言えば、私は大学発ベンチャーで運命を変えました、と いう人たちが巷間、溢れているように感じます。


と、言う私もそのひとりです、確かに。DNDも大学発ベンチャー支援サイト を標榜して3年目に入りますが、当時は、「大学発ベンチャー」の言葉すら、一 般に馴染みがありませんでした。それを思うと、今日の大学発ベンチャーを取り 巻く環境は、劇変したというより、ようやく市民権を得たというのが実感です。


では、そもそも大学発ベンチャー創出の狙いや意図は、なんだったのでしょう か?どういう背景からこの計画が生まれたのでしょうか?そして、今回の1099か ら何が読み取れるのか?


大学発ベンチャーバブルに陥ってしまう、という懸念を指摘する識者もいます。 あるいは、日経新聞の「大学VB1000社時代」のコラムが指摘した、「ただ 人材不足や助成金頼みの実態など、経営の質向上の課題は依然として残る」とい う、その課題にどう向き合えばいいのか?などなど、それらを全部、一度総括し てみて、その原点に立ち返る時期に来ているような気がしてきます。


そこで、DNDの提唱者で、大学発ベンチャー1000社計画の政策立案者の一人 である、経済産業省大臣官房総務課長の石黒憲彦さんに無理を言って、本日から 「志本主義のススメ〜大学発VB1000社達成」のコラムがスタートすることにな りました。石黒さんは、常々、時代を創るイノベーションの原動力は、「夢・ 志・仲間」であると主張されています。そのコラム、その最終章で石黒さんは、 ベンチャー企業のあり方に言及し、「イノベーティブなテクノロジー・ベンチ ャーが輩出せず、流通系、サービス系のベンチャーだけが日本のベンチャーとい う状況は何らかの構造問題があるといわざるを得ない」と断じ、必要な成功事例 は、「大学や企業の研究者、技術者、経理・財務マンなどの経歴を持つ、普通の 感覚の人がごく当たり前に起業し、地道に努力して成功するような事例」と定義 して、「そうした環境を作らねば、質の良いベンチャーが輩出してくるような太 い流れは起きません」と熱っぽく書いています。


「普通の感覚の人がごく当たり前に起業し、地道に努力して成功する‥」の文 節から石黒さんの見識の深さを感じます。こういう、平場のセンスが物事を確か な方向に導くものと思います。


表現は違いますが、大学発ベンチャーのトップランナー的存在のアンジェスM G創業者、大阪大学大学院教授の森下竜一さんも、DND連載企画「大学発ベン チャー成功の方程式」第1回のコラムで、やはり石黒さんの指摘と同様の主張を 展開していました。ほとばしる様な体験的メッセージとも汲み取れました。


何のために大学発ベンチャーを設立したのか?この肝心の問いに答えられない ようなベンチャーはすぐに会社売却を考えた方が良いかと思います‐と言い切っ て、自分の技術を世の中に出すため?これは違います。技術は手段ですから、世 の中におけるどのような問題点を改善するのか?一体何を変えたいのか?と、し きりに大学発ベンチャーの持つ社会的使命を強調していました。石黒さんの 「志」に共通するものがあります。その辺を捉えて、石黒さんは、造語ですが 「志本主義」という訳ですが、なかなか言い得て妙、経済の価値観が揺れる今日 に最もふさわしい指南かもしれません。


続けて1099余話。いやあ、振り返れば、収集作業は緊張の連続でした。年々、 大学発ベンチャーの企業数が増えますから、当然、その調査には手間が掛かりま す。日を追う毎に、真綿で首を絞められるようなジワジワとした負荷が加わって くるようでした。3月31日ぎりぎりまでの設立企業の追跡と発掘、それに大学の 担当の方々に無理強いしないような行儀の良いお願い、それと待ち続ける忍耐‥。


DNDから全国の大学関係や自治体、共同研究センターやインキュベーション センター、それに産学連携学会の知人友人らにお願いしての調べを続けていまし た。この場を借りて、皆様のご協力に心から感謝申し上げます。そして、その調 査概要の詳細はそっくり、発表資料をサイトのトップにアップしておりますので、 参考にして役立ててください。


3年間の調査を年度別に見ると、14年度調査で531社、15年度で799社、そして 今回16年度の最終年が1099社ときっちり300社の増加となっていますが、新規の 設立と新たな掘り起こしの合計を反映しています。1099社は全国232大学からの 成果で、昨年度の200大学、14年度の183大学という推移を見ても、大学発ベンチ ャー創出の母体大学が急増していることに気がつきます。


以下は大学別のランキングと年度の推移をまとめたものです。やり始めたら止 まらなくなりました。数字がいっぱい並んでいますから、さらっと、皆様の関係 分を拾い読みしてください。


まず、大学発ベンチャー創出大学のトップ10を累計ベースで見ると、1位64 社東京大学(15年度2位46社、14年度2位32社)、2位60社早稲田大学(同1位5 0社、同1位42社)、3位54社大阪大学(同3位45社、同4位23社)、4位51社京都大 学(同4位40社、同4位23社)、5位39社東北大学(同5位35社、同7位19社)、6位 37社筑波大学(同13位17社、11位13社)、7位34社九州工業大学(同8位25社、同 8位18社)、8位33社慶応義塾大学(同6位31社、同3位24社)、9位32社九州大学 (同9位23社、同10位16社)、10位31社北海道大学(同7位26社、同8位18社)の 順です。


( )内は、15年度と14年度の調査結果を入れて、ここ数年の変動を比較して みましたが、勢いのある大学と伸びきった大学の明暗がくっきり浮かんできます。 上位5大学は、東大が昨年までの2位から早稲田を抜いてトップに踊りでて、3位、 4位、5位は阪大、京大、東北大が昨年同様の指定の順列でした。注目は、16年度 の最多設立1位(8社)の筑波大学が昨年の13位から、いっきにトップ10入りの6 位に躍進し、最多設立3位(5社)の九州工業大学が北海道大学、九州大学、慶応 大学に競り勝って7位に急浮上。7位から10位までの設立数の差は、1社という僅 差でした。地方圏の大学の健闘が光っていました。


ただ、この数字は、若干、大学自身が大学発ベンチャーとして公表している数 字と経済産業省大学連携推進課が評価した数字に違いがあります。文部科学省の 昨年8月の調査では、1位65社早稲田大学(前年度50社)、2位46社大阪大学(同2 8社)、3位43社慶応義塾大学(同34社)の順で、東京大学は33社で5位という結 果でしたから、大学発ベンチャーの定義の仕方によって企業の設立数に差が出て、 微妙に順位が違ってくることを踏まえておかなくてはなりません。それにしても せっかく設立し、収集した企業数に誤差が生じては、納得しがたいものもあるよ うです。


全大学の一覧から10位以下を拾ってみますね。新聞は上位のいくつかしか大学 名を出してくれないので、10位ぎりぎりの大学は悔しがっているかもしれません。 そこで、あえて手作業で調べてみました。文字通りのDND版「出口調査」とな ります。


さて、11位は28社の東京工業大学(15年度10位22社、14年度6位20社)、12位 27社神戸大学(同18位15社、同17位9社)、13位23社名古屋大学(同11位19社、 同17位9社)、14位22社日本大学(同13位17社、同14位11社)、15位20社は、東 京農工大学(同12位18社、同15位10社)、山口大学(同15位16社、同13位12社)、 龍谷大学(同15位16社、同11位13社)が入り、常時トップ10を脅かす存在です。


18位19社は広島大学(同24位10社、同21位7社)、高知工科大学(同20位13社、 同20位8社)、立命館大学(同24位10社、同21位7社)が並び、21位16社が、徳 島大学(同23位11社、同17位9社)、会津大学(同20位13社、同15位10社)で、 ここでも上位を伺う首都圏以外の大学が並んでいます。10社以上の大学は、23位 15社京都工芸繊維大学、24位14社近畿大学、25位13社東京理科大学、26位12社が 豊橋技術科学大学、東海大学、28位11社大阪府立大学、29位10社が熊本大学、岡 山大学、同志社大学の順でした。


都道府県別では、東京都が273社、1位東大と2位早稲田、8位慶応大、11位の東 京工業大などの奮闘がその数字を押し上げてダントツのトップ、続いて2位が84 社の大阪府、3位が70社の京都府、4位が67社の福岡県、5位が63社の神奈川県、6 位が56社の北海道、7位が40社の愛知県、8位が34社の茨城県と兵庫県、10位が31 社の宮城県‐順となっていました。やはり、上位にある大学の所在地を色濃く反 映しています。


同じ関東でも神奈川、茨城に比べて、埼玉13社、千葉15社は今一歩、群馬5社、 栃木2社はやや力不足が否めません。


特筆は京都府です。京都大学51社、龍谷大学20社、立命館19社、京都工芸繊維 大学15社、同志社大学10社、京都府立医科大学6社、京都女子大、京都薬科大も 参戦していて、バランスがよく、このエリアのこの規模での全国3位は堂々とし て、先端都市・京都の面目躍如というところでしょうか。


京セラ、任天堂、堀場製作所、ローム、村田製作所、オムロン、それに島津製 作所などベンチャラスな元気印企業が目白押しです。堀場雅夫さんはもうベンチ ャーを志す起業家の憧れですし、自らが大学発ベンチャーの元祖ですから、近隣 の他県の大学発ベンチャーすら、京都に拠点を移す流れが起きているようです。 産経新聞の大阪特派員で明晰な文章術の皿木喜久記者によると、京都は「どん底 だった。仕方なくというか、唯一の資源といえる京都大学など大学の研究者と組 んで、付加価値の高い先端技術の開発をシコシコ続けてきた。それが軽薄短小、 通信技術の時代を迎え一気に花開いたのだという」と分析し、評価していました。 大学の地域貢献の実証がそこに根付いているようです。


そして見逃せないのが福岡県。九州大学32社を上回った34社の九州工業大学が その半数以上を稼ぎ出していました。元来がベンチャー志向の九州工業大学は長 年の蓄積がモノを言った感じです。力があります。


8位に食い込んだ茨城県34社は躍進の筑波大学の実力を見せ付けた結果といえ ます。北関東の雄です。是非、紹介したいのは福島県の20社、公立のお手本とな る会津大学の16社が貢献、静岡県の17社は静岡大学の8社、静岡県立大学の3社が 要、岩手県の13社は岩手大学の8社と岩手県立大学の5社、中部地区は岡山県18社、 広島県23社、山口県20社と中堅で安定しています。九州は福岡県以外が、大分県 10社、熊本県9社、長崎県8社、鹿児島県8社といまが踏ん張りどころのようです。


大学発ベンチャーの次の目標は、現在12社を数えるIPO(株式公開)100社 と定め、量から質へと転換し、移行していきます。それにあわせて、DNDサイ トの「株式公開」の起業支援サービスでは、本日から、わが国で初めてとなる 「大学発ベンチャー株価指数」を公開します。今回も力が入って長めになりまし た。


【お知らせ】 本日スタートの石黒憲彦氏の「志本主義のススメ」は原則、毎週水曜日にアップ し、更新します。が、次回5月4日はGWでお休みのため5月2日(月)に第2回目を アップします。ご期待ください。


記憶を記録に!DNDメディア塾
http://dndi.jp/media/index.html

このコラムへのご意見や、感想は以下のメールアドレスまでご連絡をお願いします。
DND(デジタルニューディール事務局)メルマガ担当 dndmail@dndi.jp