◆ DND大学発ベンチャー支援情報 ◆ 2005/04/20 http://dndi.jp/

大学発VB1000社前線便り

DND事務局の出口です。そりゃなんたって働き者で、手を抜くことを知らな いから、前へ前へと進んで、壁にあたってもへこたれない。それでいて、いつも くすぐるようなメールを送ってくれますから、勢い抱きしめたくなるような気分 にさせられてしまいます


長利孝史さん、46歳。千葉大学発ベンチャー第1号のファーストラボラト リーズの創業者で、同社の専務取締役としてフル活動しています。2009年の IPOを目標に定めて、悩まない、迷わない、そして愚痴を言わない‐の忍従の 日々なのですが、晴れ晴れとして、いつ会っても爽快です。


長身で屈強、日焼けした健康な顔立ちですから、冗談にも抱きしめるどころの 騒ぎではないのですが、起業から1年半、いま上げ潮、いっきに攻めに転じ始め たところです。誠実で懸命に取り組めば、フォローの風が吹いてきます。新聞や 週刊誌などの取材が相次いで、そのビジネスへの評価が高まりつつあります。4 月11日には、日経産業新聞1面で、同社の動物病院向けに開始したペットの 「カビ」鑑定の受託事業が取り上げられました。


千葉大学の真菌医学研究センター(千葉市)に設立した同社の研究所で実施す るもので、「病気の犬や猫、鳥などの動物から毛などの検体に含まれる真菌(カ ビ)の種類を特定し、病気の根源を突き止める」という画期的な事業です。料金 は検体一つで2000円からといい、素人の印象では随分、安いんじゃないかな 〜と思ってしまいますが、日本獣医師会に会員登録するペットのいわゆる動物病 院は、全国で約6600を数え、鑑定の需要は大きいと判断し、今年度10月期 に5000万円程度の事業収入を目指していることを伝えていました。あらゆる 人脈を動員して臨戦体制を引いている長利さん、「どなたか動物病院関係に強い ネットワークを持つ会社をご存知ないでしょうか?」と声を張り上げています。


また、産経新聞の千葉版では14日、研究開発の一切を支える、千葉大名誉教 授で同社の会長職にある宮治誠さん(68)の苦節のドラマが描かれていました。 「ひと語り夢がたり」というシリーズでした。嬉しそうにして、長利さんがメー ルで知らせてくれて、先日はそのコピーをも持参してくれました。


千葉大真菌医学研究センターの産みの親であり、長らくセンター長を勤め、日 本菌学会会長などを歴任、人呼んで、「カビ博士」。カビの研究をめぐる、未知 の世界へ挑んだ宮治さんの奮闘の一端が語られていました。芯のぶれない強さを 感じました。宮治さんの著書に「カビ博士奮闘記−私はカビの味方です」(講談 社)。それを読んで感動した長利さんが、知人の紹介で宮治さんを訪ね、その2 度目の面会で宮治さんから大学発ベンチャーの起業を誘われたというから、まあ、 ひとつの出会いも起業も電撃的だったようです。


宮治さん率いる、研究のボードメンバーに、千葉大学真菌医学研究センターか ら、同社の取締役で前センター長、医師で教授の西村和子さん、そして医師で教 授の亀井克彦さん、現センター長で教授の三上襄さん、獣医師で助教授の佐野文 子さんらが同社の顧問として名を連ねるなど、真菌分野においては、最先端研究 にふさわしい最強の布陣を敷いていますから、楽しみです。


長利さんとは、DNDユーザー登録が縁で、昨年6月の京都で開催の第3回産 学官連携推進会議に出展したDNDブースで名刺交換してからのお付き合いでし た。その時は、抗菌用品事業に乗り出していた時期で、犬の抗菌・消臭用として、 私もネーミングに参加した商品「フィネア」の試作品に取り組んでいました。こ の一年、まあ、コンビニやら専門店やらに販路を狙って売り歩き、店の陳列のお 願い行脚、友人知人への協力依頼などを続けて、随分と販売のノウハウを身につ けられたようです。そして、「ようやく何が大事か、どこにニッチの市場がある のかが見えてきました」と話していましたから、知人で名古屋のEM総合ネット の宮澤敏夫社長に繋ぐと、「(販売の)可能性は大いにありますね。是非、紹介 してください」と前向きでした。


DNDでの新規連載を担当している、大学発バイオベンチャー、アンジェスM G創業者、森下竜一阪大教授からは、個人的な相談の他、専門分野を絞り込む 「小さく深く掘れ」との激励をいただいているらしい。そんなバイオベンチャー の起業家らのコミュニティーが少しずつ動いてきています。「大学発ベンチャー だから、大学が応援してくれると思っていましたが‥」との感想も控えめに漏ら していました。


先週のメールは、いつも通りの丁寧な書き出しでしたが、本文を読んで、腰を 抜かしそうになりました。「ベンチャー拉致が継続しており、自宅には1年1ケ 月帰還できない状況です。真菌の研究と検査を世間に出して収益が上がるまで帰 れない、と考え日々精進して、大学発ベンチャーの可能性にチャレンジしていま す」という内容でした。


故郷・宮崎県に妻と高2、中3になる多感なお嬢さんを残しての覚悟の挑戦で す。そして、「実は、まだこの事業からの報酬はありません」というから、会社 設立以来、ずっと無給、交通費すら自腹という条件のなかで、踏ん張り続けてい らっしゃる。ちょっと暗い話しになりましたが、この春は、新卒の仲間が加わり ました。 


横浜国立大学在学中に、インターンシップで来ていた皆川和揚さん(23)です。 昨深夜、横浜から深夜バスで大阪に向かい、本日開催の展示会で、その商品「フ ィネス」の販売に挑む。ノルマは最低200本。「売り切るまで帰らない覚悟で すから‥きっと結果を出してくれると思います」と、皆川さんの初陣に期待を寄 せていました。皆川さんへの給料は、ちゃんと確約されているそうです。七転八 起、大学発ベンチャーの「根クラーベ」が続いていて、まだ白い煙は立ち上りま せん。


へこたれない大学発ベンチャーといえば、香川大学工学部発ベンチャー第1号 の(株)スペースタグ (増沢浩一社長)、やはり長利さんと同時期の2003年1 1月の起業でした。香川大学教授で取締役の垂水浩幸さんが開発した「位置情報 サービス」を基本にIT業界への参入を意図してきました。ビジネス展開は、試 行錯誤の連続で、なかなか抜け道が見つかりませんでした。


地元の加ト吉、香川証券などからの2度にわたる第3者割当増資を実施して、 ひと息ついて新たなビジネスモデルの確立を急いでいます。そして従来のGPS 携帯電話などの位置情報分野から一歩脱皮して、オープンソースのサーバーパッ ケージを開発した研究員のハンテイングを縁に、この2月から独自の「スペース タグサーバー」を開発、Windows向けに設定し、誰でも簡単にインストール可能 な製品の市場創出に懸命です。そのパッケージそのものは無料でダウンロード ( http://online.spacetag.jp/download.php )が可能ですが、サーバーソフト としてはその利用によって起きるバグやセキュリティーホールに対するパッチ適 用のアップデートサービスを1ライセンスあたり年間12800円で提供するモデル、 という。


 リクルート出身で営業担当として参戦した高橋誠司さん(41)、43歳の増沢さ んと創業以来のパートナー組む取締役の水野喜永さん(39)の3人が、そろって DNDのオフィスに訪ねてきました。もう昨日今日の関係ではありませんから、 「今度は、行きますよ、必ずブレークします」というのは、長身で長髪、ナイス ガイの水野さんでした。


尋ねると、そのパッケージのサービスを開始して以来、すでに日本語、韓国語 対応で5万本のダウンロードの実績を数え、来年3月までに英語、中国語も順次対 応して100万本を目指し、「全世界を相手にしたサーバーパッケージのデファク トを確立していきます」と、久々に鼻息が荒い。


 う〜む。それにしても若くて有能な水野さんから、「出口さん、こうやって元 気でがんばっていますけど、この数年間、給料ないんですよ。夢です、あるのは 夢‥」という苦衷を聞き及び、思わず結婚は?「してますよ‥」と、それほど意 味のないやり取りに沈黙してしまう場面さえありました。起業から2年、3年の厳 しい現実を目の当たりにすると、彼らの前途を祈らずにはいられません。


 水野さんに、夢ってどんな?って聞くと、「それはもう決まっているじゃない ですか、出口さんにお金の苦労はさせない-という夢ですよ」と、そんな大きな 冗談に屈託なく大笑いできるから、案外、気分は最高なのかもしれない。


長利さんや水野さん、彼らの挑戦は、ほんの一例で、大学発ベンチャー周辺の 全体を語っていないかもしれません。彼らとの連携やタイアップなどに感心があ りましたら、ご一報ください。行儀の良さは、一押し、保証します


【追伸】大学発ベンチャー1000社構想から3年目、その決着が近づいてきている ようです。最近の日経産業や日刊工業新聞紙面から大学発ベンチャーを丹念に拾 ってみると、以下の起業がありました。


☆富山県立大学の安井直彦教授らは4月1日、三菱電機やインテックと共同出資で ベンチャー企業「イーラムダネット」(本社・相模原市)を設立する。


☆東京大学の伊藤耕三教授は自ら開発した新しいゼリー状物質の事業化を目指し 新会社「アドバンスト・ソフトマテリアルズ」(本社・文京区の本郷キャンパス) を設立した。


☆佐賀大学の小川博司シンクロトン光応用研究センター長ら研究者4人は、研究 開発ベンチャー「SAGA先端技術研究所」を4月1日付で設立する。


☆岡山県内の医療関連の産学官は5日、連携組織「メディカルテクノおかやま」 を設立した。新たな医療ビジネスや医療系ベンチャー企業を創出し、岡山県なら ではの医療産業クラスター形成を目指す。


☆久留米大学医学部の伊東恭悟教授らの研究開発チームは4月17日までに、個々 人に最適なワクチン診断を行うため特異免疫機能の測定技術を開発し、大学発ベ ンチャー企業「イムノディア」を設立した。JSTのプレベンチャー事業による 起業で、同事業による設立は31社目。


☆高知工科大学の山本哲也教授や山田晃男教授らは、材料に酸化亜鉛を使った半 導体の開発ベンチャー「ZnOラボ」(同大連携研究センター内)を設立した。


☆宇都宮大学工学部の中井俊一教授は木材加工のシスコム(宇都宮市)と共同で、 宇都宮大学発ベンチャー第2号となる「マロニエ技術研究所」を設立した。杉や 木材の難燃化や準不燃化技術の高度化を目的にしている。


☆鹿児島大学は、病院の経営改善や患者サービスの向上を目的とするベンチャー 企業「かごしま医療ITセンター」を17日までに設立した、と発表した。


全国各地から、サクラの開花に似て、大学発ベンチャー起業の「前線便り」が ひんぱんに届けられてきます。上記の大半は、4月以降の設立ですから、残念で すが「3年で1000社」の平沼プランにはカウントされません。しかし、ごく当た り前にベンチャーが起こり、先輩格の成功、失敗を教訓として学び、きちんとし た成功モデルをそれぞれに作り上げて欲しいーと願わずにはいられません。森下 さんの言葉を借りれば、「大学発ベンチャー成功の方程式、そんなもんはありま せん‥」から、逆にすべてに可能性がある‐と信じたいものです。


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