◆ DND大学発ベンチャー支援情報 ◆ 2004/ 12/ 08 http://dndi.jp/

燃える水と未踏の光

DND事務局の出口です。久しぶりに街であった先輩から、どう元気でやって る?と聞かれて、一応、「お陰さまで‥」と控えめに言うと、「その行動力と口 は、昔から一流だからなあ〜」って、冷やかし半分に言うから、それにしても 『口は余計じゃない』って内心思いながら、「口が1つで耳が2つついている理 由がようやく分かってきました。人の話を聞く、耳を傾けることの重要性をしみ じみ感じています」と、言っちゃいました。「ホンとかよ?」って大笑いするか ら、「ウソです」と言いたい衝動を抑えて、「ホンとです。お陰さまで‥」とに こやかにその場を後にしました。


振り返って見ると、聞く、読む、見る、そしてメモを取る、そんな一連の動作 が連続していた1年でした。耳があとひとつ余計に欲しい感じでした。「産学官 連携」を冠にした講演会、セミナー、シンポジウム、交流会‥全国各地で目白押 しでした。


いやあ〜北から南に飛んで、会場に足を運び、登壇者をチェックして、ノート にメモを取り続けてきました。自慢の800万画素のデジカメに収めたショット は500枚を超えています。交流会でも習性でしょうか、密かに登壇者の挨拶に も耳を傾けていました。ノートは5冊分、関連資料はダンボール3箱分にも及び ます。もう立派な「産学官連携ウオッチャー」を自認してもいいかもしれません。 新聞の扱いが小さめだから、時々に、メルマガで紹介してきました。


大学発ベンチャーの雄、アンジェスMGの創業者で大阪大学大学院教授の森下竜 一さん、VCながら起業体験プログラムを各地で展開するNTVP代表の村口和孝さん、 知財戦略の伝道師・内閣府の荒井寿光さん、憂国の士・小樽商科大学助教授の瀬 戸篤さん、経済産業省の燃料電池推進室長の安藤晴彦さん‥共通して、話すこと、 伝えることの極め技に磨きがかかっています。


現状の分析から、課題への取組みを事例に基づいて紹介し、データに裏打ちさ れた将来への予測、そして、自らの実感、感触、それにちょっとしたペーソスの 利いたエピソード、構成がしっかりしていてテンポがよく、なにより言葉の切れ がいい。いつも感心しながら、聞きほれていました。


データが豊富で熱いメッセージと最新情報を伝えてくださいますから、講演会 といっても侮れません。大学間の連携、組織と組織の協働が最近のトレンドでし ょうか。起業家の登壇も目立ち始めてきています。新聞・マスコミ関係は、日経 グループや日刊工業新聞の有能な専門記者がもっぱらで、地方紙を含めた一般紙 の参画が期待されています。そこは、ニュースの宝庫なのですから‥。


本日8日は、慶応義塾大学三田キャンパスで「市場創造を担うベンチャー経 営」をテーマにカンファレンスが開かれています。(9日まで)。同大学の知的 資産センター所長の清水啓助さん、バイオベンチャーを専門とする高木智史さん、 慶応大学発ベンチャー5社の代表、それに村口さんら豪華なキャスティングです。 とっておきのニュースな話題が紹介されているに違いありません。明日朝9時か ら、その村口さんが再び講演し、終日、どこかに顔を出しているようです。必見 は、先週お伝えした通り、明治大学駿河台校舎のアカデミーコモンを会場にやは り9日正午すぎから、関東・関西8大学共催の産学連携フォーラムが予定されて います。


「燃料電池、家庭へ」、「東京ガス・松下・荏原が世界初」のニュースは、昨 日7日の各紙朝刊一面を飾っていました。が、その一報をテレビニュースで見て、 あれっ!あの安藤さんが10月27日の北九州・小倉での「燃料電池・水素エネ ルギー技術展&セミナーIN九州」で講演した際、「世界初の市販の燃料電池」の 動向を匂わせていたことに気づき、資料をめくると、そこにしっかり、「東京ガ ス、松下電器産業、荏原バラード」の3社の社名を挙げて、「世界初の燃料電池 を首相新公邸に導入予定」と書かれていました。惜しいチャンスを逸していたか もしれない。あの時、もっと詳細に安藤さんの講演を再録していれば、「メルマ ガ初の特ダネ」に。それは冗談としても、講演の中には、時折り、ビッグニュー スが潜んでいるから、要警戒です。


その記事を読むと、家庭用の燃料電池の商用化は世界初といい、発売は来年2 月、京都議定書の発効時期と重なってドンピシャのタイミングです。燃料電池は 二酸化炭素(CO2)など温暖化ガスの発生が少なく、クリーンエネルギーの代表 格ですから、実用化といっても家庭用となれば、マーケットがくっきり見えてき ます。


東ガスグループに次いで、大阪ガスや東邦ガス、それに新日本石油なども灯油 から水素を取り出す方式で実用化を目指しており、開発競争が激化する燃料電池 をめぐる世界の動向から、日本勢が家庭用で一歩先行する−という解説は、頼も しい。多くの技術者、開発者、大学の知が融合して、新たな産業の創出を意図す る−経済産業省の新産業創造戦略の読みが早、現実味を帯びてきそうです。燃料 電池は、新技術、新製品に加えて素材・部品を扱う化学、金属産業にも経済効果 が及ぶとされ、政府の試算によると、国内市場規模が2010年に約1兆円、2 0年には約8兆円に拡大するーと予測していますから、今後さらに加速していき そうです。


その北九州の会場では、燃料電池自動車や栗本鐵工所の燃料電池を使ったス クーター、車イスの試乗を体験しました。静かでなめらかに、滑るような動きで した。日常になれば、都心の環七あたりの住環境は一変するでしょう。環境問題 の解決は、健康回復に通じていることを実感します。


案内役の同所燃料電池部のマネージャー、福井茂雄さんは、電動車イスの現状 の電池の連続使用可能時間が2から3時間だが、燃料電池になれば7から8時間 の連続運転が可能、充電ならぬ充填時間も従来より格段に短縮されてきます。


「そのため、体の不自由な方々の行動半径や時間が飛躍的に広がり、社会参加 への可能性がより開けてきます」とその実用化への思いは熱い。ただ、いままだ 現実的な価格設定にはほど遠いようですが、確かなニーズがあり、社会的にとっ ても有益な事業ですから、きっと大きなマーケットを獲得していくに違いない。 しかし、その心根が素晴らしい。


「今後とも皆様の期待に沿えますよう、全力を挙げて製品の研究、開発に取り 組む所存です」と後日、丁寧な礼状をいただきました。福井さんのような人たち が、明日の社会を拓いていくのでしょうね。期待しています。


燃料電池推進への取組み同様に、ベンチャー論、起業支援への事情にも造詣が 深い安藤さんですから、燃料電池で「異業種企業や中小ベンチャー企業にもビジ ネス・チャンスはあるか?」と問い、そのビジネス・チャンスの可能性を明確に 示していました。そして−燃料電池開発は、実は、人類と地球を救うプロジェク トと断言し、締めに、最も大事なものは?創造的「個人」の「希望」と「情熱」 −と、インテル社の創業者でシリコンバレーの象徴的な人物、アンディ・グロー ブ氏のメッセージを伝えていました。


燃料電池が「水」なら、次はテラヘルツの「光」。
 岩手県盛岡市でこの4日設立の「テラヘルツ応用研究会」、足を運びました。 岩手県立大学の客員教授の渡辺民朗さん、大阪大学レーザーエネルギー学研究セ ンター教授の萩行正憲さん、理化学研究所の川瀬晃道さん、自らベンチャーを立 ち上げている栃木ニコンの深澤亮一さんらその道の第一人者らが顔を揃えていま した。テラヘルツ分野の研究会やグループは「テラヘルツテクノロジーフォーラ ム」などすでに20以上を数えていて、活発化しているようです。この分野、テ ラヘルツ技術の広がりは、医療分野からバイオ、計測・検査、化学、超高速通信 デバイスなど限りなく、まさに「未踏の光」。ここにも新技術、新産業の創出の 息吹が感じ取れます。


盛岡での輪の中心は、岩手県立大学長の西澤潤一さんでした。来春、首都大学 の学長就任が決まっています。交流会は、送る会の雰囲気でした。誰ともなく、 「先生の言葉、ひとつひとつを遺言と受け止めていきたい」という意味の話が交 わされていて、流石の西澤先生も爆笑するひと幕も。


西澤先生の講演は、趣向を変えて、野村総合研究所のチーフ・インダストリー・ スペシャリストの肩書きを持つ池澤直樹さんが質問する対談形式でした。随所に 含蓄のある言葉が響きます。分子の振動によるテラヘルツ発振を発見した40年 前の「直感」を「山勘」と言い切って、「誰かの口を通じて誰かが誰かに教え、 伝える‐教育は時空を超える」と語っていました。振り返って、「相手の足を蹴 ったり、引っぱったりすることをやってはいけない。競争は、自分との闘いで す」、続けて「自分が常に正常心を保っていけるかどうか、研究も同じです」、 日本の社会、制度に触れて、「ともかく前を向いて進む、そういう体制を急ぎた い」と、溢れんばかりの熱意を見せていました。


さて、来年はアインシュタインが相対性理論の論文を発表してちょうど100 年、科学技術の進化の功罪を今一度、見直しながら、新たなイノベーションの社 会的意義を捉える時期かもしれません。もうひとつ、ブーム到来の「義経」は、NHKの大河ドラマなどで描かれる、その波乱の人生から、憧れと哀れみ、あるいは親と子、兄弟、人と人の結びつきや絆、そして、自らの人生をまっとうすることの意味を自分の人生と重ね合わせてみるのも無駄ではないかもしれません。 さてさて、本年のメルマガは残すところ2回となりました。そこで、本年1年の メルマガ総集編として、皆様から寄せられた激励や叱咤の声の一部をご紹介した いと考えています。何が飛び出すか、お楽しみに。


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