◆ DND大学発ベンチャー支援情報 ◆ 2004/ 10/ 6 http://dndi.jp/

プロ野球そして大学、病院、新聞

DND事務局の出口です。秋の長雨だから、雨を題材に深夜までかかって用意していた雨物語は、ボツ。ボツとは新聞社で日常に使う「捨てる」を意味するボツ原稿のことです。立場だけでモノを言う輩にボツにされるより、自分で納得して捨てるのだから、一瞬、ピリッと胸に痛みが走りましたが、そういう潔い自分を褒めたい。人、それぞれの流儀‥。


東京は久々の晴れ。ラジオから、パーソナリティーのうえやなぎまさひこさんの失意の女性から送られた手紙への感想が流れていました。


「外は、快晴です。遠くの青空に目をやりながら、すっと背筋を伸ばして、胸を張っていっては、どうでしょう」。


それは、新たな伝説を生んだヒーローのスポットライトの陰で、痛めた肩をかばいながら、数々の栄光を背負ってロッカールームに消え去る、ある敗者へのメッセージのようでもあり、心に強く響いてきました。


野茂英雄選手。来期の契約の行方は定かではない‐との報道は、イチロー選手の世界新262安打に沸き返る日米野球ファンのフィーバーの片隅に、小さく追いやられていました。野茂選手といえば、日本学術会議会長の黒川清さんの十八番、この時期にこの分析は、野球評論家をはるかに凌駕しています。


ひとつの冊子、「日本の課題」をテーマに黒川清さんの講演をまとめた「日本講演」(9月15日号)。講演といっても黒川さんの場合、よどみない語り口の一節一節が、たちまち完成度の高い文章になるから、凄い。その一部を紹介します。


〜そのひとつの証拠は、忘れもしない10年前で、アメリカではメジャーリーグ(major league 大リーグ)のストライキが続いていましたが、野茂選手が大リーグへ移籍しました。当時、野茂選手は1億3000万円という日本のプロ野球で最高級を取っていた近鉄バッファローズのエースでしたが、「いろんなルールはあるけれども、俺の夢はメジャーなんだから‥」というセリフを吐いて向こうへ行ったので、球界から村八分にされました。


この野茂選手は、メジャー最低の給料10万ドルで拾ってもらいましたが、トルネード投法という奇妙なスタイルで投げ、好成績を上げたせいもあって、大いに人気がでてきました。その影響を受けて、近鉄バッファローズの吉井、ロッテの伊良部、オリックスの長谷川などがメジャー入りを果たし、それなりの活躍をしたので日本のファンもだんだんメジャーが好きになってきました。


それを目の辺りにして、「俺もやれそうだ」というので、安全パイでメジャー入りを果たしたのが、佐々木主浩投手で、彼の場合は、何億円という高額給料を手にしていました。


その後、天才的バッターのイチローがマリナーズに入団して、彼も高額給料を手にしましたが、実力通りの大活躍をして日米両国の野球ファンを喜ばせております。それから8年後に、松井秀樹選手がメジャー入りしたところ、オープニングゲームで満塁ホームランを打ったりして、すべてが「松井!マツイ!」で大騒ぎですが、大阪の野球ファンだったら「イチローがいるのに、なんで松井なんか」と言いたくなるじゃないですか?〜(中略)。


後半のくだりを続けます。


〜それはともかく、「情報が開かれている」というのはそういうことで、その証拠に、大会社のM自動車なんて会社ぐるみで隠し事をして世間の批判をあびたじゃないですか。これはひとりM自動車だけじゃなくて、東京電力にしても、雪印にしても、JR西日本にしても、みんな同じで、へんてこりんな上役を横目でみながら、仕事に明け暮れている大企業の社会は、みんなダメになっているということです。 そういうことで、野茂選手がメジャーに出た10年前から、あらゆる情報が開かれたことによって何が起こりましたか。


「日本の野球が面白くない」といい始めて、パリーグ球団の合併とか買収とかの話が出て混迷しているところへ、読売ジャイアンツのオーナー、ナベツネ(渡辺恒雄氏)さんがしゃしゃり出て、「1リーグ制へ移行!」などと変な話を始めました。


なかでも象徴的なのは、野茂選手がメジャーへ行ってから10年たって、今年何が起こったかというと、メジャーの名門ニューヨークヤンキースがオープニングゲームを日本でやって、「それが商売になった」ということです。つまり、アッという間にパラダイム(モノの見方)が変わってしまうということで、このことは、「今は無名の中小企業であっても、いつ世界のブランドになるか分からない」ということです。(中略)大銀行の呼称ひとつにしても、10年前の呼称はすべて消え去りました。


こうした事実を踏まえて、皆さんはいやがうえにもしっかり考えて、21世紀という新しい時代に対処していってください‐と締めくくっています。


この講演から何かがくっきり見えてきます。そして、イチロー選手の年間安打262本の歴史的快挙、あるいは球界の地殻変動、ジャイアンツ戦のテレビ高視聴率の神話の崩壊‥10年前の、たったひとりの選手の渡米から、すべてが始まったことを示唆してくれています。あらゆる分野での「野茂スタイル」、つまり、リスクを恐れない、周辺に迎合しない、自分なりの流儀、その勇気ある一歩が、閉塞した時代の壁を突き崩すのかもしれません。


もう少し、いいでしょうか?


それは、産学連携って何?を自問していて、ハッとさせられたのは、2冊の本からでした。


「財務からみた大学経営入門」(ウィリアム・リード著、福原健一監訳、東洋経済新報社刊)、それと「大学経営戦略」(川原淳次著、東洋経済新報社刊)。知の活用やイノベーションの創発、地域貢献、そして産業の発展‥などと、これまで抱いていた産学連携への認識を一変させうるほどの、衝撃でした。


小生にとっては、ビジネス回りの指南役のような存在の、野村證券公益法人サポート室の平尾敏さんの誘いで参加した「大学経営コンファレンス」。テーマは、競争力強化に向けた大学の財務戦略でした。


会場の東京・大手町の経団連会館。国公立の大学の理事クラスの真剣なまなざしを目の辺りにして、いよいよ、大学の定員割れ時代が訪れる、いわゆる「2007年問題」、すでにその前哨戦が始まっていることを実感しました。


18歳人口の減少、学校数の増加、伸び続ける経費、収支状況の悪化、そして政府からの運営交付金の段階的削減‥まさに大学の転換期というより、少なくても淘汰の段階に入り、大学がそれぞれ生き残りを賭けたサバイバルを余儀なくされつつあるようです。


つまり、大学改革、大学経営の戦略に基づいた産学連携であり、大学発ベンチャーの創出である―という捉え方は、率直にいってこれまで微塵もありませんでした。また、大学経営という理解は、従来、予算のやり繰り程度の認識しかありませんでした。自身の蒙昧を一刀両断に打ち砕いてくれました。


それらは、いささか思い過ごしかもしれません。が、川原氏の著書「大学経営戦略」の第5章に書かれた、「米国大学基金の資産管理」の項をみると、全米大学経営者協会(NACUBO)という組織があるのも驚きですが、その調査から、大学の基金の運用は自家運用の比率は15%で、ハーバード大学では、ハーバード・マネージメント・カンパニーという運用の専門会社が、従業員180人、大学の総資産の約9割弱を運用し、大学基金のファンドと同時に、大学職員の確定給付年金や確定拠出年金の運用も行っている‐という。


運用の専門会社では、人事・報酬体系を大学本体と別途につくり、専門性の高い人材の確保や育成が可能で柔軟。もうひとつのメリットは、スピード、そうですよね、日々の行動と判断にリアルタイム性が要求されますから、「さて、来月の教授会で‥」というわけにはいかない。


戦略には、それを実行するにふさわしい人材の確保をまず、優先しなくてはなりません。それは、外部から招聘するのが普通のようですが、現実はそうはいかない。


そういえば、ある大手マスコミ出身の元社長が、「そりゃ無理だよ」とあざ笑うように指摘したのは、大学、病院、それに新聞などのマスコミを総称した日本語文化圏論。


国際的競争力が欠如し、あるいはグローバリズムの影響を受けない閉鎖的な業界の代表格で、その分野のプロフェッション、つまり教授、医者、記者を職業とした世界から、いくら優秀でトップに上り詰めても、財務戦略、経営戦略を担う経営者に育っていくのはごく稀、多くは、社長職であることと、経営者であることの違いに気がついていない、いずれ近い日に球界同様の激震が起こることは容易に想像がつく‐との、辛らつで手厳しいご託宣は、妙に説得力がありました。


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