◆ DND大学発ベンチャー支援情報 ◆ 2004/ 7/21 http://dndi.jp/

藤山直美さんと冬のソナタ

DND事務局の出口です。赤レンガ風の昔ながらの外観を引き継ぐ東京・銀座の新橋演舞場。戸外は熱波ながら、超満員。一階の通路に補助椅子が並ぶ盛況ぶりには、驚きました。1階から3階、1400席余りを埋め尽くすのですから、評判の演目とはいえ、一途な初恋や母娘の情愛物語は、時を越えていつも変わらぬ感動を与えてくれます。


ざわざわ〜。適度の空調が効いて、重厚でゆったりした客席では、トイレに立ったり座ったり、飲み物を買って戻ったりと皆さん、落ち着きがない。開演前の、なんというか、こういう妙にハイで、ソワソワそしてワクワクした気分は、遠足前夜の子供のようで、嬉しくて、いくつになってもじっとしていられないんですね。


この夏は、大いに笑って暑気払い!のキャッチに誘われて、先の連休の一日を年老いた義父母と実父を伴って、新喜劇の看板女優、藤山直美さんの舞台を堪能してきました。「七夕名作喜劇まつり」(24日まで、京都・南座は8月5日から)。


演目は3題、休憩を挟んで4時間。息をつかせぬストーリー構成の確かさと、とっておきの人情話の数々、ベテランの役者さんらのツボを抑えた掛け合い、それに、なんといっても直美さんの、妙技‥実父・故寛美さん譲りのDNAに加えて、女優の特性を存分に発揮して、喜怒哀楽の場面々々に、声の調子を変えて、鼻声で甘えて泣かせると思えば、顔の力をだらしなく抜いて笑わせ、あるいは神妙に威容を正して、人の悩みを説く口上では延々として、よどみない。


う〜む。まさに変幻自在、その動きも間も絶妙で、お見事でした。感嘆。粋で、時に凛として、その可愛らしい姿、振る舞いが、ファンを魅了するのかもしれません。いやあ〜笑いながら、ずっと涙が溢れて止まりませんでした。役者でもないのに、笑いながら泣く客のなんと多いこと。喜劇まつりは、文字通り、笑いの渦に涙の洪水で溺れかけました。


演目のひとつ「大阪ぎらい物語」。大阪・船場を舞台に老舗の昆布問屋の娘役で、母親のご寮さん役に淡島千影さん。存在感があって綺麗な人です。その気丈なご寮さんを膝に寝かせて子守唄を聞かせるラストシーンは、クライマックスを飾るに、ふさわし象徴的な場面でした。その唄声は、切々として、静かで常磐津調の伸びやかな唄でした。ご寮さんを舞台回しに、多くの母親に共通の人生の辛さや悲しさが、一節(ひとふし)ごとに氷解していくような安らぎを覚えました。


母親なら、まるで自分が膝枕されているような気分に浸ったかもしれません。客の多くは、女性、お母さんらが圧倒していましたから、余計に強く感じ取ったに違いありません。


そばにいれば、一緒に連れて行けたのに‥そんな思いでいたら、家の事情で離別したその母から、便り、一緒に夕張メロンが届きました。オレンジ色の果肉は、カロチンがふんだんで夏バテ防止に効果があるから‐と。「夕張」の二文字から、泣きたくなるような郷愁が甦ってきます。かつて住んでいた山間の、それも遠くの炭鉱の町の一地区・真谷地(まやち)は、今では、人影もまばらで廃墟と化していますが、お人よしで世話好きで、身の回りから目をそらさない人たちが、あふれていました。煩わしいくらいに人間関係が密でした。


盆踊りの傍ら、急ごしらえの仮設舞台で着物に厚塗りの化粧で、手ぬぐいの端を口にはさんで舞台に立っていたのは、その姿を映した昔日の写真の記憶か、幼いころの幻影か、定かではありません。


「世界はあたたかくて美しいのに、孤独に生きていくつもりですか?」。悔しいくらいにハマってしまった「冬のソナタ」の一場面、ヨン様演じるチュンサンが初恋のユジンに語りかける一節です。今朝のNHK、ほっとモーニングは特集、「なぜときめく冬のソナタ、人の心に何を呼び起こしたのか?」を組んでいました。


NHK空前の反響の嵐らしく、手紙、FAX、メールが2万通というから、DNDメルマガもついに陥落、最初はフンと思っていたのですが、見ているうちに‥あのナミソムの並木道や、ファーストキスのベンチなどの巧み映像が、あのメロディーとともに脳裏に刷り込まれてしまったようです。


負けないで、強く生きる‐近年、日常のなかに、熱く語れる素材、共通の話題が見失われていたような気がします。舞台やドラマに心が動くのは、自分の人生に重なるところを見ていて、勇気づけられているのかもしれません。


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