◆ DND大学発ベンチャー支援情報 ◆ 2004/ 6/23 http://dndi.jp/

第3回産学官連携推進会議と萬屋

DND事務局の出口です。こんな風に思い込んで、それほど自信も根拠もないのに、さらりと書いてしまうところが、「僕」らしいのですが、近年、なんやかんや言われながらも「日本人の顔」が輝いてみえませんか?「自分らしさ」の復権というより、かつて失った「気概」が急浮上して、それぞれに引き立ってきているような気がしてなりません。


どう?と知人に問うと、豊かになったのでは?と面倒くさそうにいうから、でも‥。美顔へのこだわりからエステや洗顔クリーム、化粧品の進化?とも別の友人がもっともらしく解説するけれど、しかし‥。


愛用のデジカメは、脅威の「800万」画素。ファインダーから、こぼれるような笑みが連続していました。第3回産学官連携推進会議最終の20日午前、会場の国立京都国際会館の中庭に、産学官連携に功労のあった受賞者「13組38人」がそろって記念撮影の舞台に並んでいました。野鳥のさえずりが、風に乗ってBGMとなり、まぶしいほどの陽光がスポットライトのようで‥確かに、どの顔も逞しい。


あの人もこの人も‥。産学官連携が具体的に実を結びつつあり、時代への手応えを感じ取って、勝ち戦に沸く凱旋の赴きでした。初日の開会。冒頭の小泉首相のメッセージからして、これまでに誕生した大学発ベンチャー企業は「800社」、大学からの特許出願件数は「2倍以上」に拡大している‐と述べ、「わが国の技術革新は大きな広がりをもって進み始めました」とその成果を強調していました。って、書けば、御用記事みたいに受け取られては寂しい気がしますが、数字にウソはないはずです。


この会議の創設に尽力の尾身幸次自民党科学技術創造立国推進調査会長はトップの基調講演で、「いくつかはっきりした現実的に進んできているものがあります」と語り、第3回の参加者が6000人を越えて、3年で延べ「13700人」、平成7年からの最近までの産学連携活動をずらっと数字で比較して以下のような成果を紹介していました。


共同研究「6767件4倍」、受託研究「6584件2.2倍」、大学発ベンチャー「799社20.5倍」(平成7年39社)−と着実に進展している‐と胸を張る一方で、大学発ベンチャーに関しては、米国4320社(02年)、中国5039社(01年)、韓国9106社(02年)、韓国の統計には、これは?という企業もあるけれど、との含みも指摘していましたが‥続けて英国933社(02年)、ドイツ2780社(00年)−との比較から、潜在的開業者比率「4.3%」(世界22位)、起業家精神「30位」(30ケ国・地域)とまだまだ、弱い。


今後の大学発ベンチャー推進の方策について、プロの人材と大学関係者らとの「人的ネットワークの形成」を一番に上げておりました。そうですね、DNDの趣旨もそこを目指しているわけですから、方向性は間違っていない‐と実感。続いて、ちょっと斬新だったのは、「リスクテークしやすい制度環境の整備」の中での項で、大学発ベンチャーへのライセンス対価として株式取得を容認―という内容でした。後で触れますが、同様の要望や意見は、今回の分科会でも重要テーマとして浮上しておりました。


いやあ、講演途中でのパワーポイントの順番の行き違いはご愛嬌として、よどみなく強く響く尾身節は健在でした。


主催者挨拶では、茂木敏充科学技術政策担当大臣、奥田硯日本経済団体連合会会長らに続いて、さっそうと登場したのが、日本学術会議議長として初舞台の黒川清さん、ノー原稿で、開口一番、「本当に、よく(この会議に)いらっしゃいました」と語り、一気に近代日本の歴史をたどりながら、学術会員、研究者らの社会的責任を訴え、時代の変化を直視しながら、自立、自分で考える‐ことの必要性を指摘していました。いつもながら、ダンディーで若々しい。


その場では、紹介されませんでしたが、配布された経済産業省の中川昭一大臣のメッセージには、技術の目利き、事業戦略につなげる人材と特に「人材育成」の重要性を強調し、「技術開発に際しては、成果を効果的に事業家に結びつけるために、出口を見据えた開発を戦略的に進めることが必要」と、記述されていました。そうなんですね、実際、その特許、技術開発、知財戦略といっても、そこ「出口」を見失ってはいけません。


午後の部の4つの分科会。そのひとつ、キヤノンの御手洗冨士夫社長、内閣官房知的財産戦略推進の荒井寿光事務局長がモデレータ役の「知的財産の戦略的創造・活用」では、パネリストで実際、バイオベンチャーに関わる名古屋大学教授の上田実さんらが、「特許の事業化には、TLOなどがどの程度企業ニーズを把握しているかに成否がかかっている」と指摘して、戦略的活用とは、将来の技術動向を巨視的に眺め、社会の価値観がどのように流れていくかを見極め、その流れにそった特許を、それを実現しうる企業に向かって戦略的にライセンスを行ったり、共同研究に持ち込む必要がある‐とまさに「出口戦略」の具体策を説く。ローム(株)の取締役研究開発本部長の高須秀視さんは、大学の特許戦略に期待を寄せながら、端的に「特許は使って初めて役に立つ」とズバリ。


実際、日本学術会議会長賞を受賞した、わが国初の再生医療製品の実用化を目指す(株)ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング(99年設立)は、上田実教授から培養皮膚、広島大学の越智光夫教授から培養軟骨の技術移転をうけており、「わが国のトップランナー」として臨床試験の段階に進んでいる‐というから、上田さんらは、その実践者としてお手本となります。安全で確かで手軽に、自らの皮膚を培養して移植できれば‥骨も歯もとくれば、どれほど多くの人を救済できるかしれない。大学発ベンチャーのなかでもはやりバイオ分野は、ポテンシャルが高い。紙面の都合上書ききれませんが、最早、産学官の連携は自然で、ごく当たり前の成功への道筋と思えるほど多くの実例が紹介されていましたし、それらに関わる有能な人たちが、ステージの上にも下にも溢れかえっているようでした。


しかし、そういった方々へのインセンティブは?これも徐々に具体的なルールや規定が作られていくでしょうし、それも勢い「規制して排除」するというバックギア的な従来の手法から一転、尾身さんのご指摘通り、リスクテークしやすく、かつ魅力的でやりがいのある新しい環境整備が急務かもしれません。


ぼちぼち、空席が目立ち始めた最終の締めに、宮腰光寛大臣政務官が「古い慣習やルールにとらわれず、具体的な実行を」と挨拶していました。 既存の慣習を変える‐というのは、それ相当の腕力が必要です。本日の日本経済新 聞のコラムに掲載されていましたが、経済産業省の事務次官に就任した杉山秀二さんは記者会見で「年次逆転人事」について、「人事の要は適材適所の貫徹。年次でガチガチになって支障を来たすなら柔軟性を持たせることは当然」と語り、退任される村田成二次官も「世界広しといえども、こういった(年功序列に従った順送り人事)ことを繰り返しているのは日本の霞ヶ関しかない。国家システムの競争力が著しく損なわれる」と断じていました。


これはニュースです。わくわくするような気概を感じます。だから、日本人の顔が変わってきたのかもしれません。


さて、今回で3回目の京都会議。いつも感じるのは、秒刻みのスケジュールで多数のゲストの対応、そしてこれほどの動員とくれば、その裏で走り回る事務局スタッフ、大変でした。うまくいって当たり前の世界ですからね。それと、報道。いつも京都新聞など地元新聞がきっちり紙面を割いて報道していますね。産学連携学会は福岡でしたから西日本新聞、札幌では北海道新聞が‥。地方新聞の活躍が目立ちます。せっかくの成果も多くの人に知られなくては意味がありません。全国紙さんも是非、もう少し‥と思います。


帰りがてら、DNDのスタッフを連れて、京都の知り合いから紹介された小さな一軒のうどん屋さん。そこは祇園の真ん中で、四条通りから花見小路を南に下って、2筋目を西に入る‐との住居表示のまま、進むと「萬屋」の暖簾。京野菜に拘るというから、評判のネギうどんを所望。色鮮やかなネギの青に、下ろしたてのショウガ、これが絶品、ホッホと温まり、食べるほどに体が楽になってきます。終始、にこやかなご主人にきくと160グラム、九条ネギを5から6本分は使います‐という。お店をメルマガで紹介してもよろしいですか?というと、NHKの「ためしてガッテン」に登場したくらいですから、「みなさん、よう知ってらしゃいま〜すぅ」と動じない。そばに奥様と跡取りの物静かな息子さん。いきいきとした表情が絵になりそうでしたから、自慢の800万画素で記念撮影してきました。


長くなってしまいました。これでも書いたらないくらいですから、欲張りですね。原山さんやら荒井さんやら、荒磯さんやら武田さんやら、DNDの出展ブースに来てくださった方々やら、エピソードがいっぱい詰まった京都会議でした。来年は7月2日から3日の予定です。いまから、東京科学機器協会の産学連携研究会、夜は五十嵐伸吾さんのワークショップと産学連携月間のフォローアップには、800万画素を携えて向かいます。


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