◆ DND大学発ベンチャー支援情報 ◆ 2004/ 6/9 http://dndi.jp/

大学等発ベンチャー急転回

DND事務局の出口です。事前の打ち合わせもなければ、これといって何らかの演出もしていないのに、この時期の絶妙なタイミングに加えて、それぞれのご専門の立場で、見事なハーモニーを奏でてくれれば、もう小躍りしない訳にはいきません。そのはやる気持ち抑えながら、あたかもDNDウエッブ「知的財産の戦略」セミナーを開会します〜。


それは、DNDサイトのトップ右脇に並ぶ、連載企画シリーズ、その更新されたコンテンツをじっくり、読み進めてみてください。「産学連携」、「知財戦略」、「ライセシング」−というテーマに言及されており、それも最新の情報が、首尾よく体系化されていることに気がつきます。それら連載3本が、「知財戦略」を主な柱として、縦軸に繋がっていて、さらっと読むと、その辺の事情やら課題が浮かんできます。


米国特許弁護士・服部健一さんの「日米特許最前線」第3回は、表題が「特許王国日本」。先進10カ国の2002年の特許出願件数約82万件などのデータを駆使して、日本の優位性とその急ぐべき課題に触れています。その82万件のうち、日本は39万件でほぼ50%、アメリカは18万件で日本の半分以下にすぎないーと前置きして、日本の特許発明は、アメリカのように一部の超エリートの研究者のみに頼るのではなく、一般従業員や工場現場からも発明が出されている、と指摘、そして、「日本の製品の質やサービスが良いのは、このような労働者の意識、質の高さにある」と断じています。


特許出願トップ20から、企業の取得件数を見ると、IBMがこの10年近くNO.1ですが、そのうち10社、半分が日本。2位日立、3位キヤノン、4位松下電器、10位富士通、12位東芝、14位ソニー、15位三菱電機、16位NEC、18位富士フィルム、19位セイコーエプソンの順。


さて‐あまりここで書いてしまうと、読む楽しみが半減しますので、このくらいにしますが、もう一点、これだけ特許の件数が多い日本であるが、これを訴訟戦略にほとんど用いてこなかった。が、「いずれは、特許収入を得るような日がくることは間違いないだろう」と予測しています。具体的に紹介しているダイナミックな特許収入の現状は、参考になります。


そんな折も折り、8日付の新聞各紙は、プラズマパネルの特許訴訟で、富士通と韓国の電機大手サムスンSDIが和解したニュースを大きく報じていました。「今回の和解交渉で、サムスン側が特許侵害を認めたことはほぼ確実。ただ、サムスン側はライセンス料を払ってでも早期決着し、プラズマパネル事業の足かせを無くす実を取ったとみることもできる」と日本経済新聞のその日の解説にありました。ライセンス料ってどのくらいなのでしょう?たぶん、その道のアナリストがその数字を掴んでくるでしょうけれど‥。しかし、ライセンス料の算出根拠と額は、是非、知りたい。


続いて、やはり本日アップのJETROサンフランシスコの中山亨さんの「シリコンバレー最前線」の8回目は、「大学の技術移転機関」の話です。日本のTLO、アメリカではOTL。国立大学の独立行政法人への移行によって、そのTLOの再考が始まっているーという視点から、特許権の帰属、特許収入の分配について、アメリカの例を1980年の「バイドール法」(アメリカ合衆国特許商標法修正条項の通称)から、順に説明していますが、それがわかりやすい。


実際、スタンフォード大学にファカルティとして採用されれば、大学での研究成果は大学に帰属する‐という合意文書にサインさせられ、特許の大部分は大学に帰属し、その管理を行っているのがOTLである、という。


では、発明者にインセンティブはないのか?というとそうではなく、再びスタンフォード大学の例を引いて、実用化から実際に特許収入が入ってくると、15%がOTL、残りを発明者、学科、学部で3等分するーというのが基本ルールとなっていて、この基本ルールはカリフォルニア大学(UC)も同様という。


UCといえば、京都国際会議場で開催の第3回産学官連携推進会議の19日初日午前、基調講演で京都大学の尾池和夫総長に続いて、UCのローレンス・コールマン氏がUCの実例を基に「産学連携戦略の構築」をテーマにしていらっしゃいます。中山さんの原稿を念頭に入れながら、コールマン氏の講演をお聴きになると、理解がより深まるかもしれません。


で、中山さんの話ですが、続けて、日本のTLOの話を聞くと、保有する特許をどのように売るか、セールスマンのように頭を悩ませているように見える‐として、「単純化して述べれば、アメリカの大学のOTLは特許の販売に頭を痛めることはない」と断言しています。それはなぜ?そこから本題に入るのですが、そこに「日本のTLOの再考」へのヒントが見え隠れしています。本文をお読みください。


連載の3つ目。東北大学教授の原山優子さんの「産学連携講座」の5回目が「産学連携と知的財産」。いやあ、講座という学問的なアプローチですから、表題の通り、「産学連携」と「知的財産」を丁寧に定義付けて、「知的財産の権利化」から「TLOを介した技術移転」に言及し、その意味からすれば、産学連携と知的財産の権利化は「補完関係にある」と指摘しているのですが、さすが、原山さん、モノの捉え方が多角的で、焦点がピタリ。「産学連携」の着地点である「社会全体のイノベーション能力を高める」という視点から考察すると、と言って、逆に「知的財産の権利化」が「産学連携」に負の、そうマイナスのインパクトを与えるーという衝撃的で、思いも寄らぬ議論を展開しています。その負の、ブレーキとなってしまう要因は3点‐これも連載一押しの場面です。


その京都での産学官連携推進会議の19日の分科会のひとつには、「知的財産の戦略的創造・活用」をテーマに、大学の知的財産の帰属や管理のあり方、並びに企業との連携、そして知的財産の活用について、具体的な事例から、今後の方策を探る‐予定ですが、モデレータ役の主査に、キヤノンの御手洗冨士夫社長、そして内閣官房知的財産戦略推進事務局長で、ズバッと切れ味鋭い荒井寿光さん、荒井さんは、明日から福岡で開催の産学連携学会でも基調講演されますから、もう、西に東に引っ張りダコというより、まあ、日本の知財戦略の要的存在ですから、この人が何を話してどう動くか?で日本の方向性が決まる‐と個人的に注目しています。


そのパネラーを見て、少々驚きました。実績のある(株)東京大学TLO社長の山本貴史さんと並んで、なんと、同席者に上記の原山さん、そして、DND企画で、「バイオベンチャー起業・成功の秘訣」を連載してくださっている名古屋大学大学院教授で、大学発バイオベンチャー協会副会長の上田実さんが、顔を揃えているではないですか!う〜ん、これは最前列に陣取って耳を傾けなければなりません。


DND開設から2年余り。新規のユーザー登録や面談のお申し込みなどが日増しに勢いづいてきており、いま、大学発ベンチャーを取り巻く環境が急転回していることを実感しています。手応えは、あります。が、さて、この先、何をしなければならないのか?走りながらの思索が続きます。


記憶を記録に!DNDメディア塾
http://dndi.jp/media/index.html

このコラムへのご意見や、感想は以下のメールアドレスまでご連絡をお願いします。
DND(デジタル ニューディール事務局)メルマガ担当 dndmail@dndi.jp