◆ DND大学発ベンチャー支援情報 ◆ 2004/ 4/14 http://dndi.jp/

食育と起業

DND事務局の出口です。あの時のあの人の落胆に似た悲しい表情が、ユーモラスで今もって鮮明に浮かんできます。たかが朝食、されど朝食。食事はちゃんと取らなければいけません。経済産業省の石黒さん、吉本さん、それに安藤さん、大丈夫?


新聞記者時代の大先輩で、多摩大学教授で(財)ベンチャーエンタープライズセンター理事の那野比古さんとワシントンのホテルでの朝食のひとコマです。


何にしようか?と横文字のメニューに目をやりながら、那野さんは、お腹と相談して決めかねている風でしばし、沈黙‥。定番のアメリカンブレックファーストをチョイスし、メニュー上段を指差しながら、これでどうですか?と言いかけると、ウン‥、そうしようか!と肯きながらも、咄嗟に、「いやっ、これこれっ、これにしようよ」って、言うから、いいですよーと、いつになく妥協してしまった結末は、以下の通り‥。


注文した品は、ファーマーズブレックファースト、19ドル。コーヒー、オレンジジュースのお決まりの飲み物を前に、テーブルを挟んで、意味なく旅の回想にあれこれ談笑していると、「お待ちっ!」っていったかどうか判然としないまでも、屈強な黒人のウエーターが差し出した白い磁器の皿に載った一品には、正直、ひっくり返りそうになりました。那野さんは、口をあけたまま、目を白黒させておりました。ほんと、すごいんです。


皿一面を覆い尽くすような厚手のパンケーキ、それも3段重ね、高さは10cmのボリューム。その上に2個のターンオーバーの目玉焼きがドーンと。それを黒蜜で食してください‐と言うから、日ごろダンディーな那野さん、さすがにソルト、ペッパーの小瓶を持ち変えたと思ったら、フォークとナイフを手にしたまま、固まっていました。


「先生、体に障りますから、せめて、目玉焼きの黄色いところでだけでも食べたほうがいいですよ」。


那野さんが口にしたのは、小鳥のエサほどでしたが、残すのはやはりもったいない。意地で、ただ胃袋に詰め込むという作業は、度々、パンケーキがノドにつかえそうで、まるで罰ゲームか拷問のようでもありました。


定番・朝めし自慢の連載「サライ」(小学館)、4月15日号は、妙齢な旅館の女将にして、筑波山ガマの油売り口上19代名人と称される吉岡久子さん。見開きのページに7枚の写真、昆布と豆の朝食がその健康の源という。久子さんの好物が、桜海老。その注釈には、春と秋の年2回、世界でも駿河湾と相模湾しか獲れない貴重品らしい。贔屓の店『友和丸』(静岡県・蒲原町)は、水揚げされたばかりの桜海老を駿河湾の深層水と塩だけで釜茹でし、急速冷凍に。解凍してそのまま、酢の物、てんぷらで食すると、「天然の甘味と潮の香りが口中に広がる」という。あ〜那野さんに食べさせてあげたいなあ。


全国津々浦々、四季折々、地の味自慢が、てんこ盛りの食彩国ニッポン。サライのほか、趣味で購読している雑誌は、「食彩浪漫」(NHK)、今月は「春は卵が旨い!」の大特集、「卵黄のたんぽぽ色が春を連想させるから〜」なんて、卵料理のようにふわっと柔らかい気分にさせてくれます。そして、食こそエンターテインメントと言い切る名コピーの「ダンチュウ」(プレジデント社)、今月はここでも「たまご料理は親友」の特集を組んでいました。


そういえば、今朝の新聞に嬉しいニュース、鳥インフルエンザの終息宣言を受けて京都府・丹波町では、13日に卵販売が再開されたんですね。よかったー。卵料理は好きですから、時にスパニッシュオムレツなんか実際、やるんです。


食の徳のひとつは、命を継ぐ‐と古典にあります。何を食べたい?という問いに、若者は決して遠慮なんぞしてはいけない‐と言うのは、恩師の口癖でした。食べたいものが、それは即、体が欲っしているものに違いないから‐と言う理由と、食に遠慮していては強くなれない‐との意味があったのかもしれません。至言です。


学校給食法(1954年6月)の成立からまもなく50年。日本経済新聞夕刊では「立て直せ子供の食」と題して、ドキュメント「挑戦」を連載中です。給食改革、栄養士、教育基本、地産地消、しっかり食べなさい‐など毎回のテーマは実に丁寧な取材を積み重ねていて、リアルに伝わってきます。そのひとつ、「官の『ライフワーク』」の項に登場した農水省の勝野美江さんのメッセージ。「食べる感動を伝えたい。五官を使って味わう喜び、生産者への感謝や自然への畏敬の念を実感として分かってほしい」と。


食育基本法。7月施行。家庭、学校、地域をあげて食育への動きが加速します。何が変わる‐といえば、北海道の帯広畜産大学からは初の大学発ベンチャー「ニュテックス」が先月スタートし、鹿児島大学教授の馬嶋秀行さんも起業を視野に準備を開始しています。北から南から、いずれも食の安心、安全を目的にした機能解析、抗酸化能などの分析、評価を柱に据えた事業化を目指しています。


ニュテックスの専務に就任した田中一郎さんから、「いつかの会議でお会いしたとき、ベンチャーの立ち上げをけしかけられたような気がしています。なんとか起業しました」とのメールが届き、昨日は馬嶋さんが、DND新事務所を訪れて深夜遅くまで事業プランの検討を詰めていきました。いま、大学発ベンチャー誕生の地殻変動が起きていることを実感します。


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