◆ DND大学発ベンチャー支援情報 ◆ 2004/ 4/07 http://dndi.jp/

ヒト型ロボットとイノセンス考

DND事務局の出口です。これは、アニメ界のプロジェクトXかもしれない。上映中のアニメーション映画「イノセンス」(押井守監督)。すさまじい映像と音響―そして奥深いストーリーが展開するこの映画は、アニメとして「究極の域に達している」とは、創刊から日が浅い、「大人のためのアニメ・ゲーム・特撮マガジン」を標榜する「日経キャラクターズ!」(日経BP社刊)の特集記事の一文です。


公開を心待ちにしていましたから、急ぎ日比谷の劇場に足を運んで観て、夢のなかのような異次元の「押井ワールド」に圧倒されて、言葉が見つかりませんでした。エンディングに流れる伊藤君子さんの「Follow Me」が現実へ戻る唯一の救いでした。


サウンドトラック。陰々として胸苦しいほどの音調、暗く沈む怨念の響きに似た作曲、作詞は、鬼才・川井憲次さん。♪咲く花は 神に祈(こ)ひ祷(の)む 生ける世に 我が身悲しも 夢(いめ)は消(け)ぬ〜。その川井さんの作品づくりの回顧を読むと、国内最大のオルゴール、大谷石の採石場の洞内、女性の民謡歌手75人によるコーラス、和太鼓、ふんどし、14時間連続歌いっぱなし‥いやはや限界ぎりぎりのトライだったようです。


映像手法。押井監督の進める2Dアニメーション、CG,3DCG,そして実写を融合した手法が活用されており、最終工程のデジタル処理に威力を発揮したのが、「Domino(ドミノ)」と呼ぶ超高速デジタルオプチカル・ワークステーション・システム−だと言う。以下は、劇場で買った「イノセンス押井守の世界」(徳間書店)からの引用です。


「ドミノは、撮影フィルムをスキャニングして、デジタル画像として読み込み、高解像度にデジタル処理したあと、フィルムに焼き戻すという一連の製作工程を高速で総合的に行ってくれるシステムで、動画と動画の合成、CGと実写の合成、画像の変形、色調調整などの映像のデジタル処理をフィルム並みの高解像度でほぼリアルタイムで行うことができる。これによって、イノセンスの驚異的な画面が完成されているのだ」。なるほどねぇ!?


95年の押井監督による「攻殻機動隊」以来のファンを自認するDND馴染みの多摩大学教授、山内英康さんにその評を聞いてみると‐


‥下敷きになっているのは、士郎正宗が(確か)『別冊週刊マガジン海賊版』に不定期連載していた漫画を、ほぼそのままなぞったもので、この作品については、漫画の原作の理解が重要であるようです。『攻殻機動隊』については、草薙が人形遣いと融合した後、残された9課の捜査員の活動を描いた作品が7?8本ありました。これは刑事物の色彩が濃く、押井監督の世界観と旨くマッチしたようです。


士郎正宗は、2001年6月に『攻殻機動隊2』を単行本(講談社)から書き下ろしで出版しています。こちらはネット上の草薙が主人公です。『イノセンス』の終盤に登場する電脳上の攻防の様子は、この『攻殻機動隊2』ですでにビジュアルに描かれています。


押井監督は、『攻殻』の前に、『アヴァロン』という実写を撮っているのですが、これは実はウォシャオスキー兄弟の『マトリクス』に対する押井監督流の回答では無いか、と思っています。良く知られているように、ウォシャオスキー兄弟は『攻殻』からとても影響を受けたと言っています。今回の『イノセンス』は、「良くできた佳品」という意味で、宮崎駿監督の『千と千尋』に対する回答なのかもしれません‥と、やっぱ、専門的です。


その押井さんのインタビュー。この映画に人間は登場しない。人物はすべて、人の形を模した人形たちである。分かりやすくいうとロボットである。(中略)家族、恋人、友人。我々は決して独りでは生きられない。この物語の舞台である2032年の未来は、ロボットや電子存在も、人間にとって必要な他者になっている。いや、そういう時代はすでに訪れているといってもいいのかもしれない−と。


本日、4月7日は、あの「鉄腕アトム」の誕生の日です。作者の手塚治虫さんといえば、「アニメ火の鳥」が先週の日曜日からNHK総合テレビで復活しました。スケールは壮大です。スタートの「黎明編」から「未来編」までの全5編、13話は、見逃しませんよ。アニメはもう子供の独占ではありません。


アニメは娯楽の域を超えて、未来予測をいち早く、現実に近づけてきた歴史がありますね。よく言われていることですけれど、日本人が、ロボットに親近感をもって身近な存在として受け入れているのは、漫画家・手塚治虫さんらの功績でした。「アトム」、「鉄人28号」、「ガンダム」、そして「ドラえもん」もみんな憧れの強い味方ですから‥。


が、ロボットの存在を逆に、いつまでも人間の都合の道具であり続けることはない−との警鐘を鳴らしたのが、「イノセンス」の押井監督―と私は思います。周辺を見渡すと、あっという間に、ロボット天国ニッポン。徐々に進化し、どんどんヒトに近寄っています。


GWの5月1日からの「ロボカップジャパンオープン2004大阪」には、170以上のチームが参加するらしい。次には、ロボットのK−1のような格闘技が行われるのも時間の問題かもしれません。その次の次には、さらにそして、押井ワールドに限りなく歩み寄ってくる‥。


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