◆ DND大学発ベンチャー支援情報 ◆ 2003/10/29 http://dndi.jp

日光物語

DND事務局の出口です。晩秋。風に吹かれて、ふらり、赤く色づくあの回廊を散策したいー11月上旬の連休が近づくと、心が動く。


お気に入りは、日光。それも、激流の大谷川(だいやがわ)と稲荷川が合流する旧日光小学校跡地の、のぼり坂を外人別荘の通称・赤門を左にみて、東照宮社務所方面に進む。苔むす石積みを抜けると、桜の馬場。そのわずかな道のりに、燃えるような葉を幾重にも重ねたモミジが続く。いく秋の名残り。それに、追憶と懺悔の数々。


新聞社に入社しての最初の赴任地がそこ日光でした。一歩踏み込むと、あちらこちらに取材の痕跡がなまなましい。在野の精神よろしく、追及、批判の記事が使命と思い込んで、悪戯に小さな刀を振りかざしていたようです。若気のいたりでしょうか。


「地方なら、地元のサポーターに徹するのも大切です」−と教えてくれたのは、当時、無名の写真家・足立広文さんでした。あれから28年。書棚から、彼の写真集「東の国の聖地 日の豊饒 光の回廊」(鎌倉新書、18000円)を取り出して、眺めてみました。


発刊の辞に「花の会」の秋山庄太郎さん、「足立さんは、その郷土愛を写真という媒体を通し発表し続けた人です。その情熱に敬意を表したい」、本文中には「風の会」の緑川洋一さん、「足立君の作品には、風景の引き写しではなくそこに美の旋律がある。この写真集はわが国の文化財」と賛嘆しています。もうご両人も鬼籍に入られていますが、その足立さんの紹介で、何度もお目にかかる機会を得ました。奥日光の撮影にお供した秋山さんからは、「のぞいてごらん」。巨匠の眼のファインダーから、想像もしない画面が切り取られていました。


しかし、日光在任が5年。他社の記者は普通2年程度で、東京に栄転。「早く東京で仕事がしたい」と願うのが人情です。なにか、時代から取り残されたような悲壮感を引きずっていました。


昭和50年前半、オイルショックが尾をひいて、経営難。新人の採用枠が激減、後任が来ない。腐るというか、幾分焦りましたね。まあ、人間どこでどうなるか、それが、どういう意味を後々もたらすか、その時が来ないと理解できないかもしれません。


そのお陰で、以来、今日まで家族同様のお付き合いしてくださっている方のひとりに、日光東照宮の稲葉久雄さん。当時38歳、同宮の総務課長。現在は宮司さん。いまだから、もう時効かな。建築家の丹下健三さんが東照宮の新宮殿建築に至る経緯に、小生が介在していました。いまも20数年続いている北関東乗馬大会も稲葉さんと小生の企画でした。そして、いま、同宮の悩みの種、樹齢350年の街道の日光杉並木の保存。車の振動と排気ガスなどで、年々、その立ち枯れが深刻化しています。3代将軍家光公時代の勘定奉行、松平正綱の寄進による並木は、国の重文で、天然史跡。


それの樹勢回復にボランティアで乗り出したのが、DND馴染みの名古屋に本社がある(株)イーエム総合ネットの社長、宮澤敏夫さんです。稲葉さんと宮澤さんの息が合って、この夏から、有用微生物を駆使しての実験プロジェクトが立ち上がっています。日光八景のひとつ、小倉山の里の丘陵地に、大根4500本、ほうれん草、そして米作りが、同時に進められて、無農薬で良質の作物が収穫されました。境内での即売が好調です。


そしてさらにー北海道岩見沢発の大学発ベンチャー、植物香料をベースに健康産業の一角を狙うネイチャーテクノロジーの刈田貴久社長と稲葉さんを引き合わせ、稲葉さんの大学の後輩にあたる大手製薬会社社長との面談がスケジュールに乗っています。その勢いで、刈田さんの栽培するハーブにも今度は宮澤さんの有用微生物の技術が応用される−などなど。まだまだ、あって、日光、鬼怒川温泉の旅館・ホテルをターゲットに、省エネのESCO事業、生ごみ処理、温泉の水処理事業などが、順次立ち上がる予定です。ついでに、日光世界遺産記念館の設立、そして運営。


仮称・日光文化事業団の設立が視野に入ってきました。小さな刀を抜く−。実は、当時、同様の「日光東照宮文化事業団」が株式会社として設立され、その行く手を阻み、あの手この手で、潰しをかけたのが、ほかでもないこの私でした。懺悔の一幕であり、いま再びとなれば、れっきとしたマッチポンプとでもいうのでしょうか?時を経て、こんなステージが用意されていようとは、人生まんざらでもなさそうです。無駄がない。


地方の活性化へのモデルとして、「日光文化事業団構想」は、門前町や温泉街を対象に、例えば、「鎌倉文化事業団」、「阿寒湖文化事業団」、「湯布院文化事業団」へと展開できれば、意義深い。今年、江戸開府400年。


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