■コンサルティング業務の限界
土井尚人社長がHCMを設立したキッカケともいえる、強烈な体験となった出来事がある。それは2002年4月に設立された北海道大学発ベンチャー、(株)メディカルイメージラボ(MIL)での出来事だった。
医療用画像の伝送と遠隔診断を業務とするMILでは、システム構築のための資金が必要となる。大学教官らで組織したMILには、融資に必要な予備知識や書類作成の経験はない。当時、コンサルタント企業に勤務していた土井社長にも相談が寄せられたが、融資の要請となると責任を伴なう業務になるため、MILに役員として参画することを余儀なくされる。
「当然、コンサルタント会社の方では、業務の範疇から外れると言って、役員就任を認めてもらえませんでした。しかしこのままでは、可能性豊かな大学発ベンチャー企業が1社、資金不足によって立ち行かなくなってしまう。悩んだ末にコンサルタント会社を辞め、MILの役員となったんです」
と、土井社長は当時を振り返る。
そんな頃、小樽商科大学の社会人大学院でともに学んだ同窓生から、会社設立の構想を聞かされることになる。
続けて、土井社長は語る。
「大学を中心に優れた技術シーズが存在し、地域の金融機関やベンチャーキャピタル等が資金供給の路をつけ始めている。モノとカネは揃った。あとはシーズを組み合わせ、自らリスクを取って起業に臨む人材、つまりヒトだけが不足している。MILの場合も、ベンチャー企業の財務に長けた人材がいなかったために辛い思いをした。ならば、そういった人材を養成・供給し、ノウハウを提供する企業をつくり、地域経済の活性化を果たすことができるはずだ――。当時、会社を設立しようと言う同窓生の間で、そんなことばかり話していました。当社の設立理念も、ほぼその通りになっています」
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■ 併走機関として人材やノウハウを供給
ベンチャーを起業する際、経理総務部門等の人材不足や販路不足といった状態に悩まされる場合が少なくない。また、研究者が設立した大学発VBの場合、優れた技術シーズを持っているが、産業界との繋がりが強くなく、営業に結びつきにくい場合も数多い。
「産業界のニーズと、大学が持っているシーズをよく見極め、提供出来るノウハウや製品を提供して欲しいと思っている企業に紹介する。可能な場合は経営資源を組み合せてイノベーションを図る。パズルのようなことをずっとやっています」(土井社長)
銀行出身者やVC経験者をスタッフに迎え、ベンチャーが抱えるさまざまな課題を捉えて解決策を提案する。金融機関や産業界とベンチャーとをつなぐ“翻訳装置”として機能しているわけだ。
また、HCMでは、大学発ベンチャー等のスムーズな設立と成長のために、さまざまな課題に対して、一緒に取り組むという基本姿勢を取る。そのため、MILを筆頭に、役員として参画しているベンチャーも数多い。同社が支援機関と言わず、“併走機関”を標榜する所以だ。
もちろん、人材育成にも余念がない。最近では経営者向けのセミナーなどに加え、道内の信金等、地域金融機関に対して、現地に赴いてのセミナー活動なども行っている。また、民間では珍しく、自社にインキュベーションブースを設置し、アーリーステージの大学発ベンチャー等に提供している。すでにブースにはVB4社が入居、9社がブースを共用で利用している。
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■ 地域経済にイノベーションを
「北海道には可能性がある、とはよく言われる台詞ですが、いまのベンチャー企業に関わる人材の質や事業の可能性を見る限り、それは全くの事実だと思うんです。不足しているのはヒューマン・キャピタルの数だけ。私たちの努力によってそこを埋めるのであれば、地域経済にイノベーションを起こすことは可能と考えています」
と土井社長は言う。
HCMは実質第1期から黒字を計上している。土井社長が関わったMILも、創業2期目から黒字化を果たした。数字も大事、という土井社長の信念からだ。
VBが欲しがっている経営資源を、ヒト、モノ、カネ全ての面でコーディネートしながら成長を促していく。大学発VB1000社構想の先に広がる世界を、地域経済のイノベーションと見据えてHCMの挑戦は続く。
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