■アトピーに悩んで
小寺氏が貴肌水を開発したのは、10年前に遡る。当時、アトピーに悩んでいた次男の症状を何とかやわらけだいとの思いからだった。
漢方生薬も取り扱うはるにれ薬局を営んでいた小寺氏は北大薬学部の出身。周辺医療機関に足しげく相談を持ちかけた結果、とある病院に研修に訪れていた中国人医師から情報を得る。 「中国では、かゆみに対して地膚子、蛇床子を処方することがあります。この場合も地膚子、蛇床子が有効なのでは」
だが、国内の漢方処方には地膚子や蛇床子をかゆみに対して処方する例はない。小寺氏は悩んだ揚げ句、化粧水に地膚子と蛇床子を配合し、希望者にのみ提供した。 結果は中国人医師の言う通り、かゆみが消え、周辺からは感謝の声が起こった。これが強烈な体験となって、小寺氏をベンチャー設立へと走らせることになる。
現在、この化粧水は化粧品としての認可を取得、商品名“貴肌水”(右写真)として全国に販売されている。基礎データや臨床データは東洋医学会にも発表され、今後は普及段階へと進む。
小寺氏(右写真)は言う。
「健康食品や機能性食品と言いますが、本当に機能や効果が期待できるものは多くはありません。私は薬学部出身者として、効果が期待できない商品は作りたくないんです」
小寺氏には、東洋医学会北海道支部設立の際、共に奔走した仲間がいる。25年以上も親交を温めて来た北見工業大学の薬学博士、山岸喬教授である。 山岸氏は生薬学が専門であり、道内の山野草も幅広く調査研究している。山岸氏に小寺氏がベンチャー設立の相談を持ちかけた際、山岸氏は言った。 「北海道の山野草には、機能性の高いものがまだまだ数多く眠っている。商品化とともに栽培体制を確立すれば、農業にも大きなインパクトが与えられるはずだ」 つまりこれが、はるにれバイオ研究所の基本スタンスである。 |
■ ハマナスに隠された効用
山岸氏は独自に、商品化が期待出来る植物資源として、ハマナス花弁に注目していた。 「壊血病などに対して、ハマナス花弁を茶のように煎じて飲むという処方が、過去のアイヌ民族の伝承医学にあったんです。だとすればビタミン類が豊富に含まれているはず。また、ハマナスは戦中〜戦後の一時期、道内で香料抽出のために栽培されていたという実績もあります。原料が調達できて効果が期待できるならば、商品化も難しくはないでしょう」(山岸氏)
ハマナス花弁の分析を進めた山岸氏は、次々に出て来るデータに驚いた。 「まずビタミンCが非常に豊富なこと。また、そのビタミンCが通常と違い、熱に対して非常に壊れにくい。茶のように煎じて飲むとありましたが、それでも十分ビタミンが補給できたわけです」(山岸氏)
左:ハマナスの花 中:乾燥した花弁 右:花弁の粉末
さらに、重量比で20%を占める豊富なアントシアン系のポリフェノールは、強力な坑酸化機能を持っていることが判明した。 「体臭成分は、通常体内にある脂肪酸の酸化によって引き起こされます。またシワの原因もオレイン酸が劣化することが原因。こういった脂肪酸の酸化を防ぐことができれば、加齢臭などの体臭を消し、シワの発生を防ぐことも可能になるわけです」(山岸氏) 簡単に言えば、ハマナスの“アンチエージング”機能が発見された、ということになる。
ハマナス花弁は研究開発段階をほぼ終え、まもなく商品化される。だが、今後に向けての課題もなくはない。ハマナスが商業栽培されたのは、半世紀以上も昔。原料栽培は一から再出発しなければならないのだ。 「今年度の使用分は、全国からかき集めてしまって、もう国内にはありません。幸い、昔栽培していた八重咲きの品種が残っており、栽培協力してくれる農家もみつかりました。生命力も旺盛で、植え替えてもよく花をつけます。いずれはハマナスで一杯になった畑が出来、景観資源にもなると思います」(山岸氏)
古来の伝承や他国の医学に、現代の技術でメスを入れる。はるにれバイオの行く手には、まだまだ多くの“未利用資源”が眠っている。
|