このコーナーでは、大学の研究シーズを基盤とし
てビジネスで成功された企業を紹介いたします。


「カジュアル3D」で世界標準めざす

--- 第13回・ラティス・テクノロジー株式会社 ---


  ラティス・テクノロジー株式会社は、3次元データを手軽に誰もが利用できるフォーマット「XVL」の実用化を図るため、開発者である慶応大学の千代倉弘明教授(現会長)を中心に設立された。CAD(コンピューターによる設計支援)のように開発や設計現場でしか使われなかった3Dデータを、営業、保守、資材調達などで活用できるため、すでにトヨタ、キヤノンなどの大手メーカーが採用し始めた。コンセプトは「カジュアル3D」。同社の鳥谷浩志社長は、「日本発の技術として世界標準をめざす」と意気込む。


「家電、住宅、ゼネコンなど、各業種のトップ企業への導入を働きかけていく」と鳥谷社長

■データを100分の1以上圧縮

 3次元CADによる設計図面は、製品開発の効率を飛躍的に高めるツールとして、製造現場で導入する企業が急速に増えている。だが、3次元CADのデータ量は100MB以上になり、企業内ネットワークやインターネットで伝送するには重過ぎる。「XVL」はCADに劣らない精度を保ちながら、データのサイズを100分の1以上圧縮し、ホームページなどでも表示できるようにする技術だ。

 CAD環境がない相手に対して、3次元データを示してビジュアルな情報伝達を可能にする「XVL」は、様々な業務の変革を後押しする。遠隔地に散らばった開発陣が設計情報を共有し、同時並行で作業を行うことができる。設計変更が大幅に効率化でき、生産までの準備期間の半減につながる。また、開発後、立体画像による組み立て指示書や電子マニュアル、カタログなどを、すばやく作成して配布することも可能になる。

 「とくに最近注目のセル生産方式で威力を発揮している」と鳥谷社長は説明する。セル生産方式は、従来、ベルトコンベアで生産していたものを、1人または少人数の従業員により完成品まで仕上げる方式。売れただけ生産し、在庫を極小化できるため、導入する企業が増えている。ただ、現場の工員が部品の構成を熟知する必要があり、「XVL」は3次元の加工指示書を簡単に作成するツールとして評価が高まっている。

▲3DドキュメントによるインタラクティブなHTMLページを簡単に作成できる


■ トヨタ自動車が出資

 「XVL」にまず関心を示したのがトヨタ自動車だった。ラティス・テクノロジーに出資すると同時に開発を後押しした。だが、さすがに要求は厳しい。「実際に利用されるまでに1年半かかった」と鳥谷社長は苦笑する。「トヨタグループの中でユーザー会が立ち上がり、改良点などについて頻繁にやりとりした。まるで、秋葉原にいるパソコン少年みたいに盛り上がっていた」と述懐する。

 現在では、3次元のCADやコンピューターグラフィック(CG)データをサーバー上で一括して「XVL」へ自動変換するソフト、3Dデータと既存の2次元図面を統合して扱えるドキュメント作成ソフトなども開発し、製品群も充実してきた。今後は、「家電、住宅、ゼネコンなど、各業種のトップ企業への導入を働きかけていく」と鳥谷社長は戦略を練る。

 会長の千代倉氏、鳥谷社長とも、以前はリコーの研究者だった。ラティス・テクノロジーは、大企業からのスピンオフ組が立ち上げたベンチャーでもある。このため、「大学発ベンチャー、スピンオフ・ベンチャー、さらに産学連携の成功事例となることをめざす」と鳥谷社長は語る。加えて、「XVLが世界標準となり、『カジュアル3D』として大きな市場を創造していくのが目標となる」と目を輝かせる。

 同社は2002年3月期で黒字化を達成。三井物産と提携して、海外進出にも乗り出す。「XVL」の採用に関して、オートデスクや三井造船システム技研などのソフト大手との業務提携も相次いでいる。「大学発ベンチャーが軌道に乗るには、大企業に負けない突出した技術と、ユーザーの声を聞いて支援者を増やすことが必要だ」と分析する鳥谷社長は、夢を実現するべくラストスパートをかける。

ラティス・テクノロジー株式会社 http://www.lattice.co.jp/ja/

◇本社:〒102-0074 東京都千代田区九段南3-8-11 飛栄九段ビル4F
◇設 立:1997年10月
◇代表取締役社長 :鳥谷 浩志氏
◇資本金:4億2500万円
◇従業員:14人
◇事 業:(1)カーネルのライセンス供与
(2)ソフトウェアの開発、販売
(3)ソフトウェアの受託開発事業