このコーナーでは、大学の研究シーズを基盤とし
てビジネスで成功された企業を紹介いたします。


理科実験室を展開する学生VB

--- 第10回・有限会社 リバネス ---


 首都圏の複数の理工系大学院生、大学生が共同で立ち上げた有限会社リバネスは、バイオをはじめとする理科実験教室を開き、教育関係者の注目を集めている。東京大学農芸生命科学研究科の大学院生でもある丸幸弘社長が仲間3人で始めたのがキッカケ。学習塾の大手と提携したほか、公立小学校の理科実験教室も近く受けもつ予定だ。同社の事業規模の急拡大は、教育現場でのアウトソーシングの進展を予感させる。


「科学の面白さを伝えたい」という丸社長の思いがリバネスを立ち上げた

■科学の面白さ伝える

 学校週5日制などの影響で、小学校や中学校では理科の教科書の内容を授業中に実験する機会が少なくなっている。子供たちの理科離れが進んでいるといわれるが、丸社長は、「見たこともない、触れたこともない、聞いたこともないものには興味はもてないのは当たり前」と危機感を抱き、仲間の大学院生に呼びかけて、いわば「理科の実験の出前」を行う会社、リバネスを立ち上げた。

 「ゲノム」「遺伝子組替え」「クローン」といったバイオテクノロジーに関する言葉が新聞紙面に飛び交っている。ただ、何となく知ってはいるが、研究の現場を知る人は少ない。ところが、縁遠い最先端の研究にみえても、その実例は割と身近なところにある。

 例えば、リバネスの講座のひとつ、「環境ホルモンって何?」。まず、ヒメダカを用いて、オスとメスが見た目だけでなく、体内のタンパク質が異なっていることを検査キットで調べる。そして、メダカの女性ホルモンとよく似た構造の環境ホルモンを含んだ水の中にオスを入れると、数日でオスのメダカがメス化することを、自分の目で確認させる。この実験の結果と考察を、発表する場も生徒に設ける。

 この課程の中で、大学院生である講師と生徒、あるいは生徒間での対話や討論が行われ、ホルモンの性質や機能、環境ホルモンの影響について、知識とともに考えをまとめて表現する力を養うことができる。「自分も実際に研究室で楽しんでいるような科学の面白さを伝えたい」という丸社長の思い入れがビジネスに結びついた。
■ 公立小学校でも実験教室

▲先端科学実験教室の様子。大学院生に相談もできるとあって高校生、大学生の参加 もみられる
 ほかにも、クラゲの蛍光発光タンパク質をコードしたDNAを大腸菌に組み込む「遺伝子組替えが光って解る!」、サケの白子を使ってDNAの抽出を行う「DNAって何?」、さらには生物発光をビーカーの中で再現する「ボワッとひかるホタルの光」など、ユニークな実験のカリキュラムが目白押しだ。

 これら企画は、4人から5人のチームをプロジェクトごとに編成し、請負先の学校や塾の先生と綿密な打ち合わせをして練っていくという。丸社長は、「プロジェクトリーダーには、科学を面白く伝える能力を徹底的にトレーニングしてもらう。さらに、人事、会計から顧客との交渉まで責任をもたせる」と人材育成の重要性を強調する。

 最新のバイオ研究をわかりやすくした授業は、子供たちの好奇心を刺激した。第一線で研究を行っている大学院生が、柔軟な発想で考えた演出は、教育関係者をうならせた。このため、私立小学校だけでなく、複数の自治体、教育委員会からの問い合わせが日ごとに増えてきているという。首都圏に36の教室を持つ学習塾の桐杏学園(東京都豊島区)と提携、年間4回、休日を使って小学生を対象に理科の実験講座も始めた。

 また、千葉県の公立小学校からの委託で、今夏から理科の実験教室を行う準備を進めている。大学発ベンチャーとはいえ民間企業に、公立小学校が授業を請け負わせるのは極めて異例だ。「教育といえども、学校の先生が手が回らないところはアウトソーシングしてもいい。これがモデルケースとなり、大学の研究者が理科教育に参加するという潮流ができれば、ある意味で教育革命といえる」と丸社長は、その意義を説く。

■大学院生にも経営感覚

 リバネスでは、講座の運営ノウハウを一通り習得した大学院生を「バイオコミュニケーター」と呼ぶ。「研究者にとってもプレゼンテーション能力や、経営感覚を磨くことは、これから大切になる。企業に入っても即戦力になり得る」と丸社長はいう。今後は、バイオに関する企業向けの社員研修、就職インターンの仲介にも力を入れていく。

 同社は、アルバイトを含め約30人全員が大学院生または大学生だ。創立メンバーの池上昌弘副社長、井上浄専務は、それぞれ東京工業大学大学院生命理工学研究科、東京薬科大学大学院薬学研究科に席を置く。登録する講師の学生は100人近くにのぼり、お互いがインターネットを利用して、打ち合わせや会議を行う。

 「会社と大学のサークルの中間のようなノリ」と丸社長は笑う。若い情熱にあふれた雰囲気の中で、幼児から社会人まで、バイオ教育を通じた人材育成の場として活動領域が広がりつつある。「私が大学院を卒業したときは、社長ではないかもしれないが、リバネス自体は社会に必要な企業として、さらに成長しているはず」。社名の由来である、出会った人たちすべての「巣立ち(Leave a nest)」を応援するという理念は受け継がれていくことになりそうだ。
有限会社 リバネス http://www.leaveanest.com/

◇本社:東京都大田区大森北3-4-1-302
◇設 立:2002年6月
◇社長:丸 幸弘
◇資本金:360万円
◇従業員:30人
◇事 業:(1)科学技術分野に関する各種教養講座の企画・立案・運営
        及び学習教室経営に関する事業
     (2)科学技術分野に関する出版物の執筆・印刷・出版業
     (3)生物化学実験器具の開発、製造、販売及び輸入業
     (4)科学技術に関するマーケットリサーチ及び情報の調査
        提供業など