年間特集 大学発ベンチャーとIPO
第4回 大学発ベンチャーの内部管理体制
〜IPO後を睨んでのポイントは〜
IPO(株式公開)を考える企業は、まず最初に、売上、利益、純資産などの財務数値や、成長力、競争力など自社の魅力をどう高めるかに敏感であることが多い。もちろんこのような条件は、公開の数値基準を満たすため、また市場で投資魅力を訴えるために、重要な要素となっている。ただ、公開企業には「株主から投資された資金を、法令や規則を遵守しながら最も有効な形で活用し、株主への利益還元を最大化する」という基本原則が求められ、それを無視しては公開基準も投資価値も、意味を持たなくなってしまう。そこで、公開企業の基本原則に深くかかわる「内部管理体制」について、ポイントや大学発ベンチャーが注意すべき点についてまとめた。
(1)内部管理体制とは
内部管理体制とは、内部統制体制、社内管理体制などとも呼ばれ、企業の組織・仕組みが、社内外の不正・事故を未然に防止し、法令・規則に準拠して効率の良い業務遂行を行うことで株主利益を最大化し、さらに適切な財務内容を株主に適時開示できる企業の仕組みを指す。「株主利益の保護」、そのための重要手段のひとつである「情報開示」がポイントとみることができよう。
内部管理体制は、大きく分けて2つの観点から考えることができる。
第1は、経営管理の観点で、組織的な企業経営と利益管理による「株主利益の充実」という「攻め」を担う側面と考えることができる。主な項目は職務権限、利益管理、業務管理、関連会社管理などで、 |
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という流れで、企業経営の継続性と収益力の持続の基礎を作る。また、利益計画の進捗状況(予実管理)を短期間に把握、分析することがタイムリーな情報開示体制につながるという点からは、IPO後に求められる四半期ごとの業績開示、適時開示の基礎ともなる。 |
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という流れを踏んで、不正や株主利益を損なう非効率を是正して、企業発展を支える。
第1、第2の観点は互いに深く関連しており、また「攻め」と「守り」という企業経営の両輪でもある。これらを実際に運用するため、その手続きを定めた「内部管理規程」と呼ばれる規程類を策定し、取締役会、経営会議、稟議制度など組織的な意思決定プロセスに基づき、各部門がそれぞれの業務を規程に即して管理・遂行していくことが求められる。 |
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(2)大学発ベンチャーの内部管理体制−「自己取引、少人数、研究開発費」に注意
大学発ベンチャーがIPOを目指して内部管理体制を整備するとき、その内容、プロセス、運用方法、公開審査で求められる水準などは、一般企業と全く変わらない。ただ、大学発ベンチャーのような小規模、研究開発型企業には、いくつか特有のポイントもあると考えられる。ある公認会計士は、「注意点をあげるなら、自己取引、少人数であるための管理面の弱さ、研究開発費の把握、の3つではないか」という。
「自己取引」とは、経営者が会社と取引をすることで本来株主に帰属する利益であるものが経営者個人に流出する可能性があるということを指し、組織的経営に関する課題といえる(*1)。大学発ベンチャーは、研究者が保有する知的財産をもとに起業する例も多く、研究者が経営者を兼任した場合、研究者個人保有の知財に対し企業がロイヤリティ等を支払うと、経営者と会社の自己取引となる場合がある。前回(『ベンチャー開援隊2005年3月号』)で取り上げたように、証券取引所からは「自己取引はできるだけ早期に解消して欲しい」という意見が提示されている。公認会計士も
「自己取引については最近一段と厳しい見方をするようになりました。また、企業収益の維持という点からも、ロイヤリティという形で長期間にわたり企業から利益が流出することは不安要素です。公開前に企業が知財を買い取ってしまうことが望ましいと思われますし、その際の適正な算定根拠、情報開示も重要です」
と言う。
「少人数での管理」も組織面での課題であり、@管理業務への意識が低下するA内部牽制が働きにくいBミスが発生しやすいC情報漏えい等が発生しやすい、などの問題につながる。典型的な例に、@起票と入出金を同一人物が担当して不正支出が行なわれるA請求書など裏づけ文書の確認をせずに払込みを行なって資金繰り計画が狂うB管理不足で重要情報流出や高価な機器の紛失が起こる、などがあるという。ただ、ベンチャー企業であるだけに、すぐに人員増強することは難しい場合も多い。こうした現実に対しては次のような意見が参考となろう。
「例えば、起票担当者と出金担当者を分けることが難しくても、別の担当者がそれをチェックする体制を作るなどして、相互牽制が働くようにするなどの工夫を取り入れることでまずは対応していく方法があります」
「内部監査の充実も有効です。内部監査は、公認会計士や監査法人が行なう監査とは別のもので、適切な企業運営、資産保全、不正防止、事業の効率性向上などを推進して企業成長を図るものです。大企業なら専門組織が必要ですが、小規模企業なら、経営企画室などに担当者を置き、監査計画を立て、毎月順番に各部署をチェックすることから始めても良いと思います。もちろん、担当者の所属部署は別の担当者が監査を行なって相互牽制します」(いずれも公認会計士)
ただ、こうした工夫を行なってもなお、管理部門にはある程度の人員を割くべきではないか、という意見もある。
「管理部門の責任者1名、他はアウトソース、ということも、現実には可能です。ただ、社内で管理業務が完結する場合に比べ、情報収集や分析に時間がかかります。適時開示が求められる現在、IPOまでに最低でも2〜3人の管理部門要員は欲しいところです」(公認会計士) |
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「研究開発費」は、会計管理面での課題と考えられる。研究開発型企業は研究開発費の比率が大きいだけに、それをどのように把握、処理するかにより、経営計画や原価計算も変わってくる。
「特に人件費について、研究開発部分とそれ以外を別に把握するシステムを持つと良いと思います。人件費の適正部分を研究開発費と認識することで、経費や減価償却費も含めた研究開発コスト全体の把握ができ、今後の計画立案に役立ちます。また、研究開発型企業として会計面でも特徴を打ち出すことができます。場合によっては、原価低減につながることもあります」
「毎日、個人の勤務時間を『研究開発○○時間、製造○○時間』等に分類して記録し、時間を基準に人件費に関する研究開発コストを集計する仕組みを実行していただきたいと思います。また、複数の開発プロジェクトに関わっている場合は、プロジェクトごとに集計・管理すると、プロジェクト別の採算なども分析でき、管理にも役立ちます」(いずれも公認会計士)
(3)公開審査上も重要性高い
公開審査では、原則として内部管理体制が整備され、さらに1年以上の運用実績が求められる。内部管理体制は、整備、運用に時間がかかることから、IPOに向けて比較的早い段階から準備を始める重要事項と考える必要がある。また、内部管理体制はIPOをする、しないにかかわらず、継続的な企業経営と収益力維持の基盤となるものでもあるため、規程類の書式を整備して終るという形式的な問題では、決してない。しかも、企業の発展段階、規模、業態の変化に応じて最適な内容も変わるため、常に現実の業務や経営、法令改正等と照らし合わせて変更・改正・追加・削除が行われる「生き物」でもある(*2)。
内部管理体制について、会社設立後の早い段階から意識を持っておくことは、企業運営の基盤強化という面からも、スムーズなIPOという面からも、意義深いことといえるだろう。
さらに、内部管理体制は、IPO後に求められる四半期開示などの情報開示のタイミング、分析内容や、投資家に提示する中長期的な経営計画の内容にまで影響を与えるだけに、自社の特性を織り込んだ体制整備を行なっていくという姿勢も重要だと考えられる。
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(注)
*1:自己取引については、商法上は取締役会の承認があれば可能だが(商法265条)、公開審査では、原則として認めない、という厳格な姿勢がとられるようになっている。
*2:内部管理体制に関係する主要な法令には、商法、株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律(監査特例法)、証券取引法、労働基準法、財務諸表等規則などがある。先の規程例と関係の深い主な法令として次のようなものがあげられる。
定款に関連するもの−商法166〜168条ノ2、187条、342条〜350条
株主総会に関連するもの−商法230条ノ10〜252条(株主総会関係)
取締役会に関連するもの−商法254条〜272条(取締役・取締役会関係)
監査役に関連するもの−商法273条〜280条、監査特例法
インサイダー取引に関連するもの−証券取引法166条、167条、証券取引法施行令
28条、28条の2、29条、29条の2、30条
就業規則に関連するもの−労働基準法
経理、原価計算関連に関連するもの−財務諸表等規則
(参考サイト)
IPO関連用語集
http://dndi.jp/cooperation/trif.co.jp/approach/yougo.html
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