第2回 市バスに乗ったホームズたち



猛暑の8月3日、山形県鶴岡市にお伺いしてきました。山形の夏といえば「冷やしシャンプー」(注1)ということで、早速、鶴岡駅前の床屋で旅先での散髪を兼ねて試してまいりました。

リクライニングチェアに仰向けに寝て、専用シャンプーを頭皮に塗りマッサージを加えながら丁寧にゴシゴシと洗い絶妙な温度の冷水で流します。ダブルを頼みましたので二度繰り返すのですが、洗った後のスースー感が持続して、おもわずいいですねと感嘆の声を上げてしまいました。
さっぱりした後、駅前商店街を散策していると、市内を流れる赤川の支流にぶつかりました。

「おや?」僕はそこであるものを見つけました。

「ワトソンくん、これがなにか分かるかね?」
脳内でホームズは傍らにいた医者であり友人の助手に尋ねた。


「ホームズ、大変だ!これはご婦人のヒールだ」
「そうみたいだね。ワトソンくん、綺麗なこの街でずっと放置されていたはずがない。多分、最近脱ぎ捨てられたものだろう」
「まさかヒールを脱いで身を投げたわけじゃないだろうね。ホームズ、僕たちはこの後約束があるので地元警察で事情聴取なんて困るよ」
「ワトソンくん、正義感旺盛な君らしくもない、そうは言っても僕としては事件なら放っては置けないよ。ちょっと河を覗いてみたまえ」

「ホームズ、遺体らしきものはないね。この緩やかな流れだと、もしここから身投げをしたとしても、そんなに流されないと思う。さて彼女はどこに行ったのだろう。それとも近くのスポーツシューズ店でナイキの新作を買ったので、履いていたヒールを脱ぎ捨てたのだろうか。そうなると不法投棄だね」
助手のワトソンが呟いていると、視界に入ったものを見て、同じく脳内でホームズが叫んだ。


「ワトソンくん、あの鳥はなんだろう。鶴岡と言っても鶴ではないだろうが」
「ホームズ、あれは、鷺だ。詐欺じゃなくサギ、白鷺、青鷺と鷺にも種類があるんだ。東京都中野区の鷺宮でよく見かけたことがある。あのへんにはコロニーと呼ばれる鷺の巣があるんだよ。オレオレ詐欺の巣もあったそうなんだが」
「ワトソンくん、なるほど。鷺か。ひょっとしてあの鷺がヒールを履いて、どこか行ったんだろうか」
ワトソンは何か閃いたのかニヤリとしながら語った。
「ホームズ、鷺が恋をし人間になって殿方に会いに行ったんだよ。そして、何らかの別れがあったか目的を達成したのかどっちかだが、ヒールを脱ぎ、鷺の姿に戻ったのだろう。この後殿方が駆けつけて、鷺のヒールを胸に抱き泣き崩れるシーンが想像されるが、僕らがここにいると殿方がヒールを発見できないので、あの鷺は僕らに早くどけと言っているんだと思う」
「ワトソンくん、君らしく無いこと言うね、今日はどうしたんだい。この暑さで頭がうつらうつらしているのかい。そうそう、バスが来たよ。さて、君が言うのが正しいならば事件も解決して丁度よい良い時間になってきたのでバスに乗って目的地まで行こうじゃないか」
「恋といえばホームズ、アイリーン・アドラー女史(注)は元気だろうか、待ってくれ、僕も乗るよ、置いていくなよ。ホームズ!」

その後バスに乗り鶴岡高専に取材でお伺いしました。
僕らはケアマネージャさんや介護関係の方にITを活用した介護サービスや製品を紹介するケアタイムズ新聞(http://caretimes.jp) というメディアを運営しています。先日、DNDiの出口さんに編集長に就任頂き、介護業界で頑張っている方々を紹介する街の応援団を目指しています。
シャーロック・ホームズ作中では事件を本にして世に紹介したのはワトソンということになっています。ケアタイムズ新聞はホームズのそばで活躍を綴るワトソンみたいになりたいと考えています。
さて、シャーロック・ホームズファンのことはシャーロキアン、サザエさんファンはイソニアン、スター・トレックファンはトレッキー、ラーメン二郎ファンはジロリアンと言いますが、「冷やしシャンプー」ファンのことはなんて言うかご存知でしょうか。
山形県・冷やしシャンプー推進協議会のページによると、「ひやしびと」だそうです。映画「おくりびと」からの由来みたいですが、是非とも皆さんもこの夏休み中に山形県に行って体験してきてはいかがでしょうか。夏も吹っ飛びます。いやーホントです!
-- 純楽


前回連載で告げた第二回タイトルは「都バスに乗ったシャーロック・ホームズ」でしたが、予定が変わりバスが市バスになってしまいました。
鶴岡高専、佐藤淳教授の取材記事になりますが、ご一読頂ければ嬉しいです。
http://caretimes.jp/blog/20150804tsuruoka
次回のタイトルは「ラジオの時間」です。


工藤純平(くどうじゅんぺい) 青森県八戸生まれ、人体の活動量で優しく見守りをするフリックケアというサービスを提供しています。(http://flickcare.com
)


注釈 (注)アイリーン・アドラーはホームズが好意的に思っていた唯一の女性



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