第7回「ゲーム・チェンジャーとしてのインターネット」


1.東日本大震災後のできごと
 東日本大震災の被災後、甚大な被害を受けた企業、特に中小企業は、事業復興のための資金ニーズが高まる反面、債務超過に陥り、資金調達に苦慮していた。このような中、ミュージックセキュリティーズ(株)は、少額投資プラットフォーム「セキュリテ被災地応援ファンド」を創設し、被災企業の資金調達の支援を行い、注目を集めている。
 そもそも、ミュージックセキュリティーズ(株)は、才能あるミュージシャンを世に送り出す「音楽ファンド」であった。近年、そのノウハウを活用して地域事業者と協同してファンドを形成するマイクロ投資ファンドを展開し始めた矢先に、東日本大震災が起こったのだ。
具体的な被災地支援の方法はこうだ。まず、全国の個人から一口10,500円を集め、500円の手数料を除いた10,000円のうち半分が出資金に、半分が寄付に使われる。事業者にとっては、資金が調達できるだけでなく、その出資者が生産した商品やサービスを継続的に購入してくれるかもしれない。また出資者は、ファンド運営期間中、商品の提供や工場見学会など出資先企業が提供する特典を受けたり、日々のインターネットによる報告を通じて、企業の復興を見守ることができる。
さらに、ミュージックセキュリティーズ(株)のこだわりは、複数社まとめてではなく、個社ごとにファンドを組成することにある。そのことにより出資金が何に使われたのか明確になるからである。


2.クラウドファンディングとは
 上述のミュージックセキュリティーズ(株)は、「クラウドファンディング」の一種である。ちなみに、「クラウドファンディング」(Crowd Funding)は、群衆(Crowd)と資金調達(Funding)を組み合あせた造語で、新型の資金調達の一種で、企業や個人がインターネットを通じて不特定多数の投資家から小口の資金を集める手法のことを言う。平たく言えば、社会貢献やモノづくりなどのアイディアを示し、共感した人からインターネットを通じて少しづつ資金を集めるファンドのことである。
その形態は、大きく3つに分けられる。まず、事業が成功すれば配当などの金銭の見返りが期待できるのが「投資型」である。これは、一般の株式投資と比較して、少額であっても気軽に投資できる。
 また、資金の提供者が一切の見返りを求めないのが「寄付型」である。これも、インターネットを使って気軽に寄付ができることが、普通の寄付との違いである。なお、「寄付型」で有名なのは、一般財団法人ジャパン・ギビングである。ここの特徴は「寄付をする人」ではなく「寄付を集める人」(ファンドレンザー)をインターネット上で募ることにある。具体的には、寄付を集めると決めた人は専用の寄付サイトを開設し、ハードルの高い取り組みに挑戦し、その挑戦に共感してくれる人から寄付を募る仕組みだ。京都大学の山中伸弥教授は、このジャパン・ギビングを使って、2012年3月の京都マラソンに参加し、自身が完走することを「チャレンジ」として、京都大学iPS研究基金への寄付を募った。その結果、1か月で850人以上のサポーターから1,000万円以上の寄付を集めている。
 最後の一つが「購入型」である。金銭以外のモノやサービスの見返り、例えば、商品の提供やイベントへの参加が付与される投資である。単なるインターネット通販ではなく、作り手の思いや途中の工程に触れることができ、東日本大震災後、続々と登場している。被災した会社が工場復旧の資金を募り、再建後に生産した商品を送ると言った事例も多い。


3.なぜクラウドファンディングが生まれたのか
 既にお気づきだと思うが、インターネットがなかったら「クラウドファンディング」は誕生しなかったであろう。例えば、インターネット決済は、わざわざ申し込み先に出向いたり、現金書留で送ることなく、気軽に投資や寄付などができる。さらに、手数料がゼロのケースも多く、短時間で対応できるようになったため、まさに「早い、安い」を地で行くようになっている。
 また、インターネットにより、寄付や投資の効果がビビッドに見られるようになった。具体的には、インターネットで、日々の状況を静止画、動画で確認でき、自分の寄付や投資がどのように役立っているかを自分の目で確認できるようになったのである。
 さらに、現在の精神的な飢餓の充足につながっている。自分が本当に世の中に役に立っているのか分かりづらくなっている今、自分が少しでも世の中の役に立ちたいという気持ちを持つ人が増えている。「クラウドファンディング」は、その飢餓を充足するツールの一つとなりつつある。


4.インターネットを活用した更なる展開
 インターネットは、「クラウドファンディング」だけでなく、数多くのビジネスを生み、それらが今までの産業構造を大きく変えている。例えば、金融関係では、フィンテックの誕生が挙げられる。フィンテックは、金融(ファイナンス)と技術(テクノロジー)を組み合わせた米国発の造語であり、金融とITを融合したサービスを言う。インターネットに加え、IoT、ビックデータ、人工知能などのイノベーションの進展が、フィンテックを生み、それが従来の金融サービス自体も変え、金融機関のビジネスモデルも根底から崩そうとしているのである。それに伴い、インターネット決済やインターネット貸出などを中心に新しく開発したソフトウェアをツールに用いた様々なベンチャー企業が生まれつつある。
 今までの金融業界は、銀行を中心とした、ほぼ成熟した業界であり、新規参入がほとんどなかった。しかし、最近、米国では、決済サービスなどを行うPayPalなど異業種からの参入が増えている。加えて、アリババ集団は「支付宝(アリペイ)」という決済サービス企業を創設しているし、AppleやGoogleも決済サービス事業に参入しており、より競争が激化している。さらに、従来の一つの業にとどまるサービスではなく、複数の業に関係する横断的なサービスを提供するところに最近の特徴がある。
 他方、インターネットの影響は金融だけではなく、サービス産業全体に及んでいる。例えば、自家用車の空いた時間にタクシーのように客を運ぶサービスを仲介するウーバーテクノロジーズや、自宅の空き部屋を貸したい人と旅行者を仲介するAirbnb(エア・ビー・アンド・ビー)などが有名である。
 日本でも、このような新たなサービスの萌芽が芽生えているが、既存の古い法律が横たわっており、十分対応できていない状態にある。インターネットによるサービス産業への変革が、新しい産業を生むとの期待が持たれている中、今後、金融などの既存の業種とITとを融合した新たなサービス産業に柔軟に対応できる業種横断的な制度の構築が望まれている。


5.製造業のインターネットの活用 - クラウドソーシング
 インターネットのインパクトはサービス産業にとどまらず、製造業にも及んでいる。その一例が「クラウドソーシング」である。ちなみに、「クラウドソーシング」(crowd sourcing)は、群衆(crowd)と業務委託(sourcing)を組み合わせた造語で、特定の人々に業務を委託するアウトソーシングと違い、不特定多数の人々に業務を委託するシステムのことを言う。発注者(クライアント)がインターネット上で受注者を公募して仕事を発注することができるサービスである。インターネットを活用するため、固定費ゼロで仕事を依頼できるだけでなく、スピーティに業務を委託できるという利点がある。
 製造業の「クラウドソーシング」の活用例としては、独自のハードウェアを軸にサービスを展開するハードウェアベンチャーへの支援が挙げられる。今まで、ハードウェアベンチャーは研究開発で成果をあげても、「試作」、「資金調達」、「量産化」という関門があって、なかなか製品化できなかった。しかし「試作」については3Dプリンターの普及によりハードウェアベンチャーでも可能になり、「資金調達」も前述の「クラウドファンディング」で比較的容易になった。さらに残った「量産化」の対応も、この「クラウドソーシング」の出現によって解決に向かっているのである。
 現在、日本経済は労働人口の減少に直面している。「クラウドソーシング」は企業組織の外側にある埋もれがちな労働力をインターネットで掘り起こし、人的なリソースが不足する職場に多様な労働力を供給する役割もある。その潤滑油となる「クラウドソーシング」運営会社は日本の労働市場に変革をもたらす存在になるかもしれない。 < /p>

6.ゲーム・チェンジャーとしてのインターネット
 インターネットは、「投資」、「寄付」の手続きを簡素化し、一般国民でも簡単に「投資」や「寄付」ができるようになった。
同時に、企業の「資金調達」も容易になった。その結果、ハードウェアベンチャーなど、「規模の経済」や「範囲の経済」を持っていない中小・ベンチャー企業でも、世界市場に製品・サービスを提供できるようになった。
極論すると、たとえ一人だけでもアイディアさえあれば、その商品化を可能とする社会になりつつあるということである。

インターネットはビジネスの大きな転換を促すゲーム・チェンジャーの役割を果たし始めた。この大きなうねりを、中小・ベンチャー企業の時代の幕開けと見るのは私だけだろうか。 < /p>



BACK