第9回 イノベーション学概論1



読者の皆様、大変ご無沙汰して申し訳ありません。たまたま誕生日メッセージを送ってくださった友人が、DNDの筆者のコラムを見ておられて、さぼっていることへの穏やかなクレームがありましたので言い訳をかねて小文を送ります。


 今月の「JREAST」という広報誌の巻頭に、私の文章を掲載していただきました。内容は、DND第4回を進化させた「蓄電池イノベーションで日本を救う」です。DNDに寄稿してからもいろいろな議論の機会があり、ミクロでは蓄電池イノベーションに一番の興味がわいてきました。これこそ日本、そして世界を救う基盤技術ではないかと。さらに、B787の蓄電池絡みの事故があって、これを確信しました。B787の話はまだまだ湯気が立っているので、雑誌やDNDにはお寄せできませんが、ご興味あれば直接コンタクトしてください。


 さて、なぜ蓄電池イノベーション(も)重要なのか。非常に簡単にいうと、@これからはますます情報制御・通信技術が発達して、様々なデータがクラウドコンピューティングによりネットワークされて処理されるAそれに対応して、様々なセンサーを有するデバイスが生活のあちこちに賦存していくBそれらを統合的に処理し、より良いサービスを提供するには、膨大なデータを省エネで処理できるスーパーコンピューター技術と、それを支える効率的電力基盤、つまり蓄電システムが必要となる、ということです。簡単でしょう?



 

 イノベーションは新組合せ(ノイエ・コンビナチオン)なので、これらのITとエネルギー技術基盤と新ビジネスモデルがあれば様々な展開が期待できます。より大きな期待を持てるのは、ヘルスケアサービスです。筆者もかつて担当していましたが、サービス産業、特にヘルスケアサービスは、最先端の技術を適用しているのにもかかわらず、最も労働集約型で、結果的にイノベーションの成果が見えにくい産業の一つです。しかし、最先端のITとそれを支えるエネルギーシステムを適切に用いることにより、例えば健康データや安否データの適時適切な提供・情報処理により、へき地や震災被災地の老人のヘルスケアサービスや、これまで非効率的であるとされた地域医療の高度、効率的整備が可能となるのです。他人ごとではない都会の孤老の問題も、コストを抑制しつつ対処できます。


 モビリティの分野では、自動車に積んだセンサーは、単に走行情報だけでなく、交通や道路インフラの状況、災害時の情報などを自動的に提供できるようになり、災害時や高齢者の運転にも役立つことが期待されます。


 筆者らは、これらを「スマート・ヘルスサポート・イノベーション」と名付け、そのための研究開発とイノベーション創成への仕組みを検討しています。たまたま早稲田大学には、蓄電デバイスと省電力コンピューティングの世界的な研究者たちがおられるので、こうしたことをイノベーションにつなげていくのが筆者の使命と心得ております。なるべく多くの研究者や企業に、この議論にご参加いただき、オールジャパン、グローバルなイノベーション創成を目指そうと思います。ご期待ください。(こんなことをしているので、DNDへの寄稿が遅れているという言い訳、でした。)



記事一覧へ