韓国が日本海を東海と改名したい


俯瞰工学研究所の松島克守のメルマガです。第8号を送らせていただきます。


◆このメールマガジンは、松島克守が、東京大学教授、そして(社)俯瞰工学研究所の代表としてこれまでに名刺交換やメール交換をさせて頂いた方々に送らせていただいております。またこのようなMLはメールボックスのご迷惑と感じられる方もあるかと思います。ご遠慮なく不要のお申し出をくださるようお願いします。また、内容等についてもご遠慮なくご意見をいただければ幸いです。


皆様

◆季節のご挨拶◆
8月のはじめ、並木のアカシヤの白い花が木の下一面に散り積り、それを雨が濡らしていました。西田佐知子さんの「アカシヤの雨が止む時」を想い出してしまいました。まだ学生運動に勢いがあった時代、60年安保の敗北感を重ねた暗い唄でしたが、日本はその後、東京オリンピック、大阪万博、GDP世界2位と、今の中国の急成長そのものでした。3.11以降暗い日本をまた明るい軌道に乗せたいですね。

いよいよ真夏日に甲子園と電力消費のピークになりますが、これを超えて9月になれば政局も一新されて、エネルギー問題を始め、日本新生に関して前向きな議論が展開されることを期待します。


◆吉本隆明の久々の新聞登場◆
日本経済新聞の8月5日朝刊の最後のページに、吉本隆明のインタビュー記事を見つけて、懐かしく読みました。詩人ですが、アカシヤの雨の時代、あの東大紛争の時代のカリスマ的思想家でした。と言うより「吉本ばなな」の父親の方が分かり易いかもしれませんね。

全部は引用できませんが、その中で、云っている事はすごく率直で建設的です。原発に関する発言はやや意外でした。

「あのころの東京は、人々も町中の印象も、どこか明るくて単純だった。戦争で気分が高揚していたせいもあったろうが、空襲で町がやられた後でも、皆が慌ただしく動き回っていた。」
「労働力、技術力をうまく組織化することが鍵を握る。規模の拡大だけを追求せず、小さな形で緻密に組織化された産業の復興をめざすべきだ。疲れずに能率よく働くシステムをどうつくっていくか、が問われるだろう。」
「この震災を、発想転換のまたとない機会ととらえれば、希望はある」
「原発をやめる、という選択は考えられない。原子力の問題は、原理的には人間の皮膚や硬い物質を透過する放射線を産業利用するまでに科学が発達を遂げてしまった、という点にある。しかし、発達してしまった科学を、後戻りさせるという選択はあり得ない。それは、人類をやめろ、というのと同じです。」

「日本経済新聞 吉本隆明」で検索すると色々な反応が見られます。


◆川が海風を運んでくれる◆
最近、埼玉の友人と会ったとき、「東京は海風があって涼しい!」という言葉を聞いてはっとこの風は海風なんだと、初めて自覚しました。仕事でよく品川に行きますが品川駅のコリドーを吹き抜けていく風は海風だと思うと少し涼しさが増します。ビルが視覚を遮っていますがすぐそばは海です。そして、二子玉川のクリエイティブシティープロジェクトのセミナーで、ランドスケープデザイナーの話を聞きました。多摩川、目黒川、神田川、荒川と東京はいくつもの川が海に注ぐ地勢であることを再認識しました。そして川は海風を運んでくることも判りました。目黒川沿いに住んでいて、いつも好い風が吹いているなと思っていましたが、目黒川が海風の通り道になっているのです。特に目黒川の右岸は崖線で地形の高低差があり、左岸は山手通り沿いに背が高いマンションが長い壁を構成しています。考えれば、目黒川は大きなU字型の風の道になっています。

豊島区の話も興味深かったですね。豊島区は流れる川を全て暗渠にしたため、23区で唯一川のない区だそうです。従って、今度新築する豊島区役所には屋上から下まで流れる小川を作り、川辺の楽しさを区民に味わってもらうという事でした。無秩序にビルが乱立する街でなく、海風の流れを効果的に利用した街にしたいですね。これから都市開発を計画される街では風の流れのデザインが重要だと思います。


◆韓国が日本海を東海と改名したい◆
8月9日の産経ニュースによると、
【ワシントン=犬塚陽介】米国務省のトナー副報道官は8日、韓国政府が「日本海」の名称を「東海」とするよう主張していることについて「日本海」が国際的に認知された表記だ、と言明、韓国側の主張を支持しない考えを示した。

この問題は隣国の韓国との厄介な問題ですが、余りにも政府、国民の関心が希薄なのであえて少し述べましょう。

韓国は竹島を独島と改名し、また先日は、大韓航空機を竹島上空に飛来させ、話題になりましたが、基本的に日本の政局の混乱で生じた外交不在が突かれている問題と感じるべきです。あまり知られていませんが、1996年に米国の米地名委員会(BGN)が竹島を帰属不明(undesignated sovereignly)としたことに対して、韓国が猛烈なロビー活動を展開してブッシュ政権末期の、2008年8月1日ブッシュ大統領の韓国訪問を機に、韓国領と修正させた経緯があります。この韓国のロビー活動は従軍慰安婦問題でも、米国上院に非難決議をさせることに成功しています。これには単純な仕掛けがあります。これに続いて韓国はロビー活動でなんと「日本海」を「東海」と改名するよう米国に求めました。さすがに米国もこれは受け入れずに今回の国務省の発表になったのです。そして日本の外交不在は、北方領土に韓国国会議員が上陸するほどの事態を生んでいます。

国内に矛盾があるとき、尖鋭な国際問題によって国民の関心をそこにそらすのは古典的な政治手法で、現在でも盛んです。中国の尖閣列島、南シナ海の高圧的な行動もそれに近い気がします。危険な火遊びで地域の安定が失われるのは双方に大きな損害を与えます。アジア、取分け東アジアの安定は日本の究極的な戦略目標です。

これだけ国内に問題があり混乱している日本がこの手法を使わないのは、……成熟した大人の政治が行われているのでしょうか。

http://sankei.jp.msn.com/world/news/110809/kor11080922550003-n1.htm
http://www.47news.jp/CN/200807/CN2008072801000234.html
http://www.koreatimes.co.kr/www/news/opinon/2011/04/266_41011.html


◆東北被災地に行く学生ボランティアの支援を◆
前回ご紹介した下記のプログラムですが、声をかけた3社からご参加いただきました。東北の被災地にボランティアで行きたい人は多いのですが、情報がない、ということで有料ツアーがありますが、学生にアルバイトしてこのツアー費用を稼いでからとは言えませんね。

支援する企業、ボランティアに行く人、下記のURLからお願いします。松島研究室のOBの石田祐樹さんが推進しています。投資銀行の5年の経験を踏まえ、手がけたソウシャルビジネスです。

http://ima-dekirukoto.jp/index.htm


◆本郷の俯瞰経営塾は終わりました◆
「俯瞰経営塾」を5月12日から本郷で開講していた事は報告しましたが、7月21日で終了しました。23日に打ち上げのBBQを大学のBBQデッキでやりました。これは正統BBQのレッスンです。以前研究室でBBQをやろうと言って、学生に任して現場に行ってみるとなんと“焼肉パーティー”になっていました。きちっとしたBBQをやったことがなかったのでしょう。其れからはBBQのやり方もきちっと指導することにしました。買い出し部隊が秋葉原のハナマサに集合して買い出しです。AZビーフのサーロインを一塊、約6.5キロ、約7000円。これは切るのが大変ですので店のスライサーで切ってもらいました。学生は、えっ!ステーキですか?野菜はそのまま焼けるもの、ネギ、トウモロコシ。ナス、ソラマメ、玉ねぎなど、ともかく洗わず、皮をむかずそのまま焼いていく。焼けたら焦げた皮をむき食べる。ネギが絶品です。切ったりするとそこからおいしい野菜のジュースが出て、繊維だけになってしまい美味しくないですから。これが松島流BBQの極意です。ですから手間は掛りません。ハナマサでは炭もワインもワンストップで買えます。

問題は、毎年ですが、火がおこせない!全くゼロから火をおこした経験が全員ないのです。燃焼の理科的知識もありません。まるで小学生に教えるように火付け材、炭の組み方、等々を教えることに成りました。

私は田舎育ちで、中学生のころは薪割りと風呂焚きが担当でしたから自然に覚えましたが、今の人はその機会がありませんので火がおこせない。やはり小中でサバイバル教育が必要ですね。今回のような災害では電気もガスもなく、家族やコミュニティーの食事を、火を焚いて作る必要があります。ちなみに私が難なく薪ストーブに火をつけた時、家内から驚かれ再評価されました。以上顛末をご報告。


◆時代と同期する情報装備7◆
前回お伝えした、3つのトラブルプロジェクトの内、マランツのネットプレーヤでNASのフォルダーが見えない問題を解決しました。

NASのマニュアルをネットでpdfファイルを入手して、200ページ以上ある解説を始めから読みながらNASの設定をやり直し。念のためNASをパソコンと同じルーターにセットして。結果、パソコンからNASのホルダーが完全に見えて、中の音源は再生出来た!

次にネットプレーヤから試行するがNASは見えても中が見えない!マランツのマニュアルを見るが所詮ペラペラのマニュアルで解読する情報がない。これが日本製の特徴というか問題ですね。インターネットラジオは問題なく再生出来るので、ネットプレーヤ自体は問題ないはず。

ところでインターネットラジオは凄いですね。世界中の放送が聞けます。当たり前ですが全くノイズ無し、です。少年のころ短波放送で雑音の中ら海外の放送局を聞き出し、はがきを出して受信カードを集めた世代としては感無量です。

さて如何しようと思案しましたが、今日は絶対解決するぞ、と「決心」すると急に頭が回りだしました。ネットプレーヤはパソコンではないのです!パソコンは外部HDDとしてNASを認識しますから中のフォルダーもファイルも問題なくアクセスできますが、パソコンでないネットプレーヤは外部HDDを直接はアクセスできないことに気付くまで暫し。

そしてそのNASには映像や音楽を配信する内部サーバのソフトが予めインストールされているのを発見!後はNAS内部のHDDのフォルダーを内部サーバに連携させればOKでした。大変お騒がせしました。iphoneのアプリもありiphoneからも操作できます。

まだ結論を出すのは早いですが、PCオーディオに興味ある方で、パソコンが使える人はネットプレーヤよりもパソコンでネットオーディオをしたほうが良い様に思います。残りのプロジェクトもこの夏休みで解決することを「決心」しました。次回はデジタル書斎の作り方にしましょうか。


◆書評◆
今月のご紹介は、「バレンボエム音楽論―対話と共存のフーガ」
ダニエル・バレンボエム著 蓑田洋子訳 アルテスパブリッシング 2008

この本は天才ピアニストであり指揮者であるダニエル・バレンボエムの著書です。音楽について語るのではなく、音楽が、人の心を清め、知性を磨く力がある事を基底の認識にして、イスラエルとパレスチナの平和的で共存共栄の解決を一日も早く実現したいという崇高な志を熱く訴えている本です。彼ができることとして、音楽を通じてこの目標に全知全脳をつぎ込んでいる活動について語っています。翻訳ではありますが、読んでいると直接彼から話を聞いているかの感覚になるのは、音楽家としての見識だけでなく、彼が持つ、ギリシャ哲学とドイツ哲学の教養の高さ、そして文章としての語り掛けのうまさだと思います。一読をお勧めします。

2部構成で、第1部が本体です。第2部はインタビューや講演録ですがこれもバレンボエムの生の姿を感じさせます。

実はこの本は暫らく書斎で積読状態でしたがいつも気になっていた一冊でした。休暇に入るに当たり、意を決し手に取り、4時間で一気に精読モードで読みました。内容にそうさせる力があります。バレンボエムと初めて出会ったのは1980年のベルリンです。彼のリサイタルがベルリンフィルハーモニーハウスであり、午前3時に音楽大学の学生たちの列に混じりチケットを買いました。確か一番安い、オーケストラの舞台の裏の窪みの席でした。音楽大学の学生達は安いと同時に、バレンボエムの手の動きが見えるという事でこの席を選んだようです。彼は本の中で、リストの言葉を例に引きながら、ピアノ演奏には10本の独立した指が一つのユニットである事が必須で、右手でメロディー、左手で伴奏ではないと断言しています。

そして確か演目はベートーベンのピアノソナタでした。それから時々来日してNHK交響楽団を指揮するのをTVでみる度に、ベルリンのリサイタルを思い出していました。この本を手にするまで時間が掛ったのはベルリンの演奏を全く理解というか、感じ取る事が出来なかった経験からかもしれません。

当時私は西ドイツのアレキサンダー・フンボルト財団の奨学金でベルリン工大の研究員として西ベルリンに滞在していました。時間的余裕が有りましたので、しばしばベルリンフィル、ドイツオペラ、時には東ドイツのベルリン国立歌劇場などに足を運んでいました。カール・ベーム、カラヤン、小沢、ズービン・メータ、東ベルリンではオトマール・スウィトナーとベルリンならではの贅沢な音楽生活を送り、これがクラシック音楽を聞く始まりになりました。

話を戻しますと、本の構成は、プレリュードに始まり、フィナーレで終わる7部構成の組曲を連想させる構成です。まずプレリュードに「本書は音楽家のための本でもなく、音楽家でない人のための本でもなく、音楽と人生の間の相似を、そして考える耳には聞き取れるようになる知恵を見つけ出したいと願う、好奇心に満ちた人のための本である」とあります。そして彼からの基底のメッセージは「他者の自由と個としての存在を受容すること、これは音楽のもっとも重要な教えの一つである」でしょう。さらに音楽に関するメッセージを紹介すると、「音楽は人生を映す鏡である。どちらも無から始まり無に終わる」、「聴く力を導き育てることは、個々の人の発達にとってだけでなく社会がひいては国政がうまく機能するためにも、私たちの想像をはるか超える重要性を持つ」、「音楽には言葉を超える力がある」、「視覚よりも聴覚のほうが強力である」、「音楽を聴くことは本を読むこととは異なる」、「聞くだけではなく聴くことも必要である」。

しかし、この本の主題はイスラエルとパレスチナの共存共栄という平和の追求です。「イスラエルとパレスチナの語り―、両者による彼ら自身の歴史の絶えざる見直しと書き換え―、はフーガの主題と対主題同様、絶え間なく相互に関連し合う関係にある」と述べ、そして「もしイスラエルが中東に永続的な居場所を得たいと思うなら、イスラエルは中東にしっかりと溶け込むことが必要である」さらに「他民族に対する占領と支配は、はたして独立宣言の趣旨にかなうのでしょうか?基本的権利を犠牲にて成り立つ民族独立に何らかの正当性はあるのでしょうか?」と政治を詰問しています。

ちなみに、バレンボエムはブエノスアイレス生まれの、ユダヤ人のコスモポリタンです。しかし、文化的にはドイツ人でしょう。バッハで育ち、モーツアルトの天才を畏敬し、ベートーベンのピアノソナタの全曲録音を成し遂げ、加えて反ユダヤ主義の鼓舞にヒトラーが活用し、その上ガス室に送る時その曲を流したという事で、イスラエル国内では演奏禁止になっているリヒャルト・ワーグナーを音楽的には非常に高く評価しています。「ワーグナーがいなければブルックナーもシュトラウスも、シェーンベルグもいなかっただろう。それまでに作られた音楽のすべてを要約して頂点まで高め、同時に未来への道筋を示すことが出来る作曲家は一握りしかいないがリヒャルト・ワーグナーはその一人だ。」とまで言っています。バレンボエムはギリシャのスピノザの形而上学に傾倒しながら、カント哲学にも強い影響を受けているようです。指揮者として戦前戦後通じてベルリンフィルハーモニーの音楽監督を務め、ヘルベルト・フォン・カラヤンにその地位を引き継いだフルトヴェングラーをドイツ人らしいドイツ人といい、音楽の構造上の必要性を踏まえた演奏に感銘を受けたと言っています。

長くなりましたが、最後に現在の我々日本人が身に詰まされる本書の中のメッセージを挙げましょう。

「政治的抑圧、あるいはリーダーシップの不在に苦しむ社会で、文化がダイナミックに主導権を取り、人々の集合的意識に働き掛けて、外的状況を変えることは決して珍しくない」、「無知は持続的な生存に適した戦略ではない」、「中庸の道はローマに続かぬ唯一の道である」。


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◆俯瞰 MAIL 0008号(2011年8月12日)
発行元: 一般社団法人 俯瞰工学研究所
発行責任者:松島克守
URL: http://fukan.jp
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※本記事は松島克守氏の許諾を得て、再録したものです。


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