安倍政権の5年間の成果は


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◆時候のご挨拶◆
いよいよ師走です。あっという間の一年です。 この年末年始という時期は、一年を顧みて、そして年初には年間の行動計画を考える、特別な時期です。年初に考えたことができたか、DMG森精機の 先端技術研究センターでAI 人材の育成はできました。来年はさらに磨きをかけて、専門技術者に仕立て上げるつもりです。
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・安倍政権の5年間の成果は
・世界はますます混沌に
・指導者の仮想現実・拡張現実の世界
・人工知能という知識の利活用
・俯瞰のクッキング“料理のプロセス”
・俯瞰の書棚“マッキンゼーが予測する未来”
・俯瞰学のすすめ7“統計地図による俯瞰”
・第50回記念 俯瞰サロン(1月30日開催)
・編集後記
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◆安倍政権の5年間の成果は◆
第二次安倍政権も満5年になりました。私なりに、改めて第2次安倍政権とは何であったか振り返ってみました。

三本の矢で始まったアベノミクスですが、株価は絶好調ですし、企業の業績も最高を記録しています。ということは、アベノミクスは成功だといいたいでしょうが、この間、世界経済は好況が続き、特にアメリカ経済は長期の好景気を継続しています。中国経済も色々リスクを抱えながらも順調に成長を続けています。他のアジア諸国も経済が順調です。従って日本経済の好調もこの世界経済の好況によるもので、輸出と海外からの配当が企業業績を押し上げていますから、アベノミクスの成果とは言えません。しかし、この5年で日本経済は勢いを少し取り戻したことは事実です。異次元の財政緩和と言う第一の矢は、物価上昇の目標を達成していませんが、結果を出したということでしょうか。

規制緩和は、森友学園と加計学園の混乱であまり成果が上がっていません。本来もっと早く規制緩和を進めていかなければならない時に、安倍首相自身のしょうもない要因で成長のチャンスを無駄にしています。テクノロジーの急峻な発達で世界はすっかり変わっています。今からでも遅くありませんから、もっと積極的に規制緩和を進めるべきだと思います。民泊など、前向きな姿勢も見えます。仮想通貨についても比較的前向きなのは、いいと思います。

第三の矢、成長戦略は生産性、働き方改革、子育て支援が目玉になっていますが、これは日本企業を変え、生産性を上げ、経済成長を促すと思います。少子化対策は本来歴代の内閣が 無策で貴重な時間を失いました。積極的な少子化対策は、結果が出ることをヨーロッパの国で証明されています。 ロシアのプーチン大統領も少子化対策は成功させています。

エネルギー政策では原発の再稼働を進めています。安全な原発は、当面は使うしかないと思います。石炭火力と言う、世界的に非常識な代替案は使えませんが、日本はこれに頼っているわけです。官民挙げて高効率石炭火力の輸出を推進して世界から顰蹙を買い、非難されています。

再生エネルギーへの転換は時間がかかりますが、これを進めていく必要があります。意外と国民が認識していないことですが、再生エネルギーの買取で、すでに国民は2兆円の電気料金の追加負担をしています。今のままのスキームで再生エネルギーを推進することは、そろそろ限界でしょう。

安倍首相の悲願である憲法改正はこれから議論が広がるでしょう。しかし、戦争放棄の九条を削除する必要はないと思います。自衛隊を書き加えるという点では、なんとか国民の合意ができるでしょう。これに反対する人も多いと思いますが、思い出すと、サンフランシスコ条約で日本が独立した時、知識人が非武装中立を主張したことを再認識する必要があります。「力の空白」こそが、戦争を引き起こして来たことを再認識すべきです。朝鮮戦争がその典型的な事例です。

中国は圧倒的な経済力と軍事力で、気がつけば南シナ海問題を解決していました。ベトナム、カンボジア、ミャンマーそしてフィリピンなどとは、中国は個別に折り合いをつけました。 アジアにおけるアメリカのプレゼンスが無くなった後を、しっかり中国は埋めました。今や中国は東南アジアに強い影響力を持ちました。

日本も参加を躊躇していた中国の一帯一路に参加を表明して、日中関係の改善の方向に動いています。安倍首相も南シナ問題は封印しています。現実的な対応でしょう。 AIIBも?

結論として第2次安倍政権は、一部を除けばある程度仕事をしてきたと評価してもいいと思います。とにかく代わりの政権が考えられませんから。

景況感5期連続改善 12月短観、大企業製造業プラス25
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO24673930V11C17A2MM0000/
安倍首相の「目標株価」は2万9000円? 在任期間中の伸び率で歴代2位目指すなら
http://www.quick.co.jp/6/article/13312
懸案の少子化対策が一気に前進した真の理由
http://toyokeizai.net/articles/-/200768
少子化対策は「プーチンに学べ」
http://www.huffingtonpost.jp/foresight/putin-birth_a_23308103/
憲法に「自衛隊」明記 論点整理
https://www.fnn-news.com/news/headlines/articles/CONN00379861.html
安倍政権が一転、中国の「一帯一路」支持で動き出す経済界
https://www.businessinsider.jp/post-108346


◆世界はますます混沌に◆
世界はますます混沌とした状況になってきたと思います。 相変わらずアメリカファーストというよりトランプファーストの暴走が止まりません。イェルサレムをイスラエルの首都として認めるという決定は、完全に国際社会の反発を招きました。国連総会でアメリカ非難決議に対する反対は、わずか9票です。アメリカの経済援助に頼らざるを得ない国は、アメリカの恫喝にあって棄権しています。しかしこれで、アメリカは完全に中東におけるプレゼンスを失ったと思います。アメリカはサウジアラビアを支援していますが、ロシアと連携するイランがこの地域で大きな力を持つようになり、両者の対立が極めて危険です。イランが供給したミサイルが、イエメンからサウジアラビアの首都に打ち込まれるなど、偶発的な戦争が起きても不思議ではありません。

この地域で影響力を増したのはロシアです。シリアでアサド政権を支援して IS を殲滅し、勝利宣言をしました。シーア派の国々にとっては頼もしい助っ人です。加えてロシアは、かつては親米国だったトルコとエジプトとも連携を深めています。 IS は殲滅されましたが、サウジアラビアの国内的な混乱もあり、イェルサレム問題を契機に大きな混乱が起きても不思議はありません。

中国の一帯一路もトルコにつながり、そしてヨーロッパに繋がっていけば、Gゼロの世界で中国が世界的なリーダーになり、アメリカは敗者となる可能性があります。

ヨーロッパも混沌としてきました。これまで長い間ヨーロッパの強力なリーダーであったメルケル首相が連立政権を作れません。再選挙になれば、メルケル首相は選挙に出ないと言われています。 これまでの彼女に変わるリーダーは見当たりません。すでに EU 内ポピュリストはその影響力を誇示しています。リーダー不在のヨーロッパは、国際的な影響力を発揮できません。

イギリスのメイ首相も迷走気味で、英国の EU 離脱の交渉の行方も不透明です。 無論英国も国際的な影響力を行使できるような状態ではありません。

トランプ大統領のアメリカファースト、トランプファーストと言う内向的な政治は、世界各地に力の空白を産みました。力の空白は戦争のきっかけを作ります。さすがにアメリカ国内でも、この現状は危険だと認識する良識的な国民は多いと思います。次の中間選挙でアメリカ国民が何を選択するかです。

それにしても支持率が全く下がらないという現実は、アメリカという国の中にトランプ思想に共鳴する大きな勢力が存在しているということですね。

ともかく世界は混沌とした海の中にあります。ということは 何か起こるということを想定しておく必要があります。

トランプ大統領のエルサレム首都認定 「越えてはならない一線だ」と世界のリーダーたちから反発
http://www.huffingtonpost.jp/2017/12/06/trump-jerusalem-move_a_23299322/
トランプ米大統領 政権初の国家安全保障戦略を発表
http://www.bbc.com/japanese/42407926
トランプ米大統領の安保戦略は「冷戦思考」 中国が反発
https://www.cnn.co.jp/world/35112255.html
サウジアラビア首都の上空で王宮狙ったミサイル迎撃
http://news.tv-asahi.co.jp/news_international/articles/000117046.html
中東を制するのはサウジではなくイラン
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2017/11/post-8970.php
プーチン大統領、ロシア軍にシリア撤退命令 「IS掃討を達成」
https://jp.reuters.com/article/mideast-crisis-syria-russia-putin-idJPKBN1E5188
シリア和平へ共同宣言 ロシア・トルコ・イラン首脳会議
https://www.asahi.com/articles/ASKCR227NKCRUHBI001.html
中国の一帯一路「成功は絶対的支配権掌握」米報道機関「トランプ氏を茶化している」
http://www.sankei.com/world/amp/171218/wor1712180029-a.html
ついに本格化する英国のEU離脱交渉
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/108556/121400024/
独社民党、大連立継続に踏み込まず=次期政権、メルケル首相求めに慎重
http://www.newsdigest.de/newsde/news/news/8997-2017-12-16.html
独与党幹部:大連立交渉は失敗に、メルケル首相は不出馬
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-12-21/P137KN6KLVR401


◆指導者の仮想現実・拡張現実の世界◆
日経新聞の11月13日の電子版に目に留まった記事がありました。 「9月上旬の土曜午後、福島県郡山市にあるカローラ福島郡山店。突然、来店客がざわつき、スマートフォン(スマホ)で写真の撮影を始めた。カメラの先にいたのはアポイントなしで訪れた社長の豊田章男だ。トヨタカローラ福島社長の佐藤良也は「震災直後に、店の一部が倒壊した時も来てもらった。原発事故もあり、地域や販売状況を心配してもらっている」という。
・・・・・・
「つくられた世の中ばかり見ているから、本当の姿に飢えている」。豊田はこう周辺に漏らしている。社内外を予告なしに訪れるのは、巨大組織になり見えにくくなったトヨタの等身大の姿を見るためだ。ここにきてトヨタが他メーカーや他業種との提携を急ぐ背景にも、この思いがある。」

アポなしで現れたのは、 「つくられた世の中ばかりみているから、本当の姿に飢えている」からである。さすがトヨタの社長です。気をつけないと忖度に満ちた仮想現実の世界で自分が経営判断をしているリスクを認識しているわけです。

現場、現場と言って現場を回っている経営者は多いですが、事前に社長が来ると分かっていれば、社長が見ても良いような舞台が設定されます。結局、現場は見えていないわけです。最近の企業の不祥事を見ると、ほとんど現場に行かないか、 行っても現場が見えてないのでしょう。本社の経営会議に上がってくる情報は、何段階かのフィルターがかかっています。それは誰でも分かっていることですが、それで済ましている経営者が少なくないということです。社長は、そうして裸の王様になります。そのため現場に行くのですが、その現場も仕立てられたバーチャルの世界であることが多いのでしょう。

現実世界を、リアルの世界を見ているつもりでも、人は誰でもリアル世界にバーチャルの世界が写し込まれた拡張現実の世界にいます。問題はリアルとバーチャルの割合です。 そして、どのメディアから得られた情報がそこに写し込まれるかが問題です。 似ていることはあっても、一つとして同じ拡張現実はありません。また、他人の拡張現実は覗き見ることは出来ません。

社内情報だけで物事を判断していては、とんでもない結果になることは目に見えています。人によっては、自分が期待している情報を事前に口にする人さえいます。部下はそれに沿って情報を集め編集して社長に届けます。この状態は、かなりの日本の企業では普通ではないでしょうか。昨今の伝統ある大企業の不祥事はこれで説明できます。

従って、どのメディアから、どのチャンネルから情報を収集するかは極めて重要です。社外の信頼すべき情報源をいくつ持つか、これがその人の能力です。メディアからの情報を関係者の話と合わせて判断する必要があります。しかし、耳からの情報に頼りすぎるのも危険です。高齢になると読む力が落ちます。側近の耳情報で「晩節を汚す経営者」も少なくありません。

トランプ大統領の言動は、世界中がちょっとおかしいと思っていますが、一般の人の拡張現実の世界とは、かなり違った世界を見ているのではないでしょうか。周囲のアドバイザーの影響も大きいのではないでしょうか。無論、大統領ならではの特別な情報源があるとは思いますが、本来大統領の重要な情報源である CIAと FBI の関係の悪さから、あえてその情報を消し込んでいるかもしれません。辞任したバノン首席戦略官もまだ影響力を持っているかもしれません。

ただし、トランプ大統領が見ている情報がフェイクか、我々の見ている情報がフェイクか分かりません。最近メディアの誤報が相次いでいますから。誤報の当事者は、CNN、ABCニュース、ロイター、ブルームバーグといったいずれも大手です。

指導者の言動を理解する時、その人がどのような情報を拡張現実の中に写しこんで見ているかを考える必要があると感じます。ただ他人の拡張現実は見ることは出来ませんから推察するだけですが。

私たちも、できるだけ多くのチャンネルから情報を収集し、分析し編集し、目の前の見えている状況と合わせて、拡張現実の中で意思決定する必要があります。

私の東京大学のゼミは、学生に「知的腕力を付ける場」と説明していますが、 知的腕力とは、情報の収集・分析・編集を高いレベルで短時間に行う能力です。

「裸のトヨタ」を見たい 章男社長の飢え
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO23306880Z01C17A1000000/
拡張現実
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%8B%A1%E5%BC%B5%E7%8F%BE%E5%AE%9F
「ロシア疑惑」相次ぐメディアの誤報
http://www.huffingtonpost.jp/kazuhiro-taira/fakenews10_a_23302704/


◆人工知能という知識の利活用◆
人工知能は情報を知識に変え、さらに判断力として利用するツールであると考えてよいでしょう。ディープラーニングという技術で大量の情報を学習することによって、高度の判断が可能になったのです。そのディープラーニングには二つの手法があります。

CNN(コンボリューション・ニューラル・ネットワーク)と RNN (リカレント・ニューラル・ネットワーク)です。

CNNは、画像データの処理に使われます。2015年に画像処理のコンテストで人間の能力を超えた時からブームに火がつきました。画像データをコンボリューションというデータ処理とプーリングという処理で、情報を圧縮すると同時に、画像データの“近傍性”を利用することによって、画像の特徴を自動抽出することがでます。これを多段に、場合によっては200層、300層と重ね、それを多段のニューラル・ネットワークに入力し判定出力を出します。

ただし、大量の教師データが必要です。すなわちビッグデータが必要です。 これは何が本質的に凄いかというと、機械が「目」を持ったということなのです。ロボットに目をつければ、これまで人間にしかできなかった作業が可能になります。既に応用例が沢山あります。応用は無限大です。

このCNNの威力を見せつけたのが、人間の名人を破った“アルファ碁 ”です。 その“アルファ碁”もさらに進歩して、二つの人工知能がお互いに対戦しながら切磋琢磨して能力を身につけるまでになりました。現在の“アルファゼロ”はあの“アルファ碁”に対して百戦百勝ということです。

さらに威力を見せつけたのが “Amazon GO” です。 無人店舗はこの技術で実用化されました。 YouTube で見ると魔法のような世界が現れます。

RNNは時系列データの処理に使われます。気候変動や金融市場のデータは時系列データですが 、言語も時系列データとして処理されます。この RNN は長期の時系列データを学習することができませんでしたが、LSTM(Long Short-Term Memory) という技術と組み合わせることによって、この欠陥を克服して、自然言語処理の分野で大きな成果を上げました。

今話題のスマートスピーカーもこの応用です。この技術で、自動翻訳がほぼ完全に実用化されました。この原稿もこの技術を使った Google の音声入力で書き込んでいます。

最近さらに注目されているディープラーニングの技術は、GAN(敵対的生成モデル)です。 学習の評価関数にゲーム理論のミニマックスゲームを応用しています。人が答えを教えずとも機械が自ら学習していく、教師なし学習です。 入力データに似た画像 をGeneratorという生成器が画像を生成し、 Discriminatorという識別器に入力すると、識別器はその入力データが、生成器が生成した誤った画像か、元の入力データかを判定することを繰り返して、生成器が 完全な画像を生成するまで 学習を繰り返します。識別器が完全に騙されるまで学習すると考えてよいでしょう。

このGANは、画像解析を通じた損傷イメージの復元、画像を使った予測アプリケーション、新薬開発など、創造的な領域で活用されはじめています。

ここでは細かい技術的な解説はしませんが、文末の URL が分かりやすい解説の一つです。
実は高度なディープラーニングは、わずかなプログラミングで利用できます。なぜならば、GoogleやMicrosoftなどがフレームワークというディープラーニングを行うプラットホームを提供しているからです。そこに用意されたモジュール化された関数のようなプログラムを組み合わせることによって、基本的なアルゴリズムを理解していればシステムを容易に構築することができます。

さらにビックデータがなくても、ビックデータで「学習済のエンジン」が提供されています。これを使えば、自分のデータで少しチューンナップすれば、目的に沿ったシステムが容易に作れます。これは、転移学習と言って、いま注目されています。

音声認識は、Googleなどが提供しているプログラムのAPIを使って自分のシステム中に取り込むだけで、追加の学習は不要です。ただ容易に作れるといいましたが、自分のやりたいことに、どのツールをどのように組み合わせて使うかは、それ相応の高度な知識が必要です。

この人工知能の技術については、各国が戦略的なイノベーションと捉え、プーチン大統領などは「AIを制するものは世界を支配する」と言っています。中国も「AIで世界一を目指す」と言明しています。

またAIで仕事がなくなるという懸念を表明している人々もいますし、シンギュラリティというAIが人間を超えるという懸念もよく言われていますが、このようなネガティブな考えに影響されない方が良いでしょう。少なくとも現在のAIは人間の良き相談相手であり、支援者です。加えて生産人口が減少して働き手が足りない、だから移民をというのであれば、AIやロボットが人々に代わってくれるならば、大歓迎すべきでしょう。

Amazon Goの仕組み 「カメラとマイク」で実現するレジなしスーパー
http://www.huffingtonpost.jp/tak-miyata/amazon-go_b_13521384.html
やさしい深層学習の原理
http://gagbot.net/machine-learning/ml4
次世代AI技術「敵対的生成ネットワーク(GAN)」研究第一人者が語った衝撃の成果
https://roboteer-tokyo.com/archives/9031
AIを制する国が「世界を支配」、プーチン大統領が持論展開
https://www.cnn.co.jp/tech/35106734.html?tag=mcol;relStories



◆俯瞰のクッキング “料理のプロセス” ◆
前回は構造化された料理本を紹介しました。 我が家にもそれなりに単純に構造化された料理のプロセスがいくつかあります。買い物に行って食材を見て、そのプロセスに当てはめることが多いです。無論レシピを想定して買い物に行くこともあります。

そのプロセスのいくつかを紹介します。特に独創的なものではなく、皆さんの多くがすでにやっていると思います。

<地中海風ムニエル>
ムニエルは本来たっぷりのバターでソテーする料理ですが、我が家ではニンニクとオリーブ油で、塩コショウして小麦粉を叩いた魚をソテーするこがは多いです。

フライパンに大さじ2杯程度のオリーブ油を入れ、薄切りのニンニクと、赤唐辛子を入れて香りが出たら焦げないうちに取り出します。そして魚を焼きます。最初あまり動かさない方が良いと言うことです。しっかり焼かないうちに動かすと皮がはがれるからです。お皿に魚を盛って、取り置いていたニンニク唐辛子をトッピングにします。そしてレモンかカボスを絞りかけます。

舌平目の場合は、どうしてもバターでムニエルを作りたくなります。

<南蛮漬け>
これもありきたりですが、良くやります。アジの南蛮漬けは内臓とゼイゴを取って 背骨に沿って左右に切り込みを入れると同時に、背びれの脇にも包丁を入れます。 味が染み込むようにです。つけ汁は酒、醤油、酢、みりんを大さじ2杯ずつくらいで作ります。アジを焼いて30分ほどで漬けます。茄子の場合は油で炒めて南蛮汁に30分ほど漬けます。万願寺でもよくやります。南蛮漬けは残っても次の日に食べられます。

<蒲焼>
秋刀魚や鰯で蒲焼きを作ります。 開いた秋刀魚、もしくは三枚におろした秋刀魚に軽く塩を振り、少し置いてから水分を紙タオルでふき取り、小麦粉を叩きます。ノンスティックのフライパンで油なしもしくは少量の油で焼きます。醤油、みりん、酒それぞれ大さじ一杯のタレを作って、魚が焼けたらフライパンに入れ、絡めるようにタレを煮詰めて仕上げます。ぶりの照り焼きもこれです。

<ポタージュスープ>
季節の野菜、例えば5月のグリーンピースとか、季節はありませんが、アスパラとか、カブとか買い物に行って、向こうから誘いをかけてくるような野菜は、ポタージュスープにすると美味しさを賞味できます。

バターで薄切りの玉ねぎを炒め、好みでにんにくの薄切りも。それに刻んだ野菜を入れてさっと炒めます。基本的に皮はむきません。皮の部分が美味しいわけですが、ポタージュスープではそれを味わうことができます。そして鶏ガラスープを入れます。と言っても鶏ガラスープを作っている時間はありませんので、濃縮の市販の鶏ガラスープを使います。それもない時には顆粒の鶏ガラスープを使います。

野菜が煮えたら、バーミックスのようなハンドミキサーで全体をつぶします。そしてストレーナーに目の粗い紙タオルを敷いて濾します。 塩コショウで味を整え、あれば生クリームを入れます。

以上は我が家でレシピを意識しないで簡単に料理するプロセスです。


◆俯瞰の書棚 “マッキンゼーが予測する未来”◆
今回の紹介は「マッキンゼーが予測する未来」リチャード・ドッブス; ジェームズ・マニーカ; ジョナサン・ウーツェル 2017年 ダイヤモンド社 です。

正月休みに読む本としておすすめします。今の時代を俯瞰的に認識し、理解することができます。私の最大の懸念は、日本の経営が、政策が世界の変化から大きく遅れていることです。日本が元気でないとすれば、指導者層の時代感覚が大きくずれているのです。GoogleやAmazonが最大の潜在的な競争相手であることを認識していないことでしょう。

この本は、“世界中にいるマッキンゼーのコンサルタントたちが、クライアント企業や政府機関と日々議論を重ねるなかで得たミクロの「 洞察(インサイト)」を共有し、そこへ学術的なアプローチ で データ を 重ね合わせていくなかから、 本書 の 超 長期 の 予測は導かれていきます。”という手法で書かれています。

文章全体も磨かれていて、完成度も高い書籍です。原著は2015年ですから、内容は2012年から2013年の情報を元に記述されていると思います。しかし、現在でも十分に質が高い未来予測です。一部はすでに現実になっています。

広い範囲をさっと流していきますから、ある意味読みやすいですが、背景の事象に関する知識が薄いと著者の主張を理解できないかもしれません。

そして著者の言明は「我々は直観力をリセットしなければならない」です。世界が、社会が従来の延長にないところまで来ているからです。

サブタイトルにある「近未来のビジネスは、 4つの力に支配されている」の4つの力とは、
・異次元の都市化のパワー
・さらに加速する技術 進化のスピード
・地球規模の高齢社会の課題に対処する
・音速、光速で強く結び付く 世界
です。

内容の紹介として、第一部の目次を下記に置きます。

第1部 4つの破壊的な力
第1章 上海を超えて
異次元の都市化のパワー
・危機どこかにある名前も知らない都市
・世界経済には重心があり、移動し続けてきた
・都市化の世紀
・都市の高すぎる利便性
・新たな都市化の時代を攻略する5つのカギ

第2章 氷山のひとかけら
さらに加速する技術進化のスピード
・難攻不落のビジネスモデルが崩壊するとき
・イノベーションが頻発する時代
・過去のトレンドを破壊する力を持った12 の 技術
・デジタル化された無限の情報こそが共通項
・技術の普及スピードの加速化
・なぜそれが問題なのか
・技術的転換点に適応する5つのカギ

第3章 年齢を重ねる意味が変わる
地球規模の高齢社会の課題に対処する
・アフリカ以外のすべての国が高齢社会に突入する日
・世界中で低下し続ける出生率
・世界人口の成長率は急速に低下する
・2030年、世界34の国々が「 スーパー 老人 国」となる
・労働 の老化と 縮小への対応
・年金をめぐる構造 変化 高齢化トレンドに適応するための3つのポイント

第4章 貿易、人間、金融とデータの価値
音速、光速で強く結び付く世界
・クモの巣のように広がる 世界 経済
・新たなグローバル化の潮流1.モノやサービスの貿易
・新たなグローバル化の潮流2.金融マーケット
・新たなグローバル化の潮流 3.移り住む世界の人々
・新たなグローバル化の潮流 4.データと通信
・なぜそれが重要なのか
・相互 結合の強まった世界に対応する4つのポイント

そして第2部は「直観力をリセットするための戦略思考」です。ここも面白いですが、目次は置きません。
この目次だけでなく、本文をぜひお読みください。自分が生活している社会が見えてきます。


◆俯瞰学のすすめ7 統計地図(Cartogram)による俯瞰◆(図添付)
統計データを地図上にマッピングして全体像を理解するという方法は新しくはないが、数表を直接読むよりはるかに俯瞰的な理解ができる。例えば、市町村別の健康寿命のデータをマッピングした地図を見ると、ずいぶんと地域差があることがわかる。健康寿命の定義が曖昧であるので深い分析はできないが、男性は中部地方と東京とが健康寿命が長いことがわかる。ただ女性はかなり男性と異なる分布になっている。日本政府も統計データを積極的に民間で活用するために、 webで統計地図を簡単に作成できるサービスを提供している。E-SATである。

ただ単に地図上にデータを色で表示するだけでなく、面積や距離でデフォルメしたカルトグラムは色々な俯瞰的な理解を与えてくれる。

アイスランド大学で准教授として地理学を教える研究者ベンジャミン・ヘニッグ博士は、EU離脱をめぐるカルトグラムで投票結果を分析しインターネット上で、作成したカルトグラム(統計地図)を公開している。

まず投票結果の分析であるが、ロンドンのマンチェスターなどの大都市は残留派が多く、その他のいわば郊外の地域では離脱派が多い。しかしスコットランド独立の国民投票はこれを否決している。スコットランドに大きなジレンマがあるのだろう。

そして極めて小差の結果であることがわかる。このパターンはアメリカ大統領選挙に極めて類似している。ニューヨークやカルフォルニアではヒラリー候補が優勢だが、中西部南部ではトランプ候補は優勢であった。さらに都市部においても郊外はトランプ候補が優勢であった。都市の中心部に住む住民と郊外に住む住民は意識が分断されていることが判明した。日本も国民の分断の分析をしてみたい。

英国に住んでいるEUの国民とEUに住む英国国民のデータをカルトグラムで見ると、まずEU諸国の国民の英国への移住が、英国国民でEUに移住している人数をはるかに上回る。さらにポーランド、東欧、旧ユーゴスラビアそしてアイランドから英国に大量に流入していることがわかる。アイルランドをのぞけば、EUが拡大を目指して、積極的にEU加盟国を増やした後に加盟した国々である。

英国国民はスイスに相当数いるようだが、これは金融関係者であろうか。スペインにもかなりの数がいるようだが、これは引退したシニアであろうか。あくまで私の勝手な解釈だが。

さらに興味深いのは、 EUにおいてEUの予算がどの国に使われているかである。英国、フランス、イタリア、ドイツは持ち出し、スペイン、アイルランドは、収支はほぼトントンである。 EU予算の恩恵を受けている国は、圧倒的にEUが拡大した時に新規加盟した東欧諸国と南欧諸国である。

この3つのカルトグラムをじっと見ていると、英国国民のEUに対するす不満が理解できるような気がする。

ドイツとフランスが主導した拡大EU戦略の結果、旧ソ連圏の国々からの移民流入が、英国における労働者の雇用を奪っていることが想像できる。英国の労働者は雇用と賃金水準の面で被害者意識を持つだろう。加えて、都市でのテロの頻発である。そして移民への反発につながる。

加えて、ギリシャ、ポルトガルという南欧諸国への財政支援、東欧諸国への財政支援になぜ英国の税金を使わなければならないのか、腑に落ちない人が少なくないだろう。ドイツとフランスのように、長い戦争の時代を終結させ、欧州の平和と繁栄を築くという理想には、英国国民はそれほど共鳴していないのだろうか。 二度の大戦も直接国土が戦場になっていない。
この3つのカルトグラムはマスメディアの文字の記事や、テレビの映像だけでは理解できない、英国EU離脱という英国国民の意識と感情を理解させてくれる。

この間、英国経済は製造業が縮小しサービス業、特にロンドンなどの大都市における専門サービス業が伸びて経済成長維持してきた。投票結果のカルトグラムはこれを反映しているし。移民の流入により労働力が供給されてきたからである。英国は、人口が増加している数すくない先進国である。

EU残留派はこの経済成長を維持すべきだという判断だろう。そして保守党のエリートも経済学を理解しているからには理屈として解っているはずだが、英国人エリートのプライドがドイツの風下に立つことをよしとせず、経済学がわからない人を煽ってEU離脱に導いた。まさにポピュリズムの政治だ。経済成長の果実を享受できる人と、経済成長に伴う物価上昇や住宅価格の上昇を吸収できない一般国民の分断が英国社会に在ったのだろう。まさにこれもトランプ現象と同じだ。

この記事は「産業新潮」に連載された記事を少し手直ししたものです。文体もメルマガとは異なります。










◆第50回記念 俯瞰サロン◆
お蔭様で俯瞰サロンは、この1月で50回目を迎えることになりました。
俯瞰サロンでは毎年1回、松島克守所長の講演を行っていますが、今回は俯瞰研が活動の基盤としている“品川”にフォーカスして、松島所長の基調講演に加えてゲストスピーカーをお招きし、地域が生み出すポテンシャルについて語り合います。

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第50回記念俯瞰サロン 松島克守所長講演
テクノロジーとイノベーションの街 品川のポテンシャル再発明(仮)
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日時:2018年1月30日(火)18時?20時40分 開始(17時30分会場)
 終了後、立食形式の懇親会を開催いたします
場所:品川インターシティ会議室1+2
定員:80名
講演者:俯瞰工学研究所長 松島克守
ゲストスピーカー 1名から2名(調整中)
参加費用:講演 1000円、懇親会 3000円

詳細および参加お申し込みは下記のURLをご覧ください。
https://www.fukan.jp/俯瞰サロン/

参加お申し込みは、12月30日より開始する予定です。


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◆編集後記◆
・北朝鮮危機で振り回された一年でしたが、何も解決していませんし、極度の緊張状態は依然続いています。
・ヨーロッパ、特にイギリスとドイツの政治が見えない状態で、EUの求心力が弱まりました。影響力が弱くなったヨーロッパの南は混乱の中東です。ISは殲滅されたとしても。
・機械学習の研究会を週一回続けて、理解が深まりました。人材も揃いつつあるので、いよいよ実戦です。教育プログラムも分かってきました。
・ある時自分が見ている世界は拡張現実であると悟りました。仮想現実の段階に行かないようにしないと。思いこみが激しいと仮想幻術になってしまします。
・テクノロジーの加速度的な進歩に、日本企業が、日本政府が、そして指導者層が全く追随できていないと思います。教育、税制、産業振興・・・・・・。学生にはガラケイを使っている人のいうことは聞くなといっています。別の時代の仮想現実の世界を見ている人だからと。


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◆俯瞰 MAIL 0073号(2017年12月25日)
発行元: 一般社団法人 俯瞰工学研究所
発行人:   松島克守
編集長:   松島克守
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※本記事は松島克守氏の許諾を得て、再録したものです。


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