世界はトランプ政権の自壊を待つのか


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◆時候のご挨拶◆
梅雨が明け、猛暑と豪雨の日々です。 35度など当たり前で、40度に迫る猛暑です。明らかに、気候変動のモデルそのものが温暖化で変わってしまったのでしょうか。治山治水と言われますが、九州のでは植林した森が根こそぎ流されています。場合によっては土砂災害のリスクが高い集落は、全体として移動した方がいいのかもしれません。軽々には言えませんが。
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・世界はトランプ政権の自壊を待つのか
・南シナ海の実効支配が進む
・EVという、すでに起きた未来
・第45回俯瞰サロン“イノベーションの起こし方”(8月29日開催)
・俯瞰のクッキング“7月28日の夕食”
・俯瞰学のすすめ2 地政学による俯瞰
・編集後記

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◆世界はトランプ政権の自壊を待つのか◆
トランプ大統領の暴走が止まりません。ロシア疑惑の捜査にあれほど怯えているのは、やはり何かあるのでしょうか。司法長官に、捜査に関与せよと公然と言って、司法長官の更迭すら口にしています。ただ、特別検察官は元FBI長官で、気骨がある人物のようですから、きちんとした捜査をするでしょう。もし司法長官や特別検察官を大統領権限で罷免すれば、その時点で、トランプ政権は崩壊することになるでしょう。与党共和党も反感を強めています。

米国の対ロシア制裁は、議会を通過してトランプ大統領に届けられました。これに署名するかしないか、まさにハムレットの心境でしょう。このロシア制裁は、議会がトランプ大統領の行動を牽制する意味もあるようです。対ロシア強硬派が多いようです。ヨーロッパは大反対です。受け取り方は、「ロシアではなく、アメリカからエネルギーを輸入しろ」と言うのかといった感じです。

ホワイトハウスの中もグチャグチャのようです。トランプ大統領を支えてきた報道官が辞任しました。広報部長の人事が原因のようです。この広報部長は、早速問題を起こしています。もともと評判が悪い人物だったようですが、ホワイトハウスの高官を悪しざまに罵っています。政権内の亀裂が白日のもとにさらされました。

政策のほうもほとんど進んでいません。夏休みを返上して、オバマケアの代替え案の採決をするように議会共和党に強く要求しましたが、共和党首脳部もさすが政治家です。否決されるとわかっていて採決をし、否決と言う事実を見せつけました。脳腫瘍を押して登院したジョン・マケイン上院議員がトドメの反対票を入れました。これで議員に夏休みがやってくるということでしょうか。

輸入を阻止するために国境税を導入するといってきましたがこれも見送りになりました。 NAFTAの再交渉もしているようですが殆ど進展していません。
突然トランスジェンダーの軍入隊禁止を表明しましたが、 IT業界は大反対です。これでまた反トランプ陣営のテンションが上がります。

G20でもトランプ大統領は孤立して、議長国として我慢をしたドイツのメルケル首相も、完全にトランプ大統領を見かぎっているようです。単にトランプ大統領が孤立したのではなく、アメリカという国は孤立しつつあるわけです。自ら覇権を手放しつつあるアメリカのおかげで、中国は好きなように外交を進められます。

トランプ米政権のロシア疑惑 3分でおさらい
http://www.bbc.com/japanese/video-40724896 
米上院でも対ロシア制裁法案可決 トランプ氏に決断迫る
http://www.bbc.com/japanese/40749366
米国の対ロシア制裁、ツケを払うのは日本?
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/16/185821/062800009/?P=1 
トランプ米大統領 トランスジェンダーの軍入隊禁止を表明
http://www.bbc.com/japanese/40737330
トランプ氏、司法長官攻撃やめず 共和党内に反感広がる
http://www.nikkei.com/article/DGXLASGM27H52_X20C17A7FF1000/ 
トランプ米政権の新広報部長、身内を激しく批判 確執表面化
http://www.newsweekjapan.jp/headlines/world/2017/07/196892.php 
トランプ政権と共和党、国境税導入見送りを決定 法人減税が焦点に
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2017/07/post-8078.php 
審議入りも難航=オバマケア代替?米上院
http://www.jiji.com/jc/article?k=2017072600839&g=use 
「日本に脅威を与える、トランプ陣営メンバー4人」は誰?
http://www.excite.co.jp/News/odd/Tocana_201707_post_13842.html
トランプ大統領「トランスジェンダーの米軍入隊禁止」発言にIT業界トップが反発
https://japan.cnet.com/article/35104863/ 
メルケル首相、「バトル」G20を宣言?トランプ氏、英EU離脱けん制
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-06-29/OSB5ER6S972901
G20で孤立したのはトランプだけでなくアメリカ全体
http://www.newsweekjapan.jp/reizei/2017/07/g20.php



◆南シナ海の実効支配が進む◆
南シナ海の実効支配もほぼ完成したようです。米国の関与なしに相対的に弱いフィリピンやベトナム、そしてASEANと個別の交渉で実効支配を認めさせる気配です。ベトナムに対しては、軍事的な恫喝で石油採掘を止めさせました。

これに対し、英国が最新型の空母2隻をこの海域に投入すると発表しました。英断ですが、前のキャメロン首相は米国の想定を超えてAIIBに参加して、習近平をバッキンガム宮殿に宿泊させ中国に媚びるような行動をしましたが、メイ首相は中国との関係悪化を承知の上で、空母派遣を決断したのでしょう。かつては、この海はイギリス海軍が支配していた海域でしたから、 EU離脱という英国第一主義の高ぶる心で、ここにユニオンジャックを“はためかせたい”のでしょうか。いずれにしても、突発的な衝突事件が起こるリスクが高まります。

トランプ政権も2度目の自由航行作戦を展開し、日本の海上自衛隊も、最大の護衛艦である「いずも」をこの海域に派遣すると表明していますから、日本も偶発的な事件に巻き込まれるリスクはあります。ちなみに護衛艦「いずも」は、かつての戦艦大和より大きい軍艦です。

人工島の軍事海域拠点化ほぼ完成--南シナ海、米中衝突のシナリオ
http://www.newsweekjapan.jp/ohara/2017/07/--.php
中国外相 南シナ海のルール作り前進強調
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20170724/k10011072491000.html
ベトナムが南シナ海での石油掘削を停止 中国から脅しと業界筋
http://www.bbc.com/japanese/40701694 
英国、南シナ海への軍艦派遣を計画 中国の反発必至
https://jp.reuters.com/article/southchinasea-britain-idJPKBN1AD05Y
米海軍、南シナ海の西沙諸島周辺で「航行の自由」作戦
http://jp.reuters.com/article/usa-southchinasea-navy-idJPKBN19N0WT 
海自最大の護衛艦「いずも」、南シナ海で長期活動へ
http://jp.reuters.com/article/maritime-self-defence-izumo-idJPKBN16K0UA
自衛隊最新鋭ヘリ空母「いずも」について
https://matome.naver.jp/odai/2138314608814912101 


◆EVという、すでに起きた未来◆
自動車業界に、EV化と言う大変革が押し寄せています。フランスが2040年以降ガソリン車とディーゼル車を禁止すると宣言すると、英国も 2040年以降、ガソリン車とディーゼル車の販売を禁止すると表明しました。ボルボは、2019年以降に発売するすべての車種を、EVやハイブリッド車(PHV)にすると発表しました。ノルウェー議会は、2025年までに排気ガスを排出しないゼロエミッション車の比率を、100%に高める目標を策定しています。

中国政府も大気汚染と温暖化ガス抑制のために、EVを強力に推進しています。 トヨタが得意のハイブリッド車は、アメリカでも中国でも、エコカーとしてはすでに認められていません。中国メーカーもEV開発に全力をあげています。

EVはラジエーターからエンジン、ミッション、ディファレンシャルギヤ、マフラーまで不要です。これに関連している企業は大打撃です。代わって電池に関連する企業、駆動モーターに関連する企業には、新たに自動車部品産業として大きなチャンスが回ってきました。巨大な自動車産業の構造が変わります。自動車自体の構造が、すり合わせが重要な機械部品の集合体から、モジュール構造のパソコンのような構造になります。

この結果、中国やインドでEVは容易に生産できることになります。パソコン産業や電機産業が経験した凋落のモデルが、自動車業界にも来ることになります。

すでにスマートフォンは、中国が最大の生産国です。今話題のドローンも、中国が主役になるでしょう。モジュール構造であれば、中国生産に問題はありません。走るスマートフォンと考えれば、日本の高い技術のモジュールだけを買えば、自動車生産はできます。 iPhoneの重要部品が日本製であることはよく知られていますが、日本のスマートフォンメーカーは、ほとんど存在感がありません。

中国の製造業の実力を、日本は侮っているのではないかと危惧しています。近い将来、中国が自動車産業の覇者となるような気がします。半導体業界は、韓国が覇者となりました。

ハイブリッドと燃料電池車に次世代の自動車産業を重ねてきたトヨタ自動車の戦略は、明らかな誤りであったと認識せざるを得ません。時代の風を全く感じないで、社内の風を見て水素自動車に邁進し、経済産業省も水素社会とか言う政策にのめり込んできました。豊田市でミライに試乗しましたが、水素ステーションの後ろで、巨大なプラントが炭酸ガスを排出しながら水素製造をしていたのにショックを受けました。係員に質問すると、苦渋に満ちた表情でした。

エネルギー関係は、理解できないことがいくつかあります。液化ガスの産地で水素製造して日本に持ってくれば、CO2が出ないとか、先般展示会に行きますと、マレーシアやインドネシアからパームヤシの絞りカスなどのバイオマスを輸入して、日本国内でバイオマス発電をするとか、原発の方がコストは安いとか。不勉強のせいもありますが、私の常識をもってしては理解できないことです。

世界の自動車業界で水素自動車を推進しているのは、日本くらいのものでしょう。ここに、亀山モデルという液晶のシャープ、黒が綺麗と言うプラズマディスプレイにのめり込んで崩落したパナソニックの事例が重なります。時代の風を感じる力、これが経営にとって最も重要です。

EV 開発、協業加速へ 排ガス規制強化に対応 欧州・アジア
https://mainichi.jp/articles/20170728/ddm/008/020/034000c 
中国新興EVメーカー、開発費抑制で提携強化を模索
https://jp.reuters.com/article/autos-china-ev-idJPKBN1AC0IT 
環境に優しいEVが汚染する国
http://www.nikkei.com/article/DGXLASFK27H2S_X20C17A7000000/ 
EVやPHV…世界は「電動化」 日本勢も対応急ぐ
http://www.sankei.com/economy/news/170726/ecn1707260052-n1.html 
世界でEVシフト、変わる産業構造 素材業界に追い風も
http://www.nikkei.com/article/DGXLZO19358980X20C17A7TI1000/ 
ボルボが2年で全車種EVシフト 背景に中国メーカー
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2017/07/ev-1.php
欧州で加速するEVシフト トヨタへの影響は? (1/3)
http://www.itmedia.co.jp/business/articles/1707/19/news033.html 
独高級車3社、EVの「F1」に参戦 ベンツも19年から
http://www.nikkei.com/article/DGXLASGT25H01_V20C17A7EAF000/


◆第45回俯瞰サロン「イノベーションの起こし方」(8月29日開催)◆
“イノベーション”“オープンイノベーション”という言葉が語られるようになって久しく、さまざまな試みに期待が寄せられています。今回の俯瞰サロンでは、食・農・健康・宇宙など幅広い分野における具体的な実績をお持ちのフューチャーラボラトリ 代表取締役社長 橋本昌隆氏をお招きし、オープンイノベーションの本質から、その起こし方を実例を交えてお話いただきます。 日 時: 2017年8月29日(火)18:30-20:00 (18:15 受付開始)
会場: 品川インターシティ会議室5
    東京都港区港南2丁目15 4 地下1階
     (品川駅港南口徒歩5分)
参加費:講演会のみ 1,000円★
定 員: 50名程度
    (定員になり次第、お申込みを締切ることがあります)
懇親会: 講演終了後に懇親会を開催します。
     参加費用は、別途 3000円程度。
お申込みサイト:https://www.fukan.jp/俯瞰サロン/
※日程・内容は予告なく変更されることがありますのでご容赦ください。
※第46回俯瞰サロンは9月14日(木)開催、テーマは“ゲノム”を予定しています。
お申込み受付は、上記お申込みサイトにてご確認ください。



◆俯瞰のクッキング “7月28日の夕食”◆
この日は、俯瞰メールを書くために自宅にずっといました。午後になって、夕食どうしようかと考えて、冷蔵庫の備蓄を見ながら次のメニューを考えました。

我が家では、基本的に肉料理、魚料理、野菜料理を作ります。冷凍庫にスペアリブがありましたので、肉料理はこれで。渋谷のニュークイックが閉まってから、月に1度くらい麻布の日進に買い出しに行きます。渋谷のフードショーに比べると、肉は3割くらい安いです。特に輸入肉が豊富で割安です。このスペアリブは、アメリカ産です。スペアリブと言うと、秘蔵のタレに漬け込んで焼き上げるイメージですが、ここでは塩

魚の備蓄は、紅ジャケの切り身がありますが、散歩を兼ねて恵比寿のザ・ガーデンに行きました。ちょうど盆踊りで、西口広場は歩くことのできないような状態でした。ザ・ガーデンは、目黒通り沿いの自由が丘に30年以上前からありました。この店の前を通って等々力の紀ノ国屋に週末買い物に行きました。何回かはこの店に入ったことがありますが、紀ノ国屋を超える店ではありませんでした。そのザ・ガーデンが恵比寿駅のアトレの地下にあることを見つけました。高級食材スーパーですので品揃えもよく、価格もそこそこです。肉は日進の価格を知っていると手が出ません。魚売り場はかなり良くて、値段もそこそこです。

この日は“イワシのオーブン焼き”かと一度手に取りましたが、キハダマグロの刺身用の柵が898円でしたので、久しぶりにマグロのステーキにしました。マグロの柵を半分にきり、フライパンでさっと両面を焼いて、皿に盛ってから大根おろし、その上にわさび、そして醤油をかけるだけです。刺身とは違う味です。

野菜料理は冷蔵庫にあったナスで“ナスの南蛮漬け”にしました。ナスは縦に4つに切ります。これを素揚げするとおいしのですが、油を吸いすぎます。かといって蒸すだけでは淡泊すぎます。そこでオリーブオイルをまぶして、電子レンジで10分ほどチンします。これを南蛮ダレにつけます。

南蛮ダレは酢180 cc 、酒120 cc 、醤油60 cc 、ゴマ油少々を混ぜるだけです。ラー油も少し入れました。熱いナスを入れれば煮切る必要もないかと。

毎日、味噌汁は作ります。顆粒のだしを使う日もありますが、この日は前日から仕込んであった煮干とコブのだしを使いました。水出しです。日本橋の“にんべん”で買った600 ccの“だしポット”で作ります。イワシを十数匹、頭とワタをとってて細かくしてポットに入れます。昆布も10センチ四方位を細かく割っています。この方がダシがよく出ますから。これは羅臼の昆布問屋に行った時に学びました。その時買った羅臼昆布がまだあります。昆布は良い保管状態なら、時間をおいた方が味が良くなるとのことです。福井の有名な海生堂は一年か二年じっくり蔵で寝かせ、熟成させた「蔵囲い物」を販売しています。この東京店が日本橋三越前のコレド室町にあります。ただ昆布は冷蔵庫に入れてはいけないとのことです。

味噌汁の実は、冷蔵庫に残っていたピーマン1個、買い置きのカブ1個、ネギ半本になりました。カブは葉っぱを切って保存袋に入れておくと、かなり持ちます。保存袋は“エンバランス”という袋で、表参道のナチュラルハウスで買ったものです。 ネットでも売っています。野菜を新鮮に保管できます。ほうれん草を1週間入れておいても、ほとんど問題ないくらいです。我が家では各種の大きさを揃えて、愛用しています。

味噌も凝るとキリがありませんが、最近は“丸の内タニタ食堂の減塩、米麹20割”という味噌を愛用しています。価格は安い方です。入れる味噌の量は控えめですから、味噌スープという感じです。具沢山なので、和風ミネストローネといった感じでしょうか。大ぶりの椀で食します。だし500 ccで仕上がり400 ccで2人分です。

そして我が家では、ご飯は出ません。ローカーボン食です。もう何年かこのスタイルですが、刺身の時は白米を食べます。たまには中華オコワ、炊き込みご飯、パエリアやパスタも食べます。

おかげさまで食べたいものをお腹いっぱい毎日食べていますが、BMIは22から23の間で何年も管理できています。3人前の料理を2人で食べていますが。

時々、食べたい気持ちが強すぎて、食べ切れないほど料理を作ってしまうことがありますが、残ったものは、次の朝おいしく頂きます。この日は完食しました。

実はこの日も、冷蔵庫にあった完熟トマトで“トマトのお浸し“も作りましたが、冷蔵庫に封印して、次の日にしました。美味しかったですよ。


◆俯瞰学のすすめ2 地政学による俯瞰◆
この記事は、「産業新潮」(産業新潮社:http://sangyoshincho.world.coocan.jp/)に連載された記事を少し手直ししたものです。文体もメルマガとは異なります。

地政学、すなわち、地理と政治や軍事との関係性による俯瞰は、国際的な緊張や紛争を正しく認識するために有効である。最近ではGoogle Earthを使うといろんなことが見えてくる。

Google Earthで尖閣諸島を検索して、コンパスマークをダブルクリックしてナビゲーショングローブに切り替える。そして、コンパスで回転して、中国から太平洋に向かう図にする。日本と中国が緊張関係にある尖閣列島は、日本から見れば沖縄のはるか先の無人島であるが、中国にとっては、東シナ海から太平洋に出る唯一の水路であり、戦略的にどうしても手に入れたい島であることがわかる。

歴史的には中国はほとんど海軍をもたず、太平洋に軍事力を展開することはなかった。したがって、尖閣諸島は全く戦略的に意味がなく、古い地図では中国の領土に入っていない。習近平主席がドイツを訪問したとき、メルケル首相は中国の地図には尖閣列島は入っていませんね、と古地図を示した。

この図にあるように、中国から見ると、日本列島から沖縄列島は鎖のように太平洋への出口を封鎖している存在だ。そして尖閣列島の水路が唯一の出口であるから、今後も執拗に圧力をかけ続けるだろう。

Google Earthで“南沙諸島”を検索して、ゆっくりとズームアウトしていくと“西沙諸島”が見えてくる。フィリピン沖の“スカボオー礁”は表示されないが、地図を見れば、南シナ海における緊張も地政学的に理解できる。南シナ海の深い海を、核ミサイルを積んだ潜水艦を潜ませる内海とするためには、フィリピンのスカボオー礁、南沙諸島、西沙諸島に軍事的な基地を確保することが、必達目標であることが判る。そして、台湾とルソン島の間の水路が、太平洋への出口になる。この出口と尖閣列島の水路は、かつてロシアのバルチック艦隊が航行した水路でもある。

この南シナ海は、第二次世界大戦では日本海軍の制海権の下にあった。第二次世界大戦の初期、日本海軍が巡洋艦、駆逐艦、潜水艦の九隻からなるアメリカ、イギリス、オランダの連合艦隊を、インドネシア・ジャワ島東部のスラバヤの沖合で打ち破り、南シナ海の制海権を確立した。そして日本の敗戦とともに、南シナ海の領有権は国民党政権の蒋介石に移ることになる。したがって今でも、南沙諸島の一部を台湾政府が実効支配している。

話が歴史的な経緯に行ってしまったが、この地図を見れば、中国は決して南シナ海の制海権をあきらめないことが判る。
最近、フィリピンのドゥテルテ大統領は、スカボオー礁内を双方の禁漁区にし、周辺部ではフィリピン漁民が自由に操業できるような提案をしている。中国は、スカボオー礁そのものを軍事拠点として確保できれば、周辺のフィリピンの漁船の操業は邪魔しないという政治的な決着をつけたようだ。

Google Earthで“ラタキア”を検索し“キプロス島”が視野に入るまでズームアウトする。

東地中海におけるロシアの地政学的な認識ができる。なぜ、ロシアがシリアに空軍基地と海軍基地を手に入れたかが、理解できる。

ロシアはアサド政権を支援するという理由で、シリア北部のラタキアの空軍基地に空軍を配置し、南部海岸のタルトゥースの海軍基地に空母を含む艦隊を展開している。

この東地中海は、かつてはアメリカの第6艦隊の勢力圏であった。そして第6艦隊はレバノン内戦では海兵隊の上陸作戦を支援し、 40センチ主砲の艦砲射撃も行っている。リビア空爆も参加し、コソボ紛争にも参加している。しかし今やこの東地中海はロシア海軍の勢力下にあるといえる。

ロシアの黒海艦隊は、トルコのボスポラス海峡を通過しないと地中海には出られない。したがって、クリミア半島に基地があっても、非常時に簡単に動けない。事実、日露戦争においては、黒海艦隊は動けないため、はるばるバルチック艦隊を日本海に出撃させなければならなかった。今回のタルトゥースの海軍基地は、たとえシリア内戦の和平があっても、継続的にロシアは拠点とするはずだ。

シリアの対岸のキプロス島は、トルコとギリシャがせめぎ合う不安定な政治体制であり、シリアの南は、これまた半分内戦状態にあるレバノンである。その南はイスラエルで、イスラエル沖の東地中海では、巨大な天然ガス田が発見され生産されている。

そしてイスラエルの南は、パレスチナ紛争のガザ地区であり、エジプトへとつながる。
エジプトは、かつては親米の軍事政権であったが、アラブの春、イスラム原理主義的な政権、そして軍事クーデターで再び強権的な軍事政権下にあるが、アメリカとの関係はかなり薄くなっている。エジプトの隣は、アラブの春で独裁者のカダフィ政権が倒れた後、複数の武装勢力が競い合う極めて不安定な政治状況にあり、ISも浸食し、しかも産油国である。

シリアの北はトルコであり、エルドアン大統領はクーデター未遂を境に反対派を強権政治で抑え込む一方、モスクワを訪問しプーチン大統領と連携することを約している。非人道的なエルドアン大統領に対してヨーロッパ諸国は反発し、トルコの悲願であったEU加盟の手続きを凍結することを宣言した。

このような地政学的な俯瞰から、シリアにおけるロシアの軍事力は、プーチン大統領の国際交渉のバーニングパワーそのものである。しかも、アメリカもヨーロッパも内向きの政治勢力が強くなり、東地中海に軍事的な介入ができなくなっている。天然ガス、石油という紛争の火種もある。
すなわち東地中海の地域では、今後も予断を許さない流動的な情勢が続くことになるだろう。 そして我々は悲劇的、絶望的なニュースを見続けることになるだろう。



◆編集後記◆
・それにしてもトランプ大統領の精神状態がひどすぎます。彼に権力を預けたアメリカ国民も悔やんでいるでしょう。
・結果としてヨーロッパ、中近東、アジア、南米も政治情勢が流動化しこの先が見えません。
・安倍首相本人がかつて言っていた「築城3年、落城1日」がリアルになります。
・NHKのニュースが酷すぎる。受信料支払いを辞退したい。報道ステーションなどと比較してみるほうがいい。台風、地震の情報は充実しているが。
・自動車産業の激変が見えています。中国の製造業の実力を侮ってはいけないと思います。加えて資金力も十分あります。
・産業新潮に1年間連載した記事を少し手直しして連載を始めています。俯瞰学という私の勝手に作った言葉に、中身をつけないといけないと思いまして。



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◆俯瞰 MAIL 0069号(2017年7月31日)
発行元: 一般社団法人 俯瞰工学研究所
発行人:   松島克守
編集長:   松島克守
URL: http://fukan.jp
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※本記事は松島克守氏の許諾を得て、再録したものです。


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